AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 14, 2003, Vol.299


ヘムのない高原子価鉄(High-Valence Iron Without the Heme)

シトクロムのような鉄をヘムグループに結合させている鉄含有酵素による O2の活性化の研究によって、鉄オキソグループのような中間種が存在する確 かな証拠が見つかってきた。ヘムを持たない単原子鉄の酵素中のO2活性に関 する2件の報告がなされた。酵素中では多くの情報は間接的に得るしか方法は無かった( Kovacsによる展望記事参照)。理論的には、原子価の高い.Fe(IV)=O結合はヘムの無い(ノ ンヘム)酵素にとっては不利であると思われる。Rohdeたち(p. 1037)は分光学的に. Fe(IV)=O中間物質がヘムの無いモデル化合物中に存在する証拠を示した。この化合物は大 環状リガンドによって鉄を結合している。他方、Karlssonたち(p. 1039)は、シス-ジヒド ロキシル化反応を触媒するリスケ(Rieske)ノンヘム鉄ジオキシゲナーゼであるナフタレ ンジオキシゲナーゼの触媒経路中に、中間物質を提案し、そのX線構造を提案した。彼ら はO2が活性部位の単核鉄にサイドオン(side-on)配位で結合していることを見 つけた。この分子は、2つの酸素原子が基質の2重結合炭素原子と協奏反応するように配 置されている。(Ej,hE)
Crystal Structure of Naphthalene Dioxygenase: Side-on Binding of Dioxygen to Iron
   Andreas Karlsson, Juanito V. Parales, Rebecca E. Parales, David T. Gibson, Hans Eklund, and S. Ramaswamy
p. 1039-1042.
Crystallographic and Spectroscopic Characterization of a Nonheme Fe(IV)&cjs0811;O Complex
   Jan-Uwe Rohde, Jun-Hee In, Mi Hee Lim, William W. Brennessel, Michael R. Bukowski, Audria Stubna, Eckard Münck, Wonwoo Nam, and Lawrence Que Jr.
p. 1037-1039.
BIOCHEMISTRY:
How Iron Activates O2

   Julie A. Kovacs
p. 1024-1025.

ナノチューブ運動センサー(A Nanotube Motion Sensor)

カーボンナノチューブに沿って導電性の液体が流れると、チューブの両端に電圧が発生す る。Ghosh たち (p.1042) は、また、この効果による電圧は流速の対数に比例しており 、60倍を超える速度範囲に対して成り立つことを示している。これは、ナノチューブが 、極めて小さくて、高感度な流れセンサーとして、あるいは、機械エネルギーの電気信号 への変換において有用なものである可能性を示している。(Wt)
Carbon Nanotube Flow Sensors
   Shankar Ghosh, A. K. Sood, and N. Kumar
p. 1042-1044.

生まれつき慎み深く(Innate Restraint)

病原体-特異的な免疫というのは、感染早期段階における、生得的免疫受容体、もっとも 顕著にはToll-様受容体(TLRs)の活性化によって形作られる。この受容体は、さまざまに 異なったクラスの病原体の分子シグネチャーを精査するように進化してきた。それらは 、もっとも適切な適応免疫応答を作り出すのを助けたり、あるいは病理学的な場合には 、自己免疫応答尾やアレルギー応答を引き起こす(PowrieとMaloyの展望記事参照のこと) 。PasareとMedzhitovは、TLRの勢力範囲が、T細胞免疫の管理において決定的な役割を果 たしている調節性T(TR)細胞にまで広がることを示している(p. 1033)。樹状細胞上の TLRを活性化することで開始される予期された免疫応答プログラムに伴って、TR細胞の強 力な抑制性効果もまた遮断された。この効果は、直接的にサイトカインであるインターロ イキン-6の産生に依存していたが、このインターロイキン-6は、標的Tリンパ球をTR細胞 の抑制性効果に対して鈍感にするものである。生得的免疫系が活性化した場合にのみTR細 胞の抑制を解除することで、この免疫系は、効率を犠牲にすることなく制御を維持すると いう問題に対して、エレガントな解答を与えているのである。ヒトとマウスのFOXP3遺伝 子において自然に生じる変異が、免疫制御におけるこの転写制御因子の役割を強調するこ とになった。Horiたちは、この遺伝子がTR発生についての主要な制御を仲介していること を示す直接的証拠を提示している(p. 1057)。FOXP3はTR細胞に優先的に発現し、FOXP3-陰 性T細胞にレトロウイルスのFOXP3-発現ベクターを導入すると、この細胞が他のT細胞の増 殖を抑制するようになる。このFOXP3-導入細胞はまた、マウスにおけるT細胞によって駆 動される炎症性腸疾患の攻撃的形態をも抑制した。(KF)
Control of Regulatory T Cell Development by the Transcription Factor Foxp3
   Shohei Hori, Takashi Nomura, and Shimon Sakaguchi
p. 1057-1061.

火星の南極に露出した水氷(Southern Exposure)

火星の極冠において貯留されている水や二酸化炭素のような揮発性成分の総量や分布を決 めることは、火星の気候を理解する上で重要である。火星探査機マーズオデッセイに搭載 された熱放射撮像システムによる調査から、南極冠の表面に水氷の層が露出していること が示された。Titusたち(p.1048; Mackenzieによる12月のニュース記事参照)は、火星の南 極にある露出した水氷は以前考えられていたものよりも顕著かもしれないと示唆された 。そして、この水の一部は、夏季には昇華して大気の水蒸気になるであろうと言う 。Byrne とIngersoll(p.1051)は、この顕著な水氷層は、オデッセイに搭載された火星軌 道カメラで観測されたくぼ地は、二酸化炭素の層が削られて下の水氷層が露出することに よって生成するような気象プロセスのモデルによって、さらに強く支持される 。(TO,Tk,Nk)
A Sublimation Model for Martian South Polar Ice Features
   Shane Byrne and Andrew P. Ingersoll
p. 1051-1053.
Exposed Water Ice Discovered near the South Pole of Mars
   Timothy N. Titus, Hugh H. Kieffer, and Phillip R. Christensen
p. 1048-1051.

超伝導の増幅器(A Superconducting Amplifier)

ジョセフソン接合素子は薄い絶縁層を2つの超伝導体ではさむ単純な構造である。両側の 超伝導体間で共役結合されているため、接合部をまたいでバイアスを加えると、その接合 部で一組の超伝導クーパー対(Cooper pairs)を流れる、きっちり定まった周波数の振動性 電流が流れる。一度その特性が理解されれば、この素子は標準電位として用いることが出 来る。Delahayeたちは(p. 1045)、接合部の結合状態を慎重に調整し、注入電子の小さい 流れで、接合部を流れる、より大きな超伝導電流を制御出来る装置を作成した。超伝導装 置でゲインを得られることで、計測学に新しい応用を開く可能性がある。(Na)
Low-Noise Current Amplifier Based on Mesoscopic Josephson Junction
   J. Delahaye, J. Hassel, R. Lindell, M. Sillanpää, M. Paalanen, H. Seppä, and P. Hakonen
p. 1045-1048.

フレキシブルなやり方(Flexible Management)

骨格タンパク質は、シグナル伝達経路の個々の構成要素に対する結合部位を含有し、そし て主要な組織化中心(grand organizing centers)として機能すると考えられる。Parkた ち(p. 1061;PtashneとGannによる展望記事を参照)は、酵母のマイトジェン-活性化タ ンパク質(MAP)キナーゼシグナル伝達経路をモデルシステムとして使用して、骨格補充 相互作用に対する基本的な物理的要求性を調べた。不完全な骨格-キナーゼ補充相互作用 を完全に異なるタンパク質-タンパク質相互作用に置き換えることにより、適切なシグナ ル伝達が回復され、このことからこれらの組織化因子が著しい柔軟性を有することが示さ れる。そのようなフレキシビリティは、新規経路の進化の根底にある様であり、そして転 写因子中の結合部位のものと似ている。(NF)
SIGNAL TRANSDUCTION:
Imposing Specificity on Kinases

   Mark Ptashne and Alexander Gann
p. 1025-1027.
Rewiring MAP Kinase Pathways Using Alternative Scaffold Assembly Mechanisms
   Sang-Hyun Park, Ali Zarrinpar, and Wendell A. Lim
p. 1061-1064.

乾燥した高地という仮説をつぶす(Squashing a Dry Hypothesis)

新世界における農業の起源は、メキシコや中央アメリカの乾燥した高地が中心であると考 えられていた。植物栽培化の証拠としては、通常、局所的な野生型植物の種の大きさに比 べて顕著なサイズの増大である。PipernoとStothert(p. 1054; Bryantによる展望参照)は 、エクアドルの二箇所の地点から新たな放射性炭素年代を示し、カボチャ栽培の起源が 12,000年頃前に遡る事を示している。この年代推定は、乾燥した高地と同時期か、或いは 更により早い段階である可能性がある。かくして、農業は最初に、或いは別々に湿った低 地で始まったものであろう。(KU)
ARCHAEOLOGY:
Enhanced: Invisible Clues to New World Plant Domestication

   Vaughn M. Bryant
p. 1029-1030.
Phytolith Evidence for Early Holocene Cucurbita Domestication in Southwest Ecuador
   Dolores R. Piperno and Karen E. Stothert
p. 1054-1057.

複製を逆にする(Reversing Replication)

DNA複製には危険な局面もある。特に複製終了時前、DNAダメージが複製を遮断する場合 。中断された複製フォークは、新たな変異や再編成に対して脆弱であり、これらは細胞に とって致死的になりうるし、癌を引き起こす可能性もある。Courcelleたち(p. 1064)は 、中断された複製フォークの構造を研究し、それがどのように回復させられるかを発見し た。回復方法は、中断された複製フォークが一時的に複製を逆にすることである。著者は 、逆にした複製フォークが元のDNAダメージの修復を支援することを示唆している。遺伝 的分析と一致するように、逆にした複製フォークの安定した維持のためにRecAとRecFORが 必要であり、それらが非存在の場合には複製点がRecQ-RecJによって分解される。(An)
DNA Damage-Induced Replication Fork Regression and Processing in Escherichia coli
   Justin Courcelle, Janet R. Donaldson, Kin-Hoe Chow, and Charmain T. Courcelle
p. 1064-1067.

聴覚皮質における情報処理(Information Processing in the Auditory_Cortex)

例えば聴覚性脳幹のような聴覚刺激の初期処理の回路は、音の局在化と一般の聴覚性特色 の抽出のための複数の平行経路をもつ。聴覚皮質のような上位センターにおける音の特色 の分析はまだよく理解されていない。BarbourとWang(p. 1073)は、パラメトリック広帯域 音響刺激を用い、聴覚の皮質の応答をもっと現実的に研究した。ニューロンを2つの推定 上の重要なグループ、すなわち高コントラストを好む細胞と低コントラストを好む細胞 、に分類できた。また、これらの刺激を用い測定したニューロンの周波数応答の有効な帯 域幅が強度不変であることも発見した。(An)
Contrast Tuning in Auditory Cortex
   Dennis L. Barbour and Xiaoqin Wang
p. 1073-1075.

毒物制御センター(Poison Control Centers)

ハイドロゲナーゼ(Hydrogenases)は、H2をプロトンと電子へ解離するのを触 媒する。酵素の心臓部ではニッケルや鉄を含んだ金属クラスターが内在しており、鉄の配 位子として機能している複数のシアナイド基(CNー)を持っている。毒性のフリーな CN-の遊離を避けながら、どのようにCNー基が合成されているのだろうか ?Reissmannたち(p. 1067)は、hydrogenase maturation protein HypEのメルカプト側鎖 (−SH)へ カルバモイル基(−CONH2)が付加し、続いてチオシアネート (HypE−SCN)に変化して、最終的には鉄原子へのシアナイドドナーとして機能する一連の 生化学反応に関して記述している。(KU)
Taming of a Poison: Biosynthesis of the NiFe-Hydrogenase Cyanide Ligands
   Stefanie Reissmann, Elisabeth Hochleitner, Haofan Wang, Athanasios Paschos, Friedrich Lottspeich, Richard S. Glass, and August Böck
p. 1067-1070.

fMRI信号の基盤(The Basis of the fMRI Signal)

血中酸素レベル依存(BOLD)機能的磁気共鳴映像法(fMRI)は、特定の課題を遂行中の中枢神 経系におけるデオキシヘモグロビンの小さな揺らぎの検出を可能にする。信号の性質およ びその信号とその根底にあるニューロン活性の相関には、議論の余地があるとされてきた 。Thompsonたちは、単細胞記録と組織の酸素付加の直接的測定を用いて、ネコの一次視覚 野内での神経の活性と酸素付加の変化の関係を決定した(p. 1070; また、Mayhewによる展 望記事参照のこと)。神経の活性は酸素付加の減少と密接に関係していて、BOLD応答の基 礎をなすと考えられている充血に先立って低酸素血症の期間があるとする他の報告と整合 している。その理論面での意味は別にしても、この結果は、fMRIの精度をさらに改善する ためにさまざまな方法があることを示唆するものである。(KF)
NEUROSCIENCE:
A Measured Look at Neuronal Oxygen Consumption

   John E. W. Mayhew
p. 1023-1024.
Single-Neuron Activity and Tissue Oxygenation in the Cerebral Cortex
   Jeffrey K. Thompson, Matthew R. Peterson, and Ralph D. Freeman
p. 1070-1072.

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