AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 20, 2001, Vol.293


太平洋での炭素の動き(Carbon Swings in the Pacific)

エルニーニョやラニーニャの発生と消滅は、地球規模の炭素の循環、特にその新たな生 成に大きな影響を及ぼしている。新たな生成とは、局所的な栄養の循環によって引き起 こされるものとは異なり、所定の地域に入ってきた栄養によって保持されている海洋の 生産性である。Turkたち(p.471)は、1992年から1999年の間、人工衛星による海面高の 測定、船舶やブイによる等温線深度(isotherm depth)の測定、そして赤道付近の太平洋 の海盆範囲の新たな生成の局所的な測定を組み合わせた。この期間には強大なエルニ ーニョと中規模のラニーニャを含んでいた。炭素が出ていった量は、これらの出来事の 間で3:1の割合で変化した。(TO,Nk,Og)

シリコン上の結晶性酸化物(Crystalline Oxides on Silicon)

トランジスタのサイズが減少するにつれて、これらのデバイスの絶縁体として、アモルフ ァスシリコンの酸化物の代替物に対する要求が高まっている。一つの代替物は、シリコン 上に結晶性酸化物を成長させることである。これによって、アモルファス酸化物に固有の 立体障害や結合配位の問題を避けることができるであろう。McKee たち (p.468) は、等 軸晶系のアルカリ土類とシリコン上のペロブスカイト酸化物の釣り合いの取れた成長を示 している。この成長は、非常に低欠陥密度の高品質な界面領域をもたらす。界面における 誘電変位や反転電荷を操作できる力を持つことにより、デバイスの機能性をいっそう高め られる可能性がある。(Wt)

ポリマーのリーチを測定する(Measuring a Polymer's Reach)

溶液中でのポリマー鎖の測定は、その平均的構造に関する洞察を与えるものがほとんど である。しかしながら、ゆらぎによってきまぐれな形をつくり、時間と共に鎖の全体的 形状や末端間距離をが変わる。Jeppesenたち(p.465;Russellによる展望記事参照)は 、フリー末端をビオチン(biotin:ビタミンB複合体の一つで、アビジンと結合して不活 性となる)で標識したポリエチレングリコールを表面力測定機の一方の表面に、そして 相対する側の表面にビオチンの受容体であるストレプトアビジン(streptavidin)で標識 したポリエチレングリコールを付着させた。表面間距離の関数としてフリーなビオチン 末端の捕獲確率を測定する事によって、彼らは珍しいほど高度に延びたポリマー構造が 結合プロセスにおける決定的役割を果たしていることを示している。(KU)

スタイルを保つ(Staying in Shape)

多くのタンパク質は、穏やかな変性条件下では比較的コンパクトなモルテングロビュ ール(タンパク質の変性過程での中間状態の一種で、天然状態と同程度にペプチド鎖が コンパクトに凝集し、2次構造を同程度に保つ一方、側鎖原子の運動性は変性状態と同 程度に大きいという構造的特徴をもつ)中間体を形成する、しかし、変性タンパク質の 濃度が高くなるとコンホメーションの全体的調和が生じて、統計学的な無作為状態を提 示することが予測されている。ShortleとAckermanは(p. 487)、核磁気共鳴を用い、変 性状態のブドウ球菌ヌクレアーゼの残基双極子カップリングを測定した。長距離の範囲 に渡る、タンパク質のセグメントは、同じ相対的配向を保持し、例えば8モルの尿素に おいても持続していた。(Na)

ひょろ長い脚をした古い甲殻類(Leggy Old Crustacean )

イギリスのShropshire州Comleyの小さな村でSiveterたち(p. 479; Forteyによる展望記 事を参照)は、カンブリア紀石灰岩層底部に一時的に(あるいは,堆積時に)掘られた 溝の中でよい保存状態の甲殻類を発見した。これらのphosphatocopid節足動物の柔らか い組織をもつ二つの標本はほぼ完全な甲皮の状態にまで保存されており、そしてその二 つの標本は立体的な形で胴体と肢の精巧な細部を見ることができる。これらの初期カン ブリア紀の標本は、古生物学者に、“甲殻類が先カンブリア紀に進化した”のか“カン ブリア紀爆発期に、より急激に増えた”のかを解読する助けとなるはずである。 (hk,Og)

温暖化し暴風雨の多い気候が起ころうとしている(Warmer, Stormier Weather in Store)

地球全体の平均気温は、次の世紀の間に大きく増加するであろう。それは環境の人為的 変化によるものであるが、それはどの程度であろう。WigleyとRaper (p. 451)は、将来 の温暖化の傾向について確率的な予測を行ってきた。彼らは、将来に最もありうる温暖 化は、現在の予測されている範囲の中で極端に高いとか、あるいは低いというのもので はなく、中位に近いものになるだろうと結論付けた。地球温暖化の1つの帰結は暴風雨 の増加であるだろう。Goldenbergたち(p. 474;Bengtssonによるカバー記事と展望記事 参照)は、北大西洋における1995年以降のハリケーン活動の活発化を報告している。彼 らは、1944年からの熱帯サイクロンの気象観測気球による記録を調べ、それと並行して 観測された海面温度や大気の垂直せん断力(atmospheric vertical shear)(ハリケーン 形成の2つの重要な要因)を比較することにより、最近の観測されたそこにおけるハリケ ーンの頻度増加の物理学的な説明を示した。(TO)

マラリアの最新の起源(Malaria's Recent Origins)

血液病理学上のリスクがあるにもかかわらず、グルコース-6-リン酸脱水素酵素をコ ードするヒト遺伝子における突然変異はアフリカおよび地中海地方の人々の4億人以上 に見出される。これら突然変異は、その結果として生じる成熟赤血球液細胞の溶血がマ ラリア寄生虫Plasmodium falciparumの定着を妨げていたためにそんなに広まることと なったのだと、長い間思われてきた。Tishkoffたちは、この関係の直接的証拠となる 、またアフリカにおいてはおよそ6500年前、地中海においては3300年前のマラリアの起 源の時代に遡る、非常に高い可変性を有する3つのマーカーを、このグルコース-6-リン 酸脱水素酵素の遺伝子座において同定した(p. 455; またLuzzatoとNotaroによる展望記 事参照のこと)。Plasmodium falciparumは、どうして宿主の反応や薬剤によって影響を 受けてタンパク質の配列がそんなに変わりうるものでありながら、ハウスキーピング遺 伝子においてはほとんど変異がないのは、なぜだろう。Volkmanたちは、寄生虫の8つの 単離物のハウスキーピング領域から得られた25のイントロンの配列を明らかにしたが、 8つの単一ヌクレオチド多型を得ただけであり、それらの大部分はミクロサテライト多 型の領域にあった(p. 482; またPennisiによるニュース記事参照のこと)。こうしたデ ータは、最近のおそらくは単一のPlasmodium falciparum前駆体に対してヒントを与え るだけでなく、ミクロサテライト反復内での高い変異率をも示唆するものである。(KF)

集団の多様性を介したSNPの分析(SNP'ing Through Population Heterogeneity)

遺伝的変異の分析は、病気の感受性についての研究に革命をもたらし、病気の処置を個 々人に合わせたものにすること(テーラーメイド医療)を可能にしうるものである。 Stephensたちは、異なった家系に属する82人から得た312の遺伝子から、単一ヌクレオ チド多型(SNP)を同定した(p. 489)。これらSNPは、集団内での頻度と分布、また機能的 ゲノム領域、潜在的な機能のもたらすもの、推測された変異パターン、連鎖、そして各 ハプロタイプ内の各染色体内における組織化によって、特徴付けられる。病気に関与す る遺伝子の同定に際して重要となるSNP同士の遺伝的会合(連鎖不均衡)の強さは、個 々の遺伝子やゲノム領域を調べるだけでは予測することはできない。一般に、ハプロタ イプの方が、1遺伝子に含まれているSNPよりも、遺伝のマーカーとしてはより情報量が 多いのである。(KF)

 常々にレドックス(Redox Around the Clock)

概日リズムは、進化の過程で保存された転写のフィードバックシステムによって制御さ れるが、このシステムの活性は、24時間の明暗サイクルに従い上下する。摂食量の変化 などの外的因子によって、概日リズムを早めたり遅れたりすることがあるが、この"同 調化"の機構はまだ不明である。Clockという概日リズムの重要な制御因子は、脳の中心 ペースメーカ領域として知られている視交差上核において発現されるが、他の時計成分 をコードする遺伝子の発現を制御する。Reickたち(p. 506)とRutterたち(p. 510; Schiblerたちによる展望記事参照)は、哺乳類の前脳においてNPAS2転写制御因子が Clockと同様な機能をはたすことと、試験管内でこの2つの転写制御因子のDNA結合活性 がNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)補助因子のレドックス状態によっ て制御されることを示している。摂食量の変化が細胞のレドックス状態の変化に関係す るため、著者は、ClockとNPAS2のレドックス活性のレドックス制御によって、食事や他 の外的因子が分子時計を同調させることの説明ができることを提案している。(An)

Huntingtinが有利(The Benefits of Huntingtin)

中年に起こる致死的神経変性障害であるハンチントン舞踏病では、 huntingtinタンパク質が変異する。変異体huntingtinが他の細胞内タンパク質または自 分との凝集体を形成することによって、ニューロンにとって有毒になると考えられてき た。Zuccatoたち(p. 445;TrottierとMandelによる展望記事参照)は、huntingtinの正常 な機能の損失が脳における線条体のニューロンを死亡させることを示している。野生型 huntingtinは、脳由来の神経栄養因子の産生を増加させるが、線条体のニューロンの生 存にはこの因子が必要である。(An)

キラーのプロフィール(Profile of a Killer)

グラム陽性病原体であるStreptococcus pneumoniaeの抗生物質耐性の突然発生が国際的 に増加することにより、肺炎、髄膜炎およびその他のいくつかの病気に由来するこの病 原体が原因となる数百万人の死が、ただひたすら追加されることになるだろう。 Tettelinたち(p. 498;Ferberによるニュース記事を参照)は、この病原体の 2,160,837塩基対あるゲノムを配列決定し、そして2236個の予想コード領域および1440 個の生物学的機能が予想されるコード領域の中から、その病原性およびその攻撃されや すい可能性のあるいくつかのポイントを探るいくつかの糸口を発見した。高い割合の糖 トランスポーター(配列決定された他の原核生物のいずれよりも高い)から、気道内の 独特な微小環境をそのトランスポーターが占めている可能性があることを示唆している 。細胞接着に関連している可能性があるモチーフ、多数の挿入配列、そして表面結合タ ンパク質に対する可能性のある標的シグナルも、観察された。(NF)

自発的伝達分子放出における、グルタミン酸受容体クラスター(Glutamate Receptor Clusters in Spontaneous Transmitter Release)

神経末端での“ランダムな”シナプス小胞の融合により引き起こされる自発的ミニチュ アシナプス電位(minis)の機能的重要性を解決するための糸口が、Saitoeたち(p. 514;VerstrekenとBellenによる展望記事を参照)により示された。彼らは、前シナプ ス機能に既知の欠損を有する変異ショウジョウバエ、minis、を調べた。それによれば 、自発的な伝達分子放出が保持されているが活動電位に反応して伝達分子を放出する能 力は欠損しているminisの神経筋接合部では、グルタミン酸受容体が正常にクラスタ ー化した。これに対して、自発的なエクソサイトーシスおよび誘発された小胞のエクソ サイトーシスの両方が欠損する変異体では、受容体のクラスター化はは見られなかった 。グルタミン酸受容体の発生的クラスター化は、機能的なシナプス形成の前触として 、自発的な小胞放出と関連している可能性がある。(NF)

電子の通路を照らす(Lighting an Electron's Path)

溶媒和したNa-イオンと、その溶媒の間の電子伝達を、現在ではフェムト秒 レーザーパルスで制御することが出来る。ナトリウム金属は、テトラヒドロフラン (THF)のような有機溶媒にNa+とNa-を不均一に形成することに よって溶解することが出来る。また、クラウンエーテルのような錯体生成材料が存在す る場合、Na-種は溶液中に留まる。Martiniたち(p. 462;Bardeenによる展望 記事参照)は、溶媒和した電子と中性ナトリウムか、逆反応によってイオンを再編成の どちらかを生成するようなTHF中でのNa-の光励起について研究した。この プロセスは溶媒の動きに依存しており、最初の光パルスを与えることで、Na陰イオンの 隣接部位か、あるいは、溶媒分子で離されたもう一つ隣の溶媒和した電子対である Na0部位に電子を放出する。第2のパルスによって、接触対の電子が励起さ れ、第3のパルスによって、逆方向電子輸送によって生成されるNa量をモニターするこ とができる。電子生成を開始する環境を変えることによって、引き続くレーザーパルス が溶媒和電子を選択するか、あるいは、陰イオンを選択するかのどちらかを選ぶことが できる。(Ej,hE)

一緒に食べましょう(Dining Together)

海底には10兆トンものメタンが埋蔵されているが、これは現在知られている化石燃料の 埋蔵量の2倍にあたる。しかも、メタンは二酸化炭素の25倍も温室効果をもつ。従って 海洋に於けるメタンの挙動を知ることは極めて重要である。1970年代にWilliam Reeburghは海底深部でメタン生成微生物がガスを定常的に生成していることを発見した 。しかし、海底表面では、このメタンは検出されなかった。ある種の細菌がメタンを消 費しているのかも知れないと思われていた。メタンの嫌気性酸化はよく知られているが 、メタンの消費を仲介する生物についてはほとんど知られてない。Orphanたち(Zimmer によるニュース記事参照)は生体内での遺伝的な同定法と安定な同位体分析を組み合わ せて利用し、水素を消費している硫酸塩還元型細菌が、カリフォルニア海岸沖のメタン 噴出泉から得られた堆積岩中のmethanotrophic archaea(archaeaは細菌に似ているが 異なる生命体に属する。従来、「古細菌」と訳されていたがこのごろでは「始原菌」と 表現されている)。クラスターの周りにシェルを形成するコロニーが存在することを見 つけた。この結果は、硝酸塩や二酸化炭素のようなsyntrophic集合体のみならず、水素 の内にもメタン由来の中間体がメタン消費型archaea から硫酸塩還元型細菌性パートナ ーに伝達されることを示唆している。(Ej)
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