AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 10, 2001, Vol.293


太陽電池の構成(Solar Cell Organization)

有機材料系太陽電池では、吸収されたフォトンが荷電キャリア(電子とホール)を生成 し、n型材料とp型材料により取り込まれ、電極に送られる。太陽電池の効率はn型材料 とp型材料をいかに近づけることが出来るかに依存している。Schmidt-Mende達は(p. 1119、Nelsonによる展望記事も参照)、自己組織化により有機層内にナノメータ単位の インターフェイスを作ることの出来る、溶液から作ることのできる簡単な溶液ベース プロセスを開発した。ホールを取り込む材料は、フィルム内で電子を取り込む有機色 素で囲まれた円柱状構造を生成するディスコチック液晶として形成された。この構造 ではディスコチック材料と色素間のキャリアの電荷分離性能が高い。(Na)

摂動を受けた惑星の形成(Perturbed Planet Formation)

我が太陽系における地球型惑星の標準的形成モデルでは、原始惑星円盤の中で微惑星降着 の加速現象が発生して、ずっと大きな微惑星が出現し、それがついには惑星形成につなが るとされているKortenkampたち(p. 1127)は、太陽系星雲ガスによる抵抗や、より大きな 随伴物(巨大惑星や褐色矮星や他の恒星のような)による摂動が存在する場合はこのプロ セスが、より効率よく働くことを示した。このような「逸脱成長モード(runaway growth mode)」は、これまで標準モデルで説明が困難であった太陽系外巨大惑星系をうまく形成 でき、さらに、見通しの効かない降着円盤ディスク奥深くに地球型惑星が存在するかを推 測するのに有用であろう。(TO,Tk,Nk)

銀河間の構造(Structure of the Intergalactic Medium)

銀河や銀河団のような発光性天体の間には銀河間物質と呼ばれるガス状物質が存在す る。Krissたち(p. 1112; およびMiralda-Escudeによる展望記事参照)は、極紫外分光 探査衛星(FUSE)を使い、宇宙年齢がまだ数億年程度という遠方領域における銀河間物 質のイオン化構造を調べた。宇宙初期の天体の多くはクエーサーであり、いくつかは 爆発的星形成銀河である。これらの天体スペクトル中の電離ヘリウムと中性水素の吸 収線は途中の銀河間空間ガスで形成されたもので、天体の周囲の空間の情報を与える 。解析の結果、クエーサー等の宇宙初期天体が低密度領域にも見出された。これは 、現在主流となっている重力不安定性による宇宙構造形成モデルの予想と合致する結 果である。(Ej,Nk)

早熟な陸生植物(Precocious Land Plants)

陸生植物の陸上への進出は約4億年前と推測されているが、これによって陸上の生態 系が確立し、陸上での生命の進化が可能になった。Heckman たち(p. 1129;および Pennisiによるニュース記事参照)は、陸生植物や菌類の起源が何時であったかを推測 するために、多様な現生生物から抽出した核タンパク質をコードする遺伝子に関する 分子データを蓄積した。真核生物が陸上に進出するには、光合性生物と菌類の共生に よって実現したと思われるが、最初の植物や菌類の化石が見つかるのは、4億8000万年 前から、4億6000万年前の間である。一方分子時計からの推測は、6億年前と推定でき る。我々のタンパク質配列分析による推定では、緑藻類や、主要な菌類は10億年前で あり、陸上植物は7億年前までには存在したと推定される。これが地球大気や気候を変 え、前カンブリア紀の動物進化に影響を与えたと思われる。(Ej,hE)

M33 の中の超大質量ブラックホールを逃して(Missing a Supermassive Black Hole in M33)

最近の研究は、渦状銀河の中心にある超大質量ブラックホールの質量と銀河のバルジ における速度分散との間に相関があることを示している。Merritt たち (p.1116; Seife による7月20日号のニュース解説を参照のこと)は、Space Telescope Imaging Spectrograph (STIS) からの、渦状銀河 M33 のスペクトルを分析した。この 銀河は、我々の銀河系もその一員である局所銀河群に属し、中心バルジをほとんど持 たない。彼らは、候補となりうる中心のブラックホールの上限を3000太陽質量と評価 した。これは、超大質量ブラックホールとしては数桁も低すぎる値である。それゆえ 、質量-分散関係は、中間的な質量のブラックホールに対しては関係式が変化している か、これらの小さな質量のブラックホールは、別のメカニズムによって形成されてい るかのどちらかである。(Wt,Nk)

偏光を意のままに作る(Getting Polarization by Design)

活性なレーザー発振媒体となるフォトニックバンドギャップ(PBG)構造の形成によって 、例えば広い領域にわたっての単一モード光や強いパワー、非常に狭い発散角をもつ 面発光、そして偏光制御といった秀れた特徴を持つレーザ開発が可能になる。Nodaた ち(p.1123)は理論と実験研究を結びつけて、このようなデバイスが遠からず出現する ことを示唆している。孔が平面上に格子配列した二次元のPBGに対してその光学特性を 計算し、その後にデバイスを組み立てた。発振光の偏光モードは楕円形状の孔を持つ 構造によって制御する事が可能である。(KU)

核内でタンパク質の翻訳(Making Proteins in the Nucleus)

リボソームがメッセンジャーRNAをタンパク質にデコードする翻訳は、真核細胞の細胞 質中でもっぱら起こり、核内では起こらないと考えられている。しかしながら、成熟未 終止コドンを含有するいくつかの異常なRNAは、核内で認識されそして分解される。こ の現象は、リボソームを核コンパートメント中でmRNAをスキャニングするかどうかをも っとも容易に説明する。Iborraたち(p. 1139;Hentzeによる展望記事を参照)は 、[3H]リジンあるいはビオチンでタグ化したリジン-トランスファーRNAあるいは BODIPYという3つの異なるタンパク質-標識方法を使用して、約15%までの細胞性翻訳は 、現実に核内で起こっていることを示す。RNAの転写は、原核細胞において見られるの と同様に、翻訳と組み合わされている。これらの核リボソームの一つの機能は、エラ ーを確認するために新しく合成されたRNA転写物を“プルーフリード”するためのもの である。(NF)

ヒストンの尾はなし(A Tale of Histone's Tails)

すべての真核細胞のDNAは、ほとんどがヒストンタンパク質により構成される染色質中 にパッケージングされる。これらのタンパク質の尾部の共有結合的な修飾は、染色体組 織化および個々の遺伝子の特異的制御の両方において重要な役割を果たしている 。Littたち(8月9日のScience Express)およびNomaたち(p. 1150)は、ヒストンH3の アミノ末端尾部におけるLys4のメチル化は、真性染色質(euchromatic)ドメイン(遺 伝子は一般的に活性である部位)に特異的であり、H3 Lys9のメチル化は染色質の20キ ロベースのサイレントな異質染色質(heterochromatic)ドメイン(遺伝子は一般的に 不活性である)に特異的であることを示す。異質染色質に隣接する逆向きのリピート構 造は、境界要素として働き、それを取り囲む真性染色質領域に異質染色質が広がるのを 阻害する。個々の遺伝子のレベルで、Loたち(p. 1142)は、ヒストンH3のSer10を Snf1キナーゼによりリン酸化することにより、Gcn5によるLys14のアセチル化を容易に し(しかし、この逆は成り立たない)、しかし、リン酸化とアセチル化の両方がin vivoでのINO1遺伝子の活性化について必要とされる。(NF)

 心臓血管系の健康(Cardiovascular Health Gone in a WNK)

高血圧は、心臓発作、ストローク(発作)、うっ血性心不全および腎不全の主要な原因 の一つである。Wilsonたち(p. 1107;Marxによるニュース記事を参照)は、高血圧 、腎臓の電解質(塩類)の増大そしてK+およびH+排出の低下などを特徴とするメンデル の法則に従う、常染色体性のドミナント形質である、II型偽低アルドステロン症 (pseudohypoaldosteronism)というまれな方の原因となる、2つ関連遺伝子を同定した 。2つの遺伝子、hWNK1およびhWNK4、は腎臓において発現し、そして最近記載されたセ リン-スレオニンキナーゼファミリーのメンバーをコードする。これらのWNK遺伝子にお ける疾患の原因となる変異は、このキナーゼの発現または活性を亢進させることができ る機能獲得性変異のようである。hWNK4は、一般の人々においては血圧変動に関連して いる染色体17上の座位に存在するため、この遺伝子もまた、もっとも一般的な高血圧の 型においても機能している可能性がある。(NF)

指を向ける(Pointing the Finger)

ヒト免疫不全症ウイルス-1型 (HIV-1)に対するワクチンを開発する一つの難しさは 、たった三つの単離されたヒト抗体が試験管内と生体内でこのウイルスを中和するの に十分なくらい強力であるということである。Saphireたち(p. 1155)は、ワクチン開 発者に生産する上での手がかりとして、これらの抗体うちの一つであるb12の結晶構造 を提案している。この構造をHIV-1の外被タンパク質gp120構造の上にドッキングする と、“正確な角度を持ったトリプトファン残基がgp120の狭い凹部に入ることになり 、これはちょうどHIV-1受容体であるCD4で重要な役割を果たすフェニルアラニンと似 ている”ということを示唆している。(hk)

アセチル化によって転写スイッチを制御する(Acetylation Flips the Transcription Switch)

細胞は、遺伝子発現を調節することによってウイルス感染のような外部攻撃に反応す る。ウイルス感染は、遺伝子プロモータ上に形成されるenhanceosomeと称されるタン パク質複合体を経由したインターフェロン-β (INF-β)発現を活性化させる。インタ ーフェロンenhanceosomeは、2つのアセチル転移酵素であるPCAFとCBPを補給するが 、これがヌクレオソームのヒストン成分をアセチル化するだけでなく 、enhanceosome自身をアセチル化する。Munshiたち(p. 1133; および、Struhlによる 展望記事参照)は、Lys71残基におけるenhanceosome タンパク質のHMG-IをPCAFでアセ チル化することによって、enhanceosomeが安定化し、これがCBPのアセチル化をくい止 めるのに役立つということを報告している。しかし、Lys65残基におけるCBPによるア セチル化によって、enhanceosomeがDNA分子から解離する。従って、enhanceosome は 、アセチル化を競合することによって転写をオンにしたりオフにしたりする動的複合 体である。(Ej,hE)

錐体ニューロンにおける同時性の検出(Coincidence Detection in Pyramidal Neurons)

錐体細胞において、スパイクを誘発する求心性活性のタイミングを出しているかどう かはよく分かってない。PouilleとScanziani (p. 1159)は、海馬ニューロンにおいて 、このどちらの発火が誘導されているかについて、シナプス抑制が機能したり、シナ プス抑制が抑圧されているときについて、求心性刺激による時間的精度を比較した 。抑制によって錘体細胞の放電の一時的可変性が制約され、これによって神経抑制は 樹状部位ではなく、細胞体近傍において強くなる。(Ej,hE)

プラセボ効果(にせ薬効果)の解明(Unraveling the Placebo Effect)

プラセボ効果は、長い間医者や薬理学研究者を魅了してきた。De la Fuente-Fernandezたち(p.1164)はポジトロン放出断層撮影方法を用いて 、[11C]raclopride結合を利用したパーキンソン病(PD)の治療においてプラセボ効果の 神経系の基礎とその役割を調べた。PDにおけるプラセボ効果は、線条体におけるド ーパミンの遊離とシナプスレベルの増加によるドーパミン作動性神経伝達の特異的改 善によって媒介されている。プラセボ-管理下試験において、真性薬を受けた患者はプ ラセボ効果により恩恵を受けたが、この効果は真性薬効果を相乗的に増大させること はなかった。(KU)

フェルミレベルと高温強磁性体(The Fermi Level and High-Temperature Ferromagnetism)

ランタニドをドーピングした hexaborides(六方晶ホウ化物)中での転移温度(キュリ ー温度)が700K を上回る弱い強磁性の観測により、より高温のキュリー温度を有する か、あるいはより強い強磁性を示す材料の合成に向けて、いっそうの研究が刺激され た。これらの試みの失敗は、hexaborides の等軸晶系構造に付随する三重縮退が鍵と なる特性であることを示唆していた。Akimitsu(秋光純)たち (p.1125) は、なんら 磁性の構成物質を含まない材料、CaB2C2 も、また La をド ーピングした hexaborides に類似した弱い強磁性を表すことを示している。この材料 は、正方晶系の構造で結晶化する。バンド構造の計算は、hexaborides とこれらの材 料との類似性を示しており、これは、この効果を生ずるのはフェルミレベル近傍の分 子軌道による可能性を示唆している。この結果は、高温強磁性体を作成するのに、今 までとは異なる道筋が拓ける可能性を与えている。(Wt)

受容体特異性の源(Sources of Receptor Specificity)

サイトカイン・インターロイキン-5(IL-5)は、その受容体であるIL-5Rを介して、多様 な血液細胞の増殖と分化を誘発する。IL-5Rのβサブユニットは他の受容体と似ている が、αサブユニットはIL-5情報伝達に特異的なものである。Geijsenたち(p. 1136)は 、IL-5の特異性を探究し、IL-5RαはPDZ領域含有タンパク質システニンと相互作用する し、またそのシステニンは転写活性化因子Sox4と相互作用する、とうことを報告してい る(p. 1136)。サイトカイン-受容体情報伝達において、システニンは、Sox4のIL-5に仲 介された活性化にとって必須なのである。こうして、サイトカイン特異的な受容体サブ ユニットの転写性活性化の機構がはっきりしたのである。IL-5Rによって誘導された Sox4の活性化は、初期B細胞の増殖の制御に役割を果たし、他の造血性細胞の分化にお いて機能を果たしている可能性がある。(KF)

RNA破壊マシンを明らかにする(Opening Up the RNA Killing Machine)

2本鎖RNAは、相同性メッセンジャーRNAの破壊と、それによる遺伝子発現の禁止、す なわち、RNA干渉(RNAi)と呼ばれるプロセスを管理することができる。RNAiには2つの ステップがある。二重鎖RNAは、Dicerヌクレアーゼによって処理されて、短い、21-な いし23-ヌクレオチド断片になる。これら断片は、RNA誘導サイレンシング複合体 (RISC)ヌクレアーゼ複合体に取り込まれ、それを破壊されるべきRNAに導くのである 。Hammondたちは、このRISC複合体の精製について報じ、その要素の一つがタンパク質 Argonaut2 であると同定した(p. 1146)。DicerとArgonaut2との相互作用が、Dicerに よって生じた21-ないし23-ヌクレオチド断片のRISCへの取り込みを促進している可能 性がある。(KF)

公園の有効性(The Effectiveness of Parks)

Bruner たち(Reports, 5 Jan. 2001, p. 125)は、22カ国の93の保護区域を調査し、保 護公園が「熱帯の生物多様性を保護する有効な手段」かどうかを検証した。彼らは 、公園の有効性が「強制や境界の確定、地域社会への直接的な補償などの基本的な管 理活動と相関していることを見いだした。この結果は、公園への資金提供の増減の必 要性を意味している、と彼らは示唆している。Vanclayは、コメントを寄せ、Brunerた ちが有効性を測るのに用いた統計的測定法を問題として、たった2つの変数(境界の 確定と地域の教育専門家)だけが公園の有効性の相関しているという別の見方を提示 し、公園の有効性を改善するのには資金の増強が必要だというBrunerたちの結論を支 持する証拠は何も示されていない、と論じている。Brunerたちは、Vanclayの分析は 「我々の知見と反するというよりはむしろそれをおおむね支持するものである」と応 じ、元の研究の方法的健全性を支持する詳細を追加提示し、Vanclayの分析は、彼らの ものと同様、「管理のためのサポート(資金的なものも、それ以外のものも)の増強 は有効性を増強する」ことを示唆するものである、と述べている。これらのコメント の詳細は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/293/5532/1007a で読むことが出来る。(KF)
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