AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science Jaunuary 11, 2002, Vol.294


速報(In Brevia)

体細胞由来のクローン動物では様々な表現型の異常が見られる。これは、片方の親から 受け継いだ遺伝子が機能する、「刷り込み遺伝子(imprinted gene)」が正常に働かない ために起きると考えられている。Inoueたち(p. 297)は、Sertoli細胞由来の核移植 (NT)F1における刷り込み遺伝子の発現の対立遺伝子パターンを試験した。それに よると、試験した全ての刷り込み遺伝子について、全ての(n=9)胎児と胎盤で、正 常に生まれたマウスと同じであった。従って、配偶子形成の時期に樹立される刷り込み の記憶は安定しており、核移植後に卵母細胞や胚中で簡単には変異しないと思われる 。(Ej,hE)

温度制御によるドメインの大きさ(Temperature‐Controlled Domain Sizes)

ナノ構造の多くは動力学的に形成されるが、理論的予測では相境界の表面構造近傍の条件 で、小さなドメインが平衡条件で形成され、その大きさを変える事が出来る。Hannonたち (p. 299)は低エネルギー電子顕微鏡を用いて、複雑に(7x7)再構築された表面と大き く乱れた"1x1"相の小さな三角形のドメインの間でSi(111)表面で詳細にこの転移を描画し た。ドメインの大きさは、単に表面温度を変えることによって調整する事が出来る。(KU)

室温動作の中赤外レーザー(Room-Temperature Mid-IR Lasers)

半導体レーザーは移動性、小型、低消費電力などの特徴を持つ。中赤外領域のスペクト ル分光検査(多くの分子サンプルはこの波長域で励起モードを持っている)には安定で高 分解能の連続発光レーザー(continuous wave: CW)が必須である。しかしながら、この 波長域の光源は低温動作又はパルスモード動作(又はその両方)に限定されている 。Beckたちは(p. 301、Serviceの12月21日号のニュース参照)、室温でCW動作する最新 の半導体レーザー設計技術について報告している。彼らの設計手法の特徴は活性部位を 埋めこんで、励起キャリヤの良好な熱放射を保証するものである。9.1ミクロンの発光 波長で、温度292Kで17mW、312Kで3mWを達成した。高分解能のスペクトル分光分析シス テムの他に(ファイバーを使わない)自由空間通信システムへの応用も可能とする。(Na)

より速い反応物へのルート(Quicker Route to Reactants)

炭素-炭素結合形成に対してのより優れた合成法、特に触媒による合成法は不変的な価 値を持っている。芳香族環の炭素原子をカップリングする合成法の一つ 、Miyaura‐Suzuki反応はパラジウム触媒を用いて、アリールホウ酸とアリールハロゲ ン化物をカップリングさせる。Choたち(p. 305;Jonesによる展望参照)はイリジウム (Ir)触媒を用いて、「無溶媒」の条件下で芳香族炭化水素とボラン(水素化ホウ素)から 必要とするアリールホウ素化物の直接的な合成が可能である事を報告している。この Ir触媒は高度に選択性であり、その後に続くパラジウム触媒による交差カップリング (cross‐coupling)反応を阻害しない。(KU)

T細胞制御への勾配(Ascent on T Cell Control)

T-boxファミリーの転写制御因子であるT-betは、インターフェロンγ(IFN-γ)遺伝 子のトランス活性化によりTH1ヘルパーT細胞(TH1)免疫応答のマスター制御因子である らしいことが最近わかった。このT-bet 欠損の影響について2つのグループが研究して いる(Vogel によるニュース記事参照)。Szabo たち(p. 338)は、マウスでT-betの 発現がないと、ナチュラルキラー細胞とCD4 T細胞によるIFN-γの産生がひどく減少す ること、またCD4+ T細胞によるサイトカインの産生がTH2 側にシフトすることを見出 した。驚いたことに、CD8+ T細胞によるIFN-γの発現は影響を受けなかった。Finotto たち (p. 336)は、T-bet欠損マウスが、ヒトの急性、慢性喘息と似た自発性気道炎症 を引き起こすことを観察した。このことから、この転写制御因子の制御障害がヒト気 道の過剰応答を引き起こすのかも知れない。(hE)

六価パラジウムの証拠(Evidence for Hexavalent Palladium)

後期遷移金属の高酸化状態は、一つの金属中心とフッ素のような電気陰性度の高い配位 子のみを持った錯体においてまれに見出されている。Chenたち(p. 308;Crabtree による展望参照)は有機シリコーン配位子と三つの中心金属をもつPd錯体,そのうち二 個のPd原子は2+状態で1個のPdは6個のSi原子と結合しているが,を合成し 、その構造がこの化合物に関していまだ見たことのない6+状態である可能 性を報告している。(KU)

氷河期の終わりの海面の高さ(Sea Level at Termination II)

氷河期のサイクルは主に北緯65度での日照(solar insolation)の変化が原因となってい ると主張するMilankovitch理論の正当性について、最近10年間にかなり意見の相違が現 れてきている。北半球における日照が増加しはじめる前に氷河の氷量が減少し始めたと いうことが新たな証拠によって示されている。Gallupたち(p.310)は最近、136,000年前 に海水面の高さが、最後の間氷期における水面高のピーク値に対してその20%以内に上 昇したことを報告している。それがあまりに早いため、氷河の氷が融解した量と Milankovitch理論と一致しない。バルバドスにある上昇したさんご礁台地から得た放射 性炭素年代測定のサンプルにより、彼らは最後から2番目の氷河期の終了は、最後の氷 河期の終了とは異なり、恐らくMilankovitch理論が言う北半球の中緯度における日射の 増加よりも先に起こったと結論付けている。(TO)

親のガイダンス(Parental Guidance Suggested)

新たな地域で定着した生物の個体群は、しばしば形態的そして習性的に異なる。このプ ロセスは新たな種を生じさせることが可能となる。どのようなプロセスが初期的相 違(initial divergences)を生じさせるのか?Badyaevたち(p.316;Pennisiによるニュ ース記事参照)は、米国の異なる場所に定着したアトリ科の小鳥、フィンチの個体群に ついて生殖行動をテストしたことを報告している。性比の親の操作(Parental manipulation)や子の生育パターンは、子の死亡率を大きく減少させる。このことが 、個体群が新たな場所で定着し生き残るより大きなチャンスを与えている。(TO)

 SH3の検索委員会(SH3 Search Committee)

Src相同性3領域(SH3領域)は、Srcというプロトオンコジーンのタンパク質リン酸化酵素 の領域との類似性のためその名が付られた。SH3領域のファミリーメンバーは、対のプ ロリン残基が特徴となったタンパク質領域に結合することによって、細胞情報伝達と細 胞骨格の再編成においてタンパク質とタンパク質の相互作用を仲介する。Tongたち(p 321;Gersteinによる展望記事参照)は、SH3領域の各種の優先結合モチーフを同定するた めに、ファージ表示を用い、無作為配列のペプチドライブラリを検索した。その後、酵 母における予想したプロテオムにおいて、可能な結合パートナーを検索し、2雑種アッ セイを用い、酵母において発現したSH3領域の各種と相互作用したタンパク質を同定し た。その後、それぞれの手段によって予想されたネットワークの共通相互作用は、可能 性の高い生物学的な有意性について評価された。(An)

一匹または数匹の女王アリのためのタンパク質(Proteins for One or Many Queens)

ヒアリSolenopsis invictaでは、コロニーの社会的な構造は、主にGp-9遺伝子の対立遺 伝子によって決定される。働きアリがB対立遺伝子をもつアメリカにおけるコロニーは 、一匹の女王アリをもつが、b対立遺伝子をもつコロニーは数匹の女王アリをもつ 。KriegerとRoss(p. 328)は、GP-9が推定上のフェロモン結合タンパク質をコードする ことを示している。これによれば、卵出産女王アリの数は、働きアリの認識によって決 定されることを示す。B対立遺伝子の151位置におけるグルタミン酸残基がb対立遺伝子 におけるリジンに変換することによってタンパク質の電荷を変換するので、2つの対立 遺伝子の異なっている電気泳動的移動度を説明できる。(An)

脂質をもって、旅にでよう(Have Lipid, Will Travel)

細胞質のセリン-トレオニンキナーゼである、タンパク質キナーゼD(PKD)は、ほ乳動 物細胞中のトランス-ゴルジネットワーク(TGN)と結合し、そしてTGNから細胞膜を介 した輸送小胞の放出に関与する。BaronとMalhotra(p. 325;Bankaitisによる展望記事 を参照)はここで、PKDがTGNに結合するために、それが脂質ジアシルグリセロール (DAG)に対して特異的に結合しなければならないことを示す。この脂質の濃度が細胞 中で減少すると、TGNに対するPKDの補充およびTGNからの輸送は両方とも阻害された 。(NF)

ヒツジはBSEにはかからない(Sheep Likely Free of BSE)

大英帝国におけるヒツジが、英国のウシにウシ海綿状脳症(BSE)の流行を引き起こし たものと同一の動物タンパク質濃縮物を与えられた場合に、ヒツジに種を超えた同様の 感染が起こるのだろうか?同様のプリオン疾患であるスクレイピーは200年間ものあい だ英国の風土病であったため、そして臨床的にはBSEと区別することができないため 、この質問に答えるのは困難である。BSEとは異なり、人類がスクレイピーにかかる可 能性があることについての証拠は存在しない。多数の仮説が立てられているにもかかわ らず、ほとんど利用できるデータがないため、Kaoたち(p. 332)は、感染したウシの 数、ウシとヒツジのBSEに対する用量反応、感染飼料にさらされた程度、そして英国内 でBSEに感受性であったヒツジの数に基づく年齢コホート解析を行って可能性のあるシ ナリオを幅広く調べたうえで、BSEに感染したヒツジの数は10頭以下から1500頭のあい だであるとの意見を述べている。(NF)

マラリアのステージ特異性(Malaria Stage Specificity)

マラリアを引き起こすマラリア原虫の寄生生物は、それらのロプトリー(rhoptry)細胞 器官から分泌されるたんぱく質の助けにより、宿主に進入する。こられのたんぱく質 のあるものは、Py235 と呼ばれる多重遺伝子族(35以上の遺伝子)の一員である 。Preiser たち(p.342) は、Py235 族のさまざまな部分集合は、進入性のマラリア原 虫の生涯サイクルの3つの段階で転写されることを発見した。Py235 の各部分集合の 発現は、外見上は、その寄生生物がひとつの段階から他の段階へ、および、ひとつの 宿主細胞の型から他の型へ変化するときに、その宿主細胞の条件によってリセットさ れる。そして、その発現は、生涯サイクルにおける宿主細胞の型に対する寄生生物の 好みの変化の一構成要素である可能性がある。(Wt)

選択の因子(Factor of Choice)

哺乳類のX染色体に結びついた遺伝子は、オスとメスで同レベルで発現しなければなら ず、また、メスにおける2つのX染色体の一方は不活性化されなければならない。 どちらのX染色体が不活性になるかの選択は、X染色体上のいわゆる「X不活性化センタ ー」に結合するトランス作動性因子によって支配されていると考えられている。 Chaoたちは、そのトランス作動性因子が、刷り込まれた遺伝子においてエンハンサー機 能をブロックすることが以前から知られていた転写制御因子であるCTCFであると いう証拠を提示している(p. 345; また、PercecとBartolomeiによる展望記事参照のこ と)。刷り込みという状況でそうであったように、X染色体への結合は、標的DNAの メチル化状態に対して感受性がある。こうした結果は、Xの不活性化と刷り込みとの間 に機構上の並行関係があるかもしれないという興味をそそる可能性を提起するも のである。(KF)

地球の核における珪素

地球の核は主として鉄からなっている。しかし地球物理学的観測には少ない比率の軽 量エレメントを必要とする。  Linたち(p. 313)は、高圧高温下で鉄へ重量比10%以 下の珪素を加えたことによる効果を研究した。  少量の珪素は合金の構造を変えた 。そして鉄-珪素合金状態図の位相幾何学におけるこのような予想外だが有意な変化 は、観測とモデルとの違いを埋める手助けになるであろう。 これらの結果は、地球 の核のより良い理解に通じるであろう。そしてその核は、地磁場を発生させる地発電 を起こし、また我々を太陽の放射線から保護する手助けをしている。(hk)

チャネルとレンズ(Channels and Lens)

多細胞性生命体の発生の過程では、細胞は、協調した成長と分化のために、情報伝達分 子の継代を介して、相互にコミュニケートしている。コネキシン遺伝子の大き なファミリが、細胞間で情報伝達分子が拡散できるようにするギャップ結合チャネルを コードしている。多様なコネキシンのそれぞれの役割を決定するための試みとして 、Whiteは、マウスを遺伝子操作して、マウスの眼にある一つのコネキシン遺伝子 Cx50が別のコネキシン遺伝子Cx46と置き換えた(p. 319)。この置換分析は、Cx50 がレンズの分化と成長に必須であり、一方Cx46はレンズの分化においては機能するが成 長に関しては機能しない、ということを示した。このように、コネキシン多重遺伝子族 は、類似した配列をもつが、レンズの発生においては異なる特異性を示すのである 。(KF)

ニューロンは未来を予測するか?(Do Neurons Predict the Future?)

Hasegawaたちは、アカゲザルの前頭葉前部皮質におけるニューロンの活性と行動との関係 を研究して、「ニューロンは、現在の遂行を反映しているというより、過去を反映してい るか未来の遂行を予測している」ことを発見した(2000年12月1日号の報告 p. 1786)。Roelfsemaは、Hasegawaたちの分析は「少なくとも3つの点で不完全である」とコ メントし、数値シミュレーションから、Hasegawaたちの発見は、現在の遂行に対する対象 動物の動機付けに対するニューロン活性の依存と整合していると論じている。この研究は 、「前頭葉前部ニューロンがサルの過去の遂行をたどり、将来の実行を遂行している、と いうことを示していない」とRoelfsemaは結論付けている。Hasegawaたちは、Roelfsemaの 提示する行動モデルは実際の実験データと適合していない仮説に依拠しており、自分たち の実験は「前頭葉前部ニューロンの背景活性が、有意な時間遅れないし時間的先行状態に ある行動の一般的側面を跡付けるニューロンの過程をまさしく反映して」いた、と応じて いる。これらコメント全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/295/5553/227a で読むことができる。(KF)
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