AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 8, 2002, Vol.295


速報(Brevia)

炭疽菌感染を予防する60日間の抗生物質投与(Prevention of Inhalational Anthrax in the U.S. Outbreak) BrookmeyerとBladesは(p. 1861)、2001年秋の米国における炭疽菌症発症を統計的に分 析し、抗生物質を予防的に投与することで感染を防ぐことが出来る可能性を示した。 2002年1月時点において、米国では炭疽菌に接触したと思われるフロリダのメディア会 社の社員と訪問者、ニュージャージーの2つ郵便局職員、ワシントンDCの郵便局職員の 合計5000人を含む全国の10000人に対して60日間の抗生物質投与を施すことを推奨して いる。60日を超えて予防治療を行うべきかどうかは国民の重大な関心事である。60日間 の抗生物質投与で感染リスクを完全に取り除くことが出来るかどうかの確証はないが、 1979年年旧ソ連のスベルドロフスクで起きた炭疽菌事故でも60日以降に発症した事例は 報告されていない。著者たちは、将来の生物兵器テロに対抗し、死亡率、罹患率を最小 限にするために感染症の監視と細菌へ接触した人物の早期確定が重要であることを強調 している。(Na)

飲めない水(But Not a Drop to Drink)

地球の表面はほとんど海洋によって覆われているが、さらに多くの水は鉱物相(mineral phases)に取り込まれ、そして多くの含水鉱物が地殻あるいは上部マントルに存在してい る。Murakamiたち(P.1885)は、最近高温高圧の条件下で下部マントルの含水鉱物を合成し た。下部マントルの中のマグネシオウスタイト(magnesiowustite)とペロヴスカイト (perovskite)は、重量比にして0.2-0.4%の水を含み、総量では海水の5倍に上ると推定さ れる。(TO,Og,Nk)

音響ルミネセンスによるトリチウム(Tritium via Sonoluminescence)

振動音響場に液体を晒すと、閃光を観察することができる。この音響ルミネセンスは 、バブル(泡)から生ずるものである。このバブルは、液体中に形成され、音圧の減少と ともに膨張し、そして、劇的な崩壊に至る。放射された光のスペクトル解析は、そのバ ブルは熱く、事実上黒体輻射していることを示している。最近の実験によると、より小 さな開始バブルは、崩壊においてより高温となることが指摘されている。しかしながら 、自然発生的なバブル形成は、典型的には、直径数十μmの狭い領域に限定されている 。中性子のパルスを用いることにより、Taleyarkhan たち (p.1868; 論説、Seife によ るニュース解説、およぴ Becchetti による展望記事を参照のこと) は、重水素化した アセトン中にほんの直径数十nm のバブルの核形成を可能とした。このバブルは、そ の崩壊の間に、特徴的な中性子放射を伴いながらトリチウムを生成する。トリチウムは 、通常のアセトンを用いたときは、生成されなかった。衝撃波ソフトウェアによるシミ ュレーションは、バブルの内部温度は十分高く(およそ一千万度)、トリチウム生成を誘 発することを指摘している。(Wt)

回転するブラックホールから出るエネルギー (Energy from Rotating Black Holes)

Kerrブラックホールと呼ばれる、急速に回転するブラックホールは一般相対性理論から 理論的に推論されてきたが、いまだ観測されていない。Van Puttenと Levinson(p.1874,表紙参照)は、プラズマの磁化したトーラス(torus)内部で回転する ブラックホールから放出されるエネルギーを計算した。回転エネルギーの一部は、ガン マ線バーストと関係していると考えられるbaryon-poor流出の中に放出される。回転エ ネルギーの残りは重力放射(gravitational radiation)として、トーラスから放出され る。そしてこの放射は、新しくできる重力波観測所で検出が可能とされている。これに より、Kerrブラックホールを見つけ、ガンマ線バーストのようなエネルギー発生の物理 状態を理解することができるかもしれない。(TO)

びっくり動転(Shaking Surprises)

ミックスナッツの缶を振れば、大きなブラジルナッツが上方に移動する。このような振 動によってサイズの分離が生じるのは、大きなナッツの間隙に小さなナッツが拡散作用 か、あるいは粒子の対流作用に拠る。Burtallyたち(p. 1877;および、Mullinによる展 望記事参)は、分離を駆動するための十分な空気圧があれば、振動によって同サイズで 異なる密度の粒子を分離することが可能になることを示した。青銅とガラスの混合粒子 の実験では、低振動数の場合、青銅粒子は、より軽いガラス粒子の上方に表面層を形成 し、両者はシャープな界面を有していた。振動数が高くなると、青銅粒子は、周囲をガ ラス粒子に囲まれた状態で中間層を形成する。(Ej)

酸化物の間に割り込む水素化物(Hydrides Nudge Their Way into Oxides)

一見、遷移金属酸化物の枠組みに水素原子を取り込むことは、水を合成するには困難な 経路のように見えるかもしれない。Hayward たち (p.1882; Poeppelmeier による展望 記事を参照のこと) は、高温における CaH2 の不均化から得られたハイド ライド(H-)は、LaSrCoO4 中の酸化物種を置換して LaSrCoO3H0.7 を形成することを示している。ハイドライドの 存在は、より酸化性の条件下における水の進化とともに、化合物の異常な磁気特性や中 性子回折による構造により明らかである。この方法は、オキシハイドライドへの一般的 な経路のように見える。(Wt,Nk)

電池の充電法(How to Charge a Battery)

多くの嫌気的環境に生息している微生物は生存するためには酸化剤を利用して他の物質 を酸化する必要があるが、このためには通常他の代謝産物の1つの還元と相互作用して いる。大腸菌におけるこのようなレドックスループの1つは硝酸塩還元酵素であり、こ れは硝酸塩を亜硝酸に還元するし、他の1つはギ酸塩脱水素酵素であり、これはギ酸塩 を二酸化炭素に酸化する。電子の流れ自体によって原形質膜を横切ってプロトンを移動 させる。そうして電池と等価な電気化学的な勾配を作り出す。Jormakkaたち(p. 1863; およびRichardson と Sawersによる展望記事参照)は1.6オングストロームの解像度での 膜タンパク質ギ酸塩脱水酵素の結晶構造を示し、膜の両側つなぐ90オングストロームの 鎖に沿って、電子がどのようにして移動するかについて述べた。(Ej,hE)

地球磁場を反転する(lipping Earth's Field)

ダイナモ(地発電)と関係すると考えられるある種の作用が、時々双極子の極性を反転 させ、その結果地磁気の方向が引っくり返る。Liたち(p. 1887)は、理想化された球状 ダイナモ(発電体)によって反転する双極子についての長いタイムスケールの3次元磁 力線のシミュレーションを行った。磁場は、対流パターンが上下非対称になるとき、球 状磁極が高エネルギー状態になり、四極子モードが増加しているときのみ反転した。 (hk,Nk)

線虫内のネメシス(復讐の女神)(The Nemesis Within Nematodes)

フィラリア型の線虫類は体内に侵入して、皮膚と目を標的にした河川盲目症(river blindness)を引き起こしたり、或いはリンパ系を標的とした象皮症を引き起こす。線虫 が死ぬと、宿主免疫応答により炎症や細胞浸潤や失明、或いはリンパ管の封鎖が生じる 。Saint Andreたち(p.1892;Pennisiによるニュース解説参照)は、線虫内に寄生してい る相利共生のWolbachia菌、この菌は免疫反応性のリポ多糖を持っている、が線虫自体 よりもゲッ歯動物に失明の炎症反応をもたらす事を見い出した。Wolbachia菌は線形動 物の生存には必須であり、又抗生物質により殺す事が出来る。この発見は、この種の病 気を治療するための新たな考え方に導くものであろう。(KU)
訳注:河川盲目症(river blindness)とはアフリカや中南米の風土病で回旋糸状虫がブ ユによって媒介される衰弱性の炎症病。

細胞の理解(A Sense of Cell)

転写制御因子CtBPは、発生や細胞周期制御、形質転換に関与する遺伝子の制御のための 転写抑制因子と連合して働く。Zhangたちは、CtBPのこうした補抑制体の活性が、細胞 のレドックス状態によって制御されうる、ということを示している(p. 1895)。哺乳類 のCtBPは、核のニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)の生理的な濃度によ って制御されている。核にある遊離NADとNADHの濃度が増加すると、CtBPは、ウイルス 性および細胞性の転写抑制因子への親和性を増し、転写を抑制する。この調節性機構は 、タンパク質の相互作用が転写の制御のための代謝バランスにいかに応答するか、を示 唆するものである。(KF)

氷の下のオキアミ類(Krill Under Ice)

ある種のクジラの摂食行動についての報告は、南極オキアミ(Antarctic krill)、Euphausia superbaが氷の下、少なくとも大浮氷群の縁のあたりに多いことを 示唆している。海氷の下を15から20キロメートルほど移動する自律性の海表面下移動体 を用いて、Brierleyたちは、オキアミの量は、氷の縁から1から13キロメートル以内で ピークに達することを発見した(p. 1890)。ここでは、オキアミ類は捕食者から安全で あり、氷の表面の下から遊離する植物プランクトンを容易に採集できるのである。(KF)

砂糖でくるまれた処置(Sugarcoated Dispatches)

循環している糖タンパクを血流から取り除くための信号は、それら自身の炭水化物タグ であるらしく、また、膜レクチンがこのタスクを遂行するということが、長らく提案さ れてきていた。Leeたちは、このプロセスにおけるマンノース受容体(MR)の役割を検証 した(p. 1898)。遺伝的にMRを欠いているマウスの血液のタンパク分析によって、マン ノースとN-アセチルグルコサミンによってタグ付けされたタンパク質のレベルが上昇し たことが明らかになった。これらタンパク質すべては、炎症反応に関与しているが、こ の炎症反応は、炎症の初期段階におけるMRの下方制御と相関している。(KF)

転写を後方にする(Doing Transcription Backward)

真核生物における遺伝子の転写は、配列特異的な活性化因子がDNA中の標的と結合し 、染色質を修飾するタンパク質を補充する時に開始されると一般には考えられている 。染色質の修飾因子は、通常は抑制的である染色質をRNAポリメラーゼIIの前開始複合 体を構築できるような形に変換する。SoutoglouとTalianidis(p. 1901;Fryと Petersonによる展望記事参照)は、分化に誘発されるα1アンチトリプシン遺伝子プロモ ータの場合には、完全な前開始複合体が構築されるのは染色質修飾の前であって転写開 始のはるか前である。それよりも染色質修飾のタンパク質によって染色質を許容的な状 態に再配置することが、転写開始の決定的な段階である。(An)

位置とシナプスの強さ(Location and Synapse Strength)

シナプスの入力が樹状突起の遠く離れたところで発生すると、ニューロン膜のフィルタ リング効果によって単純に減弱されるαであろうか、それとも他の代償の機構が働いて いるのであろうか。WilliamsとStuart(p. 1907;Melによる展望記事参照)は、同時三重 パッチクランプ記録法を用い、新皮質の錐体ニューロンにおける樹状突起に沿った自発 性あるいは人工的に誘発した興奮のシナプス後電位(EPSPs)の強さを調査した。EPSP振 幅が細胞体からの距離に伴って増加するという以前の結論を確かめたことに加え、体細 胞のEPSP衝撃は距離に伴って減少することも発見した。このように、一回入力では体細 胞の電位への影響が弱いが、同時発生の入力はシナプス後ニューロンにおいて樹状細胞 のスパイクとそれに続く活動電位を発生させることができる。(An)

安定な一重項ジラジカル(Stable Singlet Diradicals)

一重項のジラジカル化合物は、分子内の化学結合が切断されたさいの中間体として形成 される。二つの隣接した逆平行のスピンを含む安定な有機化合物を創るために多大な努 力がなされた。しかしながら、不対スピンを持つ原子に思慮ぶかい置換基の選定をして も、いまだごく一瞬の寿命しかもたない。Scheschkewitzたち(p.1880;Wentrup)は炭素 以外の原子(ヘテロ原子)を用いて、溶液中と固体状態の双方で安定な一重項ジラジカ ルが出来ることを見い出した。不対スピンを持つアルキル置換ホウ素原子がジフォスフ ィン基でブリッジされている:環内部の静電的反発がホウ素原子間の結合形成の阻害に 役立っている。(KU)

小脳欠損を突きつめる(Tracking Down Cerebellar Defects)

小脳およびニューロンの発生の研究は、マウスの行動に影響を与える様々な変異が数年 前に発見されたことにより非常に促進された。プルキンエ細胞変性(pcd)遺伝子に変 異を有するマウスは、その小脳中のプルキンエ細胞が変性する際に、成人期初期におい て運動失調を発生する。雄性不妊もまた、しばしば症状の一部である 。Fernandez-Gonzalezたち(p. 1904)はここで、pcd変異の遺伝的座位、Nna1と、さら に2つのpcdアリル(pcd2Jおよびpcd3J)を同定する。影響を受けた遺伝子は、軸索の再 生に反応して活性化することがすでに知られており、zincカルボキシペプチダーゼドメ インを含有するタンパク質をコードする。(NF)

カルシウムに対する用量依存性反応(Dose-Dependent Responses to Calcium)

シグナル伝達メカニズムにおけるダイナミックな変化は、細胞制御に重大な特異的な情 報をコードしている可能性がある。これらのメッセージを解読することは、生細胞にお ける中心的なシグナル伝達分子を高性能に測定する際に必要とされる。Teruelと Meyer(p. 1910)は、ガラス顕微鏡スライド上で増殖させた、多数の個々の生きたラッ トの好塩基白血球細胞における細胞膜に、蛍光タグ化タンパク質キナーゼCγ(PKC gamma)が、カルシウム-依存性に転位することを測定することが可能となる方法を提供 する。酵素は、2種類の異なる反応様式を示した。カルシウムを内部貯蔵部位から放出 した際に、PKCγが、ほんの数秒間だけ細胞表面に一過性に移動した。しかしながら 、細胞外カルシウムの細胞内への移動を引き起こすシグナルは、30秒以上にわたって 、酵素が細胞表面に持続性に転位することを引き起こした。細胞は、血小板活性化因子 に対して、主として、前半は低用量に反応を示し、そして後半はより高用量に反応を示 した。この結果は、カルシウムのような共通のメッセンジャーが、どのように別個の細 胞反応を調節することができるのか、を説明する補助となる。(NF)
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