AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 11, 2003, Vol.300


火星の流動性( Martian Liquidity)

太陽は火星の固体潮汐作用(solid-body tides)を引き起こしているが、その潮汐作用の 規模の大きさから、火星の内部構造についての情報を得ることができる。Yoderたち (p.299;Dehantによる展望記事参照)は、潮汐作用が原因となっている火星探査機(Mars Global Surveyor)の軌道のわずかな変化を3年以上も測定し、火星の構造を再調査した 。彼らは、コアの最も外側の部分は、おそらく部分的に流体であること、したがって、こ れは堅い固体コアであるというこれまでの考え方を改めるものである。この流体化は、マ ントルと同様にコアの進化、サイズ、組成にどのように影響するのかを理解するためには 、更なる研究が必要である。(TO,Tk)
PLANETARY SCIENCE:
Enhanced: A Liquid Core for Mars?

   Veronique Dehant
p. 260-261.
Fluid Core Size of Mars from Detection of the Solar Tide
   C. F. Yoder, A. S. Konopliv, D. N. Yuan, E. M. Standish, and W. M. Folkner
p. 299-303.

ビクトリア湖を再びコロニー化する(Recolonizing Lake Victoria)

ビクトリア湖は、脊椎動物の適応放散(adaptive radiations)の最も大きな住処の1つで ある。この地域で固有の500種以上のハプロクロミス属シクリッド (haplochromine cichlid)の集団は、多様化のパターンやメカニズムの研究に対する最も 主要な進化モデルシステムの例の1つになっている。しかし、この適応放散の起源や放散 内の種分化の速度についてはこれまで多くの議論が続けられてきた。Verheyenたち (p.325;カバー記事参照)は、これらの疑問に取り組むために大幅な分子系統発生分析 (molecular phylogenetic analysis)を行った。彼らは、キヴ湖、そしてそこのシクリッ ドがアフリカ東部のすべてのシクリッドの進化や系統地理学(phylogeog raphy)の中心的 な役割りを担っていることを明らかにした。彼らは、他の地溝湖(rift lakes)がキヴ湖か らどのようにコロニーが形成されたのかという生態地理学的モデルも示す。(TO)
Origin of the Superflock of Cichlid Fishes from Lake Victoria, East Africa
   Erik Verheyen, Walter Salzburger, Jos Snoeks, and Axel Meyer
p. 325-329.

C60 のエネルギーバンドを明らかにする(Revealing the Energy Bands of C60)

ドーピングされたフラーレンは、反強磁性や超伝導性を含め、豊富な電子的特性を示す 。そして、電子-電子相互作用や電子-フォノン相互作用のような多体問題の物理を研究す るうえで理想的な系としても多くの注目を受けてきている。しかしながら、その物質のエ ネルギーバンドとそれらのバンド幅の詳細な決定は、試料の扱いとこれらの特徴を把握す るために必要なエネルギー分解能の獲得が困難であるため、達成困難な課題として残され ていた。Yang たち (p.303) は、改良した角度分解フォトン放射分光法を用いて、特別に 準備された電子ドーピングされた単分子層 C60 フラーライドを研究して、そ のバンド分散状態を明らかにしている。これらの研究は、こられの試験的な系の理論と実 験との間の精密な比較への道を開くものである。(Wt)
Band Structure and Fermi Surface of Electron-Doped C60 Monolayers
   W. L. Yang, V. Brouet, X. J. Zhou, Hyoung J. Choi, Steven G. Louie, Marvin L. Cohen, S. A. Kellar, P. V. Bogdanov, A. Lanzara, A. Goldoni, F. Parmigiani, Z. Hussain, and Z.-X. Shen
p. 303-307.

ニュートン流動する金属(Metals that Go with the Flow)

延性金属や合金を変形させると、通常は転位の増加により加工硬化を起こして、最終的に は表面の不安定さによりくびれて破損する。Championたち(p. 310)は超微細な粉末を作り 、その後で低温アイソスタティックプレスを行い、更に低温での水素雰囲気下で焼結する ことで純粋な銅のナノ結晶のバルク試料を作った。彼らはこの物質を塑性変形させても 、加工硬化もくびれ形成も発生しないことを見い出した。その代わりに、この試料はほぼ 完全な弾性―塑性的挙動を示した。(KU)
Near-Perfect Elastoplasticity in Pure Nanocrystalline Copper
   Yannick Champion, Cyril Langlois, Sandrine Guérin-Mailly, Patrick Langlois, Jean-Louis Bonnentien, and Martin J. Hytch
p. 310-311.

鉄器時代の年代を解決する(Ironing Out Iron Age Dates)

中近東の鉄器時代の年代については、聖書やエジプトの碑文に記述のある出来事と直接関 連性を持ち、多くの議論がなされていた。特に、多くの人工物や居住中を示す地層などの 年代を特定し、これらの年代と歴史的な記録と関連付けることは困難であった。Bruinsた ちは(p. 315、Holdenによるニュース解説も参照)、鉄器時代に何度も居住されたイスラエ ルのTel Rehovという街から14C同位元素によるいくつもの年代データを示し ている。これらの年代データをエジプトの記録と関連させることで、鉄器時代が紀元前 10世紀から9世紀まで続いていたことを示唆している。(Na,Og)
ARCHAEOLOGY:
Dates Boost Conventional Wisdom About Solomon's Splendor

   Constance Holden
p. 229-231.
14C Dates from Tel Rehov: Iron-Age Chronology, Pharaohs, and Hebrew Kings
   Hendrik J. Bruins, Johannes van der Plicht, and Amihai Mazar
p. 315-318.

染色体の再配列と種の分化(Chromosomal Rearrangements and Speciation)

染色体の再配列が新しい種の形成に役立っているという考えは、別に目新しいものではな いが、最近の理論では、この再配列によって誘発される組換えへの障壁が組換えを押さえ て、ポジティブ選択を促進させる方向に作用している可能性を示唆している。この考え方 を調べるために、NavarroとBarton(p. 321:RiesebergとLivingstoneによる展望参照)は 、115個の遺伝子のコーディング領域においてヒトとチンパンジーの配列データを調べた 。中立変異速度に対する非同義のヌクレオチド置換を目安としたタンパク質の進化は、共 線的な染色体においてよりも再配列した染色体において遥かに速かった。この知見は、ヒ トとチンパンジーの間の明瞭なる初期の差異を同定するのに役立つものであろう。(KU)
EVOLUTION:
Chromosomal Speciation in Primates

   Loren H. Rieseberg and Kevin Livingstone
p. 267-268.
Chromosomal Speciation and Molecular Divergence--Accelerated Evolution in Rearranged Chromosomes
   Arcadi Navarro and Nick H. Barton
p. 321-324.

多孔性金属によるアクチュエータ(Porous-Metal Actuators)

外部電気信号を体積変化へと変換し、そしてそれゆえ、力学的な力への変換は、アクチュ エーションとして知られており、小さなスケールのデバイスの開発では非常に重要である 。この効果は、圧電体のようなセラミックスや導電性高分子において見出されている 。Weissmuller たち (p.312; Baughman による展望記事を参照のこと) は、白金をナノメ ートルサイズの小孔の連続的なネットワーク状に生成すると、それらは可逆な歪み振幅を 生みだしうること、そして、その振幅は市場の材料の歪みに比肩しうることを示している 。これらの歪みは、約1Vの電位の表面帯電効果により誘起される。(Wt)
MATERIALS SCIENCE:
Muscles Made from Metal

   Ray H. Baughman
p. 268-269.
Charge-Induced Reversible Strain in a Metal
   J. Weissmüller, R. N. Viswanath, D. Kramer, P. Zimmer, R. Würschum, and H. Gleiter
p. 312-315.

バイオマス燃焼に伴う高い副産物(The Higher By-Products of Biomass Burning)

成層圏に見い出される硫酸塩エアロゾルの層は、大気のダイナミクスと化学現象において 重要な役割を果たしているのだが、その起源ははっきりしていない。バイオマスの燃焼が 大気中のカルボニル硫化物(COS: carbonyl sulfide)のうちの10%から20%の源になってい ると考えられているが、このカルボニル硫化物(COS)が硫酸塩の主要な源なのである 。Notholtたちは、COSおよびその他の微量ガスの測定結果を提示しているが、それは、熱 帯性圏界面におけるCOSの濃度がモデルで想定されるものより20ないし50%高いということ 、またこうした放出がバイオマスの燃焼と関係しているということを示している(p. 307)。この結果は、バイオマスの燃焼の結果できるものが高いところまで対流で運ばれる ことが、従来信じられていたよりも、高層の成層圏におけるCOSの重要な源になっている ことを示唆するものである。(KF)
Enhanced Upper Tropical Tropospheric COS: Impact on the Stratospheric Aerosol Layer
   J. Notholt, Z. Kuang, C. P. Rinsland, G. C. Toon, M. Rex, N. Jones, T. Albrecht, H. Deckelmann, J. Krieg, C. Weinzierl, H. Bingemer, R. Weller, and O. Schrems
p. 307-310.

血管壁を護る(Protecting the Vascular Wall)

アテローム性動脈硬化症は、血管平滑筋細胞(SMC)の異常な増殖と遊走により特徴づけ られる。遺伝子操作されたマウスの研究において、Boucherたち(p. 329)は、血小板-由 来成長因子(PDGF)により誘導されたSMCの遊走を抑制するための補助をする重要な生理 学的調節因子として、LRP1(低-密度リポタンパク質受容体-関連タンパク質1)を同定す る。マウスの血管SMC中でLRP1を不活性化することにより、PDGFRの過剰発現および PDGFRシグナル伝達の異常な活性化が引き起こされ、その結果、弾性膜の破壊、SMCの増殖 、動脈瘤形成、そしてコレステロール-誘導性アテローム性動脈硬化症に対する顕著な感 受性が引き起こされる。これらの異常の発生は、PDGFシグナル伝達阻害剤である Gleevecにより処置することにより減少する。したがって、LRP1は、血管壁の完全性を保 護し、そしてPDGFR活性化を制御することにより、アテローム性 動脈硬化症を抑制する際に、中心的な働きをしている。(NF)
LRP: Role in Vascular Wall Integrity and Protection from Atherosclerosis
   Philippe Boucher, Michael Gotthardt, Wei-Ping Li, Richard G. W. Anderson, and Joachim Herz
p. 329-332.

マラリアの2回目の到来(Second Coming for Malaria)

マラリア原虫の進化の研究は、その原虫自体と同様に複雑なものである。Plasmodium falciparumの起源については、2つの対照的な推定--すなわち一つは約6000年前、もう一 方は少なくとも100,000年前--が存在している。Joyたち(p. 318)は、世界中から集めた ほぼ100種のサンプルから得られた原虫のミトコンドリアDNA配列を解析することにより 、これらの日付を矛盾なく説明する。更新世においてアフリカから外への原虫の最初の初 期蔓延が起こった後、約10,000年前に原虫個体群が移動し、そして大がかりに拡大したよ うである。この拡大は、アフリカから外へのヒトの移動の流れ、農耕社会の発生と成長 、そして主要な蚊ベクターであるAnopheles gambiaeの種形成とともに発生した。急速な 個体群の拡大の結末は、特にアフリカでは、最近多数のP.falciparumの変異が生じている ということに見いだされる。(NF)
Early Origin and Recent Expansion of Plasmodium falciparum
   Deirdre A. Joy, Xiaorong Feng, Jianbing Mu, Tetsuya Furuya, Kesinee Chotivanich, Antoniana U. Krettli, May Ho, Alex Wang, Nicholas J. White, Edward Suh, Peter Beerli, and Xin-zhuan Su
p. 318-321.

植物の甘いシグナル(Sweet Signals s in Plants)

グルコースは、植物の栄養成分であり、その有効性が多様な生理反応を支持する 。Mooreたち(p 332; Frommerたちによる展望記事参照)は、グルコースが情報伝達分子と しても機能することによって、成長、発生、老化などといった生理反応を光合成生産性と 他の環境資源に関連させることを示している。ヘキソキナーゼ酵素欠損の変異体植物の分 析によれば、グルコース処理の触媒作用活性がなくても情報伝達機能がまだ行なわれてい ることを示している。(An)
PLANT SCIENCE:
Hexokinase, Jack-of-All-Trades

   Wolf B. Frommer, Waltraud X. Schulze, and Sylvie Lalonde
p. 261-263.
Role of the Arabidopsis Glucose Sensor HXK1 in Nutrient, Light, and Hormonal Signaling
   Brandon Moore, Li Zhou, Filip Rolland, Qi Hall, Wan-Hsing Cheng, Yan-Xia Liu, Ildoo Hwang, Tamara Jones, and Jen Sheen
p. 332-336.

免疫記憶プログラムの早期支援(Early Help in Programming Immune Memories)

感染に対する有効な体液免疫応答を生成するために、抗体を生成するB細胞のほとんどは ヘルパーCD4T細胞から支援を受けないといけない。対照的に、CD8Tリンパ球の第一の応答 はT細胞支援にあまり依存しないので、記憶CD8のT細胞についても同じことが言えるのか という討論が行なわれている。ShedlockとShen(p 337)とSunとBevan(p 399)は、マウスに おける活発なCD8のT細胞記憶はCD4のT細胞支援にかなり依存しているが、この依存は第二 応答ではなく、第一応答時に発生することを示している。このように、抗原に対する CD8のT細胞の初回免疫は、感染やワクチンに対する効率的な免疫記憶の生成における決定 的な局面となるようである。(An)
Defective CD8 T Cell Memory Following Acute Infection Without CD4 T Cell Help
   Joseph C. Sun and Michael J. Bevan
p. 339-342.
Requirement for CD4 T Cell Help in Generating Functional CD8 T Cell Memory
   Devon J. Shedlock and Hao Shen
p. 337-339.

p300によるp53のポリユビキチン化(Polyubiquitination of p53 by p300)

転写制御因子であり腫瘍のサプレッサーでもあるタンパク質p53は、細胞内でユビキチン- プロテアソーム系によって急激な代謝回転をこうむる。モノユビキチン化されるだけでな く、p53はユビキチン分子の鎖によって修飾されることで、効率的な分解が保証されるの である。Grossmanたちは、p53が転写制御因子p300によってポリユビキチン化されること を明らかにした(p. 342)。こうした酵素的活性が、p300がいかにしてp53の活性化と破壊 の双方を制御するかという目立った謎を、いくらか解決するのである。p300はさまざまな 短命な転写因子を制御するものなので、この知見はより広い意義をもつことになる可能性 がある。(KF)
Polyubiquitination of p53 by a Ubiquitin Ligase Activity of p300
   Steven R. Grossman, Maria E. Deato, Chrystelle Brignone, Ho Man Chan, Andrew L. Kung, Hideaki Tagami, Yoshihiro Nakatani, and David M. Livingston
p. 342-344.

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