AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 8, 2001, Vol.292


メッセンジャーRNAの作り方(Making Messenger RNA)

RNAポリメラーゼIIは、真核生物のすべてのメッセンジャーRNA(mRNA)合成において役目 を果たす分子機械である。Cramerたちは、この大きな酵素の構造を、大半のアミノ酸側 鎖を同定できる2.8オングストロームの分解能で記述している(p. 1863)。Gnattたちは 、転写の際に捕捉される複合体の構造を3.3オングストロームの分解能で記述している (p. 1876)(表紙とKlugによる展望記事参照のこと)。この複合体はDNA二重体と RNA-DNAハイブリッドの位置を示している。このポリメラーゼは、4つの可動モジュール に分かれているが、これは複合していない構造においてはクランプを開けてプロモータ DNAが入り込むのを許し、複合体においてはRNAとDNAに対して閉ざすようになっている のである。これらの構造は、転写において重要なタンパク質の機能を明らかにし、いか にして転写が起動されるか、mRNA転写産物がいかにして伸長されるか、また転写因子が ポリメラーゼとどのようにして相互作用するか、について洞察を与えてくれるものであ る。(KF,Tn)

快晴とはいいがたい( Not-So-Clear Skies)

水酸基OHは、大気中の主要な化学的オキシダントであり、有機的炭化水素、一酸化炭素や メタンそして寿命がある程度の長さである他の全ての微量成分(トレース)の構成要素と 反応する。OHは、局所的スケールで直接計測することができるが、その南北半球あるいは 全地球規模的な分布の推定は、それがある知られた割合で反応する大気物質の濃度を計測 することにより行わなければならない。Prinnたち(p.1882)によるそうした物質であるメ チルクロロホルムの計測では、過去20年間において南半球のOH濃度は北半球よりも高いこ とを示している。地球規模のOH濃度は1980年代ではほとんどで上昇したが、過去10年間に 1978年の濃度以下にまで下降していった。この傾向は、その原因はまだよく分かっていな いが、大気自身の能力が人為的に作られた温室効果ガスを浄化して減少させていることを 示している。(TO,Nk)

ナノワイヤレーザー(Nanowire Lasers)

低次元構造物質として加工された広バンドギャップの金属酸化物は、新奇な光-電子デ バイスを生み出すことに用いることができるであろう。Huang たち (p.1897) は、自己 組織化し、配向した酸化亜鉛のナノワイヤのアレイから、室温において紫外レーザー光 が発光することを示している。このナノワイヤアレイは、単純なベーパー輸送と凝縮プ ロセスをもちいて、サファイア基板の上に堆積され、合成されたものである。これらの 広バンドギャップの半導体ナノワイヤは、ある望みの方向に成長して、20nm から 150 nm までのさまざまな直径と 10μm にいたる長さとを持つ自然なレーザーキャビティ ーを形成する。光学的な励起による表面放射型のレーザー光発光作用が、〜385nm の近 紫外光波長において、0.3nm より小さい放射ライン幅で観測されている。これらの性能 は、40kW/cm2 という比較的低閾値において達成された。(Wt,An)

ダイヤモンドを輝かせる(Making Diamond Shine)

ダイヤモンドの好ましい構造的および熱的特性に加えて、その広いバンドギャップゆえ に、ダイヤモンドは紫外領域における光-電子的応用のための魅力的な材料である。天 然のダイヤモンドは、p型伝導体(電荷担体は、"ホール"である)であるが、この対応物 である、n型ダイヤモンド(それでは電荷担体は電子である)は、ダイヤモンドを人工的 にドーピングするときの問題のため、とりわけ困難であった。この限界によって、これ まで、ダイヤモンドに基づく光-電子工学の発展が妨げられてきた。Koizumi たち (p.1899; John による展望記事を参照のこと) は、p型ダイヤモンド基板上にエピタキ シャルに成長した n型ダイヤモンドの作成について報告している。それらは、優れた pn接合の電子特性を示している。彼らは、その接合は、フォワードバイアス下に置かれ たとき、紫外光を放射することを示してる。(Wt)

更新世の大型動物群の過剰な狩り(Overkill of Pleistocene Megafauna)

オーストラリア、北米大陸などの主要な大陸に生息する大型の陸棲哺乳類、爬虫類と鳥 類の多くの種(多くが45Kg以上の体重でmegafauna: 大型動物相、として参照される)は 数千年という期間を通して消滅していった。この消滅は通常は大型動物相を狩るヒトの 出現とその人口の増加に起因しているが、天候の変化など大型動物相消滅の原因となり そうな他の可能性を排除することは困難である。2つのレポートがヒトによる過剰な狩 りが北米大陸とオーストラリアにおける消滅の最大の原因であることの証拠を提供して いる(Daytonによるニュース解説とPimmによる書評を参照)。Robertsたちは(p. 1888)、オーストラリア大陸中の大型動物相の埋葬地の年代測定を行い、消滅はヒトの 出現の10,000年ほど後、最終最大氷期の約23,000年前、およそ46,400年前に起きたと予 測した。更新世の最後、12,000年前から13,000年前に発生した、北米大陸における、お よそ30種類の大型草食哺乳類の急速な消滅は天候の変化とヒトによる狩りの両者に起因 することが報告されている。コンピュータシミュレーションモデルを用い、Alroyは(p. 1893)、ヒトと被食動物の分布と生態系に関する単純な仮定を与え、主要な大量消滅の 原因からヒトによる狩りを取り除くことは困難であることを示している。個体群動態 、生態系保存と人類学を結合したシミュレーションモデルで、ヒトの存在は、たとえ人 口密度が低い地域でも被食動物の絶滅を助長することが出来ることを示している 。(Na,An)

遺伝子の共有はまれなこと?(Rarely Sharing Their Genes?)

種間における遺伝子伝達の可能性(横の遺伝子伝達:lateral gene transfer)は、種 の進化を理解したり、細菌の感染がヒトあるいはその他の宿主へ遺伝的物質を伝達する 可能性を考察する上で関心が持たれている。Salzbergたち(p.1903; Anderssonたちによ る展望記事を参照)は、ヒトゲノムのもつ全ての入手可能なシーケンスを念入りに解析 して、“50より少ない遺伝子は細菌とヒトによって独占的に保有されておりそしてそれ らは横の遺伝子伝達の結果によって保有された可能性がある”という証拠を示している 。この発見は以前の見積りよりは少なかったが、サンプリング効果、遺伝子損失、さら にはゲノム内の進化測度のバラツキというような別の解釈がまだ与えられている 。(hk,Tn)

一方の働きを見物する(Watching While the Other Works)

炭素原子が2つの一重結合のみを形成して、2個の非結合性の電子を持っているような カルベンは非常に活性な化合物であり、その最も単純なカルベンである CH2の場合と同じように単に遷移状態でのみ存在するものと長い間考えられ ていた。しかしながら、今日、炭素原子の2つの置換基を注意深く選択して電子密度を バランスよく変えることによって、カルベンをスピン対一重項状態か、あるいは不対三 重項状態のいずれかの形で単離することが出来る。Soleたち(p.1901;Wentrupによる展 望記事参照)は、一重項状態のカルベンがその置換基の一方のみを選定することによっ て安定化しうることを示している。このような置換基は、π結合ドナーとσ結合のアク セプターとしての両方の特性を持つように設計されている:もう一方の置換基は単なる 傍観者的存在である。この発見は合成可能な安定なカルベンの数を大きく拡大し、そし て実用的な合成法を拡げるものである。(KU)

ヘルパーT細胞の運命(Helper T Cells Decide Their Own Fate)

 ヘルパーCD4 T細胞(TH細胞)は、勢力のあるサイトカイン環境に依存して、独特な 表現型を獲得し、そしてこの現象の起こり方を説明するための2つのモデルが存在する 。第一は、“教育的”モデルであり、分化および遺伝子転写のプログラムを開始するこ とによりサイトカインが細胞の運命を方向付けるというものである。第二のモデルは 、“選択的”モデルであり、T細胞が本質的に確率論的な運命決定を経るのであり、こ の決定された運命がその後、適当なサイトカインのセットによってサポートされるとい うものである。Mullenたち(p.1907)は、TH1分化の選択的モデルについての証拠を提 示している。彼らは、顕著な特徴を有するTH1サイトカインであるインターフェロン γ(IFN-γ)および最近同定された主要なレギュレーター遺伝子であるT-betは、イン ターロイキン-12(IL-12)および関連タンパク質STAT-4(signal transducer and activator of transcription 4)とは、無関係であることを示している。T-betのレト ロウィルス発現は、IFN-γ発現のIL-12-自律的誘導を開始し、次に、IL-12/Stat-4シグ ナルが与えられるとIFN-γ発現が確実になる。IL-12/Stat-4によるIFN-γ発現の安定化 は、内在性のアクチルトランスフェラーゼおよび染色質再構成活性を有する補助因子で ある、CBP(CREB-結合タンパク質)の活性化と相関している。これらの知見から、サイ トカインは関連するTH細胞に栄養を供給するに必要なのであって、未だ決定がなされて いないTH細胞に命令を下しているのではない、ということが示唆される。(NF,Tn)

p53の別の移行経路(Extra p53 Export Route)

腫瘍サプレッサーp53は、その特徴がよくわかっているタンパク質の1つであるが、それ でもいくつかの驚きをもたらすことがある。ZhangとXiongは、p53の第2の核外移行信号 (NES)を同定した(p. 1910; また、GottifrediとPrivesによる展望記事参照のこと)。こ のNESは、p53のアミノ末端の近くにあるものだが、リン酸化に応答して不活性化される のである。このリン酸化はそれ自体DNA損傷によって刺激されて生じるものである。こ の研究は、悪性腫瘍に対して、からだの細胞を防御するためにこのキーとなるタンパク 質の分配を細胞の傷害が調節する1つの仕組みを解明している。(KF,An)

マウスのモデルをクリックする(Clicking on a Mouse Model)

近年、特定のヒトの疾病に特定の染色体領域の変化が関与することが推測されている 。しかし、多数の疾病は、複数の遺伝子座位と関与しているため、解明が極めて複雑で あった。マウスのモデルがヒト疾病の研究に役立つことあ分かってきた。普及された近 交系マウス系統からの遺伝形質と表現型の情報を用い、Grupeたち(p 1915;Davenportに よるニュース記事参照)は、インターネットからアクセスできるデータベースを開発し た。このデータベースを計算的に分析することによって、マウスにおける複雑な疾病関 連形質を制御する染色体領域を同定できる。この分子遺伝的分析は、ミリ秒程度に実行 でき、手間と時間と経費がかかるマウス遺伝子研究も不要である。(An,Tn)
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