AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 23, 2001, Vol.294


本当に全世界的な衝突(Truly Global Impact)

白亜紀-第三紀(Cretaceous-Tertiary)の絶滅は、大きな爆発流星(bolide)がメキシコの ユカタン半島に衝突したことが原因である。北アメリカでは、衝突による冬や野火によ る大きな森林破壊の痕跡が存在している。最近、Vajdaたち(Flanneryによる展望記事参 照)は、イリジウムの異常と関係したニュージーランドにおける森林破壊の痕跡を発見 した。その衝突は、全世界的な影響を与え、南半球の陸上にも荒廃を引き起こした。 (TO,Tk)

平行な構造体(Parallel Assembly)

人工骨格の設計は、一般的に再石灰化の問題、すなわち有機-無機界面においてヒドロキ シアパタイト (HA)を成長させることにねらいを定めてきた。しかしながら、骨は機械的 特性に寄与する多くのより高度な構成を持つ複雑な無機質構造体である。Hartgerinkたち (p. 1684; Serviceによるニュース参照)は、ペプチド両親媒性物質 (PA )を設計して 、これを取り込まれた別々のユニットを強靭化すなわちHA吸着と細胞接着をする骨格材料 として使用した。PAの組立と架橋をコントロールするためにpH(水素イオン濃度指数)を 変えることによって、著者らは一連の平行なシート状にHAの石灰化を促進することができ た。pHを変えることによってHAは再溶解でき、これによってPA構造体における連結が弱く なる。(hk)

二つの戦略の物語(A Tale of Two Strategies)

森林による CO2 の正味の摂取量は、大気の CO2 濃度の局所的変 化を計測する("渦共分散流束 eddy covariance flux" と呼ばれる方法)か、あるいは、バ イオマスの得失の明細を作成するか、二つのうちのどちらかの方法で評価することが可能 である。過去においてこれらのアプローチは、常に一致しているわけではなく、両者の相 違は、北アメリカのようなある領域の炭素の収支評価の点での論争を引き起こしてきた。 Barford たち (p.1688) は、Harvard Forest における炭素摂取量についての渦流束(eddy flux)測定を9年間行い、それを、伝統的な明細に基づく評価と対比し、両者の値が非常 に一致してることを見出した。これは、渦流束(eddy flux)法の重要な検証となっている 。Harvard Forest の実質的な摂取は、ほとんどは、以前の土地の利用によるものである 。CO2 の摂取における、季節的変動あるいは年間変動は、気候的な変動によ り説明されうる。(Wt)

近くと遠くの小惑星(Asteroids Near and Far)

Lincoln Near-Earth Asteroid Research (LINEAR) は、数年に渡り天空の小部分に渡っ て、近地球小惑星(near-Earth asteroids NEAs)を同定し、一覧表を作成してきた。 Stuart(p.1691) は、このデータを用いて、検知確率に基づいた全天空に対する NEA 群 の大きさと形を評価した。彼は、1km直径の小惑星の数はおよそ 1200個で、分布は以 前考えられていたよりも黄道により大きく傾いていることを見出した。小惑星族は、主 ベルト(the main belt)における大きな衝突により形成されると考えられており、それ らのうち揺動を受けた小惑星は、NEA の候補の実際の源となる。Michel たち (p.1696; 表紙を参照のこと) は、多数の小惑星族のメンバーは、主たる衝突の後の重力的な再集 積により形成されうることを示している。この再集積によって、観測される小惑星族中 に大小の小惑星が存在することが説明できる。Bottke たち (p.1693) は、Yarkovsky 効果と呼ばれる熱的な力により、これらの新規に生み出された小惑星族は広がりうるこ とを示している。彼らのシミュレーションは、小惑星族分布の観測と対応している。興 味深いことには、シミュレーションによると、主ベルトにある小惑星を近地球軌道に放 出するような領域が共鳴端にあることを示している。(Wt,Tk)

必要以上に妨害するな(Do Not Disturb Too Much)

熱帯雨林における樹木の種の豊富さは何に由来するのだろう。最近議論が集まっているの は、この豊富さの維持を助長する、枯れたり、倒れた樹木による林冠の隙間という形の外 乱、の果たす役割である。Molinoたちは、フランス領ギアナの選択的に伐採されている熱 帯林と未開発の森林を調査し(p. 1702)、自然に生じる林冠の隙間による小規模な外乱に 比べて、伐採による外乱はより大規模なインパクトを与えると判断した。彼らの得た知見 は、中規模の外乱が種の豊富さを最大限にする、という仮説を支持している。(Na)

推し進める(Pushing Ahead)

運動性の真核生物細胞の先導端は枝分かれしたアクチンフィラメントによって前進する 。7つのサブユニットからなるArp2/3複合体はWiskott-Aldrich症候群タンパク質(WASp) で活性化されたときのみ、より古いフィラメントの側面に分枝アクチンの成長を促がす 。Robinsonたち(p.1679;WeedsとYeohによる展望参照)は、Arp2/3複合体を2.0オングス トロームの分解能でその結晶構造を決定した。2つのアクチン関連タンパク質(Arps)は 、2つのアクチンヘリックスのサブユニットを形成するように適切に配列しておらず 、このことは何故この複合体が不活性であるかを説明している。著作たちは、WASpやア クチンフィラメント、そしてアデノシン三リン酸といった核形成促進因子が活性な Arp2/3複合体形成を促進させていることを提唱している。(KU)

萎縮症に割り込む(Muscling In on Atrophy)

肉体的活動が減少したときに生じる筋萎縮症は、ユビキチンプロテアソーム経路による筋 肉タンパク質の大きな損失に起因するが、その正確なる分子媒介因子は知られていない 。遺伝子発現プロフィール法とそれに続くノックアウトマウスの分析を通して、Bodineた ち(p.1704)は、骨格筋萎縮症に関連する二つの筋肉-特異性のユビキチンリガーゼ(標的タ ンパク質がプロテアソームによるタンパク質分解において基質となる酵素)、いわゆる MAFbxとMuRF1を同定した。このタンパク質の同定によって、病気や加齢に付随してしばし ば生じる筋肉の衰えを防ぐための新たな治療法へと導びくものであろう。(KU)

vCJD流行性の規模(Lesser Extent of the vCJD Epidemic)

イギリスにおける変形クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)流行性の規模を予想するのは 、感染した人の数あるいは潜伏期間の平均がわからないため、困難である。これらの推 定が異ると、予測が異る(Medleyによる展望記事参照)。それにもかかわらず、統計方法 を用いた2つの研究グループは、潜伏時間が長く、患者の総数は多くても数千人を越な いことを予想している。Huillard d'Aignauxたち(p 1729;Balterによる10月26日のニュ ース記事参照)は、HIV患者数の推定のために紹介された統計の逆計算モデルを用い 、vCJD患者数を推定した。著者は、たとえ患者数が多くても、平均の潜伏期間は70年以 上に違いないことを報告した。Valleronたち(p 1726)は、vCJD患者の低い平均年齢 (28歳)に注目し、青年期にこの病気に対する感受性が高く、15歳以降には指数関数的に 下がること、更に全ての感染が1980〜1989年に起きたというモデルを提供している。彼 らは、潜伏期間は17年間と予想している。(An)

 放し飼いの線維芽細胞(Free-Ranging Fibroblasts)

線維芽細胞は、細胞増殖、形態、接着と運動を含む幅広い現象の研究のためのプロトタ イプ細胞であった。しかし、線維芽細胞の生物学についての現在の理解は、二次元の (2D)培養における細胞の観察に基づいたことである。Cukiermanたち(p 1708;Geigerに よる展望記事参照)は、線維芽細胞の培養のための3Dマトリックスシステムを設計し 、伝統的な2D培養システムとの重要な差を報告している、細胞-マトリックス接着につ いての徹底的な記述は、現在のモデルの再評価を求める程の際立つ構造や形態の違いを 明確にした。(An)

原核生物のための第2のポリメラーゼ(A Second Polymerase for Prokaryotes)

真核生物は、独立したDNAポリメラーゼのdとeを持っており、これらはDNAの異なる2つ の鎖であるリーティング鎖とラギング鎖をコピーする。本質的原核生物である大腸菌は たった1つのDNAポリメラーゼを有しているだけであり、これはリーティング鎖とラギ ング鎖の両方をコピーする。Dervyn たち(p. 1716) は、今回、枯草菌中に存在する第2 のポリメラーゼ遺伝子が、複製された複合体中に存在することを発見したが、これは第 2の(ラギング)鎖の合成に寄与しているらしい。このポリメラーゼの相同体がその他 多くの原核生物中に見つかることから、原核生物は真核生物と同じように、各鎖別に一 般的に2つのDNAポリメラーゼを持っているらしい。(Ej,hE)

思った以上似ている(More Similar Than We Thought)

一塩基性多形(SNP)は、大雑把に言ってヒトゲノム中に600塩基対に1つの割合で生じる が、これはヒトの歴史の中で一度生じた変異事象を表している。この変異が昔であるほ ど、人口集団中に生じるこのSNPの割合は大きくなる。1つの祖先の染色体を起源とす るSNP集団は、ヒトのゲノム内ハプロタイプと呼ばれる変異パターンを形成する。Patil たち(p. 1719;およびKwokによる展望記事参照)は高密度のオリゴヌクレオチドアレイと 体細胞アッセイを利用して、ヒトの多様性の程度を推定し、以前のどの推定よりもハプ ロタイプが少ないことを発見した。染色体21では、たった8%のハプロタイプが集団特異 的であり、人類全体の染色体多様性の内の80%がたった3つの共通ハプロタイプによっ て特徴づけられる。(Ej,hE)

MSの原因遺伝子を暴く(Exposing Culprit Genes in MS)

多発性硬化症(MS)は、神経を取り囲むミエリン鞘の自己免疫-媒介性欠損の結果生じる 脱髄性疾患である。MS患者の脳斑組織から構築した相補性DNAライブラリーの大規模配 列解析を使用して、Chabasたち(p. 1731)は、MSにおいてその発現が実質的に増加し た多数の遺伝子を同定した。これらのうちの一つは、炎症性T細胞応答に影響を与える 既知因子であるオステオポンチン(OPN)である。発現解析により、MS患者および実験 的自己免疫脳脊髄炎(EAE)を発症する実験モデルであるげっ歯類の、脳組織において 観察される病変に隣接する部位でOPNが亢進制御されていることが示された。T細胞によ る疾患および炎症性サイトカインの誘導は、OPN遺伝子を欠損するマウスにおいて大幅 に減少した。(NF)

DNA損傷に対する協調関係(Coordinated Effort Against DNA Damage)

タンパク質キナーゼATRは、DNA損傷が検出された場合に、細胞に細胞分裂周期の捕捉を 引き起こすシグナル伝達経路に関与している。Cortezたち(p. 1713)は、ATRと相互作 用し、そしてキナーゼに対する基質でありATRによりリン酸化される、新規のヒトタン パク質について記載する。ATRIP(ATR相互作用性タンパク質)は、ATRの酵母ホモログ と相互作用する酵母タンパク質と配列同一性を有するが、しかし酵母タンパク質とは異 なり、ATRIPおよびATRは、ヒト細胞において、互いの発現を制御する。発現のこのよう な緊密な協調は、両方のタンパク質がDNA損傷に対する適切な反応に必要であり、そし てATRがヒト体細胞の生存に必要であることを著者たちが示していることと一致してい る。(NF)

心血管についての遺伝子と機能をマッピングする(Mapping Cardiovascular Genes and Function)

生理学レベルでゲノミクスが有効となるためには、遺伝子を表現型と結び付けることが 必要である。Stollたちは、F2交雑で生まれたオスのラットにおいて、心血管および腎 臓について200以上の表現型を測定し、血圧の調節に関与するらしい81個の決定子をマ ップした(p. 1723)。著者たちはまた、「生理学的プロファイリング」を導入したが 、そこでは、測定された属性が、血圧調整についてのGuytonのモデルに従ってグルーピ ングされている。たとえば、アセチルコリンへの応答性に影響を与える10番染色体上の ある対立遺伝子を同時分離する生理学的パラメーターを推定したければ、単に相関マト リクスを調べるだけでよいのである。(KF)

細胞内細菌によるワクチン(Intracellular Bacterial Vaccines)

ウイルスの場合とは異なり、死んだあるいは不活性化した細胞内細菌からはよいワクチ ンを作れない。というのも、それらは、生きている細菌と比較して、不十分なT細胞記 憶しか生み出さないからである。Lauvauたちは、細胞内細菌であるリステリア菌(LM: Listeria monocytogenes)の生きている標本と死んだ標本を用いて、それぞれを接種す ることで引き起こされるCD8 T細胞応答の差を調べた(p. 1735)。死んだ細菌は、生きて いるLMに出会ったときにすぐに展開できるような記憶細胞を作り出したが、そのT細胞 はこの感染からマウスを守ることはできなかった。この欠陥は、死んだLMによって免疫 化されたマウスのCD8 T細胞には、抗LM反応の2つの主要な手立てである、インターフェ ロンγを産生する能力と細胞障害を生み出す能力のどちらもないためである。このよう に、死んだ細菌と生きている細菌による免疫の準備刺激には、定量的なものではなく重 要な定性的な違いが存在している可能性がある。(KF)
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