AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 30, 2003, Vol.300


散乱でもっとよく見る(Seeing More with Scattering)

二つの研究は、ナノスケールシステムの構造を明らかにするための散乱手法に焦点 を当てている。ナノ粒子やナノワイヤの制御された成長の解析は、主には、"オフラ イン"の手法に限定されてきた。そのためには、成長を停止させ、電子分光法のよう な方法による詳細な解析が必要となる。Renaud たち (p.1416; Thornton による展 望記事を参照のこと) は、微小角入射X線散乱を用いて、マグネシウム (001)表面 上のパラジウムの成長と、金の (111)表面上のコバルトの成長を研究した。彼ら は、"リアルタイム"で成長のダイナミクスを観察し、埋没して隠された界面を精査 することができた。標準的回折による方法の問題点は、位相情報が欠落してしまう ことである。Zuo たち (p.1419) は、非常に小さな面積からのコヒーレントな電子 回折と、反復過程によるオーバーサンプリングによって位相情報を回復する手法を 開発した。彼らは、単一の二重壁カーボンナノチューブの構造決定に成功し た。(Wt)
Atomic Resolution Imaging of a Carbon Nanotube from Diffraction Intensities
   J. M. Zuo, I. Vartanyants, M. Gao, R. Zhang, and L. A. Nagahara
p. 1419-1421.
MATERIALS SCIENCE:
Watching Nanoparticles Grow

   Geoff Thornton
p. 1378-1379.
Real-Time Monitoring of Growing Nanoparticles
   Gilles Renaud, Rémi Lazzari, Christine Revenant, Antoine Barbier, Marion Noblet, Olivier Ulrich, Frédéric Leroy, Jacques Jupille, Yves Borensztein, Claude R. Henry, Jean-Paul Deville, Fabrice Scheurer, Jeannot Mane-Mane, and Olivier Fruchart
p. 1416-1419.

高エネルギー準粒子を明らかにする(Revealing High-Energy Quasi-Particles)

超伝導体では、準粒子(quasi-particles QPs)は、それまでばらばらであった Cooper 対を伴う励起状態である。高い遷移温度の銅酸化 物(YBa2Cu3O6.5)では、QPs を形成するのに必 要な励起エネルギーは、結晶中のそれらの運動量の方向に依存している。以前の研 究は、低エネルギー QPs について調べたものであるが、より高いエネルギーの QPs の方が、対形成メカニズムに関係している可能性がある。Gedik たち (p.1410) は、これら高エネルギー QPs の拡散と寿命特性を決定することができる新しいポン プ-プローブ手法を開発した。初期段階の結果は、低および高エネルギーの QPs の 散乱挙動は大きく異なることを明らかにしている。(Wt)
Diffusion of Nonequilibrium Quasi-Particles in a Cuprate Superconductor
   N. Gedik, J. Orenstein, Ruixing Liang, D. A. Bonn, and W. N. Hardy
p. 1410-1412.

気まぐれな接触(Fickle Contacts)

金の支持体上に吸着した芳香族チオールの導電性に関する走査型トンネル顕微鏡を 用いた研究では、導電性に間欠的な変化があることを明らかにしている。この変化 に関する説明として、金支持体に対するチオール分子の捩じれとか電子―局在化の影 響とかが言われている。Ramachandranたち(p. 1413)は、末端に有機グループや、或 いは金のナノ粒子のいずれかを持つ芳香族チオールとアルカンチオールの両者で、 類似の統計論的オンーオフスイッチングが起こっていることを見い出した。一定の 力と様々な温度条件下で、原子間力顕微鏡探針を用いて測定が行われた。著者たち は、この現象の幾分かは先端部接触の揺らぎによるが、大部分は底辺部の接触、す なわちAu-S結合の間欠的切断により生じていることを示している。オンーオフス イッチングの速度は、これらの膜の共通のアニール温度である60℃において50%増加 している。(KU)
A Bond-Fluctuation Mechanism for Stochastic Switching in Wired Molecules
   Ganesh K. Ramachandran, Theresa J. Hopson, Adam M. Rawlett, Larry A. Nagahara, Alex Primak, and Stuart M. Lindsay
p. 1413-1416.

チベットの下に潜る(Going Down in Tibet)

アジア大陸とインド大陸との衝突は高いチベット高原を生み出し、それは地殻とマ ントルの変形を調べる自然の実験場である。Tilmannたち(p.1424)は、厚い地殻の下 に横たわる上部マントル中の破砕帯(crumple zone)の高解像度の画像を示した。そ の画像では、深度約100からほぼ400キロメートルにかけて、直立したレンズ形状の 高速地震波領域の存在を表わしている。この地帯は、約5000万年前に衝突が始まっ たとき、マントルに引きずり込まれたインド岩石圏である。この落ち窪 み(downwelling)は、インドとアジアとの間の収斂(convergence)と短 縮(shortening)を説明することが出来る。(TO)
Seismic Imaging of the Downwelling Indian Lithosphere Beneath Central Tibet
   Frederik Tilmann, James Ni, and INDEPTH III Seismic Team
p. 1424-1427.

地球の愚痴に耳を傾ける人工衛星(Satellites Hear Earth's Grumblings)

地震が発生したとき、世界中の地震計はその地震の実体波と表面波の到達を記録す る。残念なことに、大きな地震あるいは地震計近くの地震では、記録できる機器の スケール範囲を超えていたり、地表からのノイズが多すぎで記録波形が変形してい る。Larsonたち(p.1421)は、人工衛星と受信機からなるGPS(位置情報システム)ネッ トワークを用いた、地震波の速度と振幅を計測する別の手法を発見した。北アメリ カにおいた8つの受信機のセットは、1秒から0.1秒の範囲(測量に使われる受信機は 普通30秒ごとにデータを収集するよう設定される)でデータを受信するように設定さ れ、3800キロメートルも遠くはなれた2002年のアラスカのDenali断層地震によって 発生した表面波を記録した。(TO)
Using 1-Hz GPS Data to Measure Deformations Caused by the Denali Fault Earthquake
   Kristine M. Larson, Paul Bodin, and Joan Gomberg
p. 1421-1424.

適応性変異の野生的側面(The Wild Side of Adaptive Mutation)

マウスの胚性幹細胞は、三っの胚性胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)の全ての細 胞に分化する。しかしながら、in vitroでの実験においては、この幹細胞が生殖細 胞に分化することは今まで観測され環境ストレスに反応した適応性変異についての 証拠が、野生型よりもより相同である傾向を有する、生物体の研究室株から得られ た。Bjedovたち(p. 1404;RosenbergとHastingsによる展望記事を参照)は、約800 種の大腸菌、Escherichia coliの天然単離株を採取し、そして大多数がストレス-誘 導性の(または静止期の)増殖-制限的条件に応答した変異の上昇を示すことを見い だした。それらの解析から、炭素欠乏が生理学的に関連したトリガーであり、そし て酸素を取り除くことにより、加齢コロニーにおける変異増加の多くが排除された ことが示された。1種類の天然単離株遺伝的解析から、炭素-検出遺伝子調節因子、 静止期レギュロンおよびストレス-反応性レギュロン、RecAタンパク質、高-正確性 DNAポリメラーゼII、そして機能低下したミスマッチ修復の役割が示された。顕著に 高頻度の天然単離株における加齢コロニー変異誘発遺伝子(mutator)を、遺伝的変 異性の増大という間接的選択有利性によって説明できることが、コンピュータシ ミュレーションにより示された。(NF)
MICROBIOLOGY AND EVOLUTION:
Modulating Mutation Rates in the Wild

   Susan M. Rosenberg and P. J. Hastings
p. 1382-1383.
Stress-Induced Mutagenesis in Bacteria
   Ivana Bjedov, Olivier Tenaillon, Bénédicte Gérard, Valeria Souza, Erick Denamur, Miroslav Radman, François Taddei, and Ivan Matic
p. 1404-1409.

SARSウィルスのゲノム配列(Genome Sequences of the SARS Virus)

SARS(重症急性呼吸器症候群)に関連するウィルスについての情報を集めるため、 国際的なグループが、大がかりな奮闘を続けている。2つのグループ、Marraた ち(p. 1399)そしてRotaたち(p. 1394;HolmesとEnjuanesによる展望記事を参 照)は、RNAゲノム配列を提示し、このコロナウィルスには2種の単離株が存在する ことを示す。ゲノム構成は、他のコロナウィルスと一致しているが、配列は、他の 既知のコロナウィルスとは大きく異なる。配列から収集された情報は、診断テスト の開発や、抗ウィルス薬やワクチンの開発のための標的の同定のために重要になる だろう。(NF)
VIROLOGY:
The SARS Coronavirus: A Postgenomic Era

   Kathryn V. Holmes and Luis Enjuanes
p. 1377-1378.
Characterization of a Novel Coronavirus Associated with Severe Acute Respiratory Syndrome
   Paul A. Rota, M. Steven Oberste, Stephan S. Monroe, W. Allan Nix, Ray Campagnoli, Joseph P. Icenogle, Silvia Peñaranda, Bettina Bankamp, Kaija Maher, Min-hsin Chen, Suxiong Tong, Azaibi Tamin, Luis Lowe, Michael Frace, Joseph L. DeRisi, Qi Chen, David Wang, Dean D. Erdman, Teresa C. T. Peret, Cara Burns, Thomas G. Ksiazek, Pierre E. Rollin, Anthony Sanchez, Stephanie Liffick, Brian Holloway, Josef Limor, Karen McCaustland, Melissa Olsen-Rasmussen, Ron Fouchier, Stephan Günther, Albert D. M. E. Osterhaus, Christian Drosten, Mark A. Pallansch, Larry J. Anderson, and William J. Bellini
p. 1394-1399.
The Genome Sequence of the SARS-Associated Coronavirus
   Marco A. Marra, Steven J. M. Jones, Caroline R. Astell, Robert A. Holt, Angela Brooks-Wilson, Yaron S. N. Butterfield, Jaswinder Khattra, Jennifer K. Asano, Sarah A. Barber, Susanna Y. Chan, Alison Cloutier, Shaun M. Coughlin, Doug Freeman, Noreen Girn, Obi L. Griffith, Stephen R. Leach, Michael Mayo, Helen McDonald, Stephen B. Montgomery, Pawan K. Pandoh, Anca S. Petrescu, A. Gordon Robertson, Jacqueline E. Schein, Asim Siddiqui, Duane E. Smailus, Jeff M. Stott, George S. Yang, Francis Plummer, Anton Andonov, Harvey Artsob, Nathalie Bastien, Kathy Bernard, Timothy F. Booth, Donnie Bowness, Martin Czub, Michael Drebot, Lisa Fernando, Ramon Flick, Michael Garbutt, Michael Gray, Allen Grolla, Steven Jones, Heinz Feldmann, Adrienne Meyers, Amin Kabani, Yan Li, Susan Normand, Ute Stroher, Graham A. Tipples, Shaun Tyler, Robert Vogrig, Diane Ward, Brynn Watson, Robert C. Brunham, Mel Krajden, Martin Petric, Danuta M. Skowronski, Chris Upton, and Rachel L. Roper
p. 1399-1404.

植物の発生におけるリン脂質情報伝達(Phospholipid Signaling in Plant Development)

細胞の形態形成は、細胞が遊走せずに形成された場所にとどまるため、植物の発生 には特に重要である。シロイヌナズナの成長中の根における特定の上皮細胞から根 毛が極めてパターン化した状態で形成されるということは、細胞の形態形成および 組織のパターン形成を研究するうえでよい機会をもたらす。Ohashiたち(p 1427; 表 紙参照)は、根毛が発生するかしないかを制御する転写制御因子グループの下流にあ る遺伝子を検索した。転写制御因子より最も下流であるGLABRA2からはじめて、著者 はホスホリパーゼD遺伝子を直接標的として同定した。ホスホリパーゼD遺伝子の発 現を変化させた実験によって、リン脂質情報伝達は細胞の形態形成選択に関与する ことを示した。(An)
Modulation of Phospholipid Signaling by GLABRA2 in Root-Hair Pattern Formation
   Yohei Ohashi, Atsuhiro Oka, Renato Rodrigues-Pousada, Marco Possenti, Ida Ruberti, Giorgio Morelli, and Takashi Aoyama
p. 1427-1430.

胃の裏打ちを攻撃(Attacking the Stomach Lining)

消化性潰瘍の過半数は、ピロリ菌の感染によるものである。ピロリ菌は、胃を裏打 ちする上皮細胞に接着し、上皮細胞を弱くする細菌である。Amievaたち(p. 1430) は、ピロリ菌の汚染行動は他の細菌と異なることを発見した。他の細菌は、タンパ ク質分解酵素を分泌することによって、上皮細胞を外から攻撃する。ピロリ菌の攻 撃は、アドヘレンズジャンクション(AJ)(接着結合)と呼ばれる、細胞と細胞の接 着性の接触部位からはじまる。いったん接着ができたら、ピロリ菌はCagAタンパク 質を注入するが、CagAはZO-1というAJの重要な細胞間成分を付着部位に移動させ る。その後のAJ崩壊によって、上皮細胞層の細胞形に変化を生じさせ、漏れやすく するのである。(An)
Disruption of the Epithelial Apical-Junctional Complex by Helicobacter pylori CagA
   Manuel R. Amieva, Roger Vogelmann, Antonello Covacci, Lucy S. Tompkins, W. James Nelson, and Stanley Falkow
p. 1430-1434.

内部を見る(A View from Within)

生物学における可視化の課題の一つは、生体組織や、更に欲を言えば生きている動 物の体内から強い信号を出す無害のプローブを開発することであった。Larsonた ち(p.1434)はマウス体内の毛細血管から、二光子吸収(体内を透過する近赤外励起 光が使用できる)による高度な蛍光量子ドットを可視化した。皮膚を傷めることな く、又脂肪組織を通して光学的蛍光信号を明瞭に観察することが出来た。(KU)
Water-Soluble Quantum Dots for Multiphoton Fluorescence Imaging in Vivo
   Daniel R. Larson, Warren R. Zipfel, Rebecca M. Williams, Stephen W. Clark, Marcel P. Bruchez, Frank W. Wise, and Watt W. Webb
p. 1434-1436.

運動とタイミング、そして小脳(Movement, Timing, and the Cerebellum)

小脳は数々の運動性タスクにおいて重要な役割を果たしているが、運動の時間的調 整におけるその正確な機能については未だに完全に理解されていない。Spencerたち は、小脳性の障害のある患者において、離散的な運動と連続的な運動とでパフォー マンスがどうなるかを調べた(p. 1437)。離散的な運動におけるサイクル持続時間 は、障害のある肢の方が障害のない肢よりも、ばらつきが大きかった。連続的な運 動においては、しかし、障害のある肢も障害のない肢と同様の実行成績であった。 著者たちは、小脳は離散的な運動の際の明示的な時間的目標を達成するには必須で あるが、連続的な運動の際には必須ではない、と結論付けている。連続的な運動の 時間的調整は、その代わり、脳の別の領域における特性として現れてくることにな るわけである。(KF)
Disrupted Timing of Discontinuous But Not Continuous Movements by Cerebellar Lesions
   Rebecca M. C. Spencer, Howard N. Zelaznik, Jörn Diedrichsen, and Richard B. Ivry
p. 1437-1439.

DNAの二重entendreの解読(Deciphering DNA's Double Entendres)

配列UGAを含むDNA配列の注釈は、それがタンパク質合成の終止コドンにもなりうる し、またセレノシステイン・コドンとして働く信号ともなっているため、問題を含 んでいる。Kryukovたちは、この問題に対して、配列決定されたゲノムから得られた 進化の保存に関する情報だけでなく、構造に関する情報や熱力学的情報にも基づい た計算的アプローチを開発した(p. 1439)。代謝性のラベリングによって、新しい哺 乳類セレノタンパク質が同定されたが、その二つは原形質膜上にあることが明らか にされた。(KF)
Characterization of Mammalian Selenoproteomes
   Gregory V. Kryukov, Sergi Castellano, Sergey V. Novoselov, Alexey V. Lobanov, Omid Zehtab, Roderic Guigó, and Vadim N. Gladyshev
p. 1439-1443.

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