AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 25, 2002, Vol.294


南極湖の生態系に起きた劇的な変化(In Brevia)

南極の湖の生態系は過去50年間で気温が1度上昇したことで劇的に変化した、と Quayleたちが報告している(p. 646)。氷結しているWeddell Seaと温暖なScotia Seaの 合流点であるSigny Island(南緯60-43度、西経45-38度)の気候は冷気隗と暖気隗の相互 作用により変動する。一帯の平均気温は1950年以来1度Cほど上昇し、それに対応して年 間を通して凍っている氷の厚さも薄くなり、氷に穴が開く期間が伸びた(1980年に対し 1993年は63日間多い)。周辺の海温が変化しなかったにもかかわらず、Signey Islandの 湖自体は地球規模の温度上昇の3倍から4倍、周囲の夏季の気温上昇に対しても2倍から 3倍の高上昇率を示している。湖底の堆積物は夏季に氷の開口部からより大量の太陽エ ネルギーを蓄え、冬季には積雪による保温効果でそのエネルギーの放散が抑えられ、外 気温に比べて温度上昇が加速された。これらの気候変化が湖の生態系に劇的な変化を与 えた。(Na)

中国における植物の改良(Improving Plants in China)

遺伝子工学を利用して農作物を改良することは、激しい議論の対象となってきた。遺伝子 工学は、さまざまな作物の栄養価や成長力を高める潜在能力を持ち合わせているが、いく つかの国において、遺伝子操作された植物による生態系への影響や、食料としての価値に ついて心配する世論のため、作物への遺伝子操作の受け入れることを遅らせてきた 。Huangたち(p.674)は中国における現状を分析した。1997年から2000年にかけての調査で は、遺伝子操作した作物の潜在能力について熱心な探求の跡が見られ、いくつかの作物に 対してはコスト削減効果や、農薬の削減による農民の健康への効果について分析を示して いる。(TO)

粘土における有機物の吸着(Organic Adsorption on Clays)

有機物に富む黒頁岩(black, organic-rich shale)の広範囲な地層は、過去に何度か 、特に中生代において堆積した。こうした堆積は、海洋循環が限定された時期に還元炭 素が形成され、そして酸素濃度が低い環境下で保存されて形成、保存されたもとの解釈 されていた。こうした堆積の存在から過去の海洋や気候の条件を推定することができる 。またその地層は、多くの石油の源でもある。Kennedyたち(P.657)は、その源は海洋の 条件ではなく、実際に存在した粘土鉱物(clay mineralogy)や陸性の風化(continental weathering)を反映したものであろう、と推察している。彼らは、今日の海底堆積物に 見られるように、炭素化合物が吸着された粘土鉱物が有機炭素の貯蔵に基本的役割を演 じていることが推察できる。我々のデータによれば、粘土鉱物であるスメクタイト (smectite)中には有機物が存在している。現在、還元状態の炭素化合物が貯蔵されてい るのと同様に、中生代の典型的な黒頁岩はスメクタイトを伴っており、この層中に炭素 種を固定化できることを示す。(TO,Og)

電気的に制御された磁性(Electrically Controlled Magnetism)

情報に基づいてキャリアのスピン特性に符号を持たせるという、現在開発中のスピント ロニクスの分野において、隣接する半導体にスピンを高効率で注入する必要がある場合 には、磁性半導体を開発する必要がある。磁性半導体は実現されてはいるが、それらは 、マイクロエレクトロニクスで支配的な IV 族の材料(Si, Ge, C) と、一般的には整合 性の良いものとは言えない。 Park たち (p.651) は、分子線エピタキシーを用いて 、116 K という温度で強磁性体の秩序を有する、マンガンをドープした Ge を作成した 。彼らの設計は、キャリア密度を変化させることが可能なゲート構造を含んでおり、そ れゆえ、磁性挙動のオンオフをスイッチングするメカニズムを与えるものである。(Wt)

おあつらえのマイクロチャネル(Bespoke Microchannels)

マイクロチャネルは、化学合成や生物化学など多くの分野に応用が広く、開発が盛んで ある。デバイスをどんどん縮小化することによる障害の一つは、流体混合における難し さである。このような小さなデバイスでは、流れは層流のパターンとなりやすい。外部 から混合させるデバイスは存在するが、それらは作動部かあるいは外部動力源のどちら かを必要とするものである。Stroock たち (p.647)は、幅が200マイクロメートル、高 さが77マイクロメートルの細長いチャネルの床上に、深さが18マイクロメートルの並ん だ一連の非対称な杉綾模様(魚の骨状)の並列溝を有するマイクロフルイディックシス テムを作成した。これらの溝部を流体が通過すると、部分的に逆流が開始し、二つの平 行な注入口から流れのカオス的混合が生じる。さらに有利なことには、この流体はプラ グ状に流れる(流れによって、自分自身の流れを塞ぐ)傾向がある。このようなことは 、表面張力が支配的でポアズイユ流が標準的であるようなマイクロフルイディックシス テムにおいて達成することは通常は困難なことである。(Wt)

愛と憎しみの狭間で(Caught Between Love and Hate)

水が二つの親水性表面間で捕捉されると、水は両方の表面を濡らし、表面の動力学的剪 断において定義された応答を示す。水が二つの疎水性表面間に閉じ込められるとき、も し分離距離が極限まで小さくなると水は自然と噴出される。そこで、水が愛と憎しみの 関係(隣接する疎水性と親水性表面の関係すなわちヤーヌス・インターフェース)にし たとき何が起こるのであろうか?Zhangたち(p. 663)は、疎水性表面と水の相互作用は 表面のわずかな一接点と剪断係数の大きな変動をもつというように複雑であることを 、表面力計測装置を用いて示している。(hk)

炭素三重結合の堅固な環状体(Tightening the Noose on Carbon Triple Bonds)

三重結合における炭素原子のsp混成により、三重結合とその置換体(C-C eqiv C‐C)に 関して直線状の幾可学的構造を形成して、三重結合を含む小さな環状体は不安定となる 。Suzukiたち(p.660)は、三重結合を一つ含む五員環がジルコニウム錯体の一部とし て形成されることを報告している。この構造はX線結晶学により決定され、三重結合の 存在が核磁気共鳴や反応性の研究によって確認された。(KU)

広がりの中での多様性(Diversity at a Distance)

ベータ多様性は、様々なスケールでそして広がりを有する種多様性のパターンの基準で あり、そして生態学的プロセスの潜在的に強力な指標である。しかしながら、それを算 出するためには、膨大な量のデータを集めることが必要であり、それは熱帯雨林でのハ ードルの高い難題である。Conditたち(p. 666; Duivenvoordenたちによる展望記事を 参照)は、70以上の場所および1000以上の種から集めたデータを使用して、アメリカ大 陸の熱帯の3箇所(パナマ、エクアドル、ペルー)でのベータ多様性のパターンを詳細 に記述する。彼らは、大きな広がりにわたって予想に反して低いアマゾンにおける種タ ーンオーバーよりも、中央アメリカにおける種ターンオーバーの方が、より高頻度で起 こることを示しており、このことはパナマ地峡における生態多様性がより大きいことと 相関している。しばしば斑点状の分布および群集構成のバリエーションを引き起こして いると考えられている限定的な種子の分散は、ベータ多様性の重要な決定因子ではない だろうと考えられる。(NF)

 これを見つけたから、今じゃリラックスできます(We Found It, You Can Relax Now)

ホルモンであるリラキシンは、ほ乳動物の生殖プロセスにおいて重要であると考えられ ており(Ivellによる展望記事を参照)、そして予定日前の出産症状および分娩につい ての問題を治療するための治療手段の開発は、その対応の(cognate)受容体がわかり にくいために行き詰まっていた。Hsuたち(p. 671)は、リラキシンの作用を媒介する Gタンパク質結合型受容体を同定した。このことは、いくらか驚くべきことである。と いうのも、構造的に同様なホルモンであるインスリンは、受容体型チロシンキナーゼを 介してシグナルを伝達するからである。(NF)

試験管内の変形体(Plasmodium in_vitro)

マラリア寄生虫の生活環は、個別のステージからなり、脊椎動物宿主と蚊宿主の間に分 れるので、複雑である。蚊のステージとは対照的に、脊椎動物ステージを試験管内で複 製する技術はよく確立されている。Al-Olayanたち(p 677)は、マラリア寄生虫であるP. bergheiの蚊ステージを試験管内で培養することに成功した。このマウスの寄生虫は 、ヒトのマラリアのモデルとして普通に利用されている。Schneiderの昆虫培地におい て配偶子母細胞(ガモント)からオーキネート(ookinetes)が発生したが、この大部分 がさらにオーシスト(oocyst)に進んだ。オーシストから取得したマウス感染性のスポロ ゾイト(sporozoites)は、蚊における生活環の修了まで進むことができた。(An)

交通信号(Traffic Signaling)

レジオネラ(legionella pneumophila)は、宿主細胞を浸潤し、特定化した細胞内空胞に 住み始める。食作用性空胞の特徴を変えるために、dot/icm遺伝子でコードされる分泌 装置を用いて、レジオネラがタンパク質を宿主細胞の細胞質に注入することが予想され た。Nagaiたち(p 679)は、分泌の基質のようであるRalFというタンパク質を同定した 。宿主細胞に入ったRalFは、ARF1という宿主膜交通の重要なタンパク質を補充して活性 化する。(An)

腸内の傷ついた細胞(Cells Stabbed in the Gut)

ピロリ菌(H.pylori)は広く蔓延しているヒト寄生虫(世界人口の半分が感染)で、激痛の 胃炎や胃癌を含んだ様々な胃病に関連している。Higashiたち(p.683)は、宿主の細胞 を形質転換させる細菌のCagAタンパク質によって引き起こされる反応ステップを明らか にした。CagAタンパク質がピロリ菌により宿主細胞に注入されると、宿主キナーゼによ りチロシン残基がホスホリル化する。ホスホリル化したCagAは、その後で宿主のチロシ ン脱リン酸化酵素SHP‐2に結合する。結合によって細胞表面へとSHP‐2の転位置を刺激 し、脱リン酸酵素活性を発揮する。膜に結合した活性なSHP‐2は、その後細胞の形質転 換の前兆となる宿主細胞の形態変化を促進する。(KU)

平均的信号を分解する(Decomposition of the Averages)

事象に関連した電位(ERP)は電子的脳造影の研究において広く利用されている。ERPは短 い刺激によって起動するが、これは脳の離散的で機能別の処理領域を反映していると通 常は推察されている。従って、多数の刺激によって生じた平均的記録電位は、一定時間 内の活性ニューロン個数を反映しており、そうでない非同期のノイズは、平均化によっ て無視できるものと思われてきた。Makeigたち(p. 690)は、ERPを、脳の異なる領域か ら生じる、異なる成分に分解した。脳の多数の領域から入力する刺激の位相が同期する と、ERPにおける複数の同期した活性ピークが生じる。従来の伝統的な考え方とは異な り、記録電位は、刺激に先立つ進行中の動的な脳活動の影響を大きく受けている 。(Ej,hE)

とどめおく力(Staying Put)

ニューロン系の発生過程では、軸索がニューロン細胞体から正しい方向を探しながら伸 びてゆき、シナプス標的に至るが、これだけで話が終わるわけではない。この過程が終 わった後でも、生物の動きや体組織の大きさや関係が変化することによって生じる機械 的な力が軸索を正しい位置にとどめおく働きをする。Aurelio たち (p. 686; Vogelに よるニュース記事参照)は、線虫では、腹側神経索(VCN)中の正しい神経路に軸索を安 定化させるための追加の信号が出ていることを見出した。この信号は特定のVCNニュ ーロンであるPVTニューロンから出ており、PVTニューロンは発生初期において腹側神経 路を樹立するために最初に必要なものの1つである。PVTニューロンの、その後に形成 される軸索に及ぼす安定化効果は、分泌されるzigタンパク質(2−イムノグルブリンド メインタンパク質)の機能によって仲介されているようである。(hE)

局所的変形を有する結晶化(Locally Deformed Crystallization)

バルク状の金属性ガラスは、その独特な特性から、科学的な好奇心の対象以上のものに なってきている。それらは、力学的に非常に強く、大きな変形を受けたときにも局所的 な構造変化をするだけで、同様の組成を有する微結晶アロイよりもより硬いのである 。従来の実験では、ボールミルの際や、強く曲げられたときなど、高エネルギー下でも っとも変形がはげしい場所に局所的なナノ微結晶が形成することが示されている 。Kimたちは、局所的スケールでの弱い圧入によってもナノ微結晶の形成がなされうる ことを実証した(p. 654)。その結晶はガラスが熱せられたときに形成されるものと類似 したものであり、これは同じような分子の再構造化が起きていることを示唆するもので ある。これは、こうした材料を工学的構造に適用する場合と、特性を強化した不定形ナ ノ微結晶アロイを設計する場合の双方について可能性を示すものである。(KF,Og)

ミオシンに気を配る(Minding Myosin)

分子性モーター、ミオシンは、細胞質分裂収縮環の形成の際に、筋肉やその以外の細胞 の双方における複雑な構造に関与している。線虫((C.elegans))のUNC-45のようなタン パク質は、ミオシン依存の適切な活動を促進するのに関わっている。Barralたちは 、UNC-45が、ミオシンの分子シャペロンとして、別のシャペロンHsp90と一緒になって 働くありさまを記述している(p. 669)。(KF)

RNAの弁証法(RNA Dialectic)

外来性の核酸が植物や動物の細胞に入り込む際、ある防衛機構(cosuppressionすなわち RNA干渉)によって外来核酸は小さな20から25のヌクレオチド断片に変換され、これによ って相補的配列の転写が妨げられるのである。Tijstermanたちは、線虫(C.elegans)か ら得た細胞をアンチセンスRNAに触れさせた(p. 694)。そのアンチセンスRNAはサイレン シングを引き起こすが、RNA干渉によって仲介されるサイレンシングとは違って、この 働きにはrde-1遺伝子やrde-4遺伝子が必要ない。ただし、RNAヘリカーゼMUT-7と MUT-14は必要になるのだが。著者たちは、MUT-14のヘリカーゼ活性によって、導入され たアンチセンスRNAから二本鎖RNAを合成できるようになり、これが酵素DICERによって 20から25のヌクレオチド断片に切り離される、という考えを提案している。(KF)
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