AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 30, 2004, Vol.303


強誘電体を強磁性体に結びつける(Coupling Ferroelectrics to Ferromagnets)

強誘電性(自発電気双極子を有する)、あるいは、強磁性(自発磁気モーメントを有す る)のどちらかの性質を有する材料は、よく研究されており、容易に製作することが できる。しかしながら、これらの特性を、両特性が強く結合した単一の強誘電性・ 強磁性両方(multiferroic)を有する材料にすることは、挑戦に値する材料設計上の 問題である。Zheng たち (p.661) は、強誘電性・強磁性両方(multiferroic)を有す る材料を、自己組織化プロセスにより作成した。このプロセスでは、強磁性体であ る CoFe2O4 ナノ粒子が、強誘電体である BaTiO3からなる誘電性のマトリックス内に柱状に形成される。この幾何 形状は、磁気的および電気的秩序パラメータに結び付いており、電場と磁場とに蓄 えられるエネルギーの相互変換を可能とする。(Wt)
Multiferroic BaTiO3-CoFe2O4 Nanostructures
   H. Zheng, J. Wang, S. E. Lofland, Z. Ma, L. Mohaddes-Ardabili, T. Zhao, L. Salamanca-Riba, S. R. Shinde, S. B. Ogale, F. Bai, D. Viehland, Y. Jia, D. G. Schlom, M. Wuttig, A. Roytburd, and R. Ramesh
p. 661-663.

テクネチウムの痕跡(A Trace of Technetium)

およそ50年前の恒星大気中でのテクネチウムの発見は、重元素は星によって作られ たことを明らかにし、そして、原子核合成モデルの発展の端緒となった。Savinaた ち (p.649; Nittler による展望記事を参照のこと) は、太陽以外の恒星で作られ、 マーチンソン隕石の基質中に捉えられ、保存されてきた SiC ダスト粒子の中の過剰 なドーター元素である99Ru を測定することにより、今は消滅した放射 性元素99Tc を検出した。恒星からの粒子の同位体組成は、天文観測と の直接比較を可能にし、原子核合成モデルを発展させるのに役立つであろ う。(Wt,nk,tk)
ASTRONOMY:
Nuclear Fossils in Stardust

   Larry R. Nittler
p. 636-637.
Extinct Technetium in Silicon Carbide Stardust Grains: Implications for Stellar Nucleosynthesis
   Michael R. Savina, Andrew M. Davis, C. Emil Tripa, Michael J. Pellin, Roberto Gallino, Roy S. Lewis, and Sachiko Amari
p. 649-652.

父方のX染色体の沈黙(Silence of Paternal Xs)

多くの種は異なる雄と雌の性染色体を持っており、この染色体上の遺伝子量は遺伝 子量補償期間において二っの性の間で調節される。それが失敗すると、重症の、或 いは致命的な影響をもたらす。ほ乳類において、雌(XX)における二っのX染色体のう ちの一つが雄(XY)における1個のX染色体の遺伝子量に釣り合うように活性を失う。 雌のほ乳類の胚の中では、二っのX染色体は最初活性であると考えられており、その 後一つが生物体の生命のためにランダムに不活性化の選択を受ける。胚の胚体外組 織の中で、X染色体の不活性化が刷り込まれて、父方から受け継いだX染色体が常に 不活性化される。Okamotoたち(p. 644)とMakたち(p. 666)は、今回そうではなく て、マウスの胚の中で総ての父方のX染色体が最初に不活性化されていることを示し ている(HajkovaとSaraniによる展望記事参照)。胚の中では固有の父方のX染色体が その後で再び活性化され、個々の細胞内でランダムに不活性化される前にその正常 な異質染色質標識の総てを失う。このように、不活性な、刷り込まれた状態が、驚 くべきことには胚の中で不安定で変化を起こしやすい。(KU)
DEVELOPMENT:
Enhanced:
Programming the X Chromosome

   Petra Hajkova and M. Azim Surani
p. 633-634.
Reactivation of the Paternal X Chromosome in Early Mouse Embryos
   Winifred Mak, Tatyana B. Nesterova, Mariana de Napoles, Ruth Appanah, Shinya Yamanaka, Arie P. Otte, and Neil Brockdorff
p. 666-669.
Epigenetic Dynamics of Imprinted X Inactivation During Early Mouse Development
   Ikuhiro Okamoto, Arie P. Otte, C. David Allis, Danny Reinberg, and Edith Heard
p. 644-649.

上昇して浮揚する(Up,Up and Away)

液晶相における分子は同一方向に配向しやすく、このような配向は表面や埋め込ま れた粒子の存在によって制御されたり、或いは乱されたりする。もしその粒子が非 対称性であると、分子と粒子間の乱す力も、又、配向依存性となる。Lapointeた ち(p. 652)は、液晶内にニッケルのナノワイヤーを磁気的に回転させることによ り、この力を測定した。測定されたその力は、これまで証明されていなかった理論 予測と一致する。連続的にワイヤーを回転することにより、彼らは試料の高さ方向 に液晶配向に均一な捩れをもたらし、その後ワイヤーを浮揚させた。(KU)
Elastic Torque and the Levitation of Metal Wires by a Nematic Liquid Crystal
   C. Lapointe, A. Hultgren, D. M. Silevitch, E. J. Felton, D. H. Reich, and R. L. Leheny
p. 652-655.

水の表面で(On Top of Water)

最近の実験によると、液体水と蒸気の界面では、かなりの割合の「単独ドナー」や 「アクセプタのみ」の水分子が存在する証拠が得られている。これらの水分子集団 中には、1,2個の水素結合してない水素原子が存在する。Kuo と Mundy (p. 658; および Marxによる展望記事も参照)は、216個の水分子からなる板状の液体-蒸気界 面の立体内をCar-Parrinello分子動力学モデルでシミュレーションした。この板状 の中心部は、バルク水の性質を持つと見なせるほどの、十分な厚さを持っている。 著者たちはこの界面において、「単独ドナー」と「アクセプタのみ」の両方が存在 する証拠を見つけた。計算による水分子の電気的性質は、この界面がバルク水より も強い反応性を持っていることを示唆している。(Ej)
CHEMISTRY:
Throwing Tetrahedral Dice

   Dominik Marx
p. 634-636.
An ab Initio Molecular Dynamics Study of the Aqueous Liquid-Vapor Interface
   I-Feng W. Kuo and Christopher J. Mundy
p. 658-660.

状況を変える(Tipping the Scales)

免疫応答が効果的になるかどうかは、タンパク質・チロシン・リン酸化酵素(PTK)お よびタンパク質・チロシン・脱リン酸化酵素(PTPase)によって、情報伝達カスケー ドが、正確に活性化、不活性化されるかどうかに依存している。PEST-領域に富んだ チロシン・脱リン酸化酵素(PEP)は、PTPaseの一種であり、T細胞受容体情報伝達に 対立するものである。Hasegawaたちは、マウスにおいてPEP活性が失われると、 チェックされないエフェクターT細胞やメモリーT細胞の応答を生み出すことを報告 している(p. 685)。これはPEPを欠くマウスにおけるあからさまな自己免疫を引き 起こすまでには至らなかったが、B細胞の過剰な反応は明らかであり、このことは脱 リン酸化酵素が、T細胞によって協調される免疫の多様な側面を制御する役割をもっ ていることを示唆するものである。(KF)
PEST Domain-Enriched Tyrosine Phosphatase (PEP) Regulation of Effector/Memory T Cells
   Kiminori Hasegawa, Flavius Martin, Guangming Huang, Dan Tumas, Lauri Diehl, and Andrew C. Chan
p. 685-689.

ランチビオティックスのin vitro合成(In Vitro Synthesis of Lantibiotics)

バクテリアが薬物耐性を産みだしその耐性が広がってしまった、バンコマイシンな どの糖ペプチド類やペニシリン類とは異なり、ナイシンおよびその他のランチビオ ティックスは、耐性の機構の広がりを引き起こすことなく、多年にわたって使用さ れてきた。リボゾーム上で合成されるこの種類のペプチド系抗生物質の人工物質を 開発する際の実質的な障壁の一つは、ランチビオティックス前駆体を修飾すること に対する内部の障壁であった。たとえば、ナイシン遺伝子を改変すると、ペプチド が分泌される前に細胞内タンパク質融解によりそのペプチドが破壊される程度ま で、その後の翻訳後プロセシングの段階を遅らせることができる。別のアプローチ では、合成酵素を単離する努力がなされ、その合成酵素により、設計されたペプチ ド基質をin vitroで供給することができ、その結果、細胞による制約をすべて回避 することができる。Xieたち(p.679)は、ラクチシン481に関する成功について報告 している。ラクチシン481は、Lactococcus lactisにより生成されるペプチドであ り、食品保存料として使用できる可能性がある。ラクチシン481合成酵素は、プロペ プチド(LctA)に対して、セリンおよびトレオニンの脱水を行い、それに続き不飽 和アミノ酸に対してシステインを分子内付加し、それらが環状チオエステルを生成 する環化反応を行わせることにより、三環系抗生物質へと変換する。この酵素は、 ランチビオティックス改変体の作製を容易にすることができる緩やかな基質特異性 を有している。(NF)
Lacticin 481: In Vitro Reconstitution of Lantibiotic Synthetase Activity
   Lili Xie, Leah M. Miller, Champak Chatterjee, Olga Averin, Neil L. Kelleher, and Wilfred A. van der Donk
p. 679-681.

低レベルシグナルをブロック(Blocking Low-Level Signals)

線虫Caenorhabditis elegansにおける外陰部の発生は、動物における細胞運命のパ ターン化を調べるためのモデルシステムとして使用されてきた。2種類の異なる細胞 内シグナルが、外陰部前駆体細胞(VPCs)間の細胞運命を識別するための一因と なっている:その細胞内シグナルの一つは、上皮増殖因子(EGF)受容体により媒介 されるEGFの長期空間的濃度勾配であり、そしてもう一つの細胞内シグナル は、Notch-様受容体LIN-12により媒介される細胞-細胞側方シグナルである。Yooた ち(p. 663;Sternbergによる展望記事を参照)はここで、低レベルのEGFにより活 性化されたVPCsが、周辺の細胞からのLIN-12側方シグナルにより、特定の細胞運命 をたどらないようにブロックされていることを見いだした。(NF)
DEVELOPMENTAL BIOLOGY:
A Pattern of Precision

   Paul W. Sternberg
p. 637-638.
Crosstalk Between the EGFR and LIN-12/Notch Pathways in C. elegans Vulval Development
   Andrew S. Yoo, Carlos Bais, and Iva Greenwald
p. 663-666.

ヒット&ラン(Hit and Run)

Bdellovibrio bacteriovorusは、動きの早い、鞭毛を持った捕食性のグラム陰性バ クテリアであり、多様な被食バクテリアを探し求める。Rendulicたち(p. 689) は、そのゲノム配列を明らかにした。その結果、バクテリアのライフサイクルの 様々な段階の分子的状況が示された。このバクテリアは、ヒットと呼ばれる特殊化 された被食者相互作用性遺伝子座を有する。同じ名前の付いたタンパク質は未だ同 定されていないが、ヒットは細胞壁タンパク質をコードする遺伝子および鞭毛遺伝 子および繊毛遺伝子を伴う、転写ユニットの一部である。繊毛を使用し て、Bdellovibrioは、宿主となる他のグラム陰性バクテリアの細胞壁に吸着し、一 連の加水分解酵素により宿主を破壊し、そしてペリプラズム中に無理矢理入り込 む。捕食者-被食者相互作用の密接な関連性にもかかわらず、水平的遺伝子移動の兆 候は見られない。その後、Bdellovibrioは様々な輸送システムを使用して、被食者 サイトゾル由来の分子を消化しそして摂取する;このバクテリアは、新規には(de novo)11アミノ酸しか合成することができない。隔壁および鞭毛の成長の後、子孫 バクテリアはより多くの酵素を分泌することにより被食者の死骸から脱出し、残っ ているペプチドグリカンを融解する。(NF)   
A Predator Unmasked: Life Cycle of Bdellovibrio bacteriovorus from a Genomic Perspective
   Snjezana Rendulic, Pratik Jagtap, Andrea Rosinus, Mark Eppinger, Claudia Baar, Christa Lanz, Heike Keller, Carey Lambert, Katy J. Evans, Alexander Goesmann, Folker Meyer, R. Elizabeth Sockett, and Stephan C. Schuster
p. 689-692.

RNAiとクロマチンのパッケージング(RNAi and Chromatin Packaging)

クロマチンは、細胞核内のヒストンにパッケージされたDNAであり、遺伝子発現の制 御における重要な役割を果たす。特に重要なのは、ヘテロクロマチンにパッケージ された遺伝子がオフにさせられることであり、多くの場合、オフのままで複数の細 胞世代を経る。遺伝子分析と分子分析によって、ヘテロクロマチンの成分およびヘ テロクロマチン形成の基礎となる機構の幾つかが明らかになった。最近の分裂酵母 と植物の研究によれば、RNA干渉(RNAi)機構がヘテロクロマチンの形成に関与するこ とを示している。今回Pal-Bhadraたち(p 669)は、動物におけるヘテロクロマチンの 形成にもRNAi機構の成分が関与することを、特にキイロショウジョウバエにおいて 斑(ふ)入り型位置効果のプロセスに関与していることを示している。このことは、 恐らく全ての真核生物におけるヘテロクロマチン形成にはRNAiが必要であることを 示唆している。(An)
Heterochromatic Silencing and HP1 Localization in Drosophila Are Dependent on the RNAi Machinery
   Manika Pal-Bhadra, Boris A. Leibovitch, Sumit G. Gandhi, Madhusudana Rao, Utpal Bhadra, James A. Birchler, and Sarah C. R. Elgin
p. 669-672.

RNA駆動のヘテロクロマチンのターゲティング(RNA-Driven Targeting of Heterochromatin)

RNAi経路は、分裂酵母と多細胞性真核生物において、転写遺伝子サイレンシングを 制御する。RNAiとヘテロクロマチンの樹立を結びつけるのは何であろう。Verdelた ち(p 672)は、分裂酵母から、RNA駆動のヘテロクロマチンターゲティングに関与す る3つタンパク質の複合体の特徴を明らかにした。複合体が含むのは、Ago1という miRNA/RNAi RISCエフェクタ機構の成分である。また、Chp1とTas3も含み、これらは 異質染色質の領域に局在化する。最も大事なのは、複合体がこのヘテロクロマチン の全く同一の領域からの小さなRNAを含むことである。このRNAがなければ、複合体 はヘテロクロマチンの形成に関与せず、又その形成をも駆動しない。(An)
RNAi-Mediated Targeting of Heterochromatin by the RITS Complex
   André Verdel, Songtao Jia, Scott Gerber, Tomoyasu Sugiyama, Steven Gygi, Shiv I. S. Grewal, and Danesh Moazed
p. 672-676.

因子カスケード(Factor Cascade)

哺乳類の生殖周期の中間部において、黄体形成ホルモン(LH)の揺れが生じ、それに 引き続いて卵胞における一連の変化が生じる。それは卵母細胞の減数分裂の再開 や、卵母細胞を取り巻く細胞における遺伝子発現の増加などである。こうした変化 の終点は、濾胞の破裂と受胎能力のある卵の排卵である。LHがこの一連の事態にど のように関わっているかは、はっきりしていなかった。というのも、卵母細胞とそ れを取り巻く卵丘細胞がLHに直接反応せず、LH受容体を発現しないからであ る。Parkたちは、LHが上皮細胞成長因子の中間因子を介して作用し、卵丘の拡大と 卵母細胞の減数分裂による成熟の引き金となることを示している(p. 682)。卵巣に 対するLHの作用の解明は、不妊治療における濾胞の機能を扱うにあたって有益であ る可能性がある。(KF)
EGF-Like Growth Factors As Mediators of LH Action in the Ovulatory Follicle
   Jy-Young Park, You-Qiang Su, Miyako Ariga, Evelyn Law, S.-L. Catherine Jin, and Marco Conti
p. 682-684.

ナノチューブ内の量子ドット対(Nanotube Quantum Dots on the Double)

Masonたち(p. 655)は、一本のカーボンナノチューブ内に1対の量子ドットを作製 し、ドット内の電子状態を独立に制御する事に成功した。量子ドット間のカップ リング状態を静電的に制御する事も可能であり、量子コンピューターのゲート素 子への応用が期待できるという。(NK)
Local Gate Control of a Carbon Nanotube Double Quantum Dot
   N. Mason, M. J. Biercuk, and C. M. Marcus
p. 655-658.

キネシンは交互に歩く(Kinesin Walking with an Uneven Gait)

キネシンは、アデノシン三リン酸(ATP)-依存の、2つの頭をもつモーターである。キ ネシンは微小管に沿って移動し、ATPが加水分解されるごとに8.3ナノメートルずつ 動くのである。しかし、Yildizたちはこのたび、それぞれの頭の動きの幅は、17ナ ノメートルか0ナノメートルのどちらかであることを示している(p. 676)。この結果 は、キネシンが頭を交互に動かす、つまり先に行った頭を動かさずに残っている方 がそれを追い越していくやり方で移動していて、尺取虫のように一方の頭がいつも 先にある動き方ではないことの直接の証拠を提供するものである。このデータはま た、キネシンの両方の頭が一歩ごとの間、微小管に結びついていることも示唆する ものである。(KF)
Kinesin Walks Hand-Over-Hand
   Ahmet Yildiz, Michio Tomishige, Ronald D. Vale, and Paul R. Selvin
p. 676-678.

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