AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 11, 2001, Vol.292


ナノチューブの結晶(Nanotube Crystals)

カーボンナノチューブの多くの合成法は、もつれた不十分な秩序のマット状のものしか 生み出さない。そして、通常は異なるキラリティのナノチューブが一つの試料のなかに 見出されている。方向を与える成長法によって、一様で秩序のあるナノレベルあるいは マイクロレベルの構造を創製することに成功してきたが、普通は、形成された秩序を有 する集合体はほんの数十本ほどのナノチューブを含むだけである。Schlittler たち (p.1136) は、数千本ものナノチューブを含むミクロンスケールのナノチューブ結晶の 合成法を報告している。ナノメートルレベルにパターニングされた前躯体の熱分解を用 いて結晶を生成した。そして、その個々の結晶は直径とキラリティが揃ったナノチュ ーブの秩序だった配列からなっている。(Wt)

完全に再利用する(Marking a Full Recovery)

工業用の触媒は、一般に二つのカテゴリーに分類される。即ち、可溶性の化合物(均一系 触媒)は明瞭に反応が理解されているが、溶液から回収するのが難しい。一方、不溶性化 合物(不均一系触媒)は容易に再利用されるが、その表面反応は理解しずらいものである。 Xiたち(p,1139)は酸化タングステンのクラスターを用いて、酸化剤である過酸化水素 (H2O2)が存在している限りにおいては、すくなくとも可溶性の触 媒としてオレフィンのエポキシ化反応を触媒する。酸化剤が消費されると、触媒は沈殿し て容易に再利用される。H2O2は二次的触媒系を用いて、空気から その反応場でつくることも出来る。この方法を主要なる日常化学製品であるプロピレンオ キシドの合成に適用すると、現在の工業製品をつくる際の好ましからざる副産物の形成を 回避することが出来るであろう。(KU)

スパイラル状のフォトニックバンドギャップ結晶(Spiraling into a Photonic Band Gap)

フォトニックバンドギャップ(PBG)結晶は、光の波長スケールで周期的な屈折率変化を もつよう設計された人口結晶である。このような結晶においては、ある特殊な波長の光 の伝播を禁止するようなエネルギギャップが存在し、光導波に用いられる。今日、作成 法の多くは一般的なダイアモンド様やウッドパイル構造(材木を並べて積み重ねた構造 )に基づいているが、その作り方は空間的に拡がった三次元構造をつくるのには適して いない。ToaderとJohn(p.1133)は、大きなスケールに渡ってデポジット可能な正方形の スパイラル構造による別のPBG結晶構造に対する青写真を示している。彼らの計算では 、また、その構造は欠陥が存在していたとしても機能しうることを示している。 (KU,Tk)

完全な始生代のオフィオライト(Complete Archean Ophiolite)

オフィオライトは、海洋の拡大中心などの伸展性テクトニクスに関係したマグマの貫入 によって形成された、マグネシウムと鉄に富んだ岩石からなる層でできている。オフィ オライトは比較的珍しいものだが、原生代から顕生代にかけての地球の歴史の大部分を 通じたほぼ完全な系列の存在が記録されているし、不完全なオフィオライトであれば始 生代の岩石においても発見されていた。Kuskyたちは、始生代における完全な系列のオ フィオライトを中国大陸塊の北部、Dongwanzi村近辺で発見した(p. 1142; また、 Karsonによる展望記事参照のこと)。完全なDongwanziオフィオライトは、プレート・テ クトニクスの基本的なプロセスは、従来知られていたよりも早くから作用していたとい うことを示している。(KF,Og)

支配的集団(A Dominant Population)

現在のヒトの起源に関する理論の1つは、彼らがおよそ10万年前にアフリカから現れ 、北ヨーロッパやアジア、インドネシアに至るまでの範囲のすでにそこにいた集団を置 き換えてしまった、というものである。2番目の理論は、すでにあった集団との間には 大きな交配があって、それ以降の世代に大きな影響を与えた、というものである。Keた ちは、東アジアの163の集団に含まれる1万2千人の男性について、アフリカ起源を示す マーカーとなる3つのY染色体を広範に分析することで、最初の理論を強力に支持する結 果を提供している(p. 1151; また、Gibbonsによるニュース記事参照のこと)。彼らの調 査対象のすべての個体は、3つのマーカーのうち1つ以上を有していたのである。つまり 、それ以前のアジアのヒトは、遺伝子プールに対して最低限の寄与すらしていなかった ようである。(KF)

口蹄疫との戦い(Fighting Foot-and-Mouth Disease)

2001年2月始めから英国北部において口蹄疫の流行が始まった。4月始めまでに英国中の 1000以上の農場に感染が広がり、何十万頭もの牛、羊と豚が大量畜殺された。Ferguson たちは(p. 1155)、英国の農漁食糧省、からいくつかの疫学者グループに提供されたデ ータを用い、選択的な蓄殺やワクチン投与なども含む、様々な治療方法のシナリオごと に将来の伝播状況をモデル化した。この流行をコントロールする最上のオプションは感 染した農場に近接する家畜を大規模に蓄殺することである、と結論つけている。(Na)

細菌のためのロック・ケーキ(Rock Cake for Bugs)

New Albany頁岩は、デボン紀末期の、天然ガスや風化耐性の有機物すなわちケロジェン (油母)の形態で存在する炭素に富んだ泥の残遺物である。そうした堆積岩が地表に現れ ると、炭素質の材料がいくつかの化学反応や物理的過程によって風化していく。Petsch たちは、このたび細菌もまたケロジェンに作用するということを示した(p. 1127)。彼 らは掘削コアから微生物を分離し、それらが粉末化し滅菌された岩に含まれるケロジェ ンを消費するのを、13C同位体に対する14C(これは古代の有機 物には存在していない)の取り込みを測定することでモニターした。少なくとも炭素の4 分の3は、岩から生じた細菌性の培養物によって同化された。現在に至るまで、ケロジ ェンは生物が利用可能なものとは思われていなかったが、この研究は、有機物に富んだ 堆積物の細菌による消費が風化の重要な因子となり、地質年代的な規模では、世界的な 生物地球化学的炭素循環に相当の寄与をなした可能性がある、ということを示している 。(KF)

立体的にコレステロール合成を停止させる(Sterically Stopping Cholestrol Synthesis)

スタチン類は、コレステロールの生合成ステップに係わる触媒作用を行う酵素HMG-CoA (3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA)還元酵素(HMGR)を阻止することによってコレ ステロールのレベルを低下させるために広く使われている薬剤である。Istvanと Deisenhofer (p. 1160)はヒトのHMGRが6つの異なるスタチンに結合する触媒作用部位を 2.3オングストローム以上の解像度で構造決定した。このスタチンは酵素の活性部位に 結合し、そうすることによって立体構造的に基質との結合を防いでいる。この結合ポケ ットがスタチン分子に適合するように配置が変わり、そしてHMGRのカルボキシ末端近傍 の残基の立体配置が乱れる。(Ej,hE)

セレクターとシグナル伝達タンパク質との間の相乗作用(Synergy Between Selector and Signaling Proteins)

発生の間を通して、器官や外肢などの複雑な構造を、空間的および時間的合図により指 向される様に形成する。複数の研究がこれらの合図を決定し始めているが、しかし我 々は、様々な合図がどのようにして統合されていくのかについて、現在のところ知りえ ていない。ショウジョウバエの翅の成虫原基を使用して、Gussたち(p. 1164; AffolterとMannによる展望記事を参照)はセレクタータンパク質と翅特異的遺伝子に影 響を与えるシグナル伝達因子との間の関係を調べた。翅の発生には、発生の場の特定化 のために、セレクタータンパク質とシグナル伝達タンパク質の両方がDNA結合すること が必要とされる。(NF)

稔性因子(Fertility Factor)

ある時期、すべての転写装置がTATA結合タンパク質(TBP)をふくんでいると示唆され ていた。その後、その機能は不明確であったが組織特異的因子であると考えられたTBP- 関連因子(TRF)が見つかった。最近のアフリカツメガエル(Xenopus)および線虫(C. elegans)での研究により、初期発生においてTRF2が必要であり、そしてこの因子を除 去すると胚の致死が引き起こされることが示された。これとは対照的に、Zhangたち( p. 1153)はここで、マウスが機能的TRF2を欠損している場合、動物は全般的に健康で あるが、TRF2を欠損しているオスが不妊であることを示している。これは、精子形成が 起こっていないことによる。このように、ほ乳動物におけるTRF2は、精子形成のための 組織特異的因子であることが示される。(NF)

組織化する(Let's Get Organized)

細胞の構築は、細胞骨格と総称される細胞内線維のネットワークによって構成され、そ の主要な成分のひとつは微小管ネットワークである。Surreyたち(p. 1167)は、他の細 胞構造の非存在下で、微小管と微小管に基づくモータとが一緒になってどのようなタイ プの構造を作れるかを研究した。彼らは、定常状態において、いくつかの複雑なタイプ の構造が自己組織化されるのを観察した。その構造に、モータと微小管の比と型に依存 して形成される頭頂と星状体が含まれる。更に著者たちは、観察した構造を正確に予想 したコンピュータ・シミュレーション法も開発した。(An)

キャップを手に(Cap in Hand)

繊毛性の原虫において、テロメア(末端小粒)と呼ぶ染色体の末端は、キャッピングのタ ンパク質に結合され、そのタンパク質がテロメアを分解から保護すると考えられている 。BaumannとCech (p. 1171;de Langeによる展望記事参照)は、分裂酵母およびヒトにお いて、長い間探されてきたこのタンパク質の同族体を同定した。Pot1(テロメアの保護 :protection of telomeresから命名された)と呼ばれているこのタンパク質が配列特異 的にテロメアDNAに結合する。分裂酵母におけるpot1遺伝子の除去は、テロメアDNAの即 時の欠損と染色体の円形化を引き起こしたが、この表現型は、テロメラーゼ欠損の表現 型より劇的である。テロメラーゼは、新しいテロメアを合成する酵素である。(An)

麻薬を欲しがる根源(The Roots of Drug Cravings)

長期間麻薬を使わないでいた後でさえ、コカインを常用するようになった人は、コカ インを欲しがることが起こりうる。動物モデルにおいて、Vorelたち(p. 1175; Holden によるニュースを参照)は、小脳あるいは内側前脳束ではなく腹側海馬台の電気的θバ ースト刺激が強いコカインを求める行動を誘発することが起こり得ることを観察した 。刺激された腹側海馬台繊維はグルタミン酸作動性であり、そしてこれらの結果は、グ ルタミン酸受容体アンタゴニストが麻薬の欲求をブロックし習慣性を治療する手助けが できそうなことを暗示している。(hk)

一様な薄膜上の熱を強める(14. Turning Up the Heat on Uniform Thin Films)

ナノテクノロジーの鍵を握る一問題は、薄膜やデバイスの構造的安定性である。薄膜の 熱的安定性の研究に対する理想的な試験システムは、鉄の(100)面にデポジットされた 銀の試験である。この試験では、単分子層レベルで制御できる厚さを有する、原子レベ ルで均一な膜が形成されている。Luh たち (p.1131) は、1,2,およぴ 5 の単分子層 で構成される薄膜は、熱的に安定(900Kまで)であるが、他の数 N の単分子層からなる 薄膜は、二つに分離して、N+1 と N−1 の薄膜からなる混合物になっていくことを報 告している。基板との界面および最上面での障壁の間の薄膜内部での電子閉じ込めのた め、系は、量子化されたエネルギーレベルを示す量子井戸を形作る。彼らは、量子化さ れた順位に付随する電子のエネルギーにより結果を説明しうることを示している。(Wt)

1つのイベントに対し2つの崩壊(Two Ruptures for One Event)

2000年、6月18日、インド洋のウォートン(Wharton)海盆に沿って、マグニチュード7.8 の地震が発生した。このイベントはインド-オーストラリアプレートの内部で起こった が、震央はいくつか提案されたマイクロプレートと関係する変形地域南部の近辺であっ た。Robinsonは(p.1145)は、この遠隔の地震について完全に記録された震動記録を利用 して、このイベントは実際は2つの破断(2つの断層活動(ruptures))であったことを 発見した。その一方は化石トランスフォーム断層に沿って北から南に向って、また他方 は二次断層に沿って東から西に向っている。これらの結果は、地震はより複雑であった かもしれず、ウォートン海でのイベントについては、その地震によってマイクロプレ ートの構造の決定を助けとなるかも知れないことを示している。(TO,Og)

生産力の大きな低下(Plunges in Productivity)

三畳紀-ジュラ紀の大絶滅、それはその以前にあったペルム紀-三畳紀あるいは白亜紀- 第三紀の大絶滅ほどには知られていないが、地球の生物相や進化の歴史に大きな衝撃を 与えた。地球の種の殆どは絶滅し、そしてこの結果、恐竜が地上を支配する動物として 現れた。しかし、この大規模な絶滅の時期や原因の詳細は明らかでなかった。Wardたち (p.1148)は最近、三畳紀-ジュラ紀の絶滅は、他の2つの大きな絶滅と同様に、疑いなく 地球の炭素サイクルに重大な崩壊があった特徴を示していることを実証した。これは 、絶滅境界(extinction boundary)において海洋の炭素同位体 13C/12C率の低下があったことで表されている。カナダのブリ テッシュコロンビアでのある層位セクションのこれらの分析もまた、絶滅は相対的に急 であり100万年間以下で発生したことを示している。(TO)

レチナールの制御(Retinal Regulation)

網膜の外側網状層の水平細胞は、双極細胞の周囲に負のフィードバック信号を生成させ るが、その原因となる機構は分かってない。Kamermansたち(p. 1178)は、水平細胞と錐 体光受容体の間のシナプスのギャップ結合ヘミチャネル(gap junction hemichannels) が存在することを示した。これらヘミチャネルをcarbenoxoloneによってブロックする ことで水平細胞に過分極が生じ、錐体および水平細胞中のフィードバック応答を混乱さ せる。この発見から、生理学的条件下での水平細胞から錐体への負のフィードバック機 構の存在が、電気的あるいはエファプス機構によると推察される。すなわち、 Ca2+ チャネルの活性化と、引き続く錐体のグルタミン酸の放出が、このヘ ミチャネルを通過する電流で調節されていることが。(Ej,hE)
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