AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 13, 2002, Vol.297


カリフォルニアの地震の地殻ストレスを緩和する(Reducing Stress in California)

断層地帯と断層地帯の間、及び、断層地帯内の応力と歪み蓄積の詳細についての理解は遅 れているが地震災害の規模を予測するためには重要である。地震は近傍の断層を活発化し 、局地的な地震活動を変化させたり、地震による断層の滑りを誘発することは良く知られ ている。Fialkoたちは(p. 1858)、1999年に南カリフォルニアで起きたマグニチュード 7.1のHector Mine地震前後に発生した微細な表面のズレを測定した。彼らはこのズレを大 規模な地震の弾性応答としてモデル化し、地表の断層帯は地殻浅部の動きに対応している ことを見つけた。(Na,Og) Reducing Stress in California
Deformation on Nearby Faults Induced by the 1999 Hector Mine Earthquake
   Yuri Fialko, David Sandwell, Duncan Agnew, Mark Simons, Peter Shearer, and Bernard Minster
p. 1858-1862.

超微細の金の鎖(Ultrafine Gold Chains)

大きさや形状の異なったクラスタが形成されるとき、これを構成する金属原子の電気的特 性はどうなるか? Niliusたち(p. 1853)は、走査トンネル効果顕微鏡 (STM)を用いて 、ニッケル-アルミニウム合金表面に、ある限定された数の原子からなる金の鎖を築き上 げた。それから、彼らは同じSTMを利用してこれらの構造の走査トンネル効果分光学を実 施した。20-原子からなる連鎖に沿って30の測定点で採られた導電度スペクトルは、いか に一次元のバンド構造が発達するかを示している。(hk) Ultrafine Gold Chains
Development of One-Dimensional Band Structure in Artificial Gold Chains
   N. Nilius, T. M. Wallis, and W. Ho
p. 1853-1856.

そんなに速くはない(Not So Fast)

水素結合の異常な強さは、液体の水に有する例外的な特性の多くを説明することができる 。Mitsui たち (p.1850) は、小さな水のクラスターが白金表面で成長する時、その特性 がどのように変化するかを研究した。二量体、三量体、四量体は、単量体(モノマー)に比 べて、ずっと移動性が高かった。そのクラスターが5個あるいはそれ以上の分子を含むよ うになると再び、移動性は減少した。この結果は、水素結合は小さな水のクラスターにお いてとりわけ強く、それらの構造と下にある基板との不整合がそれらの移動性を増強して いることを示している。より大きなクラスターは、下地の表面と相応する六角形のハニカ ム構造を形成する。(Wt) Not So Fast
Water Diffusion and Clustering on Pd(111)
   T. Mitsui, M. K. Rose, E. Fomin, D. F. Ogletree, and M. Salmeron
p. 1850-1852.

あまりにも単純なシーソー(An Overly Simple Seesaw)

大洋の地球規模の熱収支に対する理解として一般に受け入れられているパラダイムは 、"二極性のシーソー"である。そのシーソーとは、片半球での熱取得は他の半球での損失 によって均衡が取れているというものである。この考えは、最近の氷河期サイクル過去 10万年にわたって発生し、半球レベルでは反対となっている温暖化と寒冷化が見かけ上交 互に起こる期間を説明するために発想された。そして、この温暖化と寒冷化は高緯度の温 度記録に残されている。Morgan たち (p.1862; Stocker による展望記事を参照のこと)は 、南極大陸の海岸沿いで得られた掘削アイスコアに残された大気温度記録を示し、単純な 二極性のシーソー説では簡略化し過ぎであることを示している。彼らの解析は、南半球の 寒冷化は、およそ14,500年前に北半球で始まった温暖化に先行して生 じていることを明らかにしている。これからして、南極で観測される温度変化は、北大西 洋の熱塩循環の突然の変化のみでは引き起こすことはできない。より複雑な両極間の熱分 配を反映しなくてはならない。(Wt) An Overly Simple Seesaw
CLIMATE CHANGE:
North-South Connections

   Thomas F. Stocker
p. 1814-1815.
Relative Timing of Deglacial Climate Events in Antarctica and Greenland
   Vin Morgan, Marc Delmotte, Tas van Ommen, Jean Jouzel, Jérôme Chappellaz, Suenor Woon, Valérie Masson-Delmotte, and Dominique Raynaud
p. 1862-1864.

バッファーゾーン(The Buffer Zone)

珪藻は珪酸質骨格を形成する光合成海洋プランクトンの代表的な一つであり、ケイ素に対 して代謝上、絶対的な必要性をもっている。珪藻は豊富な栄養物が利用可能な非常に肥沃 な海域における支配的な植物プランクトンであるため、珪藻が豊富であるのはシリカの供 給量が何らかの有利な特性を与えているに違いないと推定されていた。Milliganと Morel(p. 1848)はこのようなシリカの作用が、pH緩衝剤として作用している可能性があり 、これによって細胞外の炭酸脱水酵素,この酵素は溶解した無機質の炭酸水素塩を光合成 に必要なCO2へのゆっくりした反応を触媒するものであるが、の活性を増加さ せていることを示唆している。(KU)
A Proton Buffering Role for Silica in Diatoms
   Allen J. Milligan and François M. M. Morel
p. 1848-1850.

大昔の金鉱床( Old Gold Deposits )

南アフリカのKaapvaal クラトン(Craton)における金鉱床は、地球の金産出量の40%程度で あるが、しかしながら、この膨大に濃縮された原因は不明である。Kirkたち (p.1856;Frimmelによる展望記事参照)はレニウム-オスミウム同位体系を用いて、金と黄 鉄鉱塊の形成年代を導いた。金と黄鉄鉱は、これらを含んでいる礫岩よりも古い。この金 は,礫岩の時代より古い岩石から運ばれたものであり,かつ熱水活動とは関係がなく形成 された。この金鉱床の年代は、Kaapvaalクラトンが安定化した年代(約30億年前)と一致し ており、熱くて、多分金の豊富なマントルに起源をもつことを示している。(KU,Og,Nk)
GEOLOGY:
Genesis of the World's Largest Gold Deposits

   Hartwig E. Frimmel
p. 1815-1817.
A Major Archean, Gold- and Crust-Forming Event in the Kaapvaal Craton, South Africa
   Jason Kirk, Joaquin Ruiz, John Chesley, John Walshe, and Gavin England
p. 1856-1858.

RNA干渉によるクロマチン制御(Controlling Chromatin Through RNA Interference)

DRNAと遺伝子発現の後成的な制御の関係は、X染色体の遺伝子量補償に関する研究によっ てよく知られている。ここでは翻訳されないRNAであるXistとTsix がX染色体のサイレン シング遺伝子で重要な役割を果たす。転写後、RNA干渉によって同族RNAを破壊することで も、遺伝子の発現を抑える。こうしてゲノムが外来の核酸の侵入を防御しているらしい 。Volpe たち(p. 1833; Allshireによる展望記事参照)は、RNAi (RNA干渉)機構が分裂酵 母中の動原体性異質染色質の形成を制御していることを示した。RNAiの少なくとも1成分 であるRdp1は動原体の配列に結合している。これら動原体の反復に起源をもつことが判明 したRNA転写物は、多分RNAiの標的であろう。この結論と整合性のある結果がReinhart と Bartel (p. 1831)によって得られている。すなわち、予想通りRNAiから生成された siRNAと思わ れるこれら転写生成物に由来する一連の小RNAが単離された。(Ej,hE)
MOLECULAR BIOLOGY:
RNAi and Heterochromatin--a Hushed-Up Affair

   Robin Allshire
p. 1818-1819.
Small RNAs Correspond to Centromere Heterochromatic Repeats
   Brenda J. Reinhart and David P. Bartel
p. 1831.
Regulation of Heterochromatic Silencing and Histone H3 Lysine-9 Methylation by RNAi
   Thomas A. Volpe, Catherine Kidner, Ira M. Hall, Grace Teng, Shiv I. S. Grewal, and Robert A. Martienssen
p. 1833-1837.

遺伝子の修復に向かって(On the Mend)

イオン勾配を作り出す膜タンパク質のファミリーは、アデノシン三リン酸(ATP)加水分解 のエネルギーを用いて、陽イオンをエネルギーの高い方に高い乳ガン感受性遺伝子の BRCA2は相同的組換えによる2本鎖DNA切断の修復に必要であり、染色体対の無傷のDNA鎖を 鋳型として、損傷を受けた対を修復する。Yangたち(p. 1837; およびWilsonとElledgeに よる展望記事)は、第2のタンパク質DSS1と1本鎖DNAとで複合体を構成しているBRCA2のカ ルボキシ末端領域の構造を示した。 BRCA2が直接DNAに結合することで、構成成分が組み 上がって骨格形成が可能になり、こうして染色体の完全性が保てるよう修復される 。(Ej,hE)
CANCER:
BRCA2 Enters the Fray

   John H. Wilson and Stephen J. Elledge
p. 1822-1823.
BRCA2 Function in DNA Binding and Recombination from a BRCA2-DSS1-ssDNA Structure
   Haijuan Yang, Philip D. Jeffrey, Julie Miller, Elspeth Kinnucan, Yutong Sun, Nicolas H. Thomä, Ning Zheng, Phang-Lang Chen, Wen-Hwa Lee, and Nikola P. Pavletich
p. 1837-1848.

タンパク質産生物によるリボソームの制御(Ribosome Regulation by Protein Products)

大腸菌トリプトファナーゼ・オペロン、tnaCのリーダーペプチド制御は、誘導物質の非存 在下で、25番目の位置に終止コドンをもち、24残基のペプチドを生じる。しかし、トリプ トファンがあると、リーダーペプチドは、リボソームにペプチジルtRNAとして付着したま まとなり、終止は遮断される。リーダーペプチドにおけるコドンを変化させたり、コドン 間のスペーシングを変えることで、GongとYanofskyは、新生ペプチドの配列が、おそらく 遊離トリプトファンのリボソーム結合部位を作り出すことで、リボソームの翻訳を制御し うる、ということを示している(p. 1864; またSachsとGeballeによる展望記事参照のこ と)。この故、ペプチドは翻訳による産生物であるだけでなく、翻訳の間のリボソームの 動きを制御することもできるのである。(KF)
BIOCHEMISTRY:
Sense and Sensitivity--Controlling the Ribosome

   Matthew S. Sachs and Adam P. Geballe
p. 1820-1821.
Instruction of Translating Ribosome by Nascent Peptide
   Feng Gong and Charles Yanofsky
p. 1864-1867.

作用の途中を捉える(Caught in the Act)

膜融合のプロセスは、膜輸送やウイルスの侵入、細胞分裂など、多くの細胞イベントにお いて鍵となる。しかし融合の機構そのもの、およびどのようにして2つの脂質二重層が融 合できるかについての詳細な構造の理解は、はっきりさせるのが難しかった。Yangと Huangは、このたび、対向する脂質単一層によって形成される一種の柄構造によって構成 されている脂質二重層融合中間物を表しているとみられる構造を可視化した(p. 1877; Grunerによる展望記事参照のこと)。(KF)
MEMBRANE FUSION:
Caught in the Act

   Sol M. Gruner
p. 1817-1818.
Observation of a Membrane Fusion Intermediate Structure
   Lin Yang and Huey W. Huang
p. 1877-1879.

樹状細胞の自己制御(Dendritic Cells Show Self-Control)

樹状細胞(DC)は、免疫応答のいくつかの種類を終了させる能力および免疫寛容状態への関 与のため、ますます認識されるようになっている。推定上の免疫寛容原性のDCサブセット を解明しつつあるが、この細胞が免疫を変調する機構はまだ不明である。Munnたち (p. 1867)は、少なくとも試験管内でT細胞の応答を阻害できるヒトのDCサブセットを記述して いる。このT細胞の応答は、インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ(IDO)という酵素がト リプトファンを異化することによる同種抗原への応答である。IDOが生体内でも試験管内 でも、T細胞の抗原特異的応答を防ぐことが知られている。今回の実験では、ヒトのDCサ ブセットは試験管内でIDOによってT細胞応答を阻害できることを証明していることによれ ば、この細胞が生体内でも同じ機構を利用していると思われる。DCが この機構によって、自己抗原と移植片と腫瘍への免疫応答を実際に制御するかはまだ実証 されていない。(An)
Potential Regulatory Function of Human Dendritic Cells Expressing Indoleamine 2,3-Dioxygenase
   David H. Munn, Madhav D. Sharma, Jeffrey R. Lee, Kanchan G. Jhaver, Theodore S. Johnson, Derin B. Keskin, Brendan Marshall, Phillip Chandler, Scott J. Antonia, Russell Burgess, Craig L. Slingluff Jr., and Andrew L. Mellor
p. 1867-1870.

染色質における型を設定するメチル化のパターン(Type-Setting Methylation Marks in Chromatin)

ヒストンのメチル化は、異質染色質の形成に関与するが、DNAのメチル化そして遺伝子発 現も制御することがある。この経路における染色質再構築因子の役割は今まで決まってい ないが、シロイヌナズナにおいてSWI/SNF様タンパク質であるDDM1が動原体と異質染色質 (heterochromatic)の反復のDNAメチル化には必要であることが知られている。Gendrelた ち(p. 1871)は、ヒストンH3のメチル化状態の分析によって、間質性の異質染色質のH3メ チル化のパターンの維持には必要であるが、ヒストンのメチル化全体のレベルの維持には 必要ではないことを示している。著者は、DDM1がこの後成的メチル化パターンの型を設定 するように機能することを推定している。(An)
Dependence of Heterochromatic Histone H3 Methylation Patterns on the Arabidopsis Gene DDM1
   Anne-Valérie Gendrel, Zachary Lippman, Cristy Yordan, Vincent Colot, and Robert A. Martienssen
p. 1871-1873.

光活性化型蛍光(Light-Activated Fluorescence)

生細胞中でのタンパク質のコホートを研究するため、Pattersonたち(p. 1873)は、光活 性化することができる蛍光タグ化法を開発した。タンパク質を操作して、413 nmの光を強 く照射したのち、488 nmの光により活性化したときに蛍光が100倍に増加するAequorea victoriaの緑色蛍光タンパク質の変異体を発現する。生細胞における核輸送とリソゾーム 膜交換の動態が記載される。(NF)
A Photoactivatable GFP for Selective Photolabeling of Proteins and Cells
   George H. Patterson and Jennifer Lippincott-Schwartz
p. 1873-1877.

多様性の弓なり型パターン:事実それとも人為要素?(Humped Pattern of Diversity: Fact or Artifact?)

MolinoとSabatier(2001年11月23日号、p. 1702のリポート)は、熱帯多雨林での樹木の 多様性を調べ、そして中程度の乱れ--死んだ樹木および倒れた樹木により引き起こされる 林冠の隙間--が、最大の種の豊かさを生み出す、という仮説を支持する証拠を見出した 。ArimとBarbosaは、"定常状態から乱れへと徐々に変化する場所(勾配領域)において 、種の多様性がこぶ状になっているパターンは測定に伴う方法論的な人為要素である"と コメントし、そしていずれか2つの種の群に由来する個体の異なるパターンを有する予想 される種の豊かさにより、結果としてこぶ状になった乱れが引き起こされる。それに応じ て、MolinoとSabatierは、ArimとBarbosaの解析に同意しているが、しかし、そのことは 彼らが観察した乱れ--多様性相関--を説明していないという考えを維持し、彼らは"低 い乱れのレベルおよび高い乱れのレベルが存在することにより、優先的ないくつかの種が 生まれること、その一方で中程度の乱れの場合にはニッチの数だけでなく種の均一性も上 昇させる"ことを示すデータを提示する。これらのコメントの全文は、以下のアドレスで 見ることができる。
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/297/5588/1763a (NF)
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