AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 17, 2002, Vol.296


速報(Brevia)

新星で宇宙の距離を測る(Rebirth of Novae as Distance Indicators Due to Efficient, Large Telescopes) Della ValleとGilmozziは口径8.2mの非常に強力な望遠鏡と新技術を用い(p. 1275)、もっ とも遠い4つの新星を発見した。これらの新星を基準として用いることで宇宙の形と拡大 の様子を測定することが可能となるだろう。(Na)
Rebirth of Novae as Distance Indicators Due to Efficient, Large Telescopes
   M. Della Valle and R. Gilmozzi
p. 1275.

三畳紀−ジュラ紀の衝撃? (Triassic-Jurassic Impact?)

三畳紀−ジュラ紀境界において、多くの種が絶滅した原因は知られていない。Olsenたち (p1305;Kerrによるニュース記事参照)は、その境界に大気圏外での火球(bolide)衝撃に関 係すると思われるイリジウムの濃集(平均値の2倍の285ppt)を発見した。衝撃は多くの 種を滅び去り、そして後に恐竜たちが発達しジュラ紀の地上を支配する余地を残したもの と思われる。(TO,Tk) Triassic-Jurassic Impact?
EVOLUTION:
Did an Impact Trigger the Dinosaurs' Rise?

   Richard A. Kerr
p. 1215-1216.
Ascent of Dinosaurs Linked to an Iridium Anomaly at the Triassic-Jurassic Boundary
   P. E. Olsen, D. V. Kent, H.-D. Sues, C. Koeberl, H. Huber, A. Montanari, E. C. Rainforth, S. J. Fowell, M. J. Szajna, and B. W. Hartline
p. 1305-1307.

分離の論争(Contentions on Separation)

社会構造は、例えば、いくつかローカルなネットワークを通してある個人から他人へと数 回のステップ(すなわち任意の個人から別の任意の他人へ6つのステップ)でたどれるよう に構成されている。Wattsたち(p.1302)は、この調査結果から6つの社会的次元に基づき 個人を構成員とするグループにより形成される社会ネットワーク構造のモデル化を行った 。このモデルは、人々に対してあるいはWWWにおけるWebページに対して、効率のよいネッ トワークの検索方法を開発するために有効であろう。(TO)
Identity and Search in Social Networks
   Duncan J. Watts, Peter Sheridan Dodds, and M. E. J. Newman
p. 1302-1305.

不均質なマントルのモデル化(Modeling a Heterogeneous Mantle)

410 kmと660 kmの2箇所の深さのマントル中において、地震波の速度の急激な上昇が見 られる。この不連続性は、通常、410 kmの深さにおいてカンラン石(olivine)からリン グウッダイト(ringwoodite)への構造変化が生じること、また、660 kmの深さにおいて 、リングウッダイトからペロヴスカイト(peovskite)とマグネジオヴスタイト (magnesiowustite)に構造変化することが原因である。しかし、地震波の全てのデータ が、この原因で説明できるわけではない。ここで2つの報告が、このマントルの構造に ついて更に詳しく研究している。Lebedev たち(p. 1300)は、地震波速度からみて、南 東アジアとオーストラリアの下では、カンラン石の構造変化が起きているに違いない 。殊に、各々の構造変化における圧力変化に伴う温度勾配成分を地震波データから抽出 することができた。これらの事 実から、地球科学者たちはマントルが地球規模の構造変化とは異なる、地域的に不均一な 動力学を識別することができるはずである。Trampert と van Heijst (p. 1297)は、この 遷移領域を異なる方向に伝播する音波の横波(shear wave、これを地震波異方性と呼ぶ)の 変動量について詳細に調べた。彼らは、横方向に異方性の変動が存在することを発見し 、これを構造の不均一と関連付けた。即ち、粒子の並び具合によるものなのか、溶融ポケ ットが整列していることと関連しているとか。(Ej,hE,Tk)
Global Azimuthal Anisotropy in the Transition Zone
   Jeannot Trampert and Hendrik Jan van Heijst
p. 1297-1299.
Seismic Evidence for Olivine Phase Changes at the 410- and 660-Kilometer Discontinuities
   Sergei Lebedev, Sébastien Chevrot, and Rob D. van der Hilst
p. 1300-1302.

原子雲を打つ(Shooting Atom Clouds)

減衰しないし、広がりもしないで伝播するソリトン波は通常非線形効果と関係している 。そしてその非線形効果によって、ソリトン波の乱れがあっても原形に保つために必要な フィードバック機構が得られている。現在Khaykovichたち(p. 1290)は原子群を導波路内 へ導く前に原子間相互作用を反発状態から誘導状態へ調整することによってボーズ-アイ ンシュタイン縮合物内の原子雲中で明るいソリトンが形成されることを明らかにしている 。このように時間経過とともに拡大しない物質波束は、原子干渉と原子衝突研究のために 有効であることがわかるであろう。(hk)
Formation of a Matter-Wave Bright Soliton
   L. Khaykovich, F. Schreck, G. Ferrari, T. Bourdel, J. Cubizolles, L. D. Carr, Y. Castin, and C. Salomon
p. 1290-1293.

どうやってσ因子はDNAを見つけるの(How σ Factor Finds DNA)

遺伝子発現の主な制御点はメッセンジャーRNA合成の開始点である。細菌においては、プ ロモータ認識と融解には、RNAポリメラーゼとσ因子から成る複合体が必要である 。Murakami たち(p.1280 および 1285) は、σに結合するThermus aquaticusのコアRNAポ リメラーゼと、プロモータDNA断片といっしょになったホロ酵素(holoenzyme)複合体の構 造を、それぞれ、4.0と6.5オングストロームの解像度で決定した。この構造が得られたこ とから、ホロ酵素がどのようにしてプロモータを認識し、DNAを融解し、転写能のある開 放複合体を与えるかの洞察が得られる。このすべての配列特異的なプロモータとの接触が σサブユニットによって仲介され、σは融解DNAの鋳型鎖をRNAポリメラーゼの活性部位に 導く。この構造は、更に実験を設計するための基礎となり、それによって転写開始につい ての理解を深めてくれるであろう。(Ej,hE)
AGING:
Genomic Priorities in Aging

   Paul Hasty and Jan Vijg
p. 1250-1251.
Premature Aging in Mice Deficient in DNA Repair and Transcription
   Jan de Boer, Jaan Olle Andressoo, Jan de Wit, Jan Huijmans, Rudolph B. Beems, Harry van Steeg, Geert Weeda, Gijsbertus T. J. van der Horst, Wibeke van Leeuwen, Axel P. N. Themmen, Morteza Meradji, and Jan H. J. Hoeijmakers
p. 1276-1279.

DNAダメージと加齢( DNA Damage and Aging )

加齢が細胞の酸化的ダメージによって引き起こされというよく知られている仮説がある 。加齢が酸化的DNAダメージに起因することが、Boerたち(p. 1276:HastyとVijgによる展 望参照)によるDNAヘリカーゼ遺伝子、XPDの変異型を持つマウスの研究で強く支持された 。この遺伝子は、稀なヒトの病気trichothiodystrophy(TTD)を引き起こす。転写関連の修 復で大きな機能障害を持つが、ヌクレオチド除去修復に関しては若干の障害を持っている このXPD変異マウスは、骨粗鬆症や不妊症、若白髪、及び短寿命といった数多くの早期加 齢の症候を示した。XPDとヌクレオチド除去修復に必要な第二の遺伝子、XPAの二重の変異 を持つマウスは、細胞の酸化的DNAダメージへの感受性増加と対応して加齢を大きく促進 することを示した。著者たちは、TTDマウスにおける加齢表現型が転写を損なう未 修復のDNAダメージにより引き起こされ、続いて重要な遺伝子の機能不活性化と細胞死を もたらすということを提唱している。(KU)
Electrochemistry and Electrogenerated Chemiluminescence from Silicon Nanocrystal Quantum Dots
   Zhifeng Ding, Bernadette M. Quinn, Santosh K. Haram, Lindsay E. Pell, Brian A. Korgel, and Allen J. Bard
p. 1293-1297.

荷電したナノ結晶の溶液中での発光( Charged Nanocrystals Light Up in Solution )

半導体ナノ結晶は電荷キャリア(電子とホール)を受け入れることが出来る。溶液中での電 極で荷電された化合物半導体ナノ結晶、例えばCdSは化学的に不安定になりがちである 。Dingたち(p. 1293)は、有機物でおおわれたシリコンのナノ結晶が有機溶媒中で電子と ホール注入後も安定であり、逆帯電のナノ結晶と溶液中で再結合して、発光することを示 している。シュウ酸塩や過硫酸塩のアニオンといった再結合反応に対する補助反応物を付 与することによってより強い発光が得られた。(KU)
Heterotopic Shift of Epithelial-Mesenchymal Interactions in Vertebrate Jaw Evolution
   Yasuyo Shigetani, Fumiaki Sugahara, Yayoi Kawakami, Yasunori Murakami, Shigeki Hirano, and Shigeru Kuratani
p. 1316-1319.

顎の発達のための限定(Narrowing in on Jaw Development)

脊椎動物の顎の進化によって、脊椎動物は、さまざまな摂食ニッチに多様化した 。Shigetaniたちは、顎のない脊椎動物の1つであるヤツメウナギの頭部の発生を制御する 遺伝子の発現パターンを調べた(p. 1316)。それら遺伝子は、神経冠を生み出す領域に発 現し、ニワトリやマウスなどのより高等な脊椎動物の頭部の発達において見られるものと は異なった運命をもつものであった。運命の相関と発現相関には、違いはあったが、ヤツ メウナギの遺伝子間の関係は、より高等な脊椎動物におけるのと同様なものであった。ヤ ツメウナギの神経冠と上皮の広い範囲にわたって存在する信号のカスケードは、脊椎動物 においては下顎領域に限定して生じていたのである。(KF)
Vitamin D Receptor As an Intestinal Bile Acid Sensor
   Makoto Makishima, Timothy T. Lu, Wen Xie, G. Kerr Whitfield, Hideharu Domoto, Ronald M. Evans, Mark R. Haussler, and David J. Mangelsdorf
p. 1313-1316.

くっつき方(How to Stick Together)

細胞-細胞接着は、内在性膜タンパク質の直接的な相互作用に依存する。主要な要素の1つ は、カドヘリンとして知られる分子のファミリであるが、これは、細胞膜の外側に配置さ れた非常によく似た5つの領域の繰り返しを含む。Boggonたちは、C-カドヘリンのこの細 胞外部分の結晶構造を記述し、対向する細胞上のC-カドヘリン分子とこちら側の細胞上の C-カドヘリン分子の間の相互作用が細胞同士を結びつける網目構造を作り上げるのにどの ようにして役立っているか、を示唆している(p. 1308)。(KF)
Vitamin D Receptor As an Intestinal Bile Acid Sensor
   Makoto Makishima, Timothy T. Lu, Wen Xie, G. Kerr Whitfield, Hideharu Domoto, Ronald M. Evans, Mark R. Haussler, and David J. Mangelsdorf
p. 1313-1316.

ビタミンD対脂肪(Vitamin D Versus Fat)

大腸癌とビタミンDと高脂肪食餌の間の疫学的関係に関する機械論的洞察がMakishimaたち によって発表されている(p. 1313)。この発表によると、腸におけるビタミンD受容体がリ トコール酸(LCA; lithocholic acid)という胆汁酸とも結合する。増加したLCA量は多脂肪 食餌と関与し、よく再吸収されないため大腸まで進んでしまう。ビタミンD受容体との結 合は、LCAを異化する酵素CYP3Aの発現を刺激する。この結果は、腸内システムがどのよう にして自分をLCAの有毒な影響から守っているか、また、ビタミンDがどのようにして大腸 癌を防いでいるのかを明かにするかもしれない。(An)
Induction and Suppression of RNA Silencing by an Animal Virus
   Hongwei Li, Wan Xiang Li, and Shou Wei Ding
p. 1319-1321.

RNA干渉対ウイルス(RNA Interference Versus Viruses)

植物において、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)は、遺伝子によって生成されたRNAが 崩壊されるRNAサイレンシングであり、主にウイルスとトランスポゾンのような浸潤する 核酸から自己を保護するものである。動物において非常に関連しているRNA干渉(RNAi)の 現象の役割は、今までもっと不明であった。Liたち(p 1319)は、昆虫細胞のウイルス感染 によってRNAiが誘発されることが可能であり、同様な保護の役割をはたすことを示してい る。ウイルスは、RNAiを抑制するタンパク質を含むので、ウイルスが宿主との進化の"軍 拡競争"中であることを示唆している。(An)
Is Face Processing Species-Specific During the First Year of Life?
   Olivier Pascalis, Michelle de Haan, and Charles A. Nelson
p. 1321-1323.

アタマの中での顔について(About Faces in the Brain)

赤ちゃんは、生後4〜6ヶ月の時点で、外来の言語音を区別することができるが、しかしこ の能力は、約10〜12ヶ月で消失し、そしてその赤ちゃんのネイティブの言語に限定される 。Pascalisたち(p. 1321)は、視覚的処理における同様の知見を報告する。すなわち 、サルの顔とヒトの顔とを一対比較法により、サルの顔とヒトの顔との識別について調べ たところ、生後6ヶ月の赤ちゃんは、これらを識別することができる。しかしながら、生 後9ヶ月になって同一の方法について試験すると、ヒトの顔しか区別できなくなっている 。これらの結果から、初期の認識においては、神経ネットワークの一般的な変化として 、"視覚的狭小化(perceptual narrowing)"現象が生じているようだ。(NF)
IMMUNOLOGY:
Enhanced: A Pathogen Receptor on Natural Killer Cells

   Eric Vivier and Christine A. Biron
p. 1248-1249.

NK細胞活性の活性化と阻害の作用(Stop-Start Action in NK Cell Activation)

ナチュラルキラー(NK)細胞受容体、LY49Hは、マウスの特定の種をマウスサイトメガロ ウィルス(MCMV)に対して抵抗性にするための原因となるものとして、最近同定された 。ウィルスによる感染により、LY49Hと相互作用する宿主タンパク質が変化させられ、そ してNK細胞活性化が導かれる。思いがけなく、Araseたち(p. 1323;Vivierおよび Bironによる展望記事を参照)は、LY49Hに対するリガンドが、ウィルスそれ自体によりコ ードされたI型-アンカー型糖タンパク質であることを見いだした。MCMVに抵抗性のマウス において、MHC様タンパク質m157は、LY49H+ NK細胞を活性化するが、しかし感受性マウス 系統においては、m157は、阻害性LY49 NK受容体に結合した。これらの活性化型受容体と 阻害性受容体とは高度に相同であることから、ウィルスタンパク質と宿主受容体間の直接 的な相互作用を介するNK細胞の阻害は、ウィルスの逃避ストラテジーとして進化し、その 後活性化タンパク質の進化を引き起こした可能性がある。(NF)
Direct Recognition of Cytomegalovirus by Activating and Inhibitory NK Cell Receptors
   Hisashi Arase, Edward S. Mocarski, Ann E. Campbell, Ann B. Hill, and Lewis L. Lanier
p. 1323-1326.
Enhanced: A Pathogen Receptor on Natural Killer Cells
    Eric Vivier and Christine A. Biron
p. 1248S.

注入された電子のスピン偏極(Spin Polarization of Injected Electrons)

LaBella たち (報告書 25 May 2001, p.1518) は、「100%スピン偏極した」走査型トンネ ル顕微鏡(scanning tunneling microscope STM)の先端を電子源として用いることにより 、「大きくスピン偏極(〜92%)した電流を、高温(100 K)で GaAs [ガリウム砒素]に注入す ることができた」と報告した。Egelhoff たちは、その GaAs から放射された光で測定さ れた偏極に関連して、光が試料から出てしまったため、LaBella たちは屈折に対する修正 を見過しているとコメントしている。LaBella たちのグループは、用いられた試料のスピ ン緩和寿命の値を測定していないと示唆している。この緩和時間は、再結合における電子 スピン偏極と注入された電流の偏極とに関係している。そして、STM から放射された電子 が本当に 100%スピン偏極しているということはありそうにないと論じている。その結果 として、Egelhoff たちは、「これらの実験から、再結合における電子スピン偏極は 25.2% である可 能性が推測され」、もとの報告で引用されている 92% ではないと結論している。返信の なかで、LaBella たちは、LaBella たちの解析は屈折を適切には考慮していなかったこと に同意し、検討された試料に対するスピン緩和寿命を測定していなかったことを認めてい る。しかしながら、彼らは、類似のホール密度や温度の値として、GaAs に対して発表さ れた値を用いている。(Wt)
www.sciencemag.org/cgi/content/full/296/5571/1195a
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