AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 22, 2002, Vol.295


速報(Brevia)

細菌バイオフィルム形成に必要な細胞外DNA(Extracellular DNA Required for Bacterial Biofilm Formation) 細菌バイオフィルムというのは、最近自身が作り出す水和ポリマーマトリックス中に細胞 集団が封入冴えた機構をしており、静物や生体表面に付着する。細菌バイオフィルム生物 膜は抗生物質や免疫攻撃に耐性を待ち、このため緑膿菌感染を含む多くの慢性細菌性感染 症の原因となる。Whitchurchたちは(p. 1487)、緑膿菌が生成するバイオフィルムを研究 し、吸収波長のピークが260nmであることや、DNA分解酵素に反応し、RNA分解酵素に反応 しないことなどから緑膿菌を含む何種類かの細菌が大量に生成する細胞外生成物質のうち で、カルバゾール比色アッセイで反応するほとんどがDNAであることを発見し、このDNAが 緑膿菌バイオフィルム生成に決定的な役割を持つとの仮説をたてた。また、培地にDNA分 解酵素を注入すると細菌自体の成長は阻害せず、バイオフィルム生成が阻害されることも 発見した。バイオフィルムを溶解するDNA分解酵素治療は緑膿菌バイオフィルム生成を防 ぐため、緑膿菌感染の初期予防に効果があるだろう。(Na,Kj)

電気的な DNA 検出(Electrical DNA Detection)

分子を検出する最も単純な方法の一つは、電気伝導度に基づくアッセイを工夫することで ある。Park たち (p.1503; Service による解説記事を参照のこと) は、500フェムトモル まで低濃度の DNA を電気的に検出できることを示している。二つの電極間の基板に配置 された複数の捕獲(strand)と、より長いターゲットDNA 鎖を結合する。次に、金のナノメ ートルサイズの粒子を末端につけたプローブ鎖をターゲットの残りの部分(捕獲鎖と結合 しない部分)とハイブリダイズさせる。銀の溶液にさらされると、ナノメートルサイズの 粒子は、銀の析出の核となり、ワイヤが進展する時間 は、DNA の濃度に逆比例する。室温で高濃度の塩にさらすと、これは非特異的に結合した DNAを除去でき、温度の上げ下げのサイクルを実施する手間がいらなくなる。(Wt,Kj)

不安定のモデル化(Modeled Instability)

過去1万年の間概して安定な気候であったが、氷期の北大西洋は寒冷期と温暖期が大き く振れた。北半球で大陸氷床が解けた期間、急激な淡水が北大西洋に注ぎ、北大西洋の 深層水の形成と熱塩循環を低下させたか休止させた可能性がある。Schmittnerたち(p. 1489)は氷河期の間の海洋、大気、海氷、および大陸氷床の間の相互作用モデルを利用 した。彼らは、氷河期の間は北大西洋の海水逆転の安定性は大きく減退し、氷床、氷山 、および、海洋循環の相互作用によって1000年単位の温暖化が生じた可能性があること を見つけた。(Ej,Og)

過去への耳(An Ear to the Past)

エルニーニョ南方振動(El Nino-Southern Oscillation (ENSO)) は、中期完新世の期間 中では、一般的により暖かな太平洋海盆では、頻繁ではなかったと考えられているが 、海表面温度(sea surface temperature (SST)) のデータが欠けているため、この主張 の証明を困難なものにしてきた。Andrus たち (p.1508) は、現在からおよそ6500年な いし6000年以前のペルー沿岸の浅瀬に生息していたペルーの海のなまずからの矢状の耳 石(ear stones)を研究した。これらの耳の構造物は、アラゴナイト(CaCO3) を析出し、それらの酸素同位体の組成は海洋温度の記録を与えてくれる。これらの高分 解能(季節周期より短い)測定結果から、東太平洋は、確かにその期間では今日よりも暖 かかったこと、そして、季節的な SST の変動は、南緯5度よりも南緯9度のほうが大 きかったことが示されている。(Wt)

圧力って?何の圧力?(Pressure? What Pressure?)

2つの系統の細菌は、現在知られている地球上生物の生息条件をはるかに超える1000メ ガパスカル(MPa)以上(海洋最深部で100MPa)の条件下で生息することができる 。Sharmaたち(p. 1514)は、このような条件下でのShwanella oneidensisの実験観察を 行った。この細菌は深部の高圧環境下に生息する他の細菌と関連がある。もっと驚いた ことに大腸菌でさえこれらの条件下で生息可能である。細菌たちは氷中の1200から 1600MPaという厳しい環境下でも生存可能である。(Ej,Og)

セックスとマウスとビデオテープ(Sex, Mice, and Videotapes)

鋤鼻器官(VNO)は鼻腔の基部にある感覚器官で、これによってマウスは、他のマウスが 発信するその社会的・性的身分情報を持った化学的シグナルであるフェロモンを嗅ぎ取 り反応することができる。このVNOによって仲介される特異的行動反応を調査するため に、Stowersたち(p. 1493;およびBeckmanによる表紙の写真と2月1日のニュース記事参 照)は、遺伝的にTRP2を欠如したマウスを作った。このTRP2は、選択的にVNO中に発現さ れる一過性の受容体ではないかと思われているファミリーのイオンチャネルらしい 。TRP2を欠くマウスでは、VNOニューロンの感覚としての活性化は完全に停止した。ビ デオテープによる行動アッセイの結果によると、TRP2を欠くマウスの雄は雄に対する攻 撃性を示さず、驚いたことに、雄に対しても雌に対しても性行動を始めた。VNO活性は 、以前は雌雄の交尾の開始に不可欠と思われていたが、実際にはマウスに雄と雌の識別 能力を与えるらしい。(Ej,hE)

理にかなったC60の合成(A Rational C60 Synthesis)

最近、多環式芳香族炭化水素、C60H30がレーザー照射により水 素を失って気相のC60を形成する事が示された。Scottたち(p.1500)は、塩 素化誘導体であるC60H27Cl3を閃光‐真空熱分解反 応ステップにより単離するに足る充分な量のC60が合成出来ることを示して いる。グラファイトの蒸発合成法とはいまだ競合できないが、この方法はグラファイト 気化法では副生成物である他のフラーレンの合成が可能である。(KU)

植物のパーツの分配プラン(The Plan for Partitioning Plant Parts)

現在、バイオマスが植物器官の間でどのように分割されるか、について、種子植物内部 で、そして種子植物間で、一般的なモデルを予想することができる。Enquistと Niklas(p. 1517;Zensたちの展望記事を参照)は、茎、葉、そして根の質量のスケ ールを定量し、そして別々の植物が、それぞれの非比例的定数においてどの程度異なる 可能性があるのかについて示している。ついで、これらの"一般的な配分規則"を、植物 サイズにおいて9倍以上異なるものまでカバーする、葉、茎、そして根のバイオマスの 異種間のパターンおよび同一種内のパターンの膨大な概要について解析した。統計学的 解析により、モデル予想に対するしっかりしたサポートが提供され、そして機能的に多 様な群落および生態系にわたって植物バイオマスのスケールが幅広い普遍性を持ってい ることが示される。(NF)

 二歩前進(Two Steps Forward...)

最も慣習的な癌治療薬が、徐々にその有効性を失いつつある。なぜなら、腫瘍細胞が遺 伝子的に不安定でありそして薬剤耐性を付与する変異を容易に獲得することができるか らである。薬剤耐性は、血管新生阻害薬にとっては問題とならないだろうと期待されて いた。というのも、これらの薬剤は腫瘍脈管構造中の内皮細胞を標的としており、この 細胞は遺伝子的に安定であるからである。しかしながら、Yuたち(p. 1526;Marxによ るニュース記事を参照)は、腫瘍抑制性タンパク質p53を欠失するヒト結腸直腸腫瘍細 胞(HCT116)を移植されたマウスにおいて、正常なp53機能を有する腫瘍を移植された マウスと比べて、抗-脈管形成性の組み合わせ治療に対する反応性が低下していること を見いだした。最も可能性のある説明は、p53の欠失により、腫瘍細胞の低酸素条件下 での増殖能力が向上した、というものである。p53はほとんどのヒト癌において変異し ているので、これらの結果は、抗-脈管形成性薬剤を試験する臨床試験の計画立案およ び解釈に対して、密接な関係を有している可能性がある。(NF)

一緒に動いている(Moving in Concert)

酵素機能では動的な効果がの役割を果たしており、触媒作用経路の各段階にアミノ酸残 基の運動を合わせることができる。今回Eisenmesserたち(p. 1520;Falkeによる展望記 事参照)は、核磁気共鳴弛緩の方法を用い、サイクロフィリンAという酵素が自分の基質 のプロリン残基を異性化する時の運動の特徴を解明した。著者は、9つの残基における 基質結合に関連する運動を検出したことに加えて、遷移状態の再編成に関連している運 動をすると考えられる1つの残基を同定した。(An)

核輸出をもつインターフェロン (Interferon with Nuclear Export)

信号仲介の過程によって核孔を通して種々のタンパク質とRNAが輸送される。Enningaた ち(p 1523)は、抗ウイルス剤であるインターフェロンがメッセンジャRNA(mRNA)の輸出 を制御することを研究した。ウイルスタンパク質の標的であり、宿主細胞mRNAの輸出の 抑制を導く核孔のタンパク質成分の2つは、インターフェロンの存在下で特異的に上方 制御された。この結果は、宿主細胞の遺伝子発現におけるウイルス誘発性の変化を逆に することができる抗ウイルスの戦略を描いている。(An)

逆送を必要としないニューロンの生存(Neuron Survival Without Retrograde Transport)

生存のためにいくつかのニューロンは、周囲からの信号に頼っている。特に、交換神経 は、それらのターゲットによって分泌される神経成長因子(NGF)によって支えられてい る。以前の観察では、NGFは神経細胞体へ取り入れられ、かつ逆送されると見なされて いた。  MacInnis と Campenot(p. 1536; MillerとKaplanによる展望参照)は、ビーズ に繋留したNGFを用いて、ラットの交感神経細胞は区画化培養で生存のためにNGFを必要 とするが、神経細胞の生存にはNGFが取り込まれ、かつ輸送されることを必要としない ということを示している。(hk,TS)

信号がなくなった後には何が残っている?(After the Signal's Gone, What's Left)

T細胞は別の免疫細胞(抗原提示細胞:APC)と関係をもつと刺激されて活性化する。細 胞間シナプスの助けによってこの親密な遭遇が実現するが、T細胞の活性化には更に継 続した関与が必要であると思われている。Leeたち(p. 1539; およびvan der Werweと Davisの展望記事参照)は、T細胞受容体を通じての情報伝達は、実際のところ成熟免疫 シナプスが形成されるまでには減少していることを示した。成熟したシナプスの中心は 、以前考えられていたような超分子情報伝達複合体として機能しているのではないらし い。では、この特異的でダイナミックな構造は何の機能を持っているのか?(Ej,hE)

高分子+ナノ結晶で赤外光を得る.(Polymer Plus Nanocrystals Yield Near-IR Light)

高分子をベースとする発光ダイオード(LED)の光を短波長の通信バンドを含む近赤外領 域へと拡張する事は、このような長波長域で光学的に活性な高分子は殆ど無いために困 難とされてる。Tesslerたち(p.1506)は、ZnSeシェルで囲まれたInAsコアのナノ粒子を 共役高分子のフィルムに付与すると、1.0から1.3μmの間の波長のエレクトロルミネッ センスが観察されたことを報告した。発光特性はナノ粒子のコアの半径を変えることに よって調節する事が出来る。(KU)

何処でも暖かくなったわけではない (Warmer, But Not All Over)

地球規模の古代温度の再現結果によれば、20世紀は明らかにその前の3世紀間よりも暖 かくなっている。しかし、この温暖化がどれほど均質であるかを決定し、気象モデルを テストするためにはもっと広域的記録が必要である。Hendyたち(p. 1511)は、オースト ラリアのグレイトバリアーリーフ内の7箇所からさんご礁の古気温記録を示した。それ によると、20世紀の熱帯西太平洋は、この420年間の気温に比べて暖かかったとは言え ない。彼らは、ここでの塩分濃度は20世紀に比べて18世紀の方が高かったとも述べてお り、1870年以降の突然の脱塩化は西太平洋全般で同時に起きており、熱帯地方の気温の 寒冷化と同期している。著者たちが示唆するように、これらの変動は、緯度方向への強 い温度勾配と強い循環が原因となって、移流と風の組合せによって蒸発が促されたとす ると最もうまく説明できる。更に熱帯太平洋から極地方への水蒸気輸送が大きくなった ことが、小氷河期(大体1400AD年ごろから1900年ごろまで)の地球規模の氷河拡大の部 分的理由かも知れない。 (Ej,hE,Og,Nk)

サルとヒトの脳の比較(Comparing Monkey and Human Brains)

サルは長年、脳研究において、主として形態学的、電気生理学的に、また病変の研究の ために調べられてきた。他方ヒトは、脳のイメージングあるいは神経生理学的 研究において調べられてきた。Nakaharaたちは、機能的磁気共鳴映像法を用いて、同一 の高水準認知課題(改変されたウィスコンシン・カード・ソーティング課題)を遂行して いる覚醒している行動中のサルとヒト被験者を直接的に比較した(p. 1532)。双方の種 の脳の相同的領域が、認知集合シフト(cognitive set shifting)に関与している。この 結果は、高度の遂行課題の機能レベルにおいてすら、ヒトとサルの脳が類似しているこ とを証するものである。(KF)

いろいろな層で(Layer by Layer)

発生の過程で、哺乳類の大脳皮質のニューロンは、離れた場所で生み出され、最終的な 位置まで移動して(遊走して)いかなければならない。こうした移動に関与する情報伝達 機構が、いま解明されつつある。McEvillyたちは、2つのPOU領域転写因子、Brn-1と Brn-2の役割をニューロンの移動において検証した(p. 1528)。Brn-1とBrn-2をマウスか ら除くと、皮質の層II-Vに欠陥が見られるようになる。Brn-1とBrn-2は、ニューロンの 移動を制御していると知られているCdk5の2つのサブユニット、p35とp39の転写に、直 接貢献しているのである。このため、Brn-1とBrn-2は、Cdk5経路を制御しており、特異 的な皮質の層にあるニューロンが適切に放射状に移動するために必要なのである。(KF)

論議を呼ぶ始生代の酸素増加(The Problematic Rise of Archean Oxygen)

Catlingたちは、地球大気中の酸素が、細菌による光合成が開始されてから何億年も経っ た24億年から22億年前(Ga)に突然増加したのはなぜかの説明を提供した(2001年8月3日号 の報告 p. 839)。初期の還元雰囲気中では、水から光合成で分解されて生じる水素は、中 間生成物であるメタン(CH4)に合成された。それに引き続いて起きるより上空 での大気中のCH4の炭素と水素への光による分解によって、彼らの示唆すると ころでは、水素が宇宙空間へと逃げ出すことになり、水素という還元体が永久に失われた ことによって、時間が経つうちに、地球の不可逆な酸化が導かれることになったのである 。Toweは、「光合成によって毎年生み出される自由酸素の運命が...この提案にとって大 きな問題になってくる」とコメントしている。そうした酸素が急速に蓄積されることの 1つの結果は、彼が示唆するところでは、メタンそのものの酸化であり、これは大気中の メタンの蓄積の比率を下げ、その結果水素の逃げ出しの比率も下がるのである 。Catlingたちは、「酸素分子の動力学的損失は、[Toweが]認めるよりも大きな割合で働 き」、自分たちが予見しているCH4の蓄積を許すには充分であり、またそうし た蓄積は「地球の歴史におけるいくつかの主要なできごとを説明する助けとなりうるもの である」と応じている。これらコメント全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/295/5559/1419a で読むことができる。(KF)
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