AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 24, 2003, Vol.299


狙って打つだけの蛍光(Point-and-Shoot Fluorescence)

分子の蛍光は、通常、紫外領域の光子吸収によって電子が誘起され、励起された電子は減 衰して光子を放射する。Qiu たち (p.542) は、走査型トンネル顕微鏡で探査する時、表 面に吸着された分子から特徴的な蛍光が検出されうることを示している。トンネル電子は 蛍光を誘起するのみならず、観測される放射が、チップが分子のどの部分を探査している かによって変化する可能性がある。(Wt)
Vibrationally Resolved Fluorescence Excited with Submolecular Precision
   X. H. Qiu, G. V. Nazin, and W. Ho
p. 542-546.

支配権を制御する(Controlling Interest)

超高速パルスレーザーの出現により、分子内のボンドに選択的な化学反応がまさに間近に なったという期待を抱かせた。しかしながら、一つのボンドに渡されたエネルギーは、通 常、望まれている化学反応が起こりうる以前に、その分子の残りの部分に漏れてしまう 。最近、反復的遺伝的アルゴリズムを用いて、実質、さまざまな反応経路を選択しうるよ うな、広範囲の周波数におよぶ非常に複雑なパルス形状が生み出されてきている。Daniel たち (p.536; Rabitz による展望記事を参照のこと) は、これらの反応の一つに用いられ たパルスが、なぜ、ある特別の所産を選択するのか探索した。この探索した反応において は、CpMn(CO)3 化合物 (ここで Cp は cyclopentadienyl である) のイオン化が、CO グ ループの損失がある場合もない場合も起こりうる。彼らは、ab initio 計算とフェムト秒 ポンプ-プローブ分光法を結合して、基礎をなす励起とイオン化のステップを同定した 。(Wt)
CHEMISTRY:
Shaped Laser Pulses as Reagents

   Herschel Rabitz
p. 525-527.
Deciphering the Reaction Dynamics Underlying Optimal Control Laser Fields
   Chantal Daniel, Jürgen Full, Leticia González, Cosmin Lupulescu, Jörn Manz, Andrea Merli, Stefan Vajda, and Ludger Wöste
p. 536-539.

高い水の標的(A High Water Mark)

水の放射及び吸収スペクトルを同定する問題は、いくつかの研究分野にとって重要である 。そして、大気内の水による太陽光吸収と、太陽表面のような極限環境において水がどの ようになっているかを解析するかも課題の1つである。回転-振動スペクトルの理論的分 布の精度は、部分的に屈曲動作が広範囲に他の振動と混合するので実験精度に比べて良く なかった。Polyanskyたち(p. 539)は、通常このような計算に含まれていない広範囲な効 果を考慮することで、計算精度を1桁上げた。この研究は実験に並ぶ精度で計算が結果を 出せるところまで来ていることを示している。(hk,Nk)
High-Accuracy ab Initio Rotation-Vibration Transitions for Water
   Oleg L. Polyansky, Attila G. Császár, Sergei V. Shirin, Nikolai F. Zobov, Paolo Barletta, Jonathan Tennyson, David W. Schwenke, and Peter J. Knowles
p. 539-542.

偏向したコア(Tilted Core)

地球の内核の構造は、核を通り抜けてきた地震固体波で観測される特性やあるいは地球に 常時存在する基準振動(normal-mode oscillations)(地球の"響き")から、推し量ることが できる。残念なことに、この2つの方法による結果は一致していない。Begheinと Trampert(p.552;Sambridgeによる展望記事参照)は、近傍アルゴリズム(neighborhood algorithm)を使い、常時存在する振動に対し可能な内部コア構造の全モデル空間をサンプ ルとして、その食い違いを補正した。彼らは、彼らの最も確固としたモデルに見られる非 等方性が、内核の外側半分における歪んだ六方最密充填構造の鉄結晶や、核の中心におけ る異なる鉄の相から生じていると推測した。(TO,Tk)
GEOPHYSICS:
An Ensemble View of Earth's Inner Core

   Malcolm Sambridge
p. 529-530.
Robust Normal Mode Constraints on Inner-Core Anisotropy from Model Space Search
   Caroline Beghein and Jeannot Trampert
p. 552-555.

単相体は多数で有利、2倍体はゆっくりした接合で有利(One for the Many, Two for the Slow)

ほとんどの植物や動物は2倍体であり、各染色体は2つのコピーを有しているが、真核細 胞には単相体で、コピーを1つしか持たないものもいくらか存在する。両方ともそれぞれ 利点があり、2倍体生物は有害変異に対して防御に優れ、単相体生物は有利な変異を獲得 しやすい。Zeylたち(p. 555; Grieg と Travisanoによる展望記事参照)は、色々な培養条 件に対して、単相体と2倍体の酵母集団を2000世代増殖させ、両者の適応する速度を測定 し、これらのアイデアを比較した。単相体は集団が大きい場合は適応は顕著であるが、集 団が小さい場合はそれほどでもない。2倍体の接合(交配)は今回の実験ではできなかった が、集団が小さい場合には選択に有利となるであろう。(Ej,hE)
EVOLUTION:
Haploid Superiority

   Duncan Greig and Michael Travisano
p. 524-525.
An Evolutionary Advantage of Haploidy in Large Yeast Populations
   Clifford Zeyl, Thomas Vanderford, and Michele Carter
p. 555-558.

干渉性コーダ(Coherent Coda)

コーダ(coda)とは地震波シグナルの後半部分であり、岩石圏の小規模な構造によって散乱 されるため比較的不均一である。Campillo と Paul (p. 547) は101個の地震波から、互 いに数十キロ離れた特定の観測地点へのコーダの相関を計算し、地表波(Rayleigh Love波)の干渉性シグナルを抽出した。地震波の最後の部分のノイズの多いパターンには 、他の地震波位相からは得られない岩石圏の構造に関する重要な情報が含まれている 。(Ej,hE)
Long-Range Correlations in the Diffuse Seismic Coda
   Michel Campillo and Anne Paul
p. 547-549.

くちばしの場所を変更(Changing Where You Send the Bill)

移動性神経堤細胞は、統合されて頭部および顔面を形成する発生情報の供給源の一つであ る。SchneiderおよびHelms(p. 565;Trainorによる展望記事を参照)は、アヒルとウズ ラの細胞キメラを使用して、“アヒル的ウズラ”と“ウズラ的アヒル”とを作製し、これ らのトリでのくちばしの形成を方向付ける分子レベルでの情報交換を解析した。移植され た神経堤細胞は、宿主により必要とされるような、正しい位置での正しい型の構造を形成 するが、しかしそれらの構造の具体的な形態は、神経堤細胞の供給源により方向付けられ る。移植された異種間神経堤細胞はまた、それらが相互作用する宿主頭蓋顔面構造の発生 を方向付けた。このように、顔面の神経堤誘導体の最終的な形状は、往復する情報の流れ の三重の相互作用である。(NF,Hn)
DEVELOPMENT:
The Bills of Qucks and Duails

   Paul Trainor
p. 523-524.
The Cellular and Molecular Origins of Beak Morphology
   R. A. Schneider and J. A. Helms
p. 565-568.

虫の呼吸(Bug Breathing)

昆虫の表皮の開口部は、小管のたくさんのネットワーク、呼吸器系気管システムに連結し ており、そして昆虫は受動的な拡散および物理的活性に依存して、このシステムを介して ガスを移動させると考えられていた。しかしながら、生きている昆虫の内部を見ることが できないことにより、昆虫の呼吸システムの理解が制限されてきた。Westneatたち(p. 558;カバー記事を参照)は、シンクロトロンビームを使用してx-線ビデオ画像を得て器 官呼吸を可視化し、そして脊椎動物肺のものと同様な、じっとしている昆虫において以前 には観察されなかった気管の圧縮・拡張サイクルを報告している。(NF)
Tracheal Respiration in Insects Visualized with Synchrotron X-ray Imaging
   Mark W. Westneat, Oliver Betz, Richard W. Blob, Kamel Fezzaa, W. James Cooper, and Wah-Keat Lee
p. 558-560.

細菌において染色体を分布(Distributing Chromosomes in Bacteria)

真核生物の細胞分裂においては、複雑な紡錘体構造が染色体を娘細胞に分配する。しかし 、細菌においては、同様な構造体は今まで発見されていなかった。Ben-Yehudaたち(p. 532)は、枯草菌(B. subtilis)の胞子形成時に、RacAというタンパク質が染色体の分離の ための役割を果たすことを記述している。RacAは、染色体の複製開始点を介してによって 細胞の端に染色体をアンカーするようである。また、胞子と母細胞への染色体の分布を促 進するようである。胞子を形成しない非発芽細胞において、RacAタンパク質レベルが高く なると、染色体は細胞の中心部から極へ移動する。 (An,Hn)
RacA, a Bacterial Protein That Anchors Chromosomes to the Cell Poles
   Sigal Ben-Yehuda, David Z. Rudner, and Richard Losick
p. 532-536.

PARPがパフを作成する方法(How PARP Produces Puffs)

ショウジョウバエ唾液腺における多糸染色体(polytene 染色体)は、特異的領域でパフを 形成するが、この領域は増加遺伝子発現が活性化された部位に対応する場合が多いである 。TulinとSpradling (p. 560;Pirottaによる展望記事参照)は、リボシル化及びポリADPリ ボース重合酵素(PARP)が染色体のパフの形成に関与することを示している。彼らは、パフ を誘発した染色体の部位においてPARPがクロマチンタンパク質を解離することによって転 写活性の増加を可能にすることを提案している。(An,Hn)
TRANSCRIPTION:
Puffing with PARP

   Vincenzo Pirrotta
p. 528-529.
Chromatin Loosening by Poly(ADP)-Ribose Polymerase (PARP) at Drosophila Puff Loci
   Alexei Tulin and Allan Spradling
p. 560-562.

正確に言えば窒素だけではない(It’s Not Just the Nitrogen)

海辺の湿地帯での生態系は窒素に制約されていると広く容認されている認識にパラダイム に基づいて、この湿地帯での生態系の管理と回復に対する対策がなされている 。Sundareshwarたち(p. 563)は、植物と異なり土壌細菌がリンによって制限されているこ とを示している。リンの窒化は、又、N2Oの生産や脱窒や、更に有機栄養生物 の窒素固定に関する潜在的な割合を低下させている。それ故に、リンのレベルが窒素に関 する生態系レベルのインプットとアウトプットに影響を及ぼす。この発見は、一次生産者 と他の生態系における分解者が栄養物によって別々に制限されているという点で地球規模 での炭素サイクルに関する重要な示唆を与えるものである。(KU)
Phosphorus Limitation of Coastal Ecosystem Processes
   P. V. Sundareshwar, J. T. Morris, E. K. Koepfler, and B. Fornwalt
p. 563-565.

肥満せずに生きると長生きする(Live Lean, Live Long)

一般的に、食物制限はほ乳動物の寿命を延ばすが、この効果はカロリー摂取量の減少や 、或いは付随的には体脂肪量の減少と関連づけられている。正常に食べるが脂肪中にエネ ルギーを正しく貯える事の出来ないインシュリン受容体がノックアウトされた遺伝子変異 マウスの研究において、Bluherたち(p. 572)は、痩せるだけで平均寿命が控えめに見て 18%の増加に関係し、インシュリン信号伝達への影響による可能性を示している。(KU)
Extended Longevity in Mice Lacking the Insulin Receptor in Adipose Tissue
   Matthias Blüher, Barbara B. Kahn, and C. Ronald Kahn
p. 572-574.

記憶の形成を可視化する(Imaging the Formation of Memory)

新たなアイテムをコード化したり思い出したりするプロセスの間で、海馬の活性化の様子 をみるために機能的脳を可視化することは技術的に難しい課題であるが、その理由は脳に おけるこの海馬の領域は小さくて、かつ緻密な構造体のためである。Zeinehたち(p. 577)は、より優れた可視化解析法を開発し、海馬領域を「平坦化」して記憶タスクの過程 におけるニューロン活性化をより精緻に可視化することが出来た。海馬におけるアンモン 角(cornuammonis)の場2と3、及び歯状回における活性化は新たな事項の数やコード化の周 期と関連していた。記憶にとどめるべき新たな事項が少ないほど活性は減少したが、記憶 検索の周期とは関連がなかった。逆に、海馬台は検索の周期と関係する活性を示し、思い 出す必要のある新たな事項が少ないほど減少するような活性を示した。(KU)
Dynamics of the Hippocampus During Encoding and Retrieval of Face-Name Pairs
   Michael M. Zeineh, Stephen A. Engel, Paul M. Thompson, and Susan Y. Bookheimer
p. 577-580.

脳における聴覚と視覚(Hearing and Listening in the Brain)

霊長類の聴覚系の主要皮質領域は昔から知られているが、その詳細を明らかにすることは 困難であった。Porembaたち(p. 568)は全聴覚入力から1つの半球分を分離し、片半球の どの部分の聴覚入力が他方の半球の活性を増加させるのかを探した。その結果、聴覚系は 視覚系のように大きくはなく、ある特定の領域では視覚系とオーバーラップしていること を見つけた。(Ej,hE)
Functional Mapping of the Primate Auditory System
   Amy Poremba, Richard C. Saunders, Alison M. Crane, Michelle Cook, Louis Sokoloff, and Mortimer Mishkin
p. 568-572.

衝撃的な微細特徴(Shockingly Fine Features)

コンドルール(chondrule,コンドリュール)とは、球粒隕石(コンドライト)中にある鉱物の 球状集合物で、原始太陽系星雲の衝撃を受けた領域から急速に冷えてできあがってきた最 初の固体と考えられている。炭素質コンドライトは、コンドライト隕石の中でもさらに 、含水鉱物と炭素が豊富であることで他とは区別される。実際多くの炭素質コンドライト は、微細な粒状の水和鉱物の濃度が高い部分で縁取られている。そうした鉱物は、それが 形成された天体上での液体状態の水の反応に起因するものとされるされている。Cieslaた ちは、微細な粒による縁取り部分は、太陽系星雲内の氷を含む冷たい領域を通ってきた衝 撃波によって生み出された液体の水によって形成されたとするモデルを提示している(p. 549)。つまり、コンドルールと微細粒状の縁取り部分はほとんど同時に形成された、とい うわけである。(KF,Nk,Tk)
A Nebular Origin for Chondritic Fine-Grained Phyllosilicates
   Fred J. Ciesla, Dante S. Lauretta, Barbara A. Cohen, and Lon L. Hood
p. 549-552.

特定の場所だけ通行可能(Localized Traffic Only)

トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)は、細胞の増殖や分化、さらには細胞の運命 の特異化を制御するのを助ける。細胞表面にある受容体は、TGF-β信号をSmadsと呼ばれ る細胞内タンパク質へ伝達し、このSmadsが核へと展開させられて転写の効果を現わすの である。Tangたちは、β-スペクトリン・ファミリーのある主要な細胞骨格タンパク質が 、Smad局在化を制御することでこの情報伝達経路を調節していることを示している(p. 574)。スペクトリンがないと、うまく局在化されないSmadsはTGF-β受容体へのアクセス ができず、結局情報は伝播されないのである。この細胞骨格タンパク質は、受容体- Smads情報伝達経路の要素を集めるアダプターの役割を果たしているらしい。(KF)
Disruption of Transforming Growth Factor-beta Signaling in ELF beta-Spectrin-Deficient Mice
   Yi Tang, Varalakshmi Katuri, Allan Dillner, Bibhuti Mishra, Chu-Xia Deng, and Lopa Mishra
p. 574-577.

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