AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 26, 2001, Vol.294


ほんの少しの間・・・(And in Brevia …)

民間データによる気候変化の検証(Climate Change in Nontraditional Data Sets)人口わ ずか500人に満たないアラスカ州Nenanaで1917年に始まった、鉄道会社の技師達により Tenana河の氷が割れる日時を当てる懸賞(Nenana Ice Classic bettingcompetition)は今 日まで84年間続いており、気候の変化を調べる貴重なデータを提供している。この懸賞は 、凍った河の真中に大きな木製のやぐらを置き、氷が割れることでこのやぐらが倒れるタ イミングを分単位で当てるもの。SagarinとMicheliは(p.811)、この84年分の民間データ とNenana(人口500人)とenanaから90Km離れた大都会であるFairbanksの気候データを分析 している。氷が割れるタイミングは84年前に比べておよそ5.5日早くなっている。(Na) 女性の仕事量(The Work Burden of Women) 女性は家庭の内と外の両方の働き、男性は殆ど外で働くことはよく言われているが、具体 的に調べられたことはない。一方、飢餓不安のある地域における食料計画を立てるために はこれらのデータが必要とされてい。Levineたちは(p.812)、象牙海岸(Ivory Coast)の 3ヵ所で、1,787人の女性と1,565人の男性の、毎日の活動状況を7日間つきっきりで調査し た。その結果、全ての年齢層で女性は男性に比べ1日あたり2.9時間多く働いていることが 分かった。女性は余暇時間や、仕事から解放された旅行の時間が少ない、一方睡眠時間に は殆ど変わりがない。女性はWHO/FAO(World Health Organization/Food and Agriculture Organization)が推奨しているものより30%多い エネルギーを必要としている。(Na)

植物におけるチームワーク(Teamwork in Plants)

生態系においては植物種が多いほど生産性が高いであろうか? この生産性の増加の原因 は、サンプリングに伴う誤差によるものだとか、待避的生態系(ニッチ)相補効果によっ て多様性が生産性にポジティブな作用を及ぼした結果であるとかの議論がされてきた 。Tilmanたち(p. 843)はミネソタの草原系における7年間の野外実験の結果について報告 をし、サンプリング効果は1〜3年の現象の説明には良く合い、5〜7年の現象にはニッ チ相補効果によって説明できることを示した。多様性の大きな生態系は最高の生産性を示 す単作種より顕著に生産性が高い。この結果から、生物多様性の喪失が生態系の機能に及 ぼす同様な影響についてヒントを与えてくれるし、生息地の管理や保護への関連性も示し ている。(Ej)

渦巻いて中心に向かう化学波(Chemical Waves That Spiral In)

反応拡散系における渦巻き波は、最初Belousov-Zhabotinsky (BZ)反応において観察され 、表面反応や、細胞内のCa2+放出のように多くの生物系でも見られる。今日 まで観察されたこのような渦巻きはすべて中心から外側に向かって伝搬するものであった 。VanagとEpstein (p. 835)は水滴が分散した油中水型乳濁液でBZ反応が進行するとき 、渦巻きは中心に向かって逆方向に伝搬する。微細乳濁液の臨界液滴の割合が超過したと き、内向きに伝搬する。この逆向き渦巻きはコンピュータシミュレーションでも作ること ができた。(Ej,hE)

高い海面(High Seas)

海面高は上昇しつづけているが、その速度はどのくらいで、その原因は何か?潮汐計記録 は、海面レベルが1年に1〜2ミリメートルづつ過去100年間上昇しつづけていることを示し ている。しかし、気候と人間とが関係した影響予測の気候変化評価のための政府間プログ ラムは、海面上昇速度は年間0.7ミリメートルの近くであるはずだと報 告している。Cabanesたち(p.840;Churchによる展望記事参照)は、1993年から1998年にか けて人工衛星からの観測した海面高は、年間平均3ミリメートルの上昇率であったことを 報告した。彼らは、この上昇の大部分は、海洋の熱膨張によるものであること、そして残 りの部分0.7ミリメートルはおそらく地球温暖化によることを示した。潮汐計にのみによ る推定では、海面高上昇率は2倍に過大評価されている。(TO)

普遍量子ホール効果?(The Universal Quantum Hall Effect?)

理論物理学の研究対象のひとつは、現代物理学の3つの柱--量子力学、特殊相対性理論 、一般相対性理論の統一である。最初の二つの原理の統一は、相対論的量子力学の発展に より、成功しているが、重力と量子力学との統一は、依然達成困難な課題として残されて いる。理想的な解は、相対性理論が浮かび上がるような系の量子力学的波動関数、つまり 、ハミルトニアンを見出すことであろう。Zhang と Hu (p. 823) は、量子ホール効果す なわち、磁場中の2次元(2D)面に拘束された電子を含む多体効果を取り入れて、数学的記 述を4次元(4D)空間と時間とに一般化した。この空間の表面上の低エネルギー状態を調べ て、彼らは、この数学的記述から電磁気学と重力のいくつかの要素が現れることを見出し た。決して大統一理論というものではないが、この仕事は、他の系の対称的な特性を知る ことでいっそうの研究が進展する可能性のあることを示唆している。(Wt,Nk)

理にかなったC60の合成に向けて(Toward Rational C60 Synthesis)

グラファイトの気化によってC60やC70をつくる方法はこの化合物 を多量に生産することが出来るが、この合成法ではより多くのフラーレンを作ることが困 難であった。合理的なより多くのフラーレン合成に向けての第1ステップとしては 、C60それ自体を用いてこの目的を達成することであろ。Boorum たち(p.828)は多環式芳香族の炭化水素(PAH)前駆体である C60H30を用いて、レーザ照射により水素を飛ばして C60をつくるという9ステップでの合成法を報告している。標識化合物と大 、小のPHA化合物を用いた厳密な実験のもとで、脱水素化のあいだに水素を失った炭素が 直接結合すること、そして原料のPHAが単に切断されて再結合したりすることがないこと が確認された。(KU)

インド洋の熱水孔の動物相(Vent Fauna of the Indian Ocean)

中央海嶺の熱水孔は、化学合成生物(chemosynthetic organisms)の驚くべき多様な動物相 (fauna)を支えている。太平洋や大西洋の海床から標本採取がまばらではあるが行われて きたが、インド洋の動物相についてはほとんど知られていない。Van Doverたち(p.818)は 中央インド洋海嶺にそった2つの熱水孔、KaireiとEdmondから動物相を 採取して分析した。彼らは、西太平等の熱水孔のある動物相と関連がある鱗足を持つ腹足 類の動物(gastropods)の新しい科(family)となる可能性がある種、そして太平洋動物相の ある主要な種(例えば棲管虫)が欠如していること、そして大西洋の熱水孔のエビ (Atlantic vent shrimp)に関連する過去、たった50万年で進化したエビの主要種を発見し た。2つの熱水孔からのインド洋動物相は、何千キロメートルも離れた他の海嶺の動物地 理学上の地区(province)と関連しているあるいは異なっている地区(province)を表現し 、それは未だに地質学的時間スケールにおける進化のコミュニケーションがなされている 。(TO)

口蹄疫の広がりを予想する(Predicting Foot-and-Mouth Outcomes)

英国における最近の口蹄疫の流行により、英国の家畜産業は大きな打撃を受け、そして農 業および経済のその他の領域にも、実質的な結果がもたらされた。Keelingたち(p. 813;Enserinkによる10月5日のニュース記事を参照)は、個々の農場-ベースの確率論的 空間的モデルを使用してその流行の動態をモデリングし、その広がりを検 討した。疫学的データの空間的な精度は、他の疾患のどれと比較しても非常にすばらしい ものであり、そして通常は家畜の疾患により得られる探査と比較して、疾患の動態の探査 がもっと高精度で可能になる。モデルのこの観点により、疾患コントロールの様々なシナ リオのもと、ありそうな流行の経過の予測を改良することが可能になるだろう。(NF)

 ホウ素、ペクチン、そして植物細胞壁(Boron, Pectins, and Plant Cell Walls)

植物細胞壁は、複合糖質および複数の他の構成要素の複合混合物である。植物が生長し 、発生するにつれて、細胞の形状の変化に適応させるために、その細胞壁は変化する必要 がある。O'Neillたち(p. 846;Hofteによる展望記事を参照)は、ここで、生化学的解析 およびシロイヌナズナ(Arabidopsis)のL-フコース-欠損変異体(mur1-1および1-2)を 用いた研究を通して、ラムノガラクツロナン・ペクチンの構造の破壊および細胞壁におけ るそのホウ酸塩-媒介性二量体化が、植物の成長に対して驚くべき作用を果たしているこ とを示す。このように、ペクチンおよびより理解が進んでいるセルロース微細線維は、と もに細胞壁機能にとって重要である。(NF)

小さなRNAの世界が発見された(Tiny RNA World Discovered)

let-7とlin-4と呼ぶ2つの小さな一時的RNA(stRNA)は、線虫C. elegansの発生に重要な役 割をはたす。またlet-7は、ショウジョウバエとヒトを含む両側性の動物において、高度 に保存されてきた。その他にも小さな調節RNAがあるであろうか?Lagos-Quintanaたち(p 853)とLanたち(p 858)とLeeたち(p 862)による3つの報告によれば、約22ヌクレオチド小 さなミクロRNA(miRNA)が多数(60以上)あり、前記の知られた2つのstRNAと同様の分子特徴 をもつことを示している。miRNAは、発生的かつ組織特異的に発現され、異なった生物体 にも保存される。RNAのいくつかは、オペロン様に組織化され、ひとつの前駆物質から処 理されているのかもしれない。展望記事で は、RuvkunはこのRNAを「暗黒物質の生物的な同等物」と呼び、このRNAが遺伝子発現を制 御する強力な手段を提供することを示唆している。(An)

方向感覚(A Sense of Direction)

走化を制御する細胞内情報伝達イベントは、誘引剤の最高濃度に面する細胞縁に限られて いると考えられている。しかし、走化性のDictyosteliumアメーバは、走化の受容体の表 面分布が定常で均一であることを現している。Uedaたち(p 864)は、Dictyosteliumの生細 胞に単一分子イメージングを用い、最前縁における走化の受容 体のリガンド結合の反応速度は、他の細胞表面の位置と異なっていることを発見した。こ のように、方向感覚の機構が受容体における情報伝達の状況の差に依存する。(An)

病原体への遺伝的応答(Genetic Response to a Pathogen)

病原体の種類が異なれば、宿主に対する感染のし方、伝播のし方にも非常に多様な違いが ある。特殊化した樹状細胞(DC: dendritic cell)は、病原体-特異的な分子パターンをコ ードし、それに対するもっとも適切な免疫応答を指示する。Huangたちは、ウイルスや細 菌、菌類への応答としてDCによって発現された遺伝子を、マイクロアレー分析を用いて精 査した(p. 870; またModlinとBloomによる展望記事参照のこと)。遭遇した病原体が何で あるかにかかわらず発現する中心的な遺伝子群のほかに、大量の重複しない遺伝子集合が 誘導されていたが、これは、必要に応じて調製される高度な発現のプログラムが生じてい ることを示唆するものである。(KF)

限界を見極める(Testing the Limits)

NOやOHラジカルといった不対電子を持つ開殻分子の反応は物理化学の基本的な仮説の一つ 、ボルン-オッペンハイマー(Born-Oppenheimer)近似を実証しうるという点で関心が持た れている。この近似では電子構造(結合性)と核運動(例えば振動)間の結合を理論家たちは 無視することが可能となる。然しながら、開殻分子では高密度の電子状態を持ち、実際的 にこの結合を促進する。Kohguchiたち(p.832)は、Ar原子を用いてNO分子の散乱に関する 実験研究を行ない、そして量子力学的閉-結合計算において実験的特徴のすべてではない がそのいくつかを再現することが出来た。(KU)

負励起子のプラスの側面(The Plus Side of Negative Excitons)

励起子は半導体内の光学的に励起される電子正孔対の束縛状態である。励起子の再結合は 、特定の波長の光子放出となる。そこで、励起子をオプトエレクトロニクスに利用するこ とに対して多いに関心が出ている。しかしながら、基底状態の励起子電荷は中性であり 、そこで半導体のあちこちに励起子を遷移(移動)させるのは困難である。帯電された励 起子が存在すると半導体中の電荷と光が通る経路を作ることが可能になる(を操作する方 法が容易となる)が、それらの存在を示す直接的な証明ははっきりしないままになってい た。現在、Sanvittoたち(p. 837)はそれらの存在を明らかにする実験的証明を示し、また それらが6.5×104cm2/(volt・sec)までの実質的な移動度を持 つことができることを示している。(hk)

細菌のゲノムの比較(Comparing Bacterial Genomes)

ある大規模の細菌のゲノム配列決定プロジェクトにおいて、Glaserたちは、リステリア属 のメンバーの2つ、1つは病原性のL. monocytogenes、もう1つは非病原性のL.innocua、の 完全な細菌性ゲノムの比較分析結果を提供している(p. 849)。興味深いことに、相互に異 なる数百の遺伝子は、およそ100個の遺伝子の島に分かれて、ゲノ ム内に分散して存在している。この配列は、枯草菌や黄色ブドウ球菌、そして予想外に多 くのオーソロガス遺伝子(異なる種における対応する遺伝子)のゲノムと驚くべきシンテ ニーを示している。リステリア属特異的遺伝子では、表面性および調節性のタンパク質が 過剰に表現されていて、これは遺伝子の水平伝達と種の多様化が生じてきたことを示して いる。しかし、病原性遺伝子の大部分はL. monocytogenesの「病原性座位」にある。L. innocuaによる病原性遺伝子カセットの獲得とそれに引き続いた損失による痕跡のようで はあるのだが。(KF,Kj)

DNAのダメージに対処する複数の方法(Dealing with DNA Damage in Different Ways)

「DNAダメージ・チェックポイント」として知られる重要なプロセスにおいて、細胞は自 分のDNAのダメージをモニターし、そのダメージが修復されるまで細胞分裂を停止する 。Kondoたちは、このたび、DNAダメージが生じたことを伝える機能をもつ2つの酵母タン パク質が、実際にダメージの部位近くに結合しているが、それぞれ違った やり方でそうしている、ということを示している(p. 867)。彼らは染色質免疫沈降法を用 いて、HOエンドヌクレオーゼの連続的発現から生じるDNAの二本鎖の破損部に結合してい るそれらタンパク質を検出した。結合したタンパク質の1つMec1は、ヒトの病気である毛 細血管拡張性運動失調において変異したATMタンパク質を含むタンパク 質リン酸化酵素のファミリに属するものである。ダメージ部位で結合するもう一方のタン パク質はDdc1で、それはDdc1ダメージ部位において形成される複合体に他のタンパク質を 補充することのできるDNA結合タンパク質であると考えられている。Ddc1の補充はチェッ クポイント経路へのRad24と呼ばれるもう1つの参加者を必要とするが、Mec1の方はそうで はない。この結果は、細胞が、ダメージを受けたDNAをどのように認識するか、また適切 な生理反応を生み出す信号をどのようにして引き起こすか、を明確にするのを助けるもの である。(KF)
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