AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 19, 2002, Vol.297


速報(Brevia)
関連の藍藻を共有する地衣類(Lichen Guilds Share Related Cyanobacterial Symbionts)

地衣類は菌類と藻類の共生体である。全ての菌類のうちの約5分の1が地衣を形成してお り、約1500種の地衣が藍藻を含む。この藍藻のほとんどはNostoc属であるが、藍藻類の多 様性と特異性についてはあまり知られていない。Rikkineたち(p.357)は、北ヨーロッパ 、北西アメリカ、中国中央部から藍藻地衣類を採集して、16S rDNA配列とtRNALeu(UAA)イ ントロンの配列を用いて系統発生的関係を調べた。その結果、異なる種の菌類が共通の藍 藻類をパートナーとしてもっていることがわかった。(hE)
Lichen Guilds Share Related Cyanobacterial Symbionts
   Jouko Rikkinen, Ilona Oksanen, and Katileena Lohtander
p. 357.

最前線(The Front Lines)

チップ上のデバイス密度を増加する努力が続けられているが、リソグラフィー用レジスト に刻まれた形は、個々の高分子鎖のスケールに近づいてきている。Lin たち (p.372; Reichmanis と Nalamasu による展望記事を参照のこと) は、X線と中性子反射計測法を 結び合わせた技法を開発し、重水素化により化学的に増幅されたフォトレジストの反応前 線を確かめている。かれらは、ナノメートルスケールで、レジストの組成と密度のプロフ ァイルを取得した。この情報の利用によって、更に改良された材料設計が可能になるであ ろう。(Wt)
APPLIED PHYSICS:
Testing the Limits for Resists

   Elsa Reichmanis and Omkaram Nalamasu
p. 349-350.
Direct Measurement of the Reaction Front in Chemically Amplified Photoresists
   Eric K. Lin, Christopher L. Soles, Dario L. Goldfarb, Brian C. Trinque, Sean D. Burns, Ronald L. Jones, Joseph L. Lenhart, Marie Angelopoulos, C. Grant Willson, Sushil K. Satija, and Wen-li Wu
p. 372-375.

決められた時間内の場の切り換えは信号線を維持する(A Switch in Time Saves Lines)

たいていの核磁気共鳴 (NMR)実験においては試料に均一な磁場が当てられ、核スピン に特有な高周波パルスが印加される。戸外の穿孔のような孔の深いところでは、高磁場を かけることは困難であるか、あるいは均一な高磁場をかけることは困難である。従って 、このような場所では磁場を急に反転することによって信号を得るアプローチは有用であ ることがわかっている。しかし屋外では地磁気があるが、このような地球磁場は遮蔽する ことは困難であるため、強い反転磁場の影響は数ミリ秒だけしか持続しない。その地磁場 のような背景場を補償するために、二つのほとんど直交する場を反転させる方法を採用し てスピン共鳴は600ミリ秒以上継続させ、これによってスピン-弛緩時間の正確な計測を可 能にしたことをBrillたち(p. 369)は示している。(hk)
Nonresonant Multiple Spin Echoes
   Thilo M. Brill, Seungoh Ryu, Richard Gaylor, Jacques Jundt, Douglas D. Griffin, Yi-Qiao Song, Pabitra N. Sen, and Martin D. Hürlimann
p. 369-372.

極限まで一貫して(Taking Coherence to Extremes)

高調波発生は、分光学やリソグラフィーにおいて興味深い領域である極紫外線域において コヒーレントな光を発生するのに有望な方法である。しかし、その光を生み出すのに用い られる高電離媒体は、屈折率の変化によってコヒーレンシーが低下する。Bartels たち (p.376) は、電離アルゴン原子により放射された極紫外光の高調波による生成は、中空の ファイバー中で位相が整合していれば、ホログラム像を形成するのに十分な時間的、空間 的コヒーレンスを維持することができることを示している。(Wt)
Generation of Spatially Coherent Light at Extreme Ultraviolet Wavelengths
   Randy A. Bartels, Ariel Paul, Hans Green, Henry C. Kapteyn, Margaret M. Murnane, Sterling Backus, Ivan P. Christov, Yanwei Liu, David Attwood, and Chris Jacobsen
p. 376-378.

摩擦の問題(There's the Rub)

二種の高分子表面間の接着と摩擦が,高分子鎖の幾何的構造にどの程度依存しているのだ ろうか? Maedaたち(p. 379)は、無極性と極性の高分子を面力(面積力)測定装置 (surface forces apparatus)を用いて研究し、高分子が交差結合したときと、その後でそ の表面の交差を切断した時にどのぐらい摩擦が変化するかを調べた。接着と摩擦の双方共 、表面のフリーな末端基によって支配され、二つの表面が接触状態におかれたとき再配列 して、からみ合う。(KU,Ok)
Adhesion and Friction Mechanisms of Polymer-on-Polymer Surfaces
   Nobuo Maeda, Nianhuan Chen, Matthew Tirrell, and Jacob N. Israelachvili
p. 379-382.

融解量を計測する(Measuring Melting)

アラスカ沿岸の氷河から融解水が流入する量は、全世界的な海水面上昇に大きく寄与して いるが、この量を直接計測することは困難である。Arendtたち(p.382;Meierと Dyurgerovによる展望記事参照)は、アラスカ山岳氷河の67地点(その氷河地域全体の20%を カバーする)において、レーザー高度計測データを示し、その氷河による海面上昇の寄与 が、以前に理解されている以上に大きいことを明らかにした。1950年代中頃から1990年代 中頃にかけての推定量は、グリーンランド氷床全体から流入した量よりも約78%大きい 。さらに、融解の割合は過去10年間ではかなり上昇していたことも判った。(TO,Nk)
SEA LEVEL CHANGES:
How Alaska Affects the World

   Mark F. Meier and Mark B. Dyurgerov
p. 350-351.
Rapid Wastage of Alaska Glaciers and Their Contribution to Rising Sea Level
   Anthony A. Arendt, Keith A. Echelmeyer, William D. Harrison, Craig S. Lingle, and Virginia B. Valentine
p. 382-386.

水面を飛び、魚をすくい取る(Skimming for Fish?)

トビトカゲ(flying lizards)の絶滅したグループ、翼竜は恐竜が君臨した時代にいたが 、化石の記録が乏しいためその習性の理解は限られてきた。KellnerとCampos (p.389)た ちは、翼竜の新たな分類、タラソドロメウスThalassadromeus sethiを発見し、それは異 常に大きなトサカを持ち、そして特有な流線型の頭骨と顎を持っている。そのトサカは 、多数の血管系と見られる溝が走っており、それはおそらく体温調節の機能を果たしてい たと考えられる。溝のある頭骨と顎は、現存のトリ、Rynchopsと類似している。このトリ のように、タラソドロメウスは、湖面や海面をすれすれに飛び、頭部を水中に突っ込み 、魚や甲殻類を捕まえていたのであろう。(TO)
The Function of the Cranial Crest and Jaws of a Unique Pterosaur from the Early Cretaceous of Brazil
   Alexander W. A. Kellner and Diogenes de Almeida Campos
p. 389-392.

南極における海水塩分濃度低下(Getting Fresher)

南極近海で最長の計測記録である、ロス海における過去40年間の記録は、南極中層水の海 水塩分濃度が顕著に低下していることを示している。Jacobsたちは(p.386)、ロス海沿岸 海水とRoss Gyreの表面海水の塩分濃度が過去40年間に顕著に減少していることを報告し ている。彼等は、大気温度上昇と南極西部の氷床の溶融に呼応する沈殿量の増加、海氷生 産の減少などが複合した要因で、この海水塩分濃度低下を説明出来ると示唆している 。(Na)
Freshening of the Ross Sea During the Late 20th Century
   S. S. Jacobs, C. F. Giulivi, and P. A. Mele
p. 386-389.

昆虫世界のにおいのコーディング( Coding of Smell in the Insect World )

昆虫の脳におけるきのこ体は嗅覚学習や他のタイプの記憶形成に機能しているが、しかし ながらその情報処理の根底となる細胞のメカニズムはほとんど理解されていない 。Perez-Oriveたち(p. 359)は、バッタにおける触覚葉(antennal lobe)ーきのこ体系のコ ンピュータによる作用解析を行った。触覚葉投射ニューロンからの興奪性のインプット情 報と側角(lateral horn)介在ニューロンからのフィードフォワード抑制情報の結合により 、きのこ体のKenyon細胞の機能的特性が形成される。(KU)
Oscillations and Sparsening of Odor Representations in the Mushroom Body
   Javier Perez-Orive, Ofer Mazor, Glenn C. Turner, Stijn Cassenaer, Rachel I. Wilson, and Gilles Laurent
p. 359-365.

脳あるマウス(Brainier Mice)

人間の脳の表面にはひだや回転形状が見られるが、マウスには通常、これらは見られない 。Chenn と Walsh (p. 365; およびVogelによるニュース記事参照)は細胞の接着性接合部 位における成分の1つであり、構成的活性を示すβカテニン(細胞間接着に関与する成分 )の変異体が遺伝子組換えマウス中で発現するとマウスの大脳皮質が外側に拡大すること を示した。脳の表面は頭蓋空洞部に納まるように、曲げられ、しわが寄っている。ニュ ーロン分化の進行はほぼ正常のように見えるが、細胞数はずっと多く、ニューロンの前駆 体細胞量が拡大したことを示している。増大したβカテニンの情報伝達によってニューロ ン前駆体を分化させるのではなく、刺激して増殖させているように見える。(Ej,hE)
DEVELOPMENT:
Missized Mutants Help Identify Organ Tailors

   Gretchen Vogel
p. 328.
Regulation of Cerebral Cortical Size by Control of Cell Cycle Exit in Neural Precursors
   Anjen Chenn and Christopher A. Walsh
p. 365-369.

大き過ぎず、小さ過ぎず(Not Too Big, Not Too Small)

これまでは、力ずくのアプローチを使用して、細胞生物学における古典的な問題--細胞増 殖と細胞分裂周期とがどのように協働して細胞が特定の大きさを維持しているのか、とい う問題--に対処してきた。Jorgensenたち(p. 395;Sudberyによる展望記事を参照)は 、酵母半数体欠損系統の完全なセットに関して、システマティックな解析を行い、通常の 同種酵母と比較すると、より大型であるかまたはより小型であるかのいずれかである 、(数千の)系統を得た。遺伝子解析をさらに行ったところ、細胞が新しい細胞分裂周期 に送り込まれる酵母細胞周期の時点であるStartの、十数個の新規レギュレーターが示さ れた。この遺伝子群は、核遺伝子の中心的な役割に対するものであることが明らかにされ 、そして細胞サイズおよび細胞成長の調節においてリボゾームの生物発生に影響を与える 遺伝子群であることが明らかにされた。(NF)
CELL BIOLOGY:
When Wee Meets Whi

   Peter Sudbery
p. 351-352.
Systematic Identification of Pathways That Couple Cell Growth and Division in Yeast
   Paul Jorgensen, Joy L. Nishikawa, Bobby-Joe Breitkreutz, and Mike Tyers
p. 395-400.

恐怖のプロファイル(Profiles in Fear)

遺伝子型と表現型との結びつきは、神経伝達物質代謝の分野およびヒトの行動および個性 の主観的な評価の分野においては、特に魅惑的なものである。不安に関連する形質は、情 動および気分を司る重要なメディエーターでありかつモジュレーターである生体アミン 、セロトニン(5-HT)、およびシナプスのセロトニンを封鎖するセロトニントランスポ ーター(5-HTT)プロモーターの多型、と関連している。Haririたち(p. 400;Millerに よるニュース記事を参照)は、正常個体の脳の機能的磁気共鳴イメージングの結果を提示 する。2コピーのトランスポータープロモーター"l"アリル(長いアリル)を有する被検体 と比較して、1コピーまたは2コピーのトランスポータープロモーター"s"アリル(短いア リル)を有する被検体では、恐ろしい刺激に反応して、扁桃核(情動のプロセッシングに 密接に関与する脳構造)の反応性が増大することが見いだされた。(NF)
NEUROSCIENCE:
Gene's Effect Seen in Brain's Fear Response

   Greg Miller
p. 319.
Serotonin Transporter Genetic Variation and the Response of the Human Amygdala
   Ahmad R. Hariri, Venkata S. Mattay, Alessandro Tessitore, Bhaskar Kolachana, Francesco Fera, David Goldman, Michael F. Egan, and Daniel R. Weinberger
p. 400-403.

光を最大限に利用する(Making the Most of the Light)

ペルオキシソームは、代謝に関与する小さな細胞内細胞小器官である。哺乳類において異 常なペルオキシソームは、皮膚障害から神経病理学までのような影響を起こす。Huたち (p. 405)のシロイヌナズナ研究では、ペルオキシソームが正常な光形態形成に必要である ことを示している。植物のペルオキシソームタンパク質AtPex2pが正常な成長に必要であ る。AtPex2p遺伝子の変異は、Det変異による成長欠陥を抑制する。Detは、光形態形成の 遺伝子の発現を制御する核のタンパク質をコードする。(An)
A Role for Peroxisomes in Photomorphogenesis and Development of Arabidopsis
   Jianping Hu, Maria Aguirre, Charles Peto, José Alonso, Joseph Ecker, and Joanne Chory
p. 405-409.

変異を防ぐ(Guarding Against Mutation)

CpG部位の脱アミノ化による5メチルシトシンからチミン(T)への変化は、ヒトの遺伝病と 癌を引き起こす点変異の最多原因である。Millarたち(p. 403)は、メチルCpG結合タンパ ク質MBD4欠損のマウスを生成した。MBD4はCpG部位におけるG:TミスマッチからTを特異的 に削除する。MBD4欠損のマウスにおいて、CpG部位におけるC→Tの変異が三倍に増加した 。変異体マウスが癌感受性を増加する遺伝的背景のマウスと交配した時、子孫の腫瘍形成 が促進した。この結果は、MBD4は細胞の5メチルシトシンの変異性の対抗の主要な因子で あることを示す。(An)
Enhanced CpG Mutability and Tumorigenesis in MBD4-Deficient Mice
   Catherine B. Millar, Jacky Guy, Owen J. Sansom, Jim Selfridge, Eilidh MacDougall, Brian Hendrich, Peter D. Keightley, Stefan M. Bishop, Alan R. Clarke, and Adrian Bird
p. 403-405.

保持されて(Staying Put)

脾臓の辺縁領域(MZ)には多数のB細胞が存在していて、そこでそれらは血液中にある抗原 との定常的な接触を維持しているのである。これらのリンパ球は、抗体産生血漿細胞から なる広範なクラスターへと動き分化することによって、細菌に対して速やかに応答するの である。LuとCysterは、内皮を越えてのリンパ球輸送に関与する2つのintegrin、LFA-1と α4β1が、辺縁領域B細胞の遊走と局在化に役割を果たしているらしい、ということを示 している(p. 409)。辺縁領域からB細胞が大量に出ていくことは、これらintegrinとそれ ぞれのリガンドの相互作用が遮断された場合に生じる。このリンパ性ニッチにおけるリン パ球の保持は、リンパ球輸送と関連するいくつかのintegrinがより広い役割を有している ことを示唆するものである。(KF)
Integrin-Mediated Long-Term B Cell Retention in the Splenic Marginal Zone
   Theresa T. Lu and Jason G. Cyster
p. 409-412.

生体外での精子形成(Spermatogenesis in Vitro)

哺乳類のオスの出生直後から、生殖母細胞は輸精細管へと遊走し、雄性生殖系列幹細胞を 産生する。この未分化な精原細胞は高いレベルのテロメラーゼ活性を発現するが、分化が 生じるにつれ、この活性は失われていく。Fengたちは、テロメラーゼ触媒作用要素TERTを 未分化なマウス精原細胞に導入した(p. 392)。その結果生じた細胞は、不死化され、試験 管内で精母細胞および精子細胞へと分化した。このマウス株化細胞は、精子形成の研究や 不妊症の機構の解析にとって強力な道具となるかもしれない。(KF)
Generation and in Vitro Differentiation of a Spermatogonial Cell Line
   Li-Xin Feng, Yali Chen, Luis Dettin, Renee A. Reijo Pera, John C. Herr, Erwin Goldberg, and Martin Dym
p. 392-395.

ギガ・パスカルの圧力下で細胞は生存可能か(Are Cells Viable at Gigapascal Pressures?)

微生物のギ酸塩酸化を「代謝性生存度のプローブとして」用いて、Sharmaたちは、細菌 Shewanella oneidensisと大腸菌の複数の血統が、現在知られている地球上の生命の生存 条件を超える1ギガ・パスカル以上の圧力下でも生存可能である証拠を提示した(2002年 2月22日号の報告 p. 1514)。Yayanosは、コメントを寄せて、ギ酸塩酸化は細胞の生存度 についての代用としては不十分であり、「Sharmaたちはそれらの細胞が生存可能であり生 きている、ということに言及してはいるが、彼らの行なった観察はどれ1つとしてそうし た主張を支持していない」と論じている。Sharmaたちは、Yayanosによる懸念は「ほとん どの事例で意味論上の違いを反映しているように思われる」と応じ、研究で用いられた制 御方法は「観察されたギ酸塩酸化は、主として生物活性によるものである」ことを裏付け るものだった、と応えている。これらコメントの全文は、次で読むことができる。(KF)
www.sciencemag.org/cgi/content/full/297/5580/295a
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