AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 6, 2004, Vol.303


移動中の細胞接着を操作する(Managing Cellular Adhesion During Movement)

移動中に微小管が細胞先端で安定となる。同時に、この領域で局所的な接着が起こ り、細胞表面にある接着に関与する膜貫通糖タンパク質であるインテグリ ン(integrin)が細胞外基質と結びついて接着―誘導の情報伝達を開始する。Palazzo たち(p. 836;Guanによる展望記事参照)は、小さなグアノシン三リン酸(GTP)ー結合 タンパク質であるRhoにより微小管の安定化を支配する情報信号が、細胞先端でイン テグリンー媒介の情報伝達経路と結びついていることを報告している。細胞表面に ある特殊な膜の微小領域がこれらの仲介者として作用し、経路間の相互作用を容易 にしている。類似の膜微小領域も、又、Rhoー関連タンパク質であるRacの標的とな る。Del Pozoたち(p. 839;Guanによる展望記事参照)は、細胞が細胞外基質から離れ るときに、このような膜の微小領域とそこに結びついていたRacが内在化し、それに よって細胞移動といったプロセスを制御しているインテグリンーRac経路の下流の情 報伝達事象を妨げていることを見出した。(KU)
Integrins Regulate Rac Targeting by Internalization of Membrane Domains
   Miguel A. del Pozo, Nazilla B. Alderson, William B. Kiosses, Hui-Hsien Chiang, Richard G. W. Anderson, and Martin A. Schwartz
p. 839-842.
CELL BIOLOGY:
Integrins, Rafts, Rac, and Rho

   Jun-Lin Guan
p. 773-774.
Localized Stabilization of Microtubules by Integrin- and FAK-Facilitated Rho Signaling
   Alexander F. Palazzo, Christina H. Eng, David D. Schlaepfer, Eugene E. Marcantonio, and Gregg G. Gundersen
p. 836-839.

磁性鉄のナノキューブ(Magnetic Iron Nanocubes)

電子デバイスが益々小さくなるにつれて、新規な方法により整列したナノメート ル・サイズの物体をアセンブリすることが必要とされてきている。それは、リソグ ラフィーでより小さいサイズのものを作ることに限界が来ているからである。 有機 金属前駆体の分解によって、若干の磁性体が超格子中につくられた。しかし鉄ベー スの粒子のために、生成された超格子磁性体は磁化が減少していた。 鉄は磁性デバ イスとして特別な関心が持たれている。なぜならば、鉄は高い磁化を持ち、かつ広 範囲の磁気異方性をもつ合金を作ることができるからである。Dumestreたち(p. 821)はバルクな鉄の磁化に匹敵する磁化を持つ体心立方鉄のナノ粒子から超格子を 製作するための方法を偶然見出した。(hk)
Superlattices of Iron Nanocubes Synthesized from Fe[N(SiMe3)2]2
   Frédéric Dumestre, Bruno Chaudret, Catherine Amiens, Philippe Renaud, and Peter Fejes
p. 821-823.

アマゾン川の気候変化( Amazonian Climate Change)

アンデス東部の低地雲霧林(cloud forests)は、多様な生物の宝庫である。Bushた ち(p.827)は、その森林の構成が過去48,000年間でどのように変化したのかを、コン スェロ(Consuelo)湖の堆積物から得られた花粉記録を用いて調査した。彼らは種の 分布から、最終氷期では、5℃から9℃にかけて現在より気温が低かったと推定してい る。その上、観測された森林群落(forest community)の変化の割合に基づき、低地 熱帯(lowland tropics)の気温変化は着実ではあるが急激ではなかった(1000年で約1 度の変化)と推定している。今後僅か100年の間に起こると予測される同規模の気温 上昇は、気候変化に弱い、あるいは分散の遅い種を淘汰することになるかもしれな い。(TO)
48,000 Years of Climate and Forest Change in a Biodiversity Hot Spot
   Mark B. Bush, Miles R. Silman, and Dunia H. Urrego
p. 827-829.

ナノスケールでの熱電特性のキャラクタリゼーション(Nanoscale Thermoelectric Characterization)

熱電材料は、熱を直接的に電気に変換したり、あるいは、逆に用いて静かな冷却ユ ニットとして用いることができる。しかしながら、費用対効果の良い発電応用に は、20% を越えるデバイス効率と、その結果として 2〜3の ZT因子(材料の電気・ 熱特性を考慮したキャラクタリゼーション因子) が必要である。バルク材料のおよ そ1という、現在までに得られたかなり低い ZT 因子では、800K以上が関心を持て る操作温度ということになり、それらの広範な応用を阻んでいる(Majumdar の展望 記事を参照のこと)。Hsu たち(p.818) は、等軸晶系の AgPbmSbTe(2+m) にもとづく新しい材料の一族が、800K で およそ 2.2 の ZT 因子を示すという結果を与えている。この ZT 因子は、効率的な 発電に対する基本的な要請の一つを満たすものである。Lyeo たち (p.816) は、熱 起電力と、それに関連する半導体接合の電気的特性とを、ナノメートルレベルの分 解能でマッピングできる走査プローブ法を開発した。これは、そのキャラクタリ ゼーションと新しいナノ構造の熱電材料の開発に有用なものとなろう。(Wt)
Profiling the Thermoelectric Power of Semiconductor Junctions with Nanometer Resolution
   Ho-Ki Lyeo, A. A. Khajetoorians, Li Shi, Kevin P. Pipe, Rajeev J. Ram, Ali Shakouri, and C. K. Shih
p. 816-818.
Cubic AgPbmSbTe2+m: Bulk Thermoelectric Materials with High Figure of Merit
   Kuei Fang Hsu, Sim Loo, Fu Guo, Wei Chen, Jeffrey S. Dyck, Ctirad Uher, Tim Hogan, E. K. Polychroniadis, and Mercouri G. Kanatzidis
p. 818-821.
MATERIALS SCIENCE:
Enhanced: Thermoelectricity in Semiconductor Nanostructures

   Arun Majumdar
p. 777-778.

たちの悪い隣人?(Bad Neighbors?)

もっとも一般的な形のガンは、上皮細胞の制御不能な増殖により引き起こされる。 これらの細胞の増殖は、それらの細胞の遺伝子変異が蓄積されることにより引き起 こされるが、腫瘍細胞の行動は、周囲を取り囲む間質細胞によっても制御されてい る、という証拠が徐々に増えている。そのような証拠は、多くは組織培養の研究か ら得られたものである。マウスにおいて標的遺伝子不活性化のストラテジーを使 用 して、Bhowmickたち(p. 848;RadiskyおよびBissellによる展望記事を参照) は、 線維芽細胞中のトランスフォーム増殖因子-βシグナル伝達が欠失することによ り、 前立腺および胃において周辺の上皮細胞の腫瘍性経過が引き起こされることを 示し た。この作用は、遺伝子変異させた線維芽細胞による肝細胞増殖因子の産生の 増加 を一部引き起こす様である。(NF)
CANCER:
Respect Thy Neighbor!

   Derek C. Radisky and Mina J. Bissell
p. 775-777.
TGF-ß Signaling in Fibroblasts Modulates the Oncogenic Potential of Adjacent Epithelia
   Neil A. Bhowmick, Anna Chytil, David Plieth, Agnieszka E. Gorska, Nancy Dumont, Scott Shappell, M. Kay Washington, Eric G. Neilson, and Harold L. Moses
p. 848-851.

遺伝子相互作用ネットワーク(Genetic Interaction Network)

遺伝子ネットワーク、およびそれらの機能的秩序のトポロジーを理解することによ り、ヒト遺伝学者は複雑な特性と関連する疾患遺伝子を同定するための新しいアプ ローチを開発できるかもしれない。Tongたち(p. 808;Hartwellによる展望記事を 参照)は、二重変異体を使用して、酵母における遺伝子相互作用のネットワークを 調べた。酵母の遺伝子ネットワークは、指数法則的分布にし たがっており、そして スモールワールド特性を示したが、タンパク質相互作用ネットワークの複雑性より も5〜10倍の複雑性を有している様である。ネットワーク内 部の遺伝子の位置およ び結合性により、実験データにサポートされ、以前は特徴が わかっていなかった遺 伝子について、分子的役割を予測することが可能になる。(NF)
GENETICS:
Robust Interactions

   Lee Hartwell
p. 774-775.
Global Mapping of the Yeast Genetic Interaction Network
   Amy Hin Yan Tong, Guillaume Lesage, Gary D. Bader, Huiming Ding, Hong Xu, Xiaofeng Xin, James Young, Gabriel F. Berriz, Renee L. Brost, Michael Chang, YiQun Chen, Xin Cheng, Gordon Chua, Helena Friesen, Debra S. Goldberg, Jennifer Haynes, Christine Humphries, Grace He, Shamiza Hussein, Lizhu Ke, Nevan Krogan, Zhijian Li, Joshua N. Levinson, Hong Lu, Patrice Ménard, Christella Munyana, Ainslie B. Parsons, Owen Ryan, Raffi Tonikian, Tania Roberts, Anne-Marie Sdicu, Jesse Shapiro, Bilal Sheikh, Bernhard Suter, Sharyl L. Wong, Lan V. Zhang, Hongwei Zhu, Christopher G. Burd, Sean Munro, Chris Sander, Jasper Rine, Jack Greenblatt, Matthias Peter, Anthony Bretscher, Graham Bell, Frederick P. Roth, Grant W. Brown, Brenda Andrews, Howard Bussey, and Charles Boone
p. 808-813.

中途半端な病原性なし(No Halfway Virulence)

感染の拡大を予測するための従来型のモデルは、通常、宿主個体群が自由に混じり あ うことを前提にしている。Bootsたち(p. 842)は、宿主の局所的接触または宿 主 の社会的個体群構造により引き起こされる進化力学における双安定性の結果とし て、病原体個体群において病原性が大幅にシフトする可能性があることを、理論的 に示した。ウサギ出血性疾患(RHD)ウィルスをヒトウィルス感染の代わりとして 使用して、そしてフィールドで集められたデータを、そのモデルに当てはめた。RHD による感染は、通常は無症候性であるが、時折、組換え現象のために、高病原性株 が発生し、それが確立してしまう可能性がある。このモデルにより、ウサギ出血性 疾患ウィルスの高病原性株が急に発生することについての説明が提供され る。(NF)
Large Shifts in Pathogen Virulence Relate to Host Population Structure
   M. Boots, P. J. Hudson, and A. Sasaki
p. 842-844.

生物による粘土形成を明らかにする(Uncovering Biotic Clay Formation)

堆積物が埋没(burial)し熱せられている間に、粘土鉱物スメクタイト(clay mineralsmectite)は徐々にイライト(illite)に変化していく。この反応は、堆積盆 地において石油生成と非常に近いと思われ、非生物的でかつ反応が進むために埋 没、熱、時間が必要であると考えられてきた。Kimたち(p.830)は、スメクタイト中 の鉄分を少なくすることにより、バクテリアが触媒となり環境条件下(ambient condition)で反応を急速に進めることを示した。その結果、スメクタイトからイラ イトを形成する自然界での生成(natural occurrences)のある部分は、単に埋没条件 というよりもむしろバクテリアのプロセスを熟考したほうが良いかもしれな い。(TO)
Role of Microbes in the Smectite-to-Illite Reaction
   Jinwook Kim, Hailiang Dong, Jennifer Seabaugh, Steven W. Newell, and Dennis D. Eberl
p. 830-832.

ポケットの中の癌の薬剤(Cancer Drug in the Pocket)

p53経路は腫瘍発生の予防において中心的な役割を果たすものであり、癌の薬剤発見 の潜在的な標的としてかなりの興味を引き起こしてきたものである。合成化学薬品 の系統的スクリーニングにおいて、Vassilevたちは、p53と、p53の腫瘍サプレッ サー機能に拮抗するタンパク質であるMDM2との相互作用を抑制する一連の小さな分 子(nutlinと呼ばれる、シス-イミダゾリンの類似化合物)を同定した(p. 844)。この nutlinは、MDM2をp53-結合ポケット内に結合することで作用し、腫瘍細胞における p53活性化と、それに続く細胞周期停止とアポトーシスを引き起こすのである。経口 的にマウスに投与されると、nutlinは腫瘍の成長を有意に抑制した。こうした結果 は、タンパク質-タンパク質相互作用を標的にした小さな分子が効果的な薬物療法の 開発につながるというコンセプトの有効性を確証するものである。(KF)  
In Vivo Activation of the p53 Pathway by Small-Molecule Antagonists of MDM2
   Lyubomir T. Vassilev, Binh T. Vu, Bradford Graves, Daisy Carvajal, Frank Podlaski, Zoran Filipovic, Norman Kong, Ursula Kammlott, Christine Lukacs, Christian Klein, Nader Fotouhi, and Emily A. Liu
p. 844-848.

三体問題を精査する(Probing Three-Body Problems)

二重に励起された原子の自己イオン化は、三体相互作用の一つの例であり、そし て、すべての三体問題と同様、電子間の力学とエネルギー交換の詳細を解き明かす ことは、計算でも、また、実験でも困難なもののひとつである。Pisharody とJones (p.813; Stroud による展望記事を参照のこと) は、原子中の電子波束のコヒーレン トなレーザーによる制御は、この問題に対し、新しい展望を切り開く可能性がある ことを示している。同一の原子内の二つの高励起状態の電子の位置と運動量を同時 に制御することにより、その原子内部の電子の力学と相互作用を探査し、そして、 これらの壊れやすい原子の崩壊過程に関する情報を得ることが可能である。「柔ら かな」衝突をとおしてのゆっくりとしたエネルギー交換ではなくて、単一の激烈な 電子-電子衝突によって自己イオン化に至る。(Wt)
PHYSICS:
Pas de Deux for Atomic Electrons

   C. R. Stroud Jr.
p. 778-779.
Probing Two-Electron Dynamics of an Atom
   S. N. Pisharody and R. R. Jones
p. 813-815.

胆嚢に隠れる(Hiding Out in the Gall_Bladder)

リステリア菌という食中毒細菌、およびその他の病原体は肝臓において複製され、 肝臓細胞が崩壊すると胆汁の一部として放出される。無傷で生きているマウスを対 象とした生体内での生物発光イメージングを用いて、Hardyたち(p. 851)は、リステ リア菌が胆嚢においても複製できることを示している。この結果は、免疫の回避、 抗生物質治療に対する内因性抵抗、無症候性保菌というヒトリステリア症のいくつ かの特徴を説明するものであろう。(An)
Extracellular Replication of Listeria monocytogenes in the Murine Gall Bladder
   Jonathan Hardy, Kevin P. Francis, Monica DeBoer, Pauline Chu, Karine Gibbs, and Christopher H. Contag
p. 851-853.

ドーパミンD2受容体機能を明確に(Dopamine D2 Receptor Function Unraveled)

皮質のドーパミン作動性システムは、正常な認識にも異常な認識にも関与する。 ドーパミン作動性D2拮抗物質は、精神分裂病の治療として広く使われている。作業 記憶を必要とする作業を行なう時に、前面皮質における細胞は記憶期間、あるいは 記憶に導いている断続性運動に比例して分泌する。Wangたち(p. 853)は、D2とD1の 作動薬と拮抗物質を目を覚ましているサルの脳における単独ニューロンに適用し た。ドーパミンD2受容体は記憶に導いている断続性運動の生成に関与する活性を選 択的に制御したが、D1受容体は記憶期間に起こった持続的活性を制御した。このよ うにD2受容体は、前頭葉前部の皮質における作業記憶関連の活性を制御する。(An)
Selective D2 Receptor Actions on the Functional Circuitry of Working Memory
   Min Wang, Susheel Vijayraghavan, and Patricia S. Goldman-Rakic
p. 853-856.

もつれをほどく(Untangling Entanglement)

ポリマーが変形しているときのポリマーの流れやすさは、個々の鎖の相互の絡み合 いと密接に関係している。理論面で、特に最も有名な「reptation:チューブ内の一 次元の曲線的な拡散」理論では、プリミティブパスウェイ(primitive pathway)の定 義により鎖がお互いのなかでどのように動くかを記述することにより長足の進歩を とげたが、もつれやチューブ構成しているものが何かという単一の定義が無かっ た。シミュレーションを用いて、Everaersたち(p. 823)は、実験的に測定されたも つれの密度を単純なもつれの定義と関連付けることが出来た。この結果は、ポリ マーレオロジーの巨視的測定を個々の鎖の動き方と関連付ける可能性の道を開くも のである。(KU)
Rheology and Microscopic Topology of Entangled Polymeric Liquids
   Ralf Everaers, Sathish K. Sukumaran, Gary S. Grest, Carsten Svaneborg, Arvind Sivasubramanian, and Kurt Kremer
p. 823-826.

ゲノム全体の機能的分析(Genome-Wide Functional Analysis)

RNA干渉に基づく、ゲノム全体の規模でのスクリーニングは、さまざまな細胞プロセ スを制御する遺伝子をすばやく、かつ系統的に同定できるというその潜在力のため に、包括的な機能的ゲノム分析において好まれる方法の1つになっている。Boutros たちは、組織培養細胞を用いてショウジョウバエ・ゲノムのそうしたスクリーニン グを行い、新しい遺伝子と、細胞の増殖と生存を制御するヒト病気の遺伝子の orthologsとを同定した(p. 832)。この結果は、この重要なモデル生物のゲノムにつ いて注釈するための新たな機能的情報を提供するものである。(KF)
Genome-Wide RNAi Analysis of Growth and Viability in Drosophila Cells
   Michael Boutros, Amy A. Kiger, Susan Armknecht, Kim Kerr, Marc Hild, Britta Koch, Stefan A. Haas, Heidelberg Fly Array Consortium, Renato Paro, and Norbert Perrimon
p. 832-835.

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