AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 28, 2002, Vol.296


速報(Brevia)
水をオルソとパラに分離する(Separation of Water into Its Ortho and Para Isomers)

多原子分子は核スピン異性体として存在可能であり、たとえば、水素分子は核スピンが平 行なオルソと、これが反並行なパラの2種類がある。水分子でもオルソとパラが存在し、こ れらは50 K 以上では3:1の存在比で平衡が保たれており、衝突や遷移によるオルソとパラ の相互変換は理論的に禁止されている。従って、両者の変換は水素の交換という形で行わ れる。酸化アルミニウム表面にパラ水蒸気を選択的に吸着させる方法によって、オルソと パラを分離した。スピンの比率が偏った水固体(氷)を、平衡な3:1まで緩和する時間は 、少なくとも数ヶ月かかることが分かった。また、液体パラ水の寿命は26 ± 5 分、オル ソ水では55 ±5 分と測定された。(Ej)
Separation of Water into Its Ortho and Para Isomers
   Vladimir I. Tikhonov and Alexander A. Volkov
p. 2363.

生命がハードになったとき(When Life Got Hard)

生体鉱物生成(Biomineralization)は、カンブリア紀最初期の生体鉱物生成の複雑さが大 きく増大する以前に、段階的に発達してきたと考えられてきた。最近Woodたち(p.2383)は 、先カンブリア時代最末期近くの5億4800万年前の年代の石から、生物鉱化作用の複雑な パターンを示すある化石について記載した。この生命体は、Namapoikia reitogensisと名 づけられ、初期の礁(reef)の形成に一助となっていたかもしれない。(TO,Og)
Proterozoic Modular Biomineralized Metazoan from the Nama Group, Namibia
   Rachel A. Wood, John P. Grotzinger, and J. A. D. Dickson
p. 2383-2386.

コーナーで捕まえられる(Caught in the Corners)

カリックスアレーン(calixarene)は、多くの弱い相互作用を通して溶液中でゲスト分子を 捕獲するよう設計された環状分子である。Atwood たち (p.2367) は、calix[4]arene の 結晶は、いっそうのホスト-ゲストの妙技を演じうることを報告している---その分子の格 子間サイトは、結晶化の間、弱い相互作用にすぎないファンデアワールス相互作用により 、分子を捕獲することができる。そして、その捕獲は異常なほどの熱的安定性を有してい る。メタンと同様、多くのフレオン分子は低圧で捕獲され、それらの沸点を十分超えた温 度まで維持された。(Wt)
Storage of Methane and Freon by Interstitial van der Waals Confinement
   Jerry L. Atwood, Leonard J. Barbour, and Agoston Jerga
p. 2367-2369.

その旋回で分子を制御する(Controlling Molecules Through the Turns)

より複雑な分子における官能基間の相互作用は、比較的低いエネルギー障壁により隔てら れたおびただしい立体配置上の極小を生ずることがある。これによって、より大きな分子 では、ジペプチド(dipeptide)と同じように小さなものでさえ、エネルギーはすばやく再 配分される傾向があるため、赤外輻射を用いて分子を励起し、特別の立体配置を変換する ことは難しいであろうと予測されていたようである。それにもかかわらず、Dian たち (p.2369; Pratt による展望記事を参照のこと) は、紫外と赤外の分光法を組み合わせて 用いることにより、メチル基でキャップされたジペプチドである、N-acetyl-tryptophan methyl amide は、類似のエネルギーを有する約60個の立体配置的極小の存在にもかかわ らず、気相では3つのまるで異なる立体配置間を変換できることを示している。この選択 性は、ジペプチド中の特定の振動(この場合は、N-H 伸縮)を励起することに由来する。そ して、その振動は、ある特定の障壁を乗り越えるよう分子を駆り立てる。(Wt)
MOLECULAR DYNAMICS:
Biomolecules See the Light

   David W. Pratt
p. 2347-2348.
Conformational Dynamics in a Dipeptide After Single-Mode Vibrational Excitation
   Brian C. Dian, Asier Longarte, and Timothy S. Zwier
p. 2369-2373.

関係づけらる超伝導体(Correlated Superconductors)

電子-電子間反発は、通常の金属超伝導体の電子対形成とって有害であるはずである。し かしながら、いくつかの銅塩材料はMott絶縁層(insulating regime)付近で超伝導にな ることから、この直感的予想は怪しい。フラーレンにおける超伝導に関する最近の知見を 説明するための機構研究をしているCaponeたち(p. 2364)は、二つの材料間に類似点があ ることを示している。通常の超伝導体のように電子対形成はフォノン(音子)が媒介する が電子間相互作用は実際には超伝導遷移温度を高めることが、これらのモデル計算によっ て示唆されている。(hk)
Strongly Correlated Superconductivity
   M. Capone, M. Fabrizio, C. Castellani, and E. Tosatti
p. 2364-2366.

硝酸塩により砒素の毒性が軽減される(Arsenic Abatement via Nitrate)

地表水と地下水に含まれる高濃度砒素の問題は、その量、種類、また、砒素がどこから来 ているかに対する理解不足と組合わさっていることが多い。Sennたちは(p. 2373)、ボス トン近郊の都会形の湖の化学物質を数年間詳細に研究し、肥料の使用で高濃度に水中に排 出される汚染物質である硝酸塩が、無酸素状態での砒素の循環に大きな影響を与えている ことを示している。硝酸塩は毒性の強いAs(III)を、より毒性の低いAs(V)へと酸化を促進 する。また、硝酸塩はFe(II)を酸化して、砒素を除去する含水酸化鉄粒子を生成する 。(Na)
Nitrate Controls on Iron and Arsenic in an Urban Lake
   David B. Senn and Harold F. Hemond
p. 2373-2376.

古代のヘドロ食い(Ancient Slime Eaters)

東地中海の海底は層状の堆積物で特徴づけられる。緑茶色の有機汚泥(すなわち黒色泥 )は微細化石を含む炭酸塩泥と互層を形成している。汚泥中に脂肪酸があることから、こ れはバクテリア起源であろうと推測される。同時に多数の分裂中の細胞も見つかった 。Coolen たち(p.2407)は加水分解性酵素活性を観察し、これら古代の堆積物中にゆっく りではあるが顕著なグルコースの代謝生産物を観察した。この結果から、汚泥層は 200,000年以上古く、地球の炭素循環に関連する速度で今なお変化していることを示唆し ている。16SリボソームRNA分析によって、これら微生物のほとんどは緑色非硫黄細菌であ ることを示している。またこれらから、安定な同位体特徴や、汚泥から地中海海面の高さ に関する推察が再構成可能であることを示唆している。(Ej,Og)
Ongoing Modification of Mediterranean Pleistocene Sapropels Mediated by Prokaryotes
   Marco J. L. Coolen, Heribert Cypionka, Andrea M. Sass, Henrik Sass, and Jörg Overmann
p. 2407-2410.

より早い回復(Quicker Recovery)

白亜紀末における爆発流星(bolide)衝突の後で、森林の種の多様性がこれまで想定された よりもずいぶん早く回復した。JohnsonとEllis(p.2379)は、かつて衝突から140万年経っ てすぐにコロラドに存在していた、今日の森林と同様な多様性を持つ熱帯雨林について報 告する。この発見は、多様な植物の種はこの衝突を生き延びたこと、そして北アメリカの 気候はこの期間温暖であったことを示唆している。(TO,Og)
A Tropical Rainforest in Colorado 1.4 Million Years After the Cretaceous-Tertiary Boundary
   Kirk R. Johnson and Beth Ellis
p. 2379-2383.

炎症における感染防御( Infection Protection During Inflammation )

細菌に感染すると、好中性白血球が細菌を捕食するヘムタンパク質、ミエロペルオキシ ダーゼ(MPO)を遊離して殺菌性化合物を産生する。Eiserichたち(p. 2391)は、炎症におい てMPOの作用が生成する抗菌性酸化化合物よりも拡大していることを報告している。MPOは 哺乳動物の脈管構造に浸透し、一酸化窒素(NO)を酸化する事により急性炎症に対する血管 の機能を変える。NOは内毒素に応答してつくられる内皮-誘導血管弛緩剤である。NOの有 効性を下げることにより、MPOは感染によってつくられた血管の変化を弱める。この発見 は、ヒトのMPO欠乏が感染へのより高い感受性を説明するものであろう。(KU,NF)
Myeloperoxidase, a Leukocyte-Derived Vascular NO Oxidase
   Jason P. Eiserich, Stephan Baldus, Marie-Luise Brennan, Wenxin Ma, Chunxiang Zhang, Albert Tousson, Laura Castro, Aldons J. Lusis, William M. Nauseef, C. Roger White, and Bruce A. Freeman
p. 2391-2394.

農場における遺伝子の流れ( Gene Flow in the Field )

他家受粉によって、遺伝子改変(GM)植物からその周囲の作物へとどの程度の遺伝子の流 れがあるのかというフィールド研究が、Riegerたち(p. 2386:Stokstadによるニュース記 事を参照)により報告された。除草剤に耐性を持つよう改変されたアブラナのある系統 、Brassica napus(ナタネ)が、2000年にオーストラリアでは初めて、商業的規模で栽培さ れた。広範囲に地理的に分散したサンプルによる周囲の農場での分析により、アブラナ農 場の間では低レベルでの他家受粉があることが明らかになった。長距離受粉の範囲は予想 よりもランダムであった。(KU,NF)
AGBIOTECH:
A Little Pollen Goes a Long Way

   Erik Stokstad
p. 2314.
Pollen-Mediated Movement of Herbicide Resistance Between Commercial Canola Fields
   Mary A. Rieger, Michael Lamond, Christopher Preston, Stephen B. Powles, and Richard T. Roush
p. 2386-2388.

光のモチーフ( A Light Motif )

緑藻類は光に反応して移動し、光合成による成長のための最適な環境を見出しているが 、この移動は光受容器電流で導かれている。Nagelたち(p. 2395)は、緑藻類のコナミドリ ムシreinhardtiiにおいてオプシン-関連タンパク質、Channelopsin-1を同定したが、この タンパク質は走光性に関与する光受容器と推定されている。アフリカツメガエルの卵細胞 中において全trans-レチナールの存在下で、Channelopsin-1の発現により光-誘発水素イ オン電流が発生した。このコンダクタンスの特徴により、Channelopsin-1が光ゲート水素 イオンチャネルを形成していることを示唆している。(KU)
Channelrhodopsin-1: A Light-Gated Proton Channel in Green Algae
   Georg Nagel, Doris Ollig, Markus Fuhrmann, Suneel Kateriya, Anna Maria Musti, Ernst Bamberg, and Peter Hegemann
p. 2395-2398.

致死的な変異は等しい?(Lethals Equal?)

有害性変異でも、すぐに死亡させることはしないが、数世代に渡ってしつこく残り、蓄積 することが多い。McCuneたち(p 2398)は、Lucania goodeiとDanio rerioというふたつの 系統的に多岐の硬骨魚類の個別な育種実験により、このような変異の出現頻度を推定した 。結果をショウジョウバエ種とアフリカツメガエルと比較したところ、ゲノムサイズと遺 伝子数が大きく異なる動物に、ほぼ同数の致死変異が発生することを発見した。(An)
A Low Genomic Number of Recessive Lethals in Natural Populations of Bluefin Killifish and Zebrafish
   Amy R. McCune, Rebecca C. Fuller, Allisan A. Aquilina, Robert M. Dawley, James M. Fadool, David Houle, Joseph Travis, and Alexey S. Kondrashov
p. 2398-2401.

特別配達によって腫瘍を崩壊(Destroying Tumors by Special Delivery)

固形腫瘍は、血液供給のない環境では十分に成長しないため、腫瘍に供給する活動的に成 長している血管を選択的に破壊する薬の設計に多くの努力が向けられてきた。Hoodたち (p. 2404;Couzinによるニュース記事参照)は、陽イオン性ナノ粒子(NP)は腫瘍血管に有毒 な遺伝子を輸送できることを示している。NPの血管ターゲティングと内部移行は、それら がインテグリンαvβ3の有機物リガンドに結合することによってでき、標的内皮細胞の死 亡は、NPが、細胞シグナル伝達を遮断する変異体Raf遺伝子に結合することによってでき た。この調整したNPの全身性注射によって、マウスにおける原発腫瘍および転移性腫瘍の 永続性退行を果たした。(An,NF)
CANCER RESEARCH:
Nanoparticles Cut Tumors' Supply Lines

   Jennifer Couzin
p. 2314-2315.
Tumor Regression by Targeted Gene Delivery to the Neovasculature
   John D. Hood, Mark Bednarski, Ricardo Frausto, Samira Guccione, Ralph A. Reisfeld, Rong Xiang, and David A. Cheresh
p. 2404-2407.

精神発達遅滞に対する遺伝的手がかり(Genetic Clue to Mental Retardation)

アンギオテンシンIIに対する受容体の一つ、AGTR1は、血圧、水電解質バランスおよびホ ルモン分泌を調節するための中心的な役割を果たしている。二つ目の受容体、AGTR2は 、脳を含む様々な組織において発現しているが、しかしその機能はほとんど知られていな い。Vervoortたち(p. 2401)は、X-染色体連鎖精神発達遅滞を有する家族における原因 遺伝子としてAGTR2を同定し、そしてこの疾患を有するが親族ではない590名の男性患者の うち8名において、フレームシフトまたはミスセンス変異などの配列変化を見出している 。これらの結果から、AGTR2は脳の発生、認知機能、またはその両方において役割を果た していることが示唆される。AGTR2のシグナル伝達経路をさらに研究した結果、人口の 2〜3%が罹患している精神発達遅滞の病因に見通しを与えることができるかもしれない 。(NF)
AGTR2 Mutations in X-Linked Mental Retardation
   Virginie S. Vervoort, Michael A. Beachem, Penny S. Edwards, Sydney Ladd, Karin E. Miller, Xavier de Mollerat, Katie Clarkson, Barbara DuPont, Charles E. Schwartz, Roger E. Stevenson, Ellen Boyd, and Anand K. Srivastava
p. 2401-2403.

遺伝子治療の正しいコンディショニング(The Right Conditioning for Gene Therapy)

アデノシンデアミナーゼ(ADA)が欠損することにより生じる重症複合型免疫不全 (SCID)は、ヒトにおける造血幹細胞(HSC)遺伝子治療試験についての格好の標的であ る。遺伝子的に操作されたHSC細胞が成長の優位性を有しており、それにより低レベルの 矯正であっても患者において有効である場合があると望まれた。以前の試験では、少数の 超寿命の遺伝的矯正細胞およびトランスジーンの低レベルな発現では十分ではないことが 示された。Aiutiたち(p. 2410)は、患者そして形質導入した細胞の成長のために骨髄中 に空間を作り出す細胞に対するコンディショニング処方を作り上げた。治療後1年後に 、2人の患者で、高レベルの形質導入細胞と臨床的改善が見いだされ、これらの患者は現 在、酵素置換療法をもはや必要としていない。このアプローチは、造血系が関連するその 他の先天性の疾患を治療する際にも有用である可能性がある。(NF)
Correction of ADA-SCID by Stem Cell Gene Therapy Combined with Nonmyeloablative Conditioning
   Alessandro Aiuti, Shimon Slavin, Memet Aker, Francesca Ficara, Sara Deola, Alessandra Mortellaro, Shoshana Morecki, Grazia Andolfi, Antonella Tabucchi, Filippo Carlucci, Enrico Marinello, Federica Cattaneo, Sergio Vai, Paolo Servida, Roberto Miniero, Maria Grazia Roncarolo, and Claudio Bordignon
p. 2410-2413.

5千万年をかけたストリップ(50-Million-Year Striptease)

生命の系統樹を研究しようという野心的な研究の限界の一つは、時期を較正するために用 いることのできる細菌の化石が欠けていることである。この問題は、細胞内の細菌性共生 生物Buchneraについては、克服されているが、それは、その系統発生が化石のある宿主昆 虫の系統発生を反映しているからである。比較ゲノム分析によって、Tamasたちは 、Buchnera aphidicolaの最小限(minimalist)ゲノムが、その親戚である悪名高い大腸菌 やサルモネラ菌とは違って、5千万年も変化してこなかったということを示している(p. 2376)。Buchneraがその宿主の中で単離していることによって、そのゲノムの断片および それと関連する移動性要素が分離する遺伝的浮動が可能になり、本質的部分のみが残され ることになったのかもしれない。(KF)
50 Million Years of Genomic Stasis in Endosymbiotic Bacteria
   Ivica Tamas, Lisa Klasson, Björn Canbäck, A. Kristina Näslund, Ann-Sofie Eriksson, Jennifer J. Wernegreen, Jonas P. Sandström, Nancy A. Moran, and Siv G. E. Andersson
p. 2376-2379.

低酸素による死の制御(Regulating Death by Hypoxia)

心発作や心臓のストロークなどの低酸素性の病気が高い発生率を示しているため、低酸素 条件に対し生物体がいかに応答するかを管理する生物学的機構のよりよい理解が非常に強 く望まれている。Scottたちは、線虫(C.elegans)をスクリーニングすることで、低酸素- 抵抗性(Hyp)変異体を選び出した(p. 2388; またSAGEにあるLongoの展望記事参照のこと) 。DAF-2インシュリン様受容体の特異的対立遺伝子が、Hyp表現型の性質を与えていた 。DAF-2変異体をもつ線虫が長命でさまざまな環境的ストレスに抵抗性を有することは知 られていたが、この低酸素経路は、長命やストレス抵抗性を制御する情報伝達経路とは別 のものである。さらに加えて、この研究は、DAF-2活性が低酸素条件にさらされる前に下 方制御され、低酸素-保護性効果を用意することがありうることを示している。(KF)
Regulation of Hypoxic Death in C. elegans by the Insulin/IGF Receptor Homolog DAF-2
   Barbara A. Scott, Michael S. Avidan, and C. Michael Crowder
p. 2388-2391.

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