AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 2, 2001, Vol.294


彗星の起源(Cometary Origins)

彗星は、太陽系の端、温度が30Kから80Kの領域で太陽系星雲から凍み出た揮発性物質が軌 道面上に降り集まって形成されたと考えられている。Kawakitaたち(p.0189)は、スバル望 遠鏡により comet C/1999S4(LINEAR)の高精度分光データを集め、NH2のオルト-パラ率を 測定した。彼らは、NH2は太陽輻射によるアンモニアの光解離から生じたことを仮定し 、そのアンモニアのスピン温度が38Kであると導いた。もしこのアンモニアが原始太陽系 星雲を起源とするならば、そのスピン温度は、彗星が太陽系星雲の中の8天文単位から 15天文単位の間において形成されたことを示している。(TO,Nk)

秩序が壊れるとき(When Order Breaks Down)

相転移は、ある系の秩序の変化を反映しており、そして、しばしば、恣意的な秩序の乱れ に応答してどのように相転移が変化するかを研究することにより、系についての洞察を得 ることができる。Bellini たち (p.1074) は、スメクティック相からネマティック相への 融解というある種の液晶の相転移に関する秩序の乱れの効果について検討した。このスメ クティック相では、分子は層の中で一方向を向いてパッキングされている。一方、ネマテ ィック相では、分子は、まだ一方向を向いているが、明確な層構造を有していない。彼ら は、液晶をあるエアロゲルのネットワークに導入した。このネットワークの非常に不規則 な表面により、ナノメートルスケールの秩序は乱される。実験結果と二つの理論的描像と を比べて、彼らは、いかに長距離の周期性が破壊されているかを示している。それでも局 所的な秩序はなお維持され、バルクの相転移と類似の普遍性のある挙動を示している 。(Wt)

そのパルスから目を離さない(Keeping an Eye on the Pulse)

フォトニックデバイスの光パルスはデバイス構造中を伝播するため、デバイスの開発が進 展するにつれて、そのパルスの過渡的な挙動をモニターする必要性もまた増えてきている 。しかしながら、フォトニック構造内部を覗き見ることは、簡単なことではない。そのパ ルスが、数十フェムト秒のオーダーの時は、特に困難である。 Balistreri たち (p.1080) は、光学的走査型トンネル顕微鏡に基づく非浸襲的な技法を 発表した。これは、パルスが光導波路中を伝播する際に、時間的および空間的に解像可能 な分解能でそのパルスを「可視化」することに用いるうる。(Wt)

連結する(Making Connections)

水中におかれた電極対をマイクロワイヤーでつなぐ単純な方法が、Hermansonたち (p.1082)によって開発された。彼らは溶液へコロイド状金粒子を添加して、平面状の 電極対の間に交流(AC)をかけた。コロイド粒子が一方の電極に付着して他方の電極に向か って成長し、両者をつなぐワイヤーを形成した。このプロセスは二つの電極間に交流電圧 の非対称性を引き起こす導電性の島を配置することによって更に促進され、そしてワイヤ ーの厚さは粒径や濃度、電圧と電流、及び電解質濃度によって制御することが出来る。溶 液にラテックス粒子を加えるとワイヤーを被膜して、部分的な絶縁層を形成する。(KU)

生死に関わること( A Matter of Life and Death)

理化石化した軟体動物(molluscs)の遺物が含まれている貝殻層(Shell beds)は豊富にあり 、地球の生命史を解析するための中心となってきた。こうした遺骸集積物 (deathassemblages)は、ある特定の時代において種が存在したかいなかったのかという定 性的な記録以上のものを与えてくれるであろうか。Kidwell(p.1091)は、海洋堆積物の中 にある軟体動物の生存と死亡間の対応について数多くの定量的調査のメタ分析を行った 。彼女は、これらの堆積物は、軟体動物が生きていた元のコミュニティの中で軟体動物の 種が相対的に豊富であるという信頼できる記録を提供することを示した。これは遺骸集積 物が古生態学に関する重要な情報を明らかにすることができることを示している。(TO)

海の変化(Sea Changes)

海洋の主要イオンであるNa+, K+, Ca+,Mg2+, および Cl-についての研究からは、海洋 化学的性質 は、過去5億4000万年の間の顕生代期間、ずっと一定であったと推察されていた。しかし 、この仮説は海洋石灰岩や蒸発岩中にみられる鉱物学的変化とは整合しない。 Lowensteinたち(p. 1086; およびGoldsteinによる展望記事参照)は、顕生代を通じての海 洋地層中の岩塩粒子中の液体インクルージョン中に閉じこめられたこの主要イオンを測定 し、古代海水の標本を得た。これによって、海水の化学的成分は時間と共に変化しており 、その変化は海洋底の拡大率、火山活動、海水表面高の変化と関連していることが明らか になった。(Ej)

マンモスの進化(Mammoth Development)

ユーラシアにおける多毛のマンモスの化石記録は、過去200万年における巨大哺乳類の中 で最も広範囲に存在するものの一つである。ListerとSher(p.1094)は、マンモスの全体的 な地理的、及び年代的領域にわたっての頭蓋骨形態と生歯の変化のパターンに関する詳細 な解析を完成させた。彼らは段階的な進化の変化を描写し、マンモスの進化に対して論争 されていた数多くの問題点を解明し、更に巨大な脊椎動物における進化の速度とモードに 関する新たな調査結果を提供している。(KU)

地図の因子(Map Factor)

哺乳類の皮質における異なっている領域は、異なっている神経学的機能の専用領域となる が、この機能の地図を定義する分子機構が不明であった。Fukuchi-ShimogoriとGrove(p 1071;Rakicによる展望記事参照)は、発生中の前脳におけるFGF8という線維芽細胞成長因 子のファミリーメンバーの発現を操作した。FGF8の量が多過ぎる場合または少な過ぎる場 合の影響は、前側の皮質原基におけるFGF8の内因性の源が新皮質の地図の一般構造を決定 することを示唆している。(An)

 枝分かれ部位を掴む(Grabbing onto a Branch (point))

真核細胞の核におけるRNAプロセシングの間に、介在配列(イントロン)が除去される。エ キソンの最後のヌクレオチドとイントロンの最初のヌクレオチドとの間の結合 を切断するのは、イントロンのアデノシン残基を攻撃の求核試薬として用いることによっ て、行われる。この反応がラリアット(投げ縄)と呼ばれる環状枝分かれ構造を作成する ため、このアデノシンが分枝部位Aと呼ばれる。スプライシング因子1(SF1)と分枝部位配 列(BPS)の間の複合体の溶液構造から、Liuたち(p 1098)は、分枝部位Aがタンパク質の奥 に隠れていることを発見した。著者は、その後BPSとU2 snRNAの間のRNA二重らせんの形成 が、この隠れているアデノシンを回避するが、それからSF1の解離がこの不対ヌクレオチ ドを露出させることを示唆している。(An)

エネルギー消費を協調する(Coordinating Energy Consumption)

免疫抑制剤(および抗癌剤)であるマクロライド系ラパマイシンのほ乳動物の標的 (mammalian Target of Rapamycin;mTOR)は、栄養に反応してリボゾーム生合成を 調節し、そしてここで細胞のエネルギー状態のセンサーであることが今日示された。細菌 においては、リボゾーム生合成は、アミノ酸およびATPにより独立に制御されているが 、ATPの細胞内濃度を減少させた処理はまた、mTOR活性も低下させることを、Dennisたち (p. 1102)は見出した。実際、mTORは、ほ乳動物細胞におけるATP濃度と同様に、ATPに 対するミカエリス定数を表示している。このように、mTORは、リボゾーム機能をATPまた はアミノ酸の利用可能性と協調させるための複数のメカニズムを十分に持っている、リボ ゾーム生合成の制御についての鍵となる扇の要として機能するようである。(NF)

HIV誘導性の核の突起形成(HIV-Induced Nuclear Blebbing)

HIVタンパク質であるVprは、細胞増殖をG2細胞周期チェックポイントあるいはその前後で 停止させることが知られている。De Noronhaたち(p. 1105; Segura-Totten およびWilsonによる展望記事を参照)は、細胞の核エンベロップ(NE)中に、G2捕捉を欠 損しているVpr変異体においては存在しない、一過性の突起(bleb)またはヘルニア形成 を観察した。これらのヘルニア形成は、細胞周期制御分子を含む核および細胞質内容物の 混合を引き起こす。これらの現象がどのように細胞増殖の阻害に寄与するかを決定するこ とは重要なことであろう。(NF)

光につなげる(Connect to the Light)

植物による光の知覚は赤から赤外のスペクトルに感度を持つフィトクロームと呼ばれる光 受容体により仲介される。Sweereたちは(p.1108)、シロイヌナズナのフィトクロームB信 号伝達経路の一番目のコンポーネントが応答制御因子ARR4であることを示している。フィ トクロームBはARR4の発現を制御し、その結果、ARR4がフィトクロームBと相互反応して更 なる光信号伝達を助ける。ホルモンにより制御されているARR4の発現とリン酸化機能への 効果は、光信号経路が他の信号経路とどのように相互作用するかを示唆している。(Na)

細胞融合機構の構成要素(Fusion Machinery Components)

SNAREタンパク質は、細胞の融合機構の一部を構成するものであり、細胞内膜結合区画上 の特異性マーカーとして働くと考えられている(Scalesたちによる展望記事参照のこと) 。Schochたちは、SNAREシナプトブレビン2を欠くノックアウトマウスを作り出し、それが 必ずしも必須なものではないことを見出した(p. 1117)。Wangたちは、融合に際して役割 を果たす別のタンパク質、シナプトタグミンの2つのアイソフォームに着目した(p. 1111)。このうち、シナプトタグミンIの過剰発現があると、濃染される芯を持つ (dense-core)、すなわちノルアドレナリンを含む顆粒(小胞)のエキソサイトーシス(開 口分泌)の最中において融合細孔が開き始めてから広がるまでの間隔は長くなるのだが 、シナプトタグミンIVはこの間隔を短くした。これら2つのタンパク質はどちらも、開い た細孔を通してのノルアドレナリンの輸送を制限するものであり、シナプトタグミンが直 接融合細孔と相互作用しているということを示唆するものである。(KF)

記憶の長い方と短い方(The Long and the Short of Memory)

ショウジョウバエは、小さいけれども、学習や記憶を行なうことができる。このハエにつ いての精妙な遺伝の研究によって、短期および長期記憶のいくつかの側面を探ることが可 能になってきている。PascualとPreatは、α葉(lobe)のない変異体はマッシュルーム体の 3つの中葉(median lobe)のうちの2つがないか、あるいは2つの垂直葉(vetical lobe)がな い、ということを発見した(p. 1115)。長期記憶には2つの垂直葉が必要だが、3つの中葉 は必要無く、一方短期記憶には3つの中葉のうち1つがあればよいのである。(KF)

オゾンIsotopomer形成における異常(Anomalies in Ozone Isotopomer Formation)

GaoとMarcusは、異なった条件下におけるオゾン合成において、質量非依存の酸素同位元 素の分別と質量依存の酸素同位元素の分別の双方が観察されうる理由を説明する理論的議 論を提示した(7月13日号の研究論文p. 259)。Janssenはコメントを寄せて、その理論は 「実験データの大部分を説明するのに成功している」ことを認めつつ、双方の同位元素の 効果が「ある意味で対称性によっている」とするその研究の結論に異議を唱えている 。GaoとMarcusによる記述は、質量非依存の分別を説明するために彼らが引用している非 統計的効果に対しては「明らかに適切である」が、Janssenによれば、大きな非通常的な 質量に依存する効果をもたらすゼロ点エネルギー分画(ZPEF)を記述するのに「同じことば を使ってはならない」とされる。それは、そのような分別は、「分子の対称性と、因果関 係によって結びついているのではなく、偶然結びついている」からである。これに応えて 、Marcusは、ZPEFが対称性による、と名付け得るより微妙な意味合いを説明している。こ れらコメント全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/294/5544/951a で読むことができる。(KF,Nk)
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