AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 7, 2001, Vol.294


単分子トランジスタ(Single-Molecule Transistor)

分子エレクトロニクスを実装する多くの提案があるが、トランジスタのような3端子デ バイスが最も将来有望な構造の一つである。近年、分子トランジスタは一つの単層に数 千の分子を使って実証されていたが、今回Schonたち(p. 2138)は単分子だけでのスイッ チングを実証した。そして単分子だけでのスイッチングは、省エネ化と大規模集積化へ のチャレンジを意味している。(hk)

太陽のアウトプットと気候の変化(Solar Output and Climate Change)

太陽エネルギーの出力変化は、もちろん相対的には小さいが、気候に対して明らかに大き な影響を与える(Haighによる展望記事参照)。氷山の形成と移動が増加することを伴う表 面水の冷却の周期的な現象は、過去10万年間に渡って北大西洋で繰り返されてきた。Bond たち(Kerrによるニュース記事11月6日を参照)は最近、北大西洋における過去1万2千年間 における、実質的に全ての100年規模の低温表面水の拡大は、宇宙線による核種 14Cと10Beの生成の減少と関連していることを示した。この発見 は、これらの出来事と太陽の照射の変化と強く関連付けし、そして太陽の小さな変動を増 幅させるメカニズムが間違いなく存在することを示している。1600年中期から1700年初頭 にかけて、全世界平均温度が概ね過去1000年における最低であったとき、太陽照射は Maunder Minimumと呼ばれる極小であった。Shindellたち(p.2149)は、一般循環モデル (circulation model)を使い、 Maunder Minimumと、数10年間に渡って太陽アウトプット が比較的高かった1世紀後の太陽照射との間の温度の差に対して考えられるメカニズムを 評価した。Maunder Minimumの間における太陽が及ぼす気候変化は、北極振動(Arctic Oscillation)/北大西洋振動(North Atlantic Oscillation)の強度が縮小した結果である こと、そして冬季に大陸をまたがる局所的寒冷化は、全世界平均気温の減少よりも5倍以 上大きいことを示唆している。(TO)

火星の二酸化炭素サイクル(Carbon Dioxide Cycles on Mars)

火星が太陽の周りの軌道を巡るたびに、大気と氷冠(Paigeによる展望記事参照)との間 で二酸化炭素がやり取りされることにより、異なる緯度で季節変化が引き起こされる。 Smithたち(p.2141)は、Mars Global Surveyor探査機から得られたMars Orbiterレーザ 光度計とドップラー追跡によって測定された標高の変化を用いて、一方の極冠が夏季に 二酸化炭素に昇華して、反対側の極冠に移動し雪として再凝固するという、ことなる緯 度における二酸化炭素の雪の厚さの変化を追跡した。Malinたち(p.2146;カバー記事参 照)、MGSに搭載されたMars Orbiter Cameraによって火星の1年の間に収集された南極冠 の画像を用い、氷崖の後退を測定した。そして、二酸化炭素の昇華の推定された率は予 想を越えていて、火星が極冠の質量が大気に失われている大きな全体的気候変化の中に あることを示唆している。(TO,Tk)

貝殻ゲーム(Shell Games)

溶解層では、堆積による炭酸カルシウムについて、その貯蔵と溶解との間の転換が生じ ているが、その深さは、主要な海盆の間で異なっている。それの位置は、ある程度は炭 酸イオンの濃度に依存しており、従って、海洋大循環を敏感に反映する指標である。 Broecker とClark (p.2152; Archer と Martin による展望記事を参照のこと) は、有 孔虫の選別された個体群の貝殻の重さの測定について報告している。これによると、最 終氷期最寒期の間、現在より太平洋の溶解層は深く、大西洋の溶融層は浅く、そして 、現在と異なり、両大洋とも、炭酸塩の深さ方向に大きな濃度勾配が存在したことを示 している。現在に比較して、北大西洋で生産される深海での炭酸イオン濃度と、太平洋 で生産される炭酸イオン濃度との大きな差異の存在することは、海洋の温度と塩分の循 環に大きな相違が存在したことを反映している。(Wt)
【訳注】
@ the Last Glacial Maximum 最終氷期最寒期 (14C年代で16,000〜 18,000年前)
A foraminifera 有孔虫
http://www3.ocn.ne.jp/~kaseki/formini-f.htm にて、その姿を見ることができる.

新しい新皮質のニューロンはない(No New Neocortical Neurons)

オトナの霊長類の脳では、細胞が増殖し、新たなニューロンが形成しているらしいという 知見があるが、これはそれ以前の、中枢神経系でのニューロンは発生中に有糸分裂を終え てしまうという知見とは正反対であった。Kornack と Rakic (p. 2127)は、オトナのマカ クサルの脳の中の増殖細胞を同定するためにブロモデオキシウリジンを指標薬として利用 した。その結果、新皮質中の分裂している細胞は非ニューロンの補助細胞であり、ニュ ーロンの増殖は海馬や嗅球に限定されていることを発見した。従ってオトナの脳には、あ る種の新しい細胞が実際に存在するが、このような細胞が複雑な神経機能に果たす寄与は 二次的なものに過ぎない。(Ej,hE)

肥満のモデル(A Model of Portliness)

内臓(腹腔内)肥満を持つ人は、特に、「代謝症候群」という一連の代謝異常を引き起こ しがちであり、この症候群にはグルコース不耐性やインシュリン抵抗性、血漿脂質障害 、及び高血圧症が含まれている。内臓肥満は高レベルの糖質コルチコイド(グルコース の代謝に関与するホルモン)と関連しており、Masuzakiたち(p.2166;Guraによるニュ ース解説参照)は糖質コルチコイドの作用を増幅し、肥満した人の脂肪組織内に過剰発 現させる酵素、11β水酸化ステロイド脱水素酵素1型(11βHSD-1)の役割を調べた。11β HSD-1を脂肪組織内に中程度に過剰発現させた遺伝子組換えマウスでは内臓肥満が起こ り、注目すべきことには、代謝症候群の明瞭なる数多くの特徴を示した。(KU)

薬剤耐性に挑戦(Taking on Drug Resistance)

黄色ブドウ球菌のタンパク質QacRは、qacA多剤輸送遺伝子の転写を抑える。QacRは、又 、多様なカチオン性の親油性薬剤に結合し、そして薬剤結合はqacA遺伝子の発現を誘発 する。Schumacherたち(p.2158)は、6っのQacR-薬剤複合体の構造を決定した。DNAに結 合したQacRに比べて、薬剤結合したQacRは誘導を引き起こすような構造変化をし、膨ら んだ多種薬剤‐結合用のポケットをつくる。耳感染の急性中耳炎やより深刻な髄膜炎 、肺炎及び致命的な敗血症の主要原因である肺炎連鎖球菌は、多くの子供たちの呼吸系 において無症候のキャリア状態で存在している。このような菌の保有は感受性の人にと って薬剤耐性への重い負担となる。Loefflerたち(p.2170)は、溶菌酵素を用いて気道に 存在する細菌を殺すという黄色ブドウ球菌に対して開発された技術を利用した。鼻感染 のマウスモデル実験で、ファ−ジDp-1からのアミダーゼである酵素Palを鼻や口に投与 した1400ユニットで細菌が除去された。この治療法は他の細菌に影響を与えず、そして 広範囲な酵素服用の後も耐性菌は現われなかった。(KU)

腸管レベルの決定(Gut-Level Consequences)

マウス小腸の上皮には、1種類の多分化能を有する細胞に由来する4種の主細胞、すなわ ち分泌性の3種類の細胞(杯細胞、腸内分泌細胞、およびパネート細胞)および吸収腸 細胞、が含まれる。Yangたち(p. 2155; van den Brinkたちによる展望記事を参照 )は、小腸において見いだされそして中枢神経系における細胞運命の決定に対して必要 であることが報告されている塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)転写因子、 Math1が、腸管細胞の決定に関与しているかどうかを調べた。機能的なMath1を欠損する マウスにおいて、分泌細胞は分化をすることができず、そして前駆細胞は増殖期にあり 続けた。しかしながら、Math1の喪失は、腸細胞に影響を与えなかった。(NF)

 匂いに慣れる(Getting Used to a Smell)

脊椎動物の嗅覚ニューロンにおいて、匂い分子は、環状ヌクレオチド-依存性チャンネ ル(CNGs)の開口を刺激する。結果として生じるCa2+イオンの流入はまた、Ca2+-カル モジュリン(CaM)複合体と結合する場合にチャンネル活性が阻害されるというネガテ ィブ-フィードバックメカニズムを引き起こす。このメカニズムは、嗅覚の適応を促進 し、そして動物が持続的に匂い環境を評価することを可能にする。チャンネルの3つの サブユニットのうちの2つが匂い適応に必要とされることを、2つのグループが確認した 。Mungerたち(p. 2172)は、CNGA4サブユニットを欠損するマウス由来のチャンネルは 、より遅いCa2+-CaM-媒介性阻害を発揮することを示す。Bradleyたち(p. 2176)は 、異種発現系を使用して、CNGA4およびCNGB1bサブユニットの両方ともが、Ca2+-CaMの 開口状態のチャンネルへの結合を促進することを示した。(NF)

切って核へ逃げよう(Cut and Run to the Nucleus)

受容体チロシンキナーゼ仲介のシグナル伝達に関する普通の考えかたは、リガンド結合 時に細胞の表面において開始した情報伝達カスケードが遺伝子発現を最終的に制御する ことである。このような受容体が核へ局在化して転写に直接影響することが提案された が、核の転位置のメカニズムが不明確であった。Niたち(p 2179;HeldinとEricssonによ る展望記事参照)は、ErbB-4という上皮細胞成長因子受容体のファミリーメンバーがプ レセネリン依存性セクレターゼ(secretase) によって切断されることがErbB-4における 転写的に活性な細胞内領域を核へ遊離することを示している。この切断がない場合には 、ErbB-4リガンドが細胞増殖を変調することができなかった。(An)

大きいほうが良いわけではない(Bigger Is Not Better)

PTENという癌抑制遺伝子は、正常な脳の発達において重大な役割を果たす。標準PTEN欠 失変異体マウスは発生の初期において致死的であるので、Groszerたち(p 2186;PennigerとWoodgettによる展望記事参照)は、妊娠中期に中枢神経系からPTENを除 去する条件付きノックアウトを開発した。このマウスは、特定のシグナル伝達経路の活 性化過剰を示したが、さらに拡大した脳において複数の形成異常およびより多くてより 大きな神経細胞も現した。変異体の脳における細胞増殖とアポトーシスの分析によれば 、PTENは、細胞周期中の神経前駆細胞の進行を制御することを示唆している。(An)

銅塩超伝導物質における磁力線渦の異常な動力学(Anomalous Vortex Dynamics in Cuprate Superconductors)

超伝導のもっとも直接的なな応用の一つは、抵抗ゼロの結線として用いることである 。しかしながら超伝導物質を磁界中に置くと、わずかな磁力線(又は渦)が超伝導体の中 に入り込む。その渦は不活性化されない限り、エネルギーを消費し、最終的には超伝導 性を破壊する。低温ではこれらの渦は凍結され、規則正しい三角形の格子を形成する 、しかし、温度が遷移点まで上昇し、通常状態に移ると、その渦は活性化する。この渦 の動力学を理解することは、超伝導の実用的な応用を開発するために重要と考えられて いた。Matsudaたちは(p. 2136)、新規に開発された、高分解能のローレンツ顕微鏡を用 い、高温の銅塩超伝導物質内に、規則正しい三角形の格子と、異常な振る舞いをする交 互に配置された線状の渦の様子を明らかにした。彼らは線状の渦が、三角形の格子内の 渦より先に活性化すること、そしてそのことにより、実用化に課題がある可能性を報告 している。(Na)

運動中の染色体(Chromosomes in Motion)

染色体の運動は、細胞分裂時だけではなく、細胞周期の他の期間でも起こる。Heunたち (p. 2181)は、細胞周期のG1期(成長もしくは”静止”期)に酵母の染色体では、エネ ルギー依存の大規模で急速な運動が発生することを見いだした。続いて起こる細胞周期 のS期(DNA合成期)には、この運動が束縛されたが、この束縛はDNA複製に依存する ため、このことは複製フォーカスが染色体の運動を妨害することを示唆する。著者は 、この期間中に、動原体とテロメアが核膜の周辺部に密着することが核における染色体 の全体的な位置決めの助けとなることを示唆している。(An)

選択的に糖を見る(Selectively Seeing Sugars)

細胞は、表面にある受容体を用いて周囲のものを感じ取っている。特性がよくわかって いる受容体の多くは、アドレナリンなどの小さな分子の存在を検出できるが、同様に重 要な機能は、他の細胞上や細胞外基質内にある環境性の高分子と一過的に(あるいはゆ るく)相互作用する受容体によって果たされている。Feinbergたちは、そのような受容 体のうちの2つ、DC-SIGN[樹状細胞特異的なICAM-3(細胞内接着分子-3)にとりつくノン インテグリン]と、高分子の炭水化物部分を認識するそれに関連した受容体DC-SIGNRの 結晶構造を提示している(p. 2163)。DC-SIGNは、T細胞によって発現される表面分子 ICAM-3にくっつくが、この相互作用がT細胞の樹状細胞活性化プロセスの一部をなして いる。DC-SIGNRは、巡回する細胞が毛細血管やリンパ節の表面を走査する初期段階を媒 介する内皮細胞成分である。これら2つの受容体はいずれも、ヒト免疫不全症ウイルス によって、ウイルスがT細胞に入る前に、HIVタンパク質gp120に無理やり結合させられ るのである。(KF)

甲殻類と「カンブリア紀の爆発」(Crustaceans and the "Cambrian Explosion")

Siveterたちは、イングランドのShropshireにある低部カンブリア紀地層から出た phosphatocopid節足動物の化石について記述しているが、それは「カンブリア紀初期に おける、Eucrustaceaを含む甲殻類の出現の証拠」を提供し、「先カンブリア紀後期の 後生動物の歴史についての...仮説」を支持する、というものであった(2001年7月20日 号の報告 p. 479)。Forteyは、この研究はカンブリア紀の進化の「爆発」の突然さと急 速さについて疑問を呈させるものだ、と記していた(2001年7月20日号の展望記事 p. 438)。Buddたちは、コメントを寄せ、Siveterたちによって提案されている系統発生関 係の一部について疑問を提起し、それらの化石は「カンブリア紀の爆発仮説を検証する のに適当な範囲をはるかに超えて...およそ3200万年もカンブリア紀の起点から後の時 代のものになっている」と指摘している。Siveterたちは、彼らの分類を防御する議論 を提供している。彼らはまた、自分たちの化石は、「カンブリア紀の進化の広がりがそ の『爆発的な』性質を達成した」時期より「最大でも数百万年若い」ものだと述べ、彼 らの分析は、他の化石群から得られる証拠と組み合わせて、節足動物の進化系列がずっ と早い起源をもつことを示唆するものだと述べている。これらコメント全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/294/5549/2047a で読むことができる。 (KF)
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