AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 1, 2002, Vol.295


速報(Brevia)

ドードーの飛行(Flight of the Dodo) 不思議の国のアリスに出てくるドードーは、その巨大な体と特異な風貌から人気のある鳥であるが、17世紀に絶滅するまでインド洋のモーシャリス島に生息していた。形態学的な研究からは、この鳥はハトの仲間に近縁と考えられてきた(Columbiformes)が、今回、Shapiroたち(p. 1683)は、オクスフォードの自然史博物館に保存してある剥製の資料からDNAを抽出し、ミトコンドリアの配列を調べた結果、ハト科ハト目と同定された。DNAの系統樹から、ドードーに最も近縁の種は、これも絶滅したロドリゲスドードー(solitaire)であり、両者は4260万年前に、東南アジアのニコバール島に現存するキンミノバト(Nicobar pigeon; Caloenas nicobarica)から分かれたらしい。(Ej,hE)

量子マグネット中のスピンを取り除く(Removing Spin in Quantum Magnets)

低次元スピン系において、最近接同士の相互作用は、大規模スケールの磁気的秩序をもたらしうる。磁性を持つ原子が非磁性のものと取り替えられたときに何が起こるのだろうか?いくつかの理論的研究がなされているが、それらは今なお実験的な吟味を待っている段階にある。Vajk たち (p.1691) は、2次元(2D)の反強磁性体である La2CuO4 の中のおよそ半分の磁性を有する銅イオンを非磁性のマグネシウムと亜鉛で置き換えることにより、La2CuO4 の修飾を可能とした。その系は、連結した反強磁性体から、有限なしかし孤立したクラスターを含む非連結の系に進展していく。(Wt)

修復するポリマー(A Polymer on the Mend)

数多くの化学反応において、分子を形成している結合は熱的な可逆反応によって切れたり再結合する。Chenたち(p.1698)は、ディールズーアルダー反応(Diels-Alder reaction)による架橋結合したネットワーク構造を持つポリマーを創っている。ポリマー中の一部が単純な熱処理によって固定され、モノマー追加の必要もく、そして無数に繰り返す事が出来る。(KU)

相手に勝つには?(Beating the Odds)

鳥やほ乳動物において、子供の性は染色体で決定され、ほぼ同数の雄と雌が生まれる。それにもかかわらず、進化論では雌が主要な環境条件に従って子供の性比を調整している可能性を示唆している。このような雌の能力は或る種では見出されているが、別の種ではそうでもなく謎となっている。WestとSheldon(p.1685)はメタ分析手法を用いて、鳥やスズメバチにおける適応性の性比調整に関する束縛を説明している。鳥やスズメバチでは、性の決定方法が卵が受精するかどうかに依存しているために性比調整の可能性ははるかに大きい。既知の性決定のメカニズムは、性比適応における観測された変化の総てを説明するには不充分である。重要な因子の一つは子供たちが生きる環境を予測する親の能力である。(KU)

細胞からの信号を調べればその出生が分かる(Cell Signals Show Their Where's)

蛍光共鳴エネルギー伝達(FRET)を利用した2編の研究によれば、細胞の情報伝達に関わる分子が、何処でどのようにして関わるようになったかが解明された。PTP1B (protein tyrosine phosphatase-1B) のようなホスホチロシンホスファターゼは、チロシン残基を脱リン酸化することによって活性化された受容体であるチロシンキナーゼの情報伝達を阻害する。Hajたち(p. 1708; およびGill による展望記事参照)は、PTP1Bの変異体に蛍光タグを付け、これが生きたマウスの小胞体細胞質表面の線維芽細胞中の上皮および血小板由来の成長因子と相互作用することを見つけた。この相互作用は、受容体が刺激された30分後に最大になり、細胞表面からの受容体のエンドサイトーシスを必要とする。従って、情報伝達のある種の形態に必要な受容体の内部移行は、脱リン酸区画にその受容体を向かわせることもしているようだ。心筋細胞において、二次メッセンジャーであるサイクリックアデノシン-リン酸(cAMP)は、異なる受容体からの異なるシグナルを仲介するが、そのためにはこれらシグナルを空間的に局在化しているのではないか。実際、cAMPの一次標的であるプロテインキナーゼAと、cAMPを生成する酵素であるアデニリルシクラーゼの両方とも、筋収縮刺激に必要なCa2+を蓄積する筋細胞のT細管に局在している。Zaccolo と Pozzan (p. 1711)は、T細管の周りの小領域中のβアドレナリン作動性受容体の刺激に応答してPKAが活性化すると報告している。cAMPの拡散距離は、このcAMPを分解するフォスフォジエステラーゼの高い活性によって数マイクロメータに限定されているように見える。A-キナーゼ接着性タンパク質(AKAP)による局在化は、活性のために必要である。(Ej,hE)

ブラックホールからの回転エネルギー(Spinning Energy Out of a Black Hole)

相対論的プラズマジェットは、ブラックホールの候補が存在する領域に付随している。これらの観測は、大量のエネルギーがブラックホールから流出しうることを示唆している。ひとつの可能な道筋は、ブラックホールの回転と結びつけて考えることである --- ブラックホールは、質量を消費するにも関わらず、それらはなお角運動量を保存しなくてはならず、その結果、回転している可能性がある。Koide たち (p.1688; Blandford による展望記事を参照のこと) は、大規模な磁場を有する高速回転するブラックホールからエネルギーが抜き取られるところをシミュレートした。彼らの単純化されたモデルによると、ブラックホール近くの回転座標系における空間の引きずりによって生成されたあるアルペーン波が、磁力線に沿って外向きにエネルギーを輸送する。この過程は、ブラックホールに供給されるエネルギーが減少し、今度は、それがブラックホールの回転速度を減少させ、かくして、エネルギーが抜き取られる。(Wt)

水滴を被覆する(Coating a Water Droplet)

固体粒子を包み込むための技術は多数存在するが、どうやって液体を別の液体で被覆出来るのだろうか。Loscertalesたちは(p. 1695)、1種類の液体を電子的に噴射するのと同様のプロセスを用い、2種類の混ざらない液体を同軸状に噴射させた。噴出する液体に電荷をかけると接地された電極の方向に噴射滴が加速される。適切な噴出率と印加電圧で、噴出される液体は直径0.15から10ミクロンの連続する単分散の小さな小滴に分離される。この内側の小滴は外側の液体に包み込まれている。外側の液体は光化学反応により硬化しカプセル化する。(Na)

鉄路敷設の分子労働者(Molecular Iron Workers)

大腸菌においては、外膜受容体のFecAはクエン酸鉄(III)と結合し、これを細胞質中へ輸送する。今回、Fergusonたち(p. 1715; Postleによる展望記事参照)はFecAが二核(dinuclear)のクエン酸鉄(IV)塩が結合した場合としてない場合の各々について、それぞれ2.0Åと2.5Åの解像度で結晶構造解析をした。クエン酸鉄のFecAレセプターへの結合がトリガーとなって、入り口になっている細胞外側の輪が閉じる、次にこのレセプターのペリプラズム側末端がアロステリック転移を起こして細胞内膜のタンパク質TonBへシグナルが伝達されて基質であるクエン酸鉄の輸送が駆動すると推定した。著者たちは、このエネルギー依存性親鉄剤(siderophores)輸送について4段階のメカニズムを提案している。(Ej,hE,Kj)

タンパク質折りたたみの失敗記念碑(Misfolding Milestones in Protein Folding?)

変性型のタンパク質コンフォメーションは、タンパク質の折りたたみを理解する上で、またそのような変性コンフォメーションが神経変性疾患の原因となることから、多大な興味をもたれてきた。核磁気共鳴(NMR)による研究によって、未変性の疎水性クラスターは変性条件下であっても、ある種のタンパク質中に保持されていることが分かった。Klein-Seetharamanたち(p. 1719; Baldwin)は、NMRと部位特異的変異誘発を利用して、リゾチーム中の変性相互作用によって、4つの疎水性クラスターから成る未変性様核が安定化することを示した。リゾチームの2つの構造領域の界面に局在して、未変性状態で溶媒にさらされたトリプトファンがグリシンに変異すると、これら4つのクラスターが全て破壊された。(Ej,hE)

効果タンパク質の同定(Finding Effectors)

細菌性の病原体によって宿主細胞に注入された推定のエフェクタータンパク質を同定することは非常に困難であった。Guttmanたち(p 1722)は、遺伝スクリーニングとその後のバイオフォマティックな予測の組み合わせを用い、シュードモナス(P. syringae)における数十種の推定上のエフェクタータンパク質を同定した。以前同定されていない種類を含めた、今回同定されたエフェクタータンパク質の多様性を考えれば、病原体が異なる宿主に順応するために、複数の異なる分子戦略を利用することを示唆している。(An)

大腸癌の関門?(A Barrier to Colon_Cancer?)

消化管(GI)は、粘液層で内張されており管腔の管腔の中身と腸管上皮の間の物理的な関門として作用する。この粘液は、ムチンという高度にグリコシル化されたタンパク質からなるが、正常な生理あるいは疾病におけるムチンの役割がよく理解されていない。Velcichたち(p 1726)は、体内で最も量の多いGIムチンであるMuc2を欠乏したマウスは、腸の上皮細胞の成長と遊走の増加を示し、小腸と直腸の浸潤癌が自発的に発生するという驚ろくべき観察をした。(An)

再評価と結合(Redefining the Connections)

眼から高次脳中枢への視覚情報の初期プロセッシング段階は、解剖学的によく調べられている。このシステムにおいて鍵となる構成要素は、視覚野V1からV2への経路である。チトクロームオキシダーゼ染色をマカク脳に用いて、SincichおよびHorton(p. 1734)は、この重要な結合を再評価し、そして平行する経路における中心的な違いは、大形細胞(magnocellular)経路と小型細胞(parvocellular)経路との間のものではなく、パッチカラムとパッチ間カラムとの間のものであることを見いだした。この結果から、平行する経路の性質は、再構成する必要性がある可能性があり、そして背側および腹側の視覚情報プロセッシングの流れが、形状、色彩および動作の情報を合わせたものを受け取っていることが示される。(NF)

プラシーボの働き方(How Placebos Work)

プラシーボは、不活性物質であるにもかかわらず、実際に痛覚を弱めることができる。脳イメージングの研究において、Petrovicたち(p. 1737;Holdenによる2月8日のニュース記事を参照)は、このプラシーボの鎮痛作用の背景にあるメカニズムを研究した。彼らは、プラシーボ鎮痛薬とオピエート-誘導性鎮痛薬とを比較し、そしてこれらの2種類の処置と関連する脳領域、特に前頭帯状回皮質および脳幹の内部、には顕著なオーバーラップがあることを見いだした。さらに、これらの領域間での活性の相関関係がプラシーボ鎮痛薬とオピエート-誘導性鎮痛薬の両方の鎮痛条件において観察されたが、痛みそのもののみの条件の場合は観察されなかった。前頭帯状回は、脳幹システムの皮質的制御を介して鎮痛作用を媒介しているようであり、そしてしたがって、認識期待値または認識協合に反応して、これらのシステムを組み合わせることにより、プラシーボ処置が効果を発揮することができる。(NF)

太陽系の起源を辿る(Tracing Solar System Origins)

我々の太陽系は、約45億5千万年前に起こった超新星の残滓が元になっていると考えられている。爆発の際に生成された短命な放射性核種(radionuclides)が、初期太陽系星雲から濃縮された物質の中の同位体異常(isotopeanomalies)として、残されている。Schoenbaechlerたち(p.1705)は、初期の隕石中のニオブ-92を調べて、これまでの研究結果とは反対に、その量がとても少ないという結論を示した。この結果は、いくつかの超新星モデルと一致するが、あるタイプIIの超新星から導かれる結論からは逸脱しており、そして月の起源の時期に対するモデルにも影響を与える。(TO,Tk)

タンパク質ナノアレイを作り出す(Producing Protein Nanoarrays)

多くの生物学的スクリーニングにおいては、タンパク質のアレイ(配列)が用いられている。Leeたちは、100ナノメートルほどにも小さいタンパク質の特徴を、原子間力顕微鏡の先端を用いて金の上に「書く」ことができることを示した(p. 1702)。試されたタンパク質[リゾチームとウサギの免疫グロブリンG(IgG)を含むもの]は、生理活性を保っていた。吸収されたこのIgGアレイが、他の種のIgGに対する抗体や他のタンパク質の抗体の混合物を含む溶液にさらされた場合には、非特異的なタンパク質結合は観察されなかった。著者たちは、こうしたタンパク質ナノアレイを細胞接着の研究においても利用した。(KF)

シナプス可塑性におけるBDNFのシナプス後作用(Postsynaptic Action of BDNF in Synaptic Plasticity )

脳由来の神経栄養性因子(BDNF)などのニューロトロフィン(neurotrophin)は、シナプス可塑性において重要な役割を果たしているが、その作用の正確な機構はいまだに議論の余地のあるものである。Kovalchukたちは、電気生理学的記録とCa2+イメージングを用いて、海馬の切片に含まれる鋸歯状顆粒細胞に対するBDNFの効果を調べた(p. 1729; また、Manabeによる展望記事参照のこと)。BDNFの短期のパフによって、個々の樹状突起において急速なCa2+過渡現象を引き起こされた。弱いテタヌス刺激をBDNFの適用と組み合わせることで、テタヌスによって引き起こされる長期増強(LTP)を完全に妨る長期増強を誘発することができた。LTPの誘導は、シナプス後Ca2+キレート化あるいはNメチルDアスパラギン酸受容体拮抗剤によってブロックされうる。こうした知見すべては、BDNFによって引き起こされるLTPのシナプス後機構の存在を示している。(KF)
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