AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 9, 2003, Vol.300


付加された鉄分はすべて同じような効果を与えたわけではない(Not All Added Iron Is Alike)

10年以上も前、故John Martinは、亜北極太平洋や赤道付近の太平洋そして南氷洋におけ る高い栄養価で低い葉緑素(HNLC)の海洋環境は、鉄分が海洋の生産性を抑制する主要な要 因であることを示唆した。Tsudaたち(p.958)は、これら3つの海洋の中でこのような研究 が最後に残された亜北極の太平洋において鉄分肥沃実験を指導した。生産性は確かに鉄分 によっても制限されていたが、観測された生物的そして生物化学的反応は、他のHNLCの海 とは全く異なっていた。著者たちが信じる植物プランクトンの優占種のシフトは、過去の 氷河期の期間中にHNLC開放海(open water)においても起こっていた。そして、もしも、も っと大規模で、より長期に渡る、鉄分の注入が海洋になされれば、その現象は再び起こる あろう。(TO,Tk,Nk)
A Mesoscale Iron Enrichment in the Western Subarctic Pacific Induces a Large Centric Diatom Bloom
   Atsushi Tsuda, Shigenobu Takeda, Hiroaki Saito, Jun Nishioka, Yukihiro Nojiri, Isao Kudo, Hiroshi Kiyosawa, Akihiro Shiomoto, Keiri Imai, Tsuneo Ono, Akifumi Shimamoto, Daisuke Tsumune, Takeshi Yoshimura, Tatsuo Aono, Akira Hinuma, Masatoshi Kinugasa, Koji Suzuki, Yoshiki Sohrin, Yoshifumi Noiri, Heihachiro Tani, Yuji Deguchi, Nobuo Tsurushima, Hiroshi Ogawa, Kimio Fukami, Kenshi Kuma, and Toshiro Saino
p. 958-961.

プルトニウムにおけるフォノンと相(Phonons and Phase in Plutonium)

プルトニウム(Pu)の状態図を詳細に理解することは、この物質が種々の環境下でどのよう な挙動を示すかを予測する上で有用である。Puの毒性と放射能により実験研究が限られて おり、この物質の特性に関する理論的予測の信頼性を増すことは重要である。しかしなが ら、Puが6個の結晶学的同素体(allotropes;1種類の元素からなる性質の異なる単体)を 持ち、かつ計算ではf-殻電子間の強い相互作用を取り扱う必要があり、Pu状態図のモデル 化は困難な課題である。Daiたち(p.953)は、電子-電子、及び電子-フォノンの相互作用 を考慮することにより、高温でのPuのフォノン(格子振動)スペクトルを計算した。彼らは 、高温で生じる縮小をε型相のδ型相転位としての考察を与えている。(KU)
Calculated Phonon Spectra of Plutonium at High Temperatures
   X. Dai, S. Y. Savrasov, G. Kotliar, A. Migliori, H. Ledbetter, and E. Abrahams
p. 953-955.

林冠への攻撃(Ant Attacks on the Tree Tops)

アリは熱帯雨林の林冠のどこにでも満ち溢れている。そしてこの優勢を説明する仮説の 1つに、熱帯雨林のアリは雑食性ではなく草食性であるということがある。Davidsonたち (p.969;Huntによる展望記事参照)は、安定な窒素同位体を用いて林冠のアリの食餌を調べ た。アリの多くの種は主に草食であり、窒素は捕食または動物の腐食によって獲得してい るのではなく、おそらくバクテリアのマイクロ共生(microsymbionts)によって得ているこ とが判った。これら後者の生物は、非必須アミノ酸を必須アミノ酸に変化させることとし て知られるアリマキのマイクロ共生と非常に関連しているか、あるいは植物の根の中で作 る根粒を作る窒素固定と関連している。これらの結果は、熱帯雨林植物は、以前に認識さ れていた以上に、アリの草食によって大きな損失を被ることを示している。(TO)
ECOLOGY:
Cryptic Herbivores of the Rainforest Canopy

   James H. Hunt
p. 916-917.
Explaining the Abundance of Ants in Lowland Tropical Rainforest Canopies
   Diane W. Davidson, Steven C. Cook, Roy R. Snelling, and Tock H. Chua
p. 969-972.

塩素なしのエポキシド(Epoxides Sans Chlorine)

毎年、数百万トンのエポキシドが作られているが、主には、オキシダントとして塩素に頼 るプロセスによるものである。Kamata たち (p.964) は、タングステンに基づく polyoxometalate 陰イオンは、過酸化水素(H2O2)を代わりに用い ることにより、多様な種類のエポキシドの効果的な生産が考えうることを報告している 。多くの H2O2 を経る経路とは異なり、この反応は、工業的な状 況で爆発の危険性を増大させる O2 の生成を回避している。(Wt)
Efficient Epoxidation of Olefins with > 99% Selectivity and Use of Hydrogen Peroxide
   Keigo Kamata, Koji Yonehara, Yasutaka Sumida, Kazuya Yamaguchi, Shiro Hikichi, and Noritaka Mizuno
p. 964-966.

古代の小惑星の大衝突(Ancient Asteroid Accident)

小惑星メインベルト(主小惑星帯)における最大規模の衝突が(4億8000万年前の)オルド ビス紀中期の地球への隕石の落下数の増加をもたらした。しかし、その事象に関する証拠 は多くない。Schmitzたちは(p. 961)、スエーデン南部Kinnekulle地方25万平方キロにわ たり堆積している海底石灰石中に析出している鉄鉱石粒を分析した。それらの全てから Lコンドライト組成が発見され、その時期の隕石の降り注ぐ量が2桁も増加したことを示唆 している。(Na,Tk)
Sediment-Dispersed Extraterrestrial Chromite Traces a Major Asteroid Disruption Event
   Birger Schmitz, Therese Häggström, and Mario Tassinari
p. 961-964.

グループのスナップ写真(Group Snapshot)

化学反応に関する数多くの基本的な研究は三原子系に集中しているが、これは生成物一つ 出来ても一つ以上の振動モードを生じるという、その複雑性を避けるためである。Linた ち(p.966)は、生成物可視化技術を用いて、重水素化メタンとフッ素原子からDFと CD3ラジカルをつくる反応に適用した。この技術により、DF分子にある振動エ ネルギーがCD3のη2、或いは「傘」モードの様々な振動エネルギ ーレベルとどの様に関連しているかを解明することが出来た。(KU)
State-Specific Correlation of Coincident Product Pairs in the F + CD4 Reaction
   Jim J. Lin, Jingang Zhou, Weicheng Shiu, and Kopin Liu
p. 966-969.

古いDNAを掘り起こす(Digging Up Old DNA)

寒帯林とその林床土壌は、野火で放出された炭素の貯蔵庫として重要な役割を担っており 、地球規模の変化がこの役割を変化させる可能性がある。Wardleたち(p. 972)は、寒帯に 属するスウェーデンの湖中の島のエコシステム(生態系)において、島のサイズが大きく なると火事の頻度も増加することについて研究した。大きな島は小さな島に比べ、植物の 生産性や腐敗植物の分解速度が大きい。また、火事からの時間が経つにつれて、エコシス テムの生産性より速やかに分解速度の抑圧が生じる。このことは火事からの時間経過が大 きいほど炭素貯蔵量が大きくなることを意味している。もし大火事がなければ、1世紀当 たりの腐食土中の炭素蓄積量の増分は0.5 kg/m2となる。(Ej,hE)
Long-Term Effects of Wildfire on Ecosystem Properties Across an Island Area Gradient
   David A. Wardle, Greger Hörnberg, Olle Zackrisson, Maarit Kalela-Brundin, and David A. Coomes
p. 972-975.

細菌は、いかにして薬剤にノーと言うのか(How Bacteria Say No to Drugs)

薬剤に対する細菌の耐性に関する一般的かつ広く知られているモデルの一つは、無関係な 種類の小さな分子を積極的に排出する多剤排出ポンプを細菌が発達させるか獲得すること で、サイトゾルにおける薬剤濃度が減ることになる、というものである。Yuたちは、大腸 菌(Escherichia coli)における多剤排出ポンプの一つであるAcrBに結合する4つの異なっ た小さな分子の構造を記述している(p. 976)。彼らが明らかにしたのは、中心にある空洞 が小分子の多目的な結合部位として働いていて、疎水性のインタラクションや芳香族によ るインタラクション、ファンデルワールス力によるインタラクションを提供することで 、多様なリガンドに適応するように仕立てられうる、ということである。(KF)
Structural Basis of Multiple Drug-Binding Capacity of the AcrB Multidrug Efflux Pump
   Edward W. Yu, Gerry McDermott, Helen I. Zgurskaya, Hiroshi Nikaido, and Daniel E. Koshland Jr.
p. 976-980.

ちっぽけだが乱れている(Tiny but Turbulent)

微小流体チャンネルは体積が小さいため、観察が難しく、また非線形流体力学の影響を利 用するのも難しくなっている。Groismanたちは、慎重に設計された蛇行状のチャンネルを 通して液体を流すことによって、正常な層流相の領域から弾性乱流相の領域にその液体を 押しやることができる、ということを示している(p. 955)。流速の小さな変化に対して 、大きな圧力低下が生じたが、このメカニズムを利用して彼らは、流量安定器と双安定な フリップフロップ記憶の双方が実現できることを実証している。(KF)
Microfluidic Memory and Control Devices
   Alex Groisman, Markus Enzelberger, and Stephen R. Quake
p. 955-958.

スプライセオソームの触媒作用をもつ核部(The Catalytic Core of the Spliceosome)

スプライセオソームというのはプレ・メッセンジャーRNAからイントロンを除去するもの であるが、その中心にある複合体の一つがSF3bである。この複合体は、なくてはならない 枝分かれ部位(branch point)ヌクレオチド(最初の切断を行なうのに使われる鋏)のところ にある要素の組み立てに関わっているものであるが、このヌクレオチドはSF3bタンパク質 p14のクロスリンク距離内に存在しているのである。Golasたちは、電子低温顕微鏡を使っ て得られたSF3b複合体の構造を報告している(p. 980)。彼らは、2つの構造要素、すなわ ちHEAT反復によってできたラダーといくつかのRNA-認識モチーフが、それぞれ外側のシェ ルと中心にある空洞の中にあると、場所を明らかにしている。(KF)
Molecular Architecture of the Multiprotein Splicing Factor SF3b
   Monika M. Golas, Bjoern Sander, Cindy L. Will, Reinhard Lührmann, and Holger Stark
p. 980-984.

タンパク質がポーズする(Proteins Strike a Pose)

高次構造のスイッチは、タンパク質活性の制御に対する重要なイベントになりうるが、ス イッチの出現を検出するのは難しいこともある。Nizakたち(p 984)は、高次構造センサ ーとして組換え型抗体を試験管内で急速に選択する方法を開発した。著者は、小さな GTPaseであるRab6のグアノシン三リン酸(GTP)結合形を認識できるため選択された抗体を 用い、生細胞におけるRab6・GTPの局在化と行動を明確にした。Rab6は、細胞内膜の交通 の制御因子である。この方法を用いると、特定の高次構造として試験管内で固定できる分 子を研究するための試薬を作成することができるかもしれない。(An)
Recombinant Antibodies to the Small GTPase Rab6 as Conformation Sensors
   Clément Nizak, Solange Monier, Elaine del Nery, Sandrine Moutel, Bruno Goud, and Franck Perez
p. 984-987.

目前の仕事をやっている(Simply Doing the Job at Hand)

脊椎動物では、細胞分裂周期の主要なイベント、つまりDNA合成と細胞の有糸分裂は、関 連があっても個別なサイクリンタンパク質とそのパートナーであるサイクリン依存性キナ ーゼとの複合体によって制御される。その複合体とその要素の活性が重複することもある 。Mooreたち (p. 987)は、カエル卵の抽出物において、サイクリンB1がDNA合成を促進す るする能力を研究した。普段、サイクリンB1は、サイクリン依存性キナーゼ1(Cdk1)との 組み合わせで有糸分裂を促進するのである。サイクリンB1は、核を標的にしたことと 、B1活性の中等度の刺激がされたことを条件として、DNA合成を実際に促進することがで きた。このようにサイクリンB1-Cdk1複合体は、DNA合成を惹起するする重要な標的をリン 酸化できるのである。普段、細胞は、複合体の局在化と活性状態を制御することによって 複合体のこのような作用は防ぐのである。(An)
Unmasking the S-Phase-Promoting Potential of Cyclin B1
   Jonathan D. Moore, Jane A. Kirk, and Tim Hunt
p. 987-990.

海馬における左右非対称性(Creating Left-Right Asymmetry in the Hippocampus)

NMDA受容体のNR2Bサブユニットは、学習および記憶についての主要な必須構成要素である 。このサブユニットの動的な再構成は、発生の間でシナプス修飾の後に発生する 。Kawakamiたち(p. 990)は、成熟マウス海馬において、同側性求心線維と対側性求心線 維の対比を導き出すグルタミン酸作動性シナプス中に、NR2Bサブユニットが非対称性に分 布していることを示した。錐体ニューロンの基底樹状突起にあるシナプスおよび先端樹状 突起にあるシナプスの間にもNR2Bは非対称に分布している。(NF)
Asymmetrical Allocation of NMDA Receptor epsilon 2 Subunits in Hippocampal Circuitry
   Ryosuke Kawakami, Yoshiaki Shinohara, Yuichiro Kato, Hiroyuki Sugiyama, Ryuichi Shigemoto, and Isao Ito
p. 990-994.

右目・左目(Eyes Right, Eyes Left)

右目の網膜由来のニューロンとおよび左目の網膜由来のものとは、成熟した脳の背側外側 膝状体(dorsal lateral geniculate nucleus;DLGN)の異なる領域に投影される。大量 のニューロン活性の作用の中から、どのようにして同一の眼に由来するニューロンが同時 に発火するかというニューロン活性の相関を見いだすため、Hubermanたち(p. 994)は 、発生途中のフェレット(ferret)の眼における無軸索細胞を免疫学的に除去することの効 果について研究した。通常は散在されている無軸索細胞が存在しない場合、網膜の神経節 細胞は活性を維持したが、その活性をそれらの近傍のものと相関させる傾向は失われた 。対応するDLGNの観察から、その活性の相関性の性状は、左右の眼が正常に分離して、そ れぞれのパターンが発生するためには必要とはされない、ということが示された。(NF)
Eye-Specific Retinogeniculate Segregation Independent of Normal Neuronal Activity
   Andrew D. Huberman, Guo-Yong Wang, Lauren C. Liets, Odell A. Collins, Barbara Chapman, and Leo M. Chalupa
p. 994-998.

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