AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 22, 2002, Vol.298


短信(Brevia)

植物と菌類の共生による耐熱性(Thermotolerance Generated by Plant/Fungal Symbiosis) ラッセン火山国立公園とイエローストーン国立公園の温泉周辺に自生している多年性植物 についてRedmanたち(p. 1581)が明らかにしたことによると、この植物は熱耐性を有する 菌類を抱えて20〜50度Cの高温に耐えて生存している。菌類との共生植物も、あるいは 、非共生植物も、高い熱にさらされない環境ではどちらも良く育つが、高熱環境で育てる と、植物単独、あるいは、菌類単独の場合、枯れてしまう。しかし、共生環境では、高温 であっても生き延びることができる。(Ej,hE)
Thermotolerance Generated by Plant/Fungal Symbiosis
   Regina S. Redman, Kathy B. Sheehan, Richard G. Stout, Russell J. Rodriguez, and Joan M. Henson
p. 1581.

レーザー加速器(Laser Accelerators)

大統一理論と原子内部の基本的な相互作用を探索するためには、粒子加速器が現在用いる ことのできるエネルギー以上に到達する能力が必要であろう。しかしながら、従来の加速 器の到達できる最大エネルギーは、建設に用いられる物質が崩壊する場の大きさで限定さ れているため、他の経路、特に、レーザー-プラズマ相互作用の利用方法が開発されてき た。Malka たち (p.1596) は、強力なフェムト秒レーザーパルスのヘリウムガスのジェッ トとの相互作用を用いて、相対論的な新しい加速メカニズムにより、強制レーザーウェイ クフィールド(wake field)手法を開発したことを示している。この手法では、放射された 電子は200MeV(百万電子ボルト)以上のエネルギーに到達することができる。(Wt)
Electron Acceleration by a Wake Field Forced by an Intense Ultrashort Laser Pulse
   V. Malka, S. Fritzler, E. Lefebvre, M.-M. Aleonard, F. Burgy, J.-P. Chambaret, J.-F. Chemin, K. Krushelnick, G. Malka, S. P. D. Mangles, Z. Najmudin, M. Pittman, J.-P. Rousseau, J.-N. Scheurer, B. Walton, and A. E. Dangor
p. 1596-1600.

最高密度の物質を描く(Describing the Densest Matter)

核子間相互作用は、地球上における通常物質(ordinary matter)の飽和密度(1立方センチ 当り約2.7 ×1014グラム) を超えて物質を圧縮することを困難にしている 。しかし、宇宙では中性子星(飽和密度の約9 倍)や超新星(その約4倍の密度)のような星 での物質限界密度は、この限界密度を越えている。Danielewiczたちは(p.1592)は、最新 の高密度核衝突実験に基づき、超飽和物質に対して、密度を温度や圧力の条件と関係付け る理論的な状態方程式モデルを新たに作成した。彼らは、中性子星や超新星に存在する 、圧力の可能範囲と温度条件を特定し、超飽和物質における中性子対陽子の濃度とともに 、それらの動的な挙動に制約を与えることができる。(TO)
Determination of the Equation of State of Dense Matter
   Paweł Danielewicz, Roy Lacey, and William G. Lynch
p. 1592-1596.

バクテリアと地下水中の砒素(Bacteria and Groundwater Arsenic)

コレラや他の水による感染症を予防する対策として、バングラデッシュは地下水の利用を 奨励したが、そのことにより数年後、多くの人々が汚染物質である砒素にさらされるとい う予期しない結果となった。砒素の源が不確かであったことが、改善効果を阻害してきた 。バングラデッシュ南部の調査により、Harveyたち(Stokstadによるニュース記事参照)は 、示唆されていた幾つかのメカニズムを除外して、農業の灌漑により地下水が取り出され て、帯水層に溶解性有機物炭素が運ばれていることを示した。溶解性有機物炭素はバクテ リアを養うらしく、それが帯水層における固体物質に含まれる砒素を、地下水に戻してい る。(TO,Nk)
BANGLADESH:
Agricultural Pumping Linked to Arsenic

   Erik Stokstad
p. 1535-1537.
Arsenic Mobility and Groundwater Extraction in Bangladesh
   Charles F. Harvey, Christopher H. Swartz, A. B. M. Badruzzaman, Nicole Keon-Blute, Winston Yu, M. Ashraf Ali, Jenny Jay, Roger Beckie, Volker Niedan, Daniel Brabander, Peter M. Oates, Khandaker N. Ashfaque, Shafiqul Islam, Harold F. Hemond, and M. Feroze Ahmed
p. 1602-1606.

犬の家畜化の真実を発掘する(Digging into Dog Domestication)

三編の報告の主題は、人と犬がどのようにして仲良くなったのか、又、いつ、どこでこの ような関係が生じたのかというその起源に関してである(Pennisiによるニュース解説参 照)。犬と狼(及び,いくつかの霊長動物)は社会性を有する動物であり、自分たちの種を自 覚して対応しているに違いない。Hareたち(p. 1634)は、餌の場所に関係した人のしぐさ (例えば、見つめたり、方向を示したり、軽くたたいたりといった)を受け取るさいの狼と 犬の行動を比較した。オオカミと異なり、犬は人とのコミニケーションを理解する上で役 に立つスキルを示している。狼から犬の家畜化は単一種の起源から生じたと論じている幾 つかの研究がある一方、他方では複数起源説であり、旧世界と新世界(アメリカ)で別々の 起源を支持しているものもいる。化石上の記録では、近東にお いて約13,000年前に家畜化が行なわれたという証拠がある。一方,分子時計のデータはよ り古い時代を暗示している。Leonardたち(p. 1613)は、南北アメリカにおける古代の土 着の犬の化石から採集したミトコンドリアDNA(mtDNA)を解析して、犬における単一アジア 起源を論証している。犬は、12,000年前〜14,000年程前に人に連れ立ってベーリング海峡 を渡りアメリカに移住した。しかしながら、この土着の種族は植民地時代に、より大きな ヨーロッパの種族に置き換わったらしい。Savolainenたち(p. 1610; 表紙参照)は、38匹 のユーラシアのオオカミとアジア、ヨーロッパ、アフリカ及び北極アメリカにまたがって 集めた654匹の飼い犬からmtDNAを採取し、犬の家畜化に関連するDNA配列の数と場所を評 価した。南西アジアやヨーロッパの犬に比べて東アジアの犬におけるより大き な遺伝的多様性は、犬が東アジアに起源を持つことを示唆している。この系統発生分析を 考古学的データと照らし合わせて考えると、犬の家畜化は15,000年前位に、狼に由来する 幾つかの系列が起源となったことを示唆している。(KU,Nk)
Genetic Evidence for an East Asian Origin of Domestic Dogs
   Peter Savolainen, Ya-ping Zhang, Jing Luo, Joakim Lundeberg, and Thomas Leitner
p. 1610-1613.

原始的霊長動物(Primitive Primates)

真正霊長動物(euprimates) ――より大きな脳や物をつかんだり、より優れた両眼視覚の ため両眼の近接化や指の爪といった現代の多くの霊長動物の特徴を共有する霊長動物 ――の起源と進化は、より古い化石物が少ないために不明確なところがかなりあった。真 正霊長動物は5,500万年程前に出現し、そして類人猿やヒト科動物を含めて同じように進 化した。BlochとBoyer(p. 1606; Sargisによる展望参照)は、ほぼ完全な頭蓋骨とかなり 多くの骨格に基づいてより古い化石のplesiadapiformに関して記述している。その化石は 、ある面においては真正霊長動物よりも更に原始的な特徴を示しているが、明瞭な爪や物 をつかむ能力を含めて推論しうる幾つかの派生的特徴をも持っている。このような結果は 、このグループが共通の起源を共有しているということと、物をつかむ能力 が眼縁部の近接化の前に進化したということを示唆している(KU)
PALEONTOLOGY:
Primate Origins Nailed

   Eric J. Sargis
p. 1564-1565.
Grasping Primate Origins
   Jonathan I. Bloch and Doug M. Boyer
p. 1606-1610.

横に引っ張られた(Pulled Sideways)

細菌は、強固な細胞壁がないため、塩に誘発される浸透圧の勾配に素早く対応しなければ ならない。大腸菌において、MscLとMscSという機械受容性チャネルタンパク質は、膜に垂 直に適用した圧力に応じて開くが、これによって膜に包埋したタンパク質が横に引っ張ら れることになる。Bassたち(p. 1582;BezanillaとPerozoによる展望記事参照)は、MscSの 結晶構造を報告し、膜貫通のらせん体が横に引っ張られるため方向を再調節することの可 能性について記述している。また著者は、膜貫通電位の変化によって、正に荷電したアル ギニンの運動と浸透物の流れの電圧ゲートが引き起こされる可能性と過程も提案している 。(An)
STRUCTURAL BIOLOGY:
Force and Voltage Sensors in One Structure

   Francisco Bezanilla and Eduardo Perozo
p. 1562-1563.
Crystal Structure of Escherichia coli MscS, a Voltage-Modulated and Mechanosensitive Channel
   Randal B. Bass, Pavel Strop, Margaret Barclay, and Douglas C. Rees
p. 1582-1587.

光合成の遺伝子の伝達(Pass the Photosynthesis Genes)

光合成は、酸素を大気に導入したことによって地球を完全に変換してしまった 。Raymondたち(p. 1616;Pennisiによるニュース記事参照)は、現在知られている光合成細 菌の5つの分岐のゲノムの比較配列分析を行ない、光合成の起源と進化を研究したが、遺 伝子の横への伝達が必要だったことを発見した。この研究は、最近の説に注意を引く、即 ち特異的代謝プロセスの重要な遺伝子の多くはまだ特定されていないが、その遺伝子はい くつかの細胞の革新の進化には最も重要であるというものである。(An)
EVOLUTIONARY BIOLOGY:
Bacteria Shared Photosynthesis Genes

   Elizabeth Pennisi
p. 1538-1539.
Whole-Genome Analysis of Photosynthetic Prokaryotes
   Jason Raymond, Olga Zhaxybayeva, J. Peter Gogarten, Sveta Y. Gerdes, and Robert E. Blankenship
p. 1616-1620.

クロマチン伝播の制御(Controlling Chromatin Spreading)

遺伝子量補正には変化したクロマチン構造のシス型での伝播およびX染色体のほとんどに わたる遺伝子活性化状態が関与している。ヒストンを修飾してオスX染色体の転写を亢進 するオス-特異的致死(MSL)複合体には、翻訳されないroX1およびroX2RNAが含まれ、こ の複合体はショウジョウバエ、DrosophilaにおけるX染色体上へのこのような伝播の原因 となるが、伝播が生じるメカニズムは、完全にはわかっていない。Parkたち(p. 1620)は、MSL複合体に対するroX RNAの濃度が制限されることが、効果的な伝播が生じる ために重要であることを示す。この状態により、MSL複合体が発生期のroX RNAの添加によ り完成されること、そしてその一方でRNAは未だDNA鋳型につなぎ止められており、それに よりX染色体に対する伝播および遺伝子量補正を制限することが、一見すると確実にな る。(NF)
Extent of Chromatin Spreading Determined by roX RNA Recruitment of MSL Proteins
   Yongkyu Park, Richard L. Kelley, Hyangyee Oh, Mitzi I. Kuroda, and Victoria H. Meller
p. 1620-1623.

RNAポリメラーゼI、活動中(RNA Polymerase I in Action)

リボゾームRNAを転写する酵素であるRNAポリメラーゼI RNA(pol I)のカイネティクスは 、生細胞のフォトブリーチング顕微鏡法とコンピュータモデリングとを組み合わせること により、示される。Dundrたち(p. 1623;Couzinによるニュース記事を参照)は、核小体 中へのそのサブユニットの導入、複合体構築そして伸長を追跡した。pol Iサブユニット は、核原形質と核小体中の転写部位との間で迅速に入れ替わり、そしてポリメラーゼ複合 体は、前もって構築されたユニットとしてではなくむしろ性質が異なるサブユニットとし て、プロモーター と結合した。ポリメラーゼの構築は、準安定の中間体を介して生じる 、比較的非効率的なプロセスである。(NF)
CELL BIOLOGY:
Chaos Reigns in RNA Transcription

   Jennifer Couzin
p. 1538.
A Kinetic Framework for a Mammalian RNA Polymerase in Vivo
   Miroslav Dundr, Urs Hoffmann-Rohrer, Qiyue Hu, Ingrid Grummt, Lawrence I. Rothblum, Robert D. Phair, and Tom Misteli
p. 1623-1626.

対象を見て、そして、触れて(Seeing and Touching an Object)

観察者が知覚的に異なる情報源からの情報を結合する時、最初の情報源からのものは保存 されるのだろうか、それとも破棄されるのだろうか? Hillis たち (p.1627) は、ある視 覚的情報が失われた場合は、視覚内部で情報は結合され、単に視覚から消失してしまった ような明白な結果となる。しかしながら、視覚と触覚のように、手がかりが異なる様相か らのものである時は、このような情報喪失は起こらず、触覚によって形状情報が知覚され る。(Wt)
Combining Sensory Information: Mandatory Fusion Within, but Not Between, Senses
   J. M. Hillis, M. O. Ernst, M. S. Banks, and M. S. Landy
p. 1627-1630.

B細胞の免疫不全(B Cell Immunodeficiency)

いくつかのサイトカイン受容体は共通のサイトカイン受容体γ鎖(γc)を利用しており γc中に変異が起きると、X染色体性重症複合型免疫不全(XSCID)として知られている状態 になる。インターロイキン-7 (IL-7) と IL-15受容体による情報伝達の欠如によって、ナ チュラルキラー細胞やT細胞がXSCID患者中に欠如するが、B細胞欠損の原因が確立した わけではない。Ozakiたち(p. 1630)は、IL-21受容体欠損のマウスのB細胞は抗体産生を 変化させたことを観察した.IL-4情報伝達欠損と組み合わされると激しく損傷を受けた免 疫グロブリンG応答が観察されたが、これはXSCID疾患者に見られるものと極めて類似して いる。(Ej,hE)
A Critical Role for IL-21 in Regulating Immunoglobulin Production
   Katsutoshi Ozaki, Rosanne Spolski, Carl G. Feng, Chen-Feng Qi, Jun Cheng, Alan Sher, Herbert C. Morse III, Chengyu Liu, Pamela L. Schwartzberg, and Warren J. Leonard
p. 1630-1634.

酵素のはたらきを可視化すること。(Visualizing Enzyme Activity)

自然あるいは人口的に作られた膜貫通細孔の活性が酵素の活性を検出するために用いられ る。通常イオン電流の変化を計測することによって検知できる。Dasたち(p. 1600, また Hamppによる展望を参照のこと)はこのアプローチを採用していて、酵素の活性を視覚的に 検知している。合成細孔が蛍光色素を含んでいる小胞に入れられた。細孔は、ある酵素基 質(あるいは酵素生成物)によって遮断される。小胞からの色素の漏れが蛍光の強さとし て現れる。この小胞からの色素の漏れ具合はどのくらいの基質(あるいは生成物)がある かによっている。そしてこれゆえ小胞からの色素の漏れがここで論議されている酵素の活 性を計測できるようにしている。(hk)
ANALYTICAL CHEMISTRY:
Analytes Ante Portas

   Norbert Hampp
p. 1561-1562.
Fluorometric Detection of Enzyme Activity with Synthetic Supramolecular Pores
   Gopal Das, Pinaki Talukdar, and Stefan Matile
p. 1600-1602.

DNAを介する死の引き金(Triggering Death Through DNA)

細胞は、究極的には自分自身のDNAを断片化することになる死のプログラムを起動するこ とによって、自殺を図ることができる。ある種の刺激に応答して、アポトーシス誘発因子 (AIF)と呼ばれるプロアポトーシス因子がミトコンドリアから遊離して、サイトゾルおよ び核に入り込むのだが、この進化の上で保存されてきたタンパク質が実際にどう機能して いるかは明らかではなかった。Wangたちは、線虫においては、遊離したAIFが同じくその ミトコンドリアから遊離したEndoGと呼ばれるエンドヌクレアーゼと結びつく、というこ とを明らかにした(p. 1587)。一緒になることで、この複合体はDNAの分解と細胞の殺傷を 促進し、ミトコンドリアによって起動される、保存されてきたDNA分解経路を規定してい るのである。(KF)
Mechanisms of AIF-Mediated Apoptotic DNA Degradation in Caenorhabditis elegans
   Xiaochen Wang, Chonglin Yang, Jijie Chai, Yigong Shi, and Ding Xue
p. 1587-1592.

10万個のSNPは無益か?(Are 100,000 "SNPs" Useless?)

Baileyたちは、ヒトゲノム内のセグメントの重複の研究の中で、認識されない重複が、間 違って一塩基性多形(SNP)として同定されてしまうパラロガス配列変異(paralogous sequence variants)とされる可能性を指摘し、自分たちの分析に基づいて、「およそ10万 個のパラロガス配列変異が現在(公的なSNPデータベースである)dbSNPに混入している」と 推定している(2002年8月9日号の報告 p. 1003)。Hurlesはコメントを寄せ、重複したセグ メントの中での非対立形質遺伝子変換は「対立形質の多様性を生み出す能力がある」こと は明かにされてきたと述べ、そうした変異は、ゲノム組み立てにおける単なるアーチファ クトというのではなく、たとえそれらが「複雑な病気に関するハプロタイプに基づくゲノ ム全体の関連の研究」によって検出され損ねていたのだとしても、病原学的に有意 でありうると述べている。BaileyとEichlerは、これに応えて、遺伝子変換が公的なデ ータベースにおける「SNPの多さのある面」の理由であることには同意したが、公的に集 められたものの中にあるアーチファクトがデータベース中に見られるSNPの多さに関する 「もっともつまらぬ説明」になっている、と論じている。これらコメント全文は、下で見 ることができる。(KF)
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/298/5598/1509a
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