AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 17, 2003, Vol.301


プラズモン共鳴を分子軌道法で理解する(An Orbital Approach to Plasmon Resonances)

中空の金属ナノ球体は特異な光学応答を示すことが知られている。これは、プラズ モン共鳴と呼ばれ、光(電磁波)の電場によって誘起される電子密度の偏りに起因 するものである。この共鳴現象および光学応答は、金属ナノ球体の構造(内殻、外 殻の径)によって大きく変化する。Prodanたちは、原子軌道の混成(hybridization )によって分子軌道が記述できるのと同様に、誘電体−金属からなるコア(核)− シェル(殻)構造体の光学応答が、それぞれのプラズモン基準モードの混成で記述 できるというモデルを発表している。彼らは、シリカコア−金シェル−シリカシェ ル−金シェルの4層からなるナノ複合球体を実際に作製し、その赤外領域の消失ス ペクトルが彼らのモデルから得られたもととよく一致することを示している。 (NK)
A Hybridization Model for the Plasmon Response of Complex Nanostructures
   E. Prodan, C. Radloff, N. J. Halas, and P. Nordlander
p. 419-422.

導電性の塩(Conducting Salts)

イオン性液体(ILs)は繰り返しチャージ可能なリチウム電池と燃料電池の電解質とし て利用することも可能である。しかし、単純な水溶性の塩の溶解液と比較すると、 これらの純粋な塩の低い流動性と誘電定数によって導電性が制限されている。Xu と Angell (p. 422)は、低いガラス転移温度をもつプロトン性 ILsが、濃厚水溶液の導 電性に匹敵する導電性を持ちうることを示している。プロトン性 ILsでは、プロト ンが陰イオンと陽イオン間を移動できる。(hk)
Solvent-Free Electrolytes with Aqueous Solution-Like Conductivities
   Wu Xu and C. Austen Angell
p. 422-425.

ダイアモンドへの途上(Halfway to Diamond)

ダイアモンドにおいては、炭素は三次元構造内でsp3結合(σ結合)を形成 し、一方グラファイトにおいてはsp2結合(π結合)により炭素シート状を 形成する。この二つの間の謎めいた構造変化は、グラファイトを任意の温度で圧縮 したさいにヒントが得られている。Maoたち(p. 425)は、K-端近傍分光方法(near K-edge spectroscopy)を用いてこの転移を解明している。17Gpa(ギガパスカル)近傍 の圧力において、グラファイト層間の弱い結合の半分がダイアモンド様の結合に変 換してぎざぎざ状のダイアモンドに匹敵する硬い物質をつくる。(KU)
Bonding Changes in Compressed Superhard Graphite
   Wendy L. Mao, Ho-kwang Mao, Peter J. Eng, Thomas P. Trainor, Matthew Newville, Chi-chang Kao, Dion L. Heinz, Jinfu Shu, Yue Meng, and Russell J. Hemley
p. 425-427.

未知の情報を推定する(Factoring in the Unknowns)

たった数回魚を捕獲することで、川や池に何匹の魚がいるのかを、どのようにして 推測することができるだろうか?あるいはテキスト中の単語の使用量を数編の断片 から推定することができるであろうか?こうした問題は、全体の中で少ないサンプ ルしかデータが利用できない言語学から生態学、ゲノムまでの大きな系を分析した り管理したりするときに繰り返し起こる例である。最も使いやすい予測法はGood と Turingによって、第2次世界大戦中にエニグマコードを解読しようとしている時に初 めて導かれた。そして様々な応用に対して数多くの改良版が現れた。Orlitskyた ち(p.427)は、これらのアプローチや探索を定量化するための尺度を発展させ、この 尺度(データセットが増加することによる均一な確率収束)によって漸近的に最適化 する一般的な手法として定式化した。(TO)
Always Good Turing: Asymptotically Optimal Probability Estimation
   Alon Orlitsky, Narayana P. Santhanam, and Junan Zhang
p. 427-431.

タイタンの海(The Seas of Titan)

土星最大の衛星であるタイタンは、地球のものと類似の、異常に厚く動的な振舞い を見せる大気を有している。タイタンのもやと雲は、表面の観測を難しくしている が、過去の研究は、メタンの雲の形成を説明するには、炭化水素で満たされた大洋 か、あるいは、炭化水素が豊富な寒冷な火山活動が存在するに違いないことを示唆 している。Campbell たち (p.431; Lorenz による展望記事を参照のこと)は、 Arecibo と Green Bank における電波観測から、50km の大きさの液体の炭化水素が 覆う領域が存在する証拠を見出した。水からなる氷に取り囲まれた炭化水素の湖 は、タイタンの気象パターンを説明する可能性がある。しかしながら、太陽系の冷 たい外部域におけるこのような湖の発生原因とその安定性については、探求すべき 多くのことが残されてはいる。(Wt)
PLANETARY SCIENCE:
The Glitter of Distant Seas

   Ralph Lorenz
p. 403-404.
Radar Evidence for Liquid Surfaces on Titan
   Donald B. Campbell, Gregory J. Black, Lynn M. Carter, and Steven J. Ostro
p. 431-434.

SCID患者の欠損訂正(Defective Correction in SCID Patients)

X染色体性重症複合免疫不全症は遺伝子治療によって成功したが、不幸なことに3年 間で治療に成功した10人のうちの2人に白血病様症候群の患者が発生し た。Hacein-Bey-Abinaたち(p. 415; Williams とBaumによる展望記事参照)はその 条件を特定し、関与するリンパ球のサブセットを決めて、レトロウイルスベクター の組み込み部位を同定した。どちらの場合も、細胞増殖と分化の制御をつかさどる 転写制御因子であるLMO2のプロモーターの近傍で生じていた。その結果生じるLMO2 の上方制御は明らかにT細胞の未制御なクローン増殖を刺激している。(Ej,hE)
MEDICINE:
Gene Therapy--New Challenges Ahead

   David A. Williams and Christopher Baum
p. 400-401.
LMO2-Associated Clonal T Cell Proliferation in Two Patients after Gene Therapy for SCID-X1
   S. Hacein-Bey-Abina, C. Von Kalle, M. Schmidt, M. P. McCormack, N. Wulffraat, P. Leboulch, A. Lim, C. S. Osborne, R. Pawliuk, E. Morillon, R. Sorensen, A. Forster, P. Fraser, J. I. Cohen, G. de Saint Basile, I. Alexander, U. Wintergerst, T. Frebourg, A. Aurias, D. Stoppa-Lyonnet, S. Romana, I. Radford-Weiss, F. Gross, F. Valensi, E. Delabesse, E. Macintyre, F. Sigaux, J. Soulier, L. E. Leiva, M. Wissler, C. Prinz, T. H. Rabbitts, F. Le Deist, A. Fischer, and M. Cavazzana-Calvo
p. 415-419.

ランの性的トリック(Sexual Deception by Orchids)

殆んどの植物と花粉媒介者との関係は、植物が受粉して、一方花粉媒介者は食べ物 の報酬を得ている。性的なトリックをするランにおいて、この花は形や色、或いは 匂いに関してメスの昆虫の真似をし、オスは誘惑されて花と「交配」する。かくし て、報酬を受けることなく花粉を運ぶことになる。Schiestlたち(p. 437;Pennisiに よるニュース記事参照)は、オーストラリアのランの中にこのような現象の極端な事 例に関して記述している。この花は2−エチルー5−プロピルシクロヘキサンー1.3− ジオンという揮発性の化合物をつくるが、このものは受粉作用を行うthynnineスズ メバチのメスが作るフェロモンとあらゆる面で同一の化合物である。単一化合物に よるこのような依存性は極めて異常であり、限られた進化の上での適応性を意味し ているのかもしれない;にも拘らず、300を超えるスズメバチとランとの受粉関係が 見出されることは、別の高度に特異的な伝達システムが自然界で起こっている可能 性を示唆している。(KU)
EVOLUTIONARY BIOLOGY:
Outside Agitators Alter Wasp Behavior

   Elizabeth Pennisi
p. 372.
The Chemistry of Sexual Deception in an Orchid-Wasp Pollination System
   Florian P. Schiestl, Rod Peakall, Jim G. Mant, Fernando Ibarra, Claudia Schulz, Stephan Franke, and Wittko Francke
p. 437-438.

タンパク質-タンパク質相互作用のネットワーク(Protein-Protein Interaction Networks)

タンパク質の相互作用についての現存するデータベースは、新しいタンパク質対の 予測の正確さを改善するために、他のデータソースと組み合わせて利用されてきた が、後者は、相互作用そのものについての情報ではなく、生物学的機能とか生命に とって必須の遺伝子の分類のような、相関する特性についての情報を記録している ものである。Jansenたちは、それぞれの相互作用についての既存のバイナリー値(存 在するかしないか)を利用する代わりに、ベイジアン・ネットワークを用いることに よって、現存するデータ集合を組み合わせて、特定のタンパク質相互作用に関する 真の出現確率を割り当てた(p. 449)。実験による確認によって、新たに予測された タンパク質対と、ヌクレオソーム組織化やDNA複製におけるはっきりわかっている機 能との関連が確かめられた。(FK)
A Bayesian Networks Approach for Predicting Protein-Protein Interactions from Genomic Data
   Ronald Jansen, Haiyuan Yu, Dov Greenbaum, Yuval Kluger, Nevan J. Krogan, Sambath Chung, Andrew Emili, Michael Snyder, Jack F. Greenblatt, and Mark Gerstein
p. 449-453.

動いているグリシン受容体(Glycine Receptors On the Move)

半導体量子ドット(QD: quantum dot)は最近、蛍光イメージングを革新する潜在的な 能力があることから、プローブとして浮かび上がってきた。Dahanたちはこのたび、 生きている培養された脊髄のニューロンで、単一のQDでタグ付けされたグリシン受 容体を検出した(p. 442)。生体内でのモニタリングと事後の電子顕微鏡解析を組み 合わせることで、受容体の動力学が時間を追ってモニターされ、一つの受容体がシ ナプスに入るところが直接観察されたのである。(FK)
Diffusion Dynamics of Glycine Receptors Revealed by Single-Quantum Dot Tracking
   Maxime Dahan, Sabine Lévi, Camilla Luccardini, Philippe Rostaing, Béatrice Riveau, and Antoine Triller
p. 442-445.

脂質と病原性にまつわる2つの物語(Two Tales of Lipids and Pathogenesis)

冠状動脈性心疾患において、血管壁に沿った脂質蓄積が、疾患プロセスの顕著な特 徴である特徴的な損傷部位において進行する。Leeたち(p. 453;Plutzkyによる展 望記事を参照)は、アテローム性動脈硬化に関連する炎症性反応は、マクロファー ジ中で発現されるPPARδと呼ばれる核受容体に依存して決定される可能性があること を示す。PPARδは、マウスマクロファージにおける前炎症性遺伝子の発現を調節して いる可能性があり、そしてマウスにおいてその欠損により損傷部位が約60%まで減 少した。この核受容体は、マクロファージにおける炎症性プログラムの分子スイッ チとして作用しうるものであり、そして疾患の進行を調節するための中心的な標的 ポイントに対応する可能性がある。妊娠個体や免疫不全個体において重症な疾患を 引き起こすグラム陽性の細胞内バクテリア病原体、Listeria monocytogenes、は、 哺乳動物宿主細胞中に住居を定め、その細胞は、侵略者にとっては隠れ家ともな り、また生化学的サポートの供給源ともなる。O'Riordanたち(p. 462)は、宿主細 胞のサイトゾル中でListeriaが複製することを可能にするこのバクテリアの代謝的 適応を特定した。具体的には、バクテリアは、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH) の活性化を促進することにより細胞内増殖における重要で、特異的な、そして非冗 長な役割を果たす、リポ酸タンパク質リガーゼ、LplA1、を含有する。リガーゼを欠 損するバクテリアは、マウスにおける細胞内増殖および病原性に関して、1/300にま で大きく弱められる。(NF)
Listeria Intracellular Growth and Virulence Require Host-Derived Lipoic Acid
   Mary O'Riordan, Marlena A. Moors, and Daniel A. Portnoy
p. 462-464.
MEDICINE:
PPARs as Therapeutic Targets: Reverse Cardiology?

   Jorge Plutzky
p. 406-407.
Transcriptional Repression of Atherogenic Inflammation: Modulation by PPAR delta
   Chih-Hao Lee, Ajay Chawla, Ned Urbiztondo, Debbie Liao, William A. Boisvert, and Ronald M. Evans
p. 453-457.

GM作物の環境漏出(Environmental Escape of GM Crops)

遺伝子組換え(GM)作物の交雑から生じる望ましくない環境的への影響についての 潜在性は、主として小さな地域スケールについて評価してきた。複数の専門分野に またがるアプローチを使用して、Wilkinsonたち(p. 457)は、ナタネ/キャノー ラ(Brassica napus)およびその野生系統B. rapaとの間で、個体群調査、リモート センシング、花粉分散プロフィール、植物標本データ、地域的植物相、およびその 他の植物相に関するデータベースを含む、情報源の組み合わせに基づいて、交雑比 率の英国内の全国的な概算を提示し、そして雑種形成が最も起こりやすい英国内の 場所および最も起こりにくい英国内の場所についての地域的データを示す。雑種形 成は、レシピエントの生態型個体に依存しており、川沿いのB. rapa個体群では、主 としてイングランド東部において雑種が増加したが、スコットランドにおいては増 加しなかった。この情報により、予備的なフィールド試験の位置決めに関して、"低 リスク"地域を予防的に指定することが可能になる。かなりの数の長距離(3 km以 上)雑種の可能性のあるものの存在により、隔離距離を置くことは、単に遺伝子流 動を防止する手段としては効果のないものであることが示唆される。(NF)
Hybridization Between Brassica napus and B. rapa on a National Scale in the United Kingdom
   Mike J. Wilkinson, Luisa J. Elliott, Joël Allainguillaume, Michael W. Shaw, Carol Norris, Ruth Welters, Matthew Alexander, Jeremy Sweet, and David C. Mason
p. 457-459.

血球発生における個別の信号(Separate Signals in Blood Cell Development)

Rasスーパーファミリのグアノシントリホスファターゼ(GTPases)は、細胞骨格の活 性、アポトーシス、遺伝子転写、細胞内の情報交換といった幅広い細胞機能を制御 する。Rac1とRac2というRhoサブファミリのGTPasesは、造血幹細胞と白血球におい て、この細胞機能のいくつかに関与すると考えられている。Rac1とRac2遺伝子の条 件付け除去を用い、Guたち(p. 445)は、アクチン構築制御には両方のタンパク質が 必要であるのに、Rac1は幹細胞増殖を特異的に制御し、Rac2は好中球における細胞 遊走とスーパーオキシド・バーストの生成を制御することを発見した。Walmsleyた ち(p. 459)は、B細胞においてこの2つのGTPasesの協同を観察した。具体的には、両 方の対立遺伝子を除去すると、B細胞発生が遮断されることを観察した。この結果 は、B細胞の機能と発生を制御する因子であるBaffタンパク質の受容体を発現できな い情報伝達欠損と一致している。(An)
Critical Roles for Rac1 and Rac2 GTPases in B Cell Development and Signaling
   Marita J. Walmsley, Steen K. T. Ooi, Lucinda F. Reynolds, Susan Harless Smith, Sandra Ruf, Anne Mathiot, Lesley Vanes, David A. Williams, Michael P. Cancro, and Victor L. J. Tybulewicz
p. 459-462.
Hematopoietic Cell Regulation by Rac1 and Rac2 Guanosine Triphosphatases
   Yi Gu, Marie-Dominique Filippi, Jose A. Cancelas, Jamie E. Siefring, Emily P. Williams, Aparna C. Jasti, Chad E. Harris, Andrew W. Lee, Rethinasamy Prabhakar, Simon J. Atkinson, David J. Kwiatkowski, and David A. Williams
p. 445-449.

パタゴニアの氷の損失(Patagonian Ice Loss)

南半球においてパタゴニア氷原の大きさを凌ぐのは南極の氷床のみである。Rignot たち(p.434)は、地球軌道上レーダーによる地形測量と伝統的な地図作成調査、そし て数値標高モデル(Digital Elevation Model)とを統合し、1968年、1975年そして 1985年に行われた調査と2000年の調査とを比較することによって、パタゴニアの中 の上位63個所の大きな氷原の容量変化を推定した。これらの山岳氷河は、単位面積 当りと同様に絶対期間においても、北半球で同等な比較地域よりも海面上昇への大 きな要因となっている。そして1995年以来に氷河が薄くなる割合は過去25年におけ る割合よりも2倍上である。(TO)
Contribution of the Patagonia Icefields of South America to Sea Level Rise
   Eric Rignot, Andrés Rivera, and Gino Casassa
p. 434-437.

概日時計の内部機構(Inner Workings of the Circadian Clock)

代謝や行動というプロセスを制御するマスター概日時計の進化的な保存に関して議 論が続いてきた。Timeless転写制御因子という時計の中心成分のひとつだけを除い て、全ての中心成分は、哺乳類およびショウジョウバエの両方に必須であると考え られている。Barnesたち(p. 439)は、哺乳類のTimelessのイソ型のひとつは、ラッ ト脳の主要な概日時計を構成するニューロンのリズム性の活性を制御することを示 している。ショウジョウバエの場合と同様に、このニューロンにおいてTimelessが 別の概日時計成分であるPeriodと関連した。この結果は、哺乳類の時計の組成と機 構について再び考えないといけないことを示唆している。(An)
Requirement of Mammalian Timeless for Circadian Rhythmicity
   Jessica W. Barnes, Shelley A. Tischkau, Jeffrey A. Barnes, Jennifer W. Mitchell, Penny W. Burgoon, Jason R. Hickok, and Martha U. Gillette
p. 439-442.

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