AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 23, 2003, Vol.300


透明な電子回路(Electronics Made Transparent)

フラットパネルディスプレイや太陽電池などに有用な透明な電子回路の開発はバン ドキャップの広い半導体に依存している。しかしながら、従来は、材料の電気特性 が十分でないために、トランジスターなどの高品質な素子の開発は概ね失敗してい る。野村たちは(p. 1269、Wagerによる展望も参照)、高品質の透明な酸化半導体を 製造する高温技術を開発した。彼等はこの材料と希土類酸化物をゲート誘電体とし て用い、可視光に反応しない透明なトランジスターを開発した。開発された素子 は、106以上のオン-オフ比で、およそ80cm2/V/秒の電子移 動度を持つ。(Na)
APPLIED PHYSICS:
Transparent Electronics

   John. F. Wager
p. 1245-1246.
Thin-Film Transistor Fabricated in Single-Crystalline Transparent Oxide Semiconductor
   Kenji Nomura, Hiromichi Ohta, Kazushige Ueda, Toshio Kamiya, Masahiro Hirano, and Hideo Hosono
p. 1269-1272.

連星のブラックホール(Binary Black Holes)

銀河の進化モデルによれば、ブラックホール連星系が、クエーサーや電波銀河にお いて発見される可能性があり、それらは銀河の合体過程中に作られることを示唆し ている。Sudou たち (p.1263) は、電波銀河 3C 66B の中心核における楕円運動を 測定して、この運動が超大質量ブラックホール連星系によるものであると結論して いる。これらの高分解能の測定結果は、3C 66B のような巨大楕円銀河が併合に由来 するという推定と一致している。(Wt,Nk)
Orbital Motion in the Radio Galaxy 3C 66B: Evidence for a Supermassive Black Hole Binary
   Hiroshi Sudou, Satoru Iguchi, Yasuhiro Murata, and Yoshiaki Taniguchi
p. 1263-1265.

冷たい金属クラスターの双極子(Dipoles in Cold Metal Clusters)

多くのバルクのイオン性物質は強誘電性である---すなわち、印加した電界が格子の 原子を変位させ、永久双極子モーメントが生じる。金属は、それらの伝導電子が誘 起された電界を中和するため、一般的には、このようには分極することができな い。Moro たち (p.1265) は、ニオブのようなある種の金属は、小さな原子クラス ター(3〜100 原子)の形では、室温では通常の応答であるが、極低温下(〜20 K)では かなりの強誘電性を示すことを報告している。この強誘電性の強さは、数デバイま での双極子モーメントに相当する。彼らは、電荷キャリアは完全には緩和すること のできない非対称な分布を取るという量子力学的なモデルで、この効果を説明して いる。(Wt)
Ferroelectricity in Free Niobium Clusters
   Ramiro Moro, Xiaoshan Xu, Shuangye Yin, and Walt A. de Heer
p. 1265-1269.

金属を間近に観察して(Metals Up Close)

結晶中の欠陥や積層欠陥に起因する金属の構造上・力学上の挙動に関する2つの報 告がなされた。欠陥によって結晶サイズが制御され、力学的性質に影響が生じ る。Lucadamo と Medlin (p.1272)によると、欠陥の存在によって局所的な原子の充 填率も変化する。高分解能の電子顕微鏡によると、面心立方の構造であるはずの金 の原子が、欠陥の周囲では六方晶系細密充填構造となっていることが分かった。著 者たちは転位理論を利用して多数の粒界方位を解析した。ナノサイズ結晶の金属 は、通常の粗粒の(サイズの大きな)金属に比べもっと硬くなることが可能である が、その機構は転位すべりから、積層欠陥によって変形双晶を生じるような変形に 機構が変化することによる。アルミニウムは積層欠陥の形成には高エネルギーを要 するが、それにもかかわらずアルミニウム微結晶によるシミュレーションでこの挙 動が観察された。Chenたち(p. 1275; 、およびBilde-Srensen and Schitzによる展 望記事参照)は、これらの結果を確認し、透過電子顕微鏡によって十分小さいアルミ ニウム粒子中に双晶を観察した。(Ej,hE)
MATERIALS SCIENCE:
Nanocrystals Get Twins

   Jørgen B. Bilde-Sørensen and Jakob Schiøtz
p. 1244-1245.
Deformation Twinning in Nanocrystalline Aluminum
   Mingwei Chen, En Ma, Kevin J. Hemker, Hongwei Sheng, Yinmin Wang, and Xuemei Cheng
p. 1275-1277.
Geometric Origin of Hexagonal Close Packing at a Grain Boundary in Gold
   G. Lucadamo and D. L. Medlin
p. 1272-1275.

程度の問題(Question of Degrees)

人工衛星から得た中部対流圏から上部対流圏の温度変化に関するデータを利用して 2つの温度分布が再構築されたが、そのうち過去30年間にわたるものだけが、この 期間で僅かな温度変化を示した。Santerたち(p.1280)は、初期のバージョンと同じ データに基づき、対流圏や成層圏の新たに温度分布を再構築した。それは、対流圏 の実質上の温暖化は1979年から2001年にかけて起こったことを示している。彼ら は、実質的には世界的な温暖化はしていないという以前の分析とは矛盾するが、対 流圏温暖化を示す新たな分析とは一致する、人為的と自然発生的とが組み合わされ た要因を区別する識別特徴(fingerprint)を明らかにした。彼らは、気象変動の調査 におけて観測上の誤差に起因するのではないかと考察している。(TO,KU,Nk)
Influence of Satellite Data Uncertainties on the Detection of Externally Forced Climate Change
   B. D. Santer, T. M. L. Wigley, G. A. Meehl, M. F. Wehner, C. Mears, M. Schabel, F. J. Wentz, C. Ammann, J. Arblaster, T. Bettge, W. M. Washington, K. E. Taylor, J. S. Boyle, W. Brüggemann, and C. Doutriaux
p. 1280-1284.

胚性幹細胞から卵母細胞への分化(From Stem Cells to Oocytes)

マウスの胚性幹細胞は、三っの胚性胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)の全ての細 胞に分化する。しかしながら、in vitroでの実験においては、この幹細胞が生殖細 胞に分化することは今まで観測されていなかった。Hubnerたち(p.1251;表紙と5月 2日号のVogelによるニュース記事参照)は、生殖系列―特異的な遺伝子を発現する細 胞集団を単離し、培養下でこれらの細胞の運命を追跡することにより、この幹細胞 が生殖細胞に向かってどの様に分化していくかを確立した。In vitroにおいて、生 殖細胞に分化するこれらの幹細胞は、減数分裂をして成熟卵細胞を形成し、その後 胚盤胞類似の構造を発生する。それ故に、この胚性幹細胞は、以前示唆されていた ような多能性というよりもむしろ全能性である(KU)
Derivation of Oocytes from Mouse Embryonic Stem Cells
   Karin Hübner, Guy Fuhrmann, Lane K. Christenson, James Kehler, Rolland Reinbold, Rabindranath De La Fuente, Jennifer Wood, Jerome F. Strauss III, Michele Boiani, and Hans R. Schöler
p. 1251-1256.

オスの生殖能力に関する要因(Male-Fertility Factor)

減数分裂の間、生殖体中の染色体の数は半分にされ、引き続いて生じる卵子と精子 の融合によって完全な染色体が構成できるようになっている。Crackowerたちは、マ ウスにおいてFkbp6因子が不活性化されると、メスの生殖能力と減数分裂は正常なま まだが、オスは生殖能力がなくなることを明らかにした(p. 1291)。同様に、ラット でFkbp6の自然突然変異があると生殖不能なオスの表現型が産み出される。この研究 はFkbp6が染色体の対形成において機能していること、また性特異的な生殖能力に とって重大な役割を果たしていることを示すものである。(KF)
Essential Role of Fkbp6 in Male Fertility and Homologous Chromosome Pairing in Meiosis
   Michael A. Crackower, Nadine K. Kolas, Junko Noguchi, Renu Sarao, Kazuhiro Kikuchi, Hiroyuki Kaneko, Eiji Kobayashi, Yasuhiro Kawai, Ivona Kozieradzki, Rushin Landers, Rong Mo, Chi-Chung Hui, Edward Nieves, Paula E. Cohen, Lucy R. Osborne, Teiji Wada, Tetsuo Kunieda, Peter B. Moens, and Josef M. Penninger
p. 1291-1295.

シグナルの有効性を保つ(Keeping the Signals Fresh)

細胞が、光やにおいといった刺激に対する応答性を持ち続けるためには、活性化し たGタンパク質共役受容体(GPCR)が急速に脱感作されることが必要である。Gタンパ ク質共役受容体キナーゼ(GRK)は、GPCRおよびヘテロ三量体のGタンパク質の両方と 相互作用することによって、Gタンパク質情報伝達の制御に一定の役割をはた す。Lodowskiたち(p. 1256)は、Gタンパク質βγサブユニット(Gβγ)と複合体を形成し ているGRK2の構造を明らかにした。GRK2の3つの情報伝達領域は一緒になって、GRK2 を膜へ補充させ、GPCRのリン酸化を促進するようにGRK2を方向づける。この方向づ けによってGRK2は、GPCRとGβγとGαのサブユニットに同時に結合することが可能にな るが、ヘテロ三量体のGタンパク質情報伝達の効率的な減弱の機構も提供する。(An)
Keeping G Proteins at Bay: A Complex Between G Protein-Coupled Receptor Kinase 2 and Gßgamma
   David T. Lodowski, Julie A. Pitcher, W. Darrell Capel, Robert J. Lefkowitz, and John J. G. Tesmer
p. 1256-1262.

DNA配列をまた働かせる(Putting DNA Sequences Back to Work)

反復性Alu配列は、タンパク質をコードしない“がらくたDNA”の一部ではあるが、こ の配列中の変異によってコーディングエキソンが生じることもある。この過程は特 定の場合には疾病と関連するが、ゲノムを進化させる方法でもある。Lev-Maorた ち(p. 1288;Makalowskiの展望記事参照)は、エキソン化したAlu要素のデータベース を構築し、重大なスプライシングの発生を可能とする特定の配列と位置を同定し た。仮定した機構をミニ遺伝子構築物においてテストしたが、単一の変異でもエキ ソン化を引き起こすことができることを発見した。(An)
GENOMICS:
Not Junk After All

   Wojciech Makalowski
p. 1246-1247.
The Birth of an Alternatively Spliced Exon: 3' Splice-Site Selection in Alu Exons
   Galit Lev-Maor, Rotem Sorek, Noam Shomron, and Gil Ast
p. 1288-1291.

感染性シナプス(Infectious Synapse)

樹状細胞(DC)は、宿主-病原体相互作用において機能している可能性がある。例え ば、DC上で発現されるDC-SIGNなどの特定のタンパク質は、ヒト免疫不全ウィル ス(HIV)による標的細胞の感染効率を刺激することができる。McDonaldたち(p. 1295)は、生細胞中でのHIVの個々の粒子を可視化し、そしてDC-結合HIVが、T細胞 などの標的細胞との結合部位に補充されることを示した。同時に、HIVレセプターお よびそのコレセプターが、接触部位に補充された。この補充によりHIV、そのレセプ ター、およびそのコレセプターを効果的に濃縮し、そしておそらくは感染しやすく している。(NF)
Recruitment of HIV and Its Receptors to Dendritic Cell-T Cell Junctions
   David McDonald, Li Wu, Stacy M. Bohks, Vineet N. KewalRamani, Derya Unutmaz, and Thomas J. Hope
p. 1295-1297.

タンパク質蓄積を防止(Avoiding Protein Pile-Ups)

糸球体基底膜(GBM)は腎臓におけるろ過バリアであり、それにより貴重なタンパク 質の損失を防止しつつ、過剰な水分の喪失を可能にする。いくつかのヒト腎臓疾患 は、GBM中の免疫複合体の蓄積により特徴づけられる。しかしながら、Kimたち(p. 1298)は、このような状態は、疾患の病理と関連する免疫機能不全によっては引き 起こされないかもしれない、と示唆する。それよりもむしろ、著者たちは、GBMを構 成する有足細胞中で発現されるアダプタータンパク質、CD2APを欠損するマウスの GBM中で、異常なタンパク質の蓄積が起こることを観察した。CD2AP-欠損有足細胞 は、エンドサイトーシスで取り込んだ物質を分解する能力を欠損する。ヒト腎臓疾 患に対する感受性は、腎臓が通常遭遇するタンパク質をクリアランスするGBMの内因 性の能力により、部分的に決定される可能性がある。(NF)
CD2-Associated Protein Haploinsufficiency Is Linked to Glomerular Disease Susceptibility
   Jeong M. Kim, Hui Wu, Gopa Green, Cheryl A. Winkler, Jeffrey B. Kopp, Jeffrey H. Miner, Emil R. Unanue, and Andrey S. Shaw
p. 1298-1300.

隣の車線の障害を迂回する(Getting Around a Block in the Opposing Lane)

大腸菌(Escherichia coli)のリーディング鎖(leading strand)およびラギング 鎖(lagging strand)上でのDNA複製についてのあいまいさのない解析法の一つ が、PagesとFuchsによって開発された(p. 1300)。DNA複製を一過性で阻止するある 特定の損傷を一方の鎖上に生じさせても、それは他方の鎖上での複製は抑制しない のである。生体内での正常に協調して進むリーディング鎖とラギング鎖のレプリ カーゼ・システムが分離されることになり、複製は特別の「修復」ポリメラーゼを 介して進行するのである。(KF)
Uncoupling of Leading- and Lagging-Strand DNA Replication During Lesion Bypass in Vivo
   Vincent Pagès and Robert P. Fuchs
p. 1300-1303.

時間旅行する蝶(Time-Traveling Butterflies)

オオカバマダラ蝶(Monarch butterflies)は、季節移動のナビゲーションに太陽を用 いて非常に長い距離を飛ぶ。オオカバマダラ蝶はどうやって日中の太陽の位置変化 を補正しているだろう?Froyたち(p.1303; Pennisiによるニュース記事参照)は、蝶 が持つ概日性クロックが“1日毎の時間”をナビゲーションシステムに対して入力す ることによって正確な方向を維持することが出来ることを示す。時計が機能しなく なると、その蝶は方向を失う。紫外線は太陽位置を駆動し、可視光線は1日毎の時 間システムを駆動している。(TO)
NEUROSCIENCE:
Monarchs Check Clock to Chart Migration Route

   Elizabeth Pennisi
p. 1216-1217.
Illuminating the Circadian Clock in Monarch Butterfly Migration
   Oren Froy, Anthony L. Gotter, Amy L. Casselman, and Steven M. Reppert
p. 1303-1305.

ナノ粒子の導電性を飛躍的に高める(Jump-Starting Nanoparticle Conductivity)

半導体ナノ粒子(semiconducting nanoparticles:SC-NPs)の原子様量子レベルを利 用するには、電荷をナノ粒子に注入することが必要である。しかしながら、SC-NPs は往々にして有機保護膜で覆われているために、その膜の導電性が非常に低く、単 に表面への帯電しか生じない。Yuたち(p.1277)は、有機膜で覆われたCdSeナノ粒子 の薄膜に1,7-ヘプタンジアミンといった架橋剤を加えると、この薄膜を電気化学的 に帯電した時に導電性が大きく向上した(10-2シーメンス /cm2にまで向上)。分光学的な研究から、この飛躍的な向上はナノ粒子 の1Sと1P状態を満たすことによることが示された。(KU)
n-Type Conducting CdSe Nanocrystal Solids
   Dong Yu, Congjun Wang, and Philippe Guyot-Sionnest
p. 1277-1280.

ホットな場所(Hot Sites)

トウガラシに含まれていて、口中で熱い感覚を生み出す天然の化合物であるカプサ イシンは、哺乳類の末梢神経系にある疼痛受容体、TRPV1イオンチャネルを介して作 用している。TRPV1を表すニューロンはまた、高温や酸性などの刺激に関連した痛み をも知覚するのである。TRPV1は、ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン 酸(PIP2)と呼ばれる膜リン脂質の加水分解によって活性化される。Prescottたち は、TRPV1上の、PIP2との直接結合部位を同定し、この相互作用の強さがそのチャネ ルの活性化閾値を決定しているということを明らかにしている(p. 1284)。(KF)
A Modular PIP2 Binding Site as a Determinant of Capsaicin Receptor Sensitivity
   Elizabeth D. Prescott and David Julius
p. 1284-1288.

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