AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 24, 2002, Vol.296


速報(Brevia)

大人が幼児に話し掛けるときの言葉は、いわゆる赤ちゃん言葉であり、基本周波数が高く 、イントネーションが強調され、感情を強調するし、母親の場合は母音を明瞭に発音する 。この現象は、英語であろうとロシア語であろうと、日本語であろうと、共通に見られる ことから、幼児の言語学習を助けることと関係あるものと思われている。しかし、その直 接的証拠を見つけることは極めて困難であった。また、ペットに対しても類似の現象が指 摘されていたが、その比較実験は行われてはいなかった。比較の結果、母親は幼児に対し ては母音の明瞭化(vowel hyperarticulation)は行うが、ペットに対しては行わない。こ れは、人間が聞き手に合わせようとする習性によって説明できるかも知れない。例えば外 国人に対しては、母音の明瞭化は行うが、感情強調はしな いというように。(Ej,hE)
What's New, Pussycat? On Talking to Babies and Animals
   Denis Burnham, Christine Kitamura, and Ute Vollmer-Conna
p. 1435.

複合機能を持つ分子(Multitasking Molecules)

スピロ-biphenalenyl中性ラジカルをベースとする有機分子伝導体は内部の電荷移動によ り電気的、光学的、磁気的に2つの安定状態を同時に持つ。Itkisたちは(p. 1443)、この 有機分子伝導体が高温常磁性状態で、不対電子が二量体の外側のphenalenyl内に分離され 、スピン対の低温反磁性状態では、電子は内側のphenalenylに移動しρ二量体としてスピ ン対をつくることを示している。常磁性状態では電気的に絶縁され、赤外領域では透明と なる、一方、反磁性体状態は導電性で赤外領域で不透明となる。(Na)
Magneto-Opto-Electronic Bistability in a Phenalenyl-Based Neutral Radical
   M. E. Itkis, X. Chi, A. W. Cordes, and R. C. Haddon
p. 1443-1445.

サルマネをたどる(Traces of Monkey Business)

サルはどの程度道具を利用しているか、そして、古代においてはどうだったのだろう ?Mercader たち(p. 1452; Vogelによるニュース記事参照)は、チンパンジーが昔からナ ッツを割って食べる場所を発掘した。その結果400 kgのナッツの殻と、4 kgの石が発掘さ れ、昔からチンパンジーは役立つ石を集め、これを、ナッツを割って食べる場所に運んで いることが分かった。この中には石の薄片や、割られた石がたくさん存在し、表面的には 初期人類の様相に近い。(Ej,hE)
Excavation of a Chimpanzee Stone Tool Site in the African Rainforest
   Julio Mercader, Melissa Panger, and Christophe Boesch
p. 1452-1455.

循環型宇宙(Cyclic Universe)

宇宙の起源に関する標準モデルでは、ビッグバンで始まり、そして、インフレーション という時空が急速に膨張する短い期間に引き継がれる。Steinhardt と Turok (p.1436) は、新しいモデルを提出することで古い理論をよみがえらせた。このモデルは、始まり も終わりもないが、一連のバン(爆発的な膨張)とクランチ(収縮)とから成っている。彼 らは、負のポテンシャルエネルギーを用いている。これは、膨張から収縮への反転を引 き起こす空間的曲率ではなく、ひも理論によって動機づけられたものである。標準モデ ルとは異なり、この循環的宇宙は、加速している膨張と暗黒のエネルギーに関する最近 の発見を説明することができる。(Wt)
A Cyclic Model of the Universe
   Paul J. Steinhardt and Neil Turok
p. 1436-1439.

大脱走(The Great Escape)

ヒト免疫不全症ウイルス-1型(HIV-1)が細胞障害性T細胞によって認識されないよう「脱走 」するために変異するという仮説は、それを支持する直接的な証拠なしに十年以上も生き 続けてきた。Mooreたちは、ウイルス性逆転写酵素遺伝子の207個のアミノ酸に対応する配 列中に、集団レベルでのHIV-1変異体の選択を探しもとめた(p. 1439;また、McMichaelと Klenermanによる展望記事参照のこと)。HLA対立遺伝子型をもつ個体からなる広範なコ ーホートにおいて、共通配列によってカバーされるCTLエピトープ内における、あるいは その近くにある多形性は、高いウイルス性負荷と有意に関連していた。CTLのレーダ ー・スクリーンからHIV-1が逃れ出ることは、HIV-1ワクチンと治療法を考える際に、考慮 すべき決定的な事柄である。(FK)
HIV/AIDS:
HLA Leaves Its Footprints on HIV

   Andrew McMichael and Paul Klenerman
p. 1410-1411.
Evidence of HIV-1 Adaptation to HLA-Restricted Immune Responses at a Population Level
   Corey B. Moore, Mina John, Ian R. James, Frank T. Christiansen, Campbell S. Witt, and Simon A. Mallal
p. 1439-1443.

予測できない配線図(Unpredictable Wiring Diagrams)

遺伝的ネットワークのふるまいを予測するのは、以前考えられていたよりもっとずっと込 み入ったことであるかもしれない。Guetたちは、大腸菌における合成遺伝子ネットワーク のライブラリを作り上げた(p. 1466;また、WiglerとMishraによる展望記事参照のこと) 。LacIやTetR、lambda CIを、それらタンパク質によって制御される5つのプロモータとと もに、多様な順序でプラスミド上で連結した。LacIとTetRの結合状態を変化させる2つの 化学的誘導物質を入力として用い、活性の蛍光性レポーターを出力に用いる。そうしたは っきりと特徴付けられた要素の中でも驚くべきことがあった。プロモータとDNA結合タン パク質の間の結合を1ヵ所入れかえるだけで、ネットワークのふるまいが劇的に変わるの である。(KF)
GENETICS:
Wild by Nature

   Michael Wigler and Bud Mishra
p. 1407-1408.
Combinatorial Synthesis of Genetic Networks
   Calin C. Guet, Michael B. Elowitz, Weihong Hsing, and Stanislas Leibler
p. 1466-1470.

近道で伝える(Signaling Shortcut)

フェロモンに対する酵母の交配応答には、細胞表面のフェロモン受容体で開始され、ヘテ ロ三重体GTP結合タンパク質(Gタンパク質)に結びつき、最終的に分裂促進因子によって活 性化されるタンパク質リン酸化酵素(MARK:MAPキナーゼ)を活性化するにいたるカスケ ードを介した信号伝達が含まれる。Metodievたちは、フェロモンに対する引き続いて進む 順応応答も、これと同じ経路によるものではあるが、近道を通って進む、ということを報 告している(p. 1483)。Gタンパク質のGαサブユニットは下流のMAPKと直接相互作用し 、交配信号を下方制御するのである。この出し抜き戦略は、より高等な真核生物における 、Gタンパク質によって刺激される他のMAPKカスケードにも適用できるものかもしれない 。(KF)
Regulation of MAPK Function by Direct Interaction with the Mating-Specific G alpha in Yeast
   Metodi V. Metodiev, Dina Matheos, Mark D. Rose, and David E. Stone
p. 1483-1486.

火成岩中で失われた生命のしるし(Life Signs Lost in Igneous Rocks)

いつ生命が地球上で始まったかを正確に指し示すことは困難である。最も古い化石は 、34.5億年前までさかのぼる岩石の中に存在していると考えられている。しかし、最近の 結果は、このように称されてきた化石が生物的な起源であることに疑問を投げかけてきた 。より古い生命に対する化学的な証拠は、グリーンランドの古い岩石中の炭素同位体の兆 候に基づいて、提示されてきた。その最も古い兆候は、38億年前と考えられる Akilia 島 の変成岩中に見られるりん灰石の結晶中のグラファイト含有物中に保存されていると報告 されている。これらのグラファイト含有物は、その岩石に堆積した有機物を表していると 解釈されていた。そして、その岩石は堆積性の鉄の層であると考えられていた。Fedo と Whitehouse (p.1448; Kerr によるニュース解説を参照のこと) は、元 となる岩石は実際には火成岩であり、それが引き続き変化して顕著なバンド構造を形成し たのであるとの論を唱えている。いかなる有機物も、主たる起源ではないであろう。(Wt)
PALEONTOLOGY:
Reversals Reveal Pitfalls in Spotting Ancient and E.T. Life

   Richard A. Kerr
p. 1384-1385.
Metasomatic Origin of Quartz-Pyroxene Rock, Akilia, Greenland, and Implications for Earth's Earliest Life
   Christopher M. Fedo and Martin J. Whitehouse
p. 1448-1452.

切断するための準備(Preparing to Make the Cut)

ヘアピンリボザイムは、不均一な反応動力学に基づいてその基質であるRNAを切断する 。今回Zhuangたち(p. 1473)は、単一分子蛍光法を用いて、“機能におけるこの不均一性 が複雑な構造動力学に関連している”ことを示した。このリボザイムは、固定していない (undocked)コンホメーションで存在するか、あるいは四つの異なる固定した (docked)状態のうちのいずれかで存在している。個々の分子は“メモリー効果”を示し 、異なる固定状態間で切り替わることは滅多にない。切断は固定状態においてのみ起こり 、そして複数の非固定状態が存在することとメモリー効果とが組み合わさって不均一な切 断反応動力学を説明される。機能と関連している複雑な構造動力学は、おそらくRNA動力 学の一般的な特徴である。(hk)
Correlating Structural Dynamics and Function in Single Ribozyme Molecules
   Xiaowei Zhuang, Harold Kim, Miguel J. B. Pereira, Hazen P. Babcock, Nils G. Walter, and Steven Chu
p. 1473-1476.

成人と子供の学習 (Learning in Adults and Children)

人間の認識機能の発達の研究のひとつの主な問題は、乳児期だけではなく青年期まで、も しかする成人期まで、脳の解剖的にも、機能的にも両方とも成長するという期待である 。Schlaggarたち(p. 1476;Caseyによる展望記事参照)は、年齢関連と能力関連の発達イベ ントを解析する新しいアプローチである行動と脳イメージングの研究について報告してい る。著者たちは、子供(7歳〜10歳)と成人が語彙処理問題においてどのように単語を生成 するかについて評価したところ、成人は左背側前面の領域を利用し、子供はこの領域にア クセスできずに線条体外の領域に依存するらしいことを発見した。この説明として、前面 の機能が成熟するにつれてこの脳領域の代替戦略が廃棄されることが考えられる。(An)
NEUROSCIENCE:
Windows into the Human Brain

   BJ Casey
p. 1408-1409.
Functional Neuroanatomical Differences Between Adults and School-Age Children in the Processing of Single Words
   Bradley L. Schlaggar, Timothy T. Brown, Heather M. Lugar, Kristina M. Visscher, Francis M. Miezin, and Steven E. Petersen
p. 1476-1479.

汝いずこへ行こうとも...(Whither Thou Goest...)

運動の生成に加え、脳は次に起こりうる運動についての内部記録も生成しなければならな い。次に起きる運動に関する情報は、運動を命令するニューロンの活性の相関発射か随伴 発射の放電を作成することによって生成される。SommerとWurtz(p. 1480)は、以前に同定 した脳幹から前頭葉への経路の場合には、相関生成の証拠を発表している。上丘から発生 する随伴発射の信号は、視床の背側正中核を通って前面の眼の領域へ上流に中継される 。前頭前野は、眼球の断続性運動の生成に関与する上丘ニューロンの活性の経路によって 通知される。(An)
A Pathway in Primate Brain for Internal Monitoring of Movements
   Marc A. Sommer and Robert H. Wurtz
p. 1480-1482.

新しい目(A New Order)

新しく記載された昆虫が、すでに承認された目--たとえば、甲虫やノミなどの大まかな分 類--の中に位置づけられないことが最後に確認されてから、ほぼ一世紀の時が経過した 。ここで、Klassたち(p. 1456;Pennisiによる4月19日のニュース記事を参照)は、新規 の現存の昆虫分類群を発見したことを報告している。新しい目は、2つの種(Mantophasma zephyra gen. et sp. nov.、ナミビア由来のメス個体;およびM. subsolana sp. nov.、タンザニア由来のオス個体)を有するMantophasmatodeaであり、無翅肉食性の Grylloblattodea(ガロアムシ)および/またはPhasmatodea(ナナフシ)との近縁関係が あるようであり、これは、ナミビアおよびタンザニアから取り寄せた2種類の博物館標本 に基づいて記述されている。著者たちは、バルト諸国の琥珀の中にMantophasmatodeaが存 在することに注目しており 、これは、第三紀におけるこの群の地理的な分布が、ずっと広かったことを示している 。(NF)
Mantophasmatodea: A New Insect Order with Extant Members in the Afrotropics
   Klaus-D. Klass, Oliver Zompro, Niels P. Kristensen, and Joachim Adis
p. 1456-1459.

コード表にピロリジンを追加(Adding Pyrrolysine to the Code Book)

1986年に、セレノシステインがUGA(これは通常、アンバーコドンと呼ばれている翻訳終 止コドンである)により直接的にコードされることが見いだされ、21番目のアミノ酸とし て同定された。ここで、2本の報告が、ある古細菌のメチルトランスフェラーゼ遺伝子中 のアンバーコドンが、新規のリジン誘導体をコードすることを示している(Atkinsと Gestelandによる展望記事を参照)。Haoたち(p. 1462)は、UAGがピロリジンとして翻訳 されるという結晶学的な証拠を提示し、そしてSrinivasanたち(p. 1459)は、異常な tRNA合成によりリジンに結合させることができる、専門化トランスファーRNA(tRNA)の 特性決定をしている。セレノシステインの翻訳メカニズムを用いた類推により、tRNAがリ ジンにより結合され、そしてその後、UAGが翻訳される前に修飾されてピロリジンにな るようである。(NF)
Pyrrolysine Encoded by UAG in Archaea: Charging of a UAG-Decoding Specialized tRNA
   Gayathri Srinivasan, Carey M. James, and Joseph A. Krzycki
p. 1459-1462.
A New UAG-Encoded Residue in the Structure of a Methanogen Methyltransferase
   Bing Hao, Weimin Gong, Tsuneo K. Ferguson, Carey M. James, Joseph A. Krzycki, and Michael K. Chan
p. 1462-1466.
BIOCHEMISTRY:
The 22nd Amino Acid

   John F. Atkins and Ray Gesteland
p. 1409-1410.

悪液質治療への糸口(A Clue to Cachexia)

癌やエイズといった長期の慢性疾病の患者は、激しい体重減少と骨格筋の変質で特徴のあ る生命を脅かす病気、悪液質をしばしば発生する。悪液質の分子的な病理発生のメカニズ ムは殆ど知られていない。Zimmersたち(p. 1486)は、マウスに腫瘍成長因子―βファミリ ーのメンバーであるmyostatinを高レベルで系統的に投与すると、ヒト悪液質に似た衰弱 症候群が発生することを示している。Follistatinといったmyostatin活性を抑制するタン パク質を事前投与すると、マウスにおける体重減少が緩慢になった。このような結果は 、myostatinが癌患者全体の約25%の末期死の原因と推定されている悪液質の予防や治療に 対する有効なる薬剤標的となる可能性がある。(KU)
Induction of Cachexia in Mice by Systemically Administered Myostatin
   Teresa A. Zimmers, Monique V. Davies, Leonidas G. Koniaris, Paul Haynes, Aurora F. Esquela, Kathy N. Tomkinson, Alexandra C. McPherron, Neil M. Wolfman, and Se-Jin Lee
p. 1486-1488.

小惑星パートナーが張本人(Asteroidal Partners in Crime)

地球近傍の物体が将来地球に衝突する確率は通常低いが、その被害は甚大である。従って 、この集団の探索と特性を調べることはやはり重要である。Margotたち(p.1445)は、地球 周辺のレーダー画像上に数個の二重連小惑星を検出し、二重連星で構成される集団の 16%(200メートル以上の直径を持つ)について計算した。それ以外の他の二重連星は、西 ドイツにあるRies-Steinheimクレーター系のような、二重クレータ系を起こした張本人で あったかも知れない。さらに加えて、こうした二重連星の形成メカニズムは、あるいは惑 星の近くを通り過ぎる際の潮汐による破壊によるもので、これにより太陽系の起源と進化 をより理解することができるかもしれない。(TO)
Binary Asteroids in the Near-Earth Object Population
   J. L. Margot, M. C. Nolan, L. A. M. Benner, S. J. Ostro, R. F. Jurgens, J. D. Giorgini, M. A. Slade, and D. B. Campbell
p. 1445-1448.

植物のペプチド受容体(Plant Peptide Receptor)

重要な情報伝達分子として作用する数多くの小さなペプチドが動物において同定されてい るが、ごく最近似たような分子が植物でも認識されている。Matsubayashiたち(p. 1470)は、ニンジンの細胞において硫酸化ペプチド、phytosulfokine に対する受容体らし きものを同定した。このタンパク質は単一の膜貫通領域を持つ受容体キナーゼで、細胞外 領域でロイシンリッチの繰り返しに特徴を持っている。Phytosulfokineと受容体の相互作 用により植物組織の増殖と再生能力が制御されている。(KU)
An LRR Receptor Kinase Involved in Perception of a Peptide Plant Hormone, Phytosulfokine
   Yoshikatsu Matsubayashi, Mari Ogawa, Akiko Morita, and Youji Sakagami
p. 1470-1472.

中国の森林バイオマスの変化を計算する(Calculating Forest Biomass Changes in China)

Fangたち(p.2320;2002年7月22日報告)は、森林資源の年代記録(forest inventory records)を使い、炭素の森林バイオマスの蓄積量が1970年代中頃からかなり増加してきた ことを計算し、それは"主に森林の拡大と再生によるものである"と述べた。Zhang とXuは 、Zhangたちによる森林バイオマスを推定するために使われた数式は、植物立地分類デ ータ(site classification)に依存しているが、1950年代からの中国森林資源統計報告の どこからもその情報を入手することはできないとコメントした。この回答として、Fangた ちは、原論文に記述した数式は、植物立地分類(site class)情報に依存しない単純化した 数式と数学的に等価であることを示す。こうしたコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/296/5572/1359a で見 ることができる。(TO)
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