AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 8, 2003, Vol.301


特大の超剪断(Supersize Supershear )

実験室での実験では、物質の剪断(s波)伝播速度(shear velocity)よりもセンチメー トルサイズのクラックの方が速い速度で伝播できることが判っていた。しかし、よ り大きなキロメートルサイズの地震の場合での超剪断破壊(supershear rupture)の 場合はこれまではっきりしなかった。 BouchonとVallee(p. 824)は、2001年の崑崙 山(Kunlunshan)地震での400キロメートル長の表面破壊は、超剪断(supershear)が発 生し、そして断層の最初の100キロメートルが破断した後に秒速約5キロメートルで 移動したことを結論付けた。超剪断破壊(supershear rupture)が実在することで、 よりエネルギー的な破壊の潜在的な危険性が高まる。(TO,Ok,OgS)

量子論理のための量子ドット(Quantum Dots for Quantum Logic)

コヒーレントな量子情報処理のために、いくつかの技術が追求されているが、固体 系が、広範囲の実装には最も単純であることが判りつつあるようである。Li たちは (p.809) は、キュビット二つが単一の量子ドットに結び合わさっている量子論理 ゲートを示している。そのキュビットそれぞれはひとつの励起子(電子-ホール対)か らなっている。これらのキュビットは、偏光した光でコヒーレントに操作すること が出来、忠実度 0.7 で論理演算を行うことできる。(Wt)

複屈折のバランスをとる(Balancing Birefringence)

ポリマーを加工すると、通常はポリマー鎖に伸びをもたらす。この種の分子配向は 偏光フィルムを作る際に利用されるが、フィルムを光学的等方性にしようとするさ いには欠点となる。Tagayaたち(p. 812)は、この異方性を補償する方法を提案して おり、この方法は炭酸ストロンチウムの小さな結晶を添加することによりもたされ る。この小さな結晶は伸びたポリマー鎖と同じ方向に配列するが、反対の複屈折を 持っている。この技術は、適切な結晶材料と粒子サイズの選択によりプラスとマイ ナスいずれの複屈折を持つポリマーにも適用することが出来る。(KU)

メタンから酢酸までは一気に(From Methane to Acetic Acid in One Step)

天然ガス中のメタンは純度の高い化学合成用の原料でもあるが、C-H結合が強いため これを直接活性化することは容易ではない。例えばメタンから酢酸を作る場合には 3つの段階が必要である:まず、高温(〜800℃)でCOとH2に転換す る。Perianaたち(p. 814)は、とっつき難く低負荷(low loading)ではあるが濃硫酸 中での単純な触媒PdSO4を利用した低温(180℃)の直接プロセスについて 報告した。著者たちは、まずPd-CH3が生成し、次に、そこで生成したメ タノールによってカルボニル化されるというメカニズムを推定している。これは3段 階プロセスに比べ効率は劣るが、メタノール合成にPt触媒を利用すると言う以前報 告された方法よりは優れている。(Ej,hE)

逆行性輸送とALS 治療法(Retrograde Transport and ALS Therapy)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動性ニューロンの変性によって特徴付けられる、効 果的な治療法のない不治の病である。Kasparたち(p.839)は、ALSのマウスモデル で、神経栄養因子であるインスリン様増殖因子-1(IGF-1)をマウスの肢の筋肉に運ぶ アデノ随伴ウイルスベクターを注入することで病気の進行を遅らせ、マウスの生存 期間を延ばすということを示した。筋肉に分布する運動ニューロンに沿って逆行性 輸送によって、筋肉から脊髄の運動性ニューロンへとウィルスベクターが移動する ことにより、IGF-1を神経細胞の本体に届けた。(TO)

ゼオライトをポリウレタンフィルムに詰める(Packing Zeolites with Polyurethane Films)

ミクロな孔を持つゼオライトは、分離やイオン交換、及び石油化学でのクラツキン グなど、数多くの用途に用いられてきた。しかし、ゼオライトは小さな結晶を形成 するだけで、更なる挑戦としてはそのミクロ孔のネットワークを完全に利用出来る ような規則的な結晶アレイの形成である。Leeたち(p. 818)は、均一なポリウレタン 膜を鋳型として用い、三つの基本的結晶軸すべてにわたってゼオライトの成長を制 御ができることを示している。(KU)

海水の混ざり合う場所の音響プロファイル(Acoustic Profiles of Ocean Mixing)

海水の対照的な温度と塩分濃度の層は一般的には深さのプロファイルでマッピング される。そのような熱塩マッピング構造には水平方向の分解能に限界があり広範な 海水の複雑さを完全には明らかに出来ない。Holbrookたちは(p. 821、Ruddickによ る展望も参照)、多チャンネルの地震波反射プロファイルにより生成した、ラブラド ル海流と北大西洋海流の間の主要な海洋前線を横断する熱塩構造内部を示す音響イ メージを示している。この詳細なイメージは、北大西洋のこの地点における二重拡 散(double diffusion)による熱塩の外側への広がり、変温層下部の渦による下方へ の広がりと、深層海水と底面海水境界の可能性のある位置をあきらかにしてい る。(Na)

抗鬱剤と海馬の神経生成(Antidepressants and Hippocampal Neurogenesis)

抗鬱剤は患者のセロトニンとノルアドレナリンを急激に増加させるが、臨床効果は 通常3〜4週間経過した後にしか見られない。この遅延がなぜ起きるのかについての 説明は、抗鬱剤が患者の神経生成を刺激することで患者の気分を変えるのであろう というものであった。Santarelliたち(p. 805;Vogelによるニュース記事も参照) は、遺伝子工学によってセロトニン1A受容体を欠くマウスと、海馬の神経生成が局 部照射によって遮断されたマウスを生成し、その効果を調べた。両方の場合とも、 抗鬱剤の誘導による神経生成は阻止され、抗鬱剤による行動は停止した。(Ej,hE)

結び付きができていく(Getting Connected)

「Small World(小世界)」仮説によれば、人間の社会的ネットワークは、任意の2人 が、およそ6個の社会的結び付きからなる短い鎖によって互いに隔たっているように 構成されている、とされている。e-mailによる結び付きの出現によって、Doddsたち は、社会的接触に関するそうした結び付きの経路探索を実験的に確かめる機会が得 られた(p. 827; またGranovetterによる展望記事参照のこと)。163カ国の5万3千人 以上のボランティアたちが、ランダムに割り当てられた目的の相手(ターゲット)に 対してメッセージを伝えることを試みたのである。彼らは、社会的ネットワークに おいてターゲットに近いと思われる一人に対してメッセージを送るだけでなく、そ う考えた理由も提供するよう求められた。比較的弱い結び付きが、結び付きの経路 探索においては重要であったが、個人がたくさんの結び付きを有しているかどうか は、結び付きの経路探索が成功するかどうかにとってさほど本質的ではないようで あった。代わりに、ターゲットまでの経路がみつかるかどうかには、動機付けが重 要な要因であった。(KF)

遺伝子のシャッフルはあったか?(Shuffling Genes?)

細菌における横の遺伝子伝達(lateral gene transfer)は、非常に広範に生じると考 えられてきたので、細菌の中の種という概念は無意味なものとされ、進化系統樹を 決定することも不可能だとされてきた。Daubinたちは、遺伝子のコアとなる集合に よって原核生物の系統発生学が跡付けられるかどうかを試すことで、この議論の余 地のある仮説に直接取り組んでいる(p. 829; またPennisiによるニュース記事参照 のこと)。彼らは、原核生物における横の遺伝子伝達(lateral gene transfer)のご くごくわずかな真正な事例については頑強な証拠が存在していることを示している が、いくつかの広く分布している遺伝子が種を超えて横に伝達されている、あるい は古い時代に伝達があったとは論じていない。KF)

プレ-mRNAプロセッシングの選別(Sorting Out Pre-Messenger RNA Processing)

プレ-mRNA分子から生じるタンパク質産物の数を拡張する修飾をスクリーニングする 方法が、これまでに2種類開発された。アデノシンからイノシン(A→I)修飾は所定 の遺伝子によりコードされるタンパク質のレパートリーを拡張することができる酵 素、RNA作用性アデノシンデアミナーゼ(ADAR)により媒介される修飾であるが、こ のアデノシンからイノシン(A→I)への修飾を受けるプレ-mRNAの特別な群が偶然に 発見された。比較ゲノム学的ストラテジーを使用して、Hoopengardnerたち(p. 832)は、RNA修飾に関する特徴的な配列を同定し、そしてそれを使用して、ショウ ジョウバエにおいて新たに16種の修飾された遺伝子を、そして哺乳動物において1種 の修飾された遺伝子を発見した。これらの遺伝子は全て、迅速な電気的かつ化学的 神経伝達に関与し、そして修飾された部位の多くは、保存的でありそして機能的に 重要なアミノ酸を再びコードする、という性質を有していた。オルタナティブプレ -mRNAスプライシングなどのプロセスを利用することは、人類と同程度に複雑な生物 が、比較的少数の遺伝子の集合から生じる一つの方法であり、このような方法を使 用することにより、一つの遺伝子から何千もの個別なタンパク質アイソフォームを 産生することができる。オルタナティブスプライシングするトランスクリプトーム の研究を促進するため、Zhuたち(p. 836)は、"デジタル・ポロニー・エクソン-プ ロファイリング"と呼ばれる単一分子-ベースの技術を開発した。この技術により研 究者が個々の転写物に含まれるエクソンの組み合わせの多様性をモニターすること が可能になった。(NF)

恐怖と同調(Fear and Synchronization)

行動についてのデータは、脳内にある2つの構造、海馬と扁桃体が、恐怖の条件付け において役割を果たしていることを示唆している。しかし、それらの相互作用につ いての生理学的な証拠は乏しく、それらの関係は不明確なままであ る。Seidenbecherたちは、恐怖条件付けの下でのマウスにおける2つの構造内の電気 的活性を記録した(p. 846)。扁桃体では、条件付けの後、とくに脅威刺激に曝され たときに、脳波のθ波における同期活性の振幅が増大し、海馬のθ波に同調した。こ の知見は、記憶形成の過程で、2つの構造の間で機能的な相互作用が確立されること を示唆するものである。(KF)

味の問題(Matters of Taste)

哺乳類のT1rファミリー受容体は、食味の検出に関わっている。ヘテロ二量体である T1r2+T1r3とT1r1+T1r3が、それぞれ甘みとうまみ(グルタミン酸)を検知すると考 えられてきた。しかし、DamakたちによるT1r3を欠くマウスの分析によって、食味に 対する応答性の根底にある分子機構はもっと複雑であることが示されている(p. 850)。T1r3を欠くマウスは、それでも砂糖とグルタミン酸を検知することはできた が、そのマウスはもはや人工甘味料に反応しなかった。この観察結果が示すのは、 甘みやうまみの複合体の味を試すには、食味細胞に別の受容体が存在している、と いうことである。(KF)

発生段階での脊髄の生と死(Life and Death in the Developing Spinal Cord)

発生途上の脊髄は、神経管底部中央に位置するフロアプレート(floor plate)およ び脊索から放出される形態形成物質の濃度勾配に従う。そのようなシグナルの一つ は、ソニック・ヘッジホッグ(Shh)である。Shhは神経上皮の生存のために必要で もあることから、Shhは、形態形成の方向付け以上のことを実際にしてい る。Thibertたち(p. 843;GuerreroとRuiz i Altabaによる展望記事を参照) は、Patchedとして知られているShhの受容体が、Shhの存在しないときにアポトーシ ス性の細胞死を刺激することを示した。このように、脊髄構造の改良は、Shhおよび その受容体Patchedによるシグナル伝達を介して処理される、形態形成シグナルとア ポトーシスシグナルとのバランスから生じるものである。(NF)
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