AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 23, 2001, Vol.291


何世代もの間のENSO(ENSO Through the Ages)

エルニーニョ南方振動(ENSO)は、一年をまたがるような地球最大の準周期性の気候事象で ある。それのメカニズムの理解はまだ不充分ではあるが、多くの研究者は地球温暖化に対 し鋭敏である可能性があると信じている。Tudhope たち (p.1511; Cole による展望記事 を参照のこと) は、パプアニューギニア(西部太平洋暖水プールの中心に位置しており 、ENSO に関係する変動を記録するのに申し分ない位置にある) 産出のサンゴを解析して 、いかに ENSO は、過去13万年の間、氷河期およぴ間氷期に応答して変化したかを決定し た。彼らは、彼らの調べた他の7回のどの期間よりも現在のENSOは強いことを見出した 。彼らは、その変動性は、ある種の氷河期環境による振動減衰力と、地球歳差運動で太陽 輻射が変化することによる振動励起力の二つの関数であると示唆している。(Wt,Nk)

電子は、長距離ジャンプをする(Electrons Make the Long Jump)

距離が数ナノメータの直接電子伝達は、分子エレクトロニクスにおいて大変有益であるか もしれない。しかし一般的に、電子をドナー(供与体)とアクセプタ(受容体)基間を移 動させるために克服されなければならい障壁は、距離が増すに従って増加する。多くの場 合、長距離電子伝達には中間位置の部位を必要とする。そして実際に電子は直接標的を狙 うよりはむしろ“ホップ”する。Sikes たち(p. 1519)は、直接電子伝達が28オングスト ローム程の距離で起きることを示す熱ジャンプ実験データを提示している。このケースに おいて、自己組織化単分子層における電子伝達は、金電極に溶けてフェロセン基をつなぐ オリゴ・フェニレン・ビニレン(oligophenylenevinylene)による架橋を通じて起きてい た。著者たちは、電子伝達が他のメカニズムで起きているという可能性が少ないことを示 した。そして、従来用いられていた似たような架橋基より、これらの架橋によって著しい 平面性と軌道のオーバラップが維持されていることを示唆している。(hk)

まれな手がかりを解明する(Unlocking Rare Clues)

地球史上最大のペルム紀-三畳紀の絶滅は、突然に起こり恐らく数十万年間続いた。絶滅 の原因は広く論議されてきたが、白亜紀-第三紀の絶滅とは異なり、イリジウムの異常や 衝撃を受けた鉱物粒子のような、小惑星の衝突を示す決定的な証拠は見つかっていない 。最近、Beckerたち(p.1530;Kerrによるニュース記事参照)は、地球外の痕跡を含むと見 られるペルム紀-三畳紀境界について、2つの離れた場所からフラーレンを抽出して分析し ている。フラーレンはそのケージの中に希ガスを取り込むことができ、そしてペルム紀- 三畳紀境界からのフラーレン内にある希ガスの分析により、それらの同位体組成が地球の 大気のそれとは異なっており、地球外の痕跡を反映していることを示す。フラーレンは 、その境界の上下にある堆積物からは見つけることができなかったが、大きな彗星あるい は小惑星によって地球に届けられたのかもしれない。(TO,Nk,Tk)

機能コストは形状を導く(Form Follows Functional Cost)

(鳥の精巧な羽毛や甲虫の角のような)性的淘汰を受ける構造の精巧さに対する従来の説明 は、特別な装飾あるいは武器のタイプといった生殖上の利益に焦点が当てられていた。甲 虫の角の比較研究において、Emlen(p.1534;HarveyとGodfrayによる展望記事参照)は、こ うした構造を作るための機能的コストによって、どのように奇妙な形態の発達が可能であ るかを示した。角を発現する機能的コストは、作られた角の種類によって変化し、そして この要因は、生殖的利益よりも、進化による甲虫の角の多様性が増加する利益の方が大き いのかもしれない。(TO)

医薬とゲノミックス(Medicine and Genomics)

B細胞は、T細胞からの助けをクラスII分子を発現することで利用するが、このクラスII分 子はそれらT細胞が発現した特異的受容体に対する抗原性ペプチドを提示するのである 。この受容体は、適切な抗原を認識したT細胞を活性化し、分化するプラグラムを起動す る複雑な細胞内情報伝達経路に組み込まれている。Langたちは、T細胞受容体とクラス II分子との間の相互作用が単純な一方向性の情報交換ではない、という証拠を提示してい る(p. 1537)。情報はクラスII分子を介してB細胞に戻されることもありうるのである。こ のプロセスは、それらとB細胞抗原受容体の情報伝達チェーンとの間の会合に依存してい る。このプロセスは、抗原への免疫応答の際のT細胞-B細胞の連携を調節する役割を果た している可能性がある。(KF)

B細胞に新しい受容体を(New Receptors for B Cells)

Bリンパ球による自己反応性受容体の発現は、一般にクローン焼失によるBリンパ球自身の 死をもたらすが、Bリンパ球のうちのあるものは、自分のもっている受容体をより危険の 少ない受容体と交換することで死を免れるらしい。受容体編集というこのプロセスは、自 己反応性受容体チェーンの遺伝子組換え発現によって初めて明らかにされたものだが、こ れはある種の細胞に新しい受容体を人為的に強制発現させたものである。しかし、これら 研究は、B細胞レパートリに対してこのプロセスがどの程度貢献できるか、その程度を予 測することはできないものであった。マウスの抗体座位の1つをヒトの軽鎖k遺伝子でタギ ングすることで、Casellasたちは、正常な発生過程でどの細胞が受容体編集を被るかを追 跡した(p. 1541; また、KingとMonroeによる展望記事参照のこと)。この実験結果は、B細 胞による受容体特異性の改訂は従来言われていたよりも頻繁である可能性のあることを示 唆している。(KF)

自動炭水化物合成(Automating Carbohydrate Synthesis)

核酸そして多くのポリペプチドを、自動固相合成機を用いて容易に合成することができる 。炭水化物合成は、それらよりも労働集約的であり、そしてそれぞれの工程が、溶液中で 行うかあるいは固相支持体を利用するかにかかわらず、通常は手作業で行われる 。Planteたち(p. 1523;2月2日のServiceによるニュース記事を参照)は、いくつかの炭 水化物を、オクテンジオール-官能化樹脂上に固定化されたグリコシルリン酸およびトリ クロロアセトイミデート基礎単位を使用して、自動的に合成することができることを報告 する。(NF)

中心体、中心へ(Centrosomes Center Stage)

哺乳動物細胞の中心体は、微小管、特に有糸分裂の間の紡錘体を形成する微小管を、構成 する際に機能すると考えられている。中心体の実質的な新しい役割についての時間経過ビ デオ顕微鏡による事実が、2つの報告により提供される(Murrayによる展望記事を参照 )。細胞が分裂するとき、それぞれの娘細胞は2つの中心小体を含有する一つの中心体を 受け継ぐ:娘中心小体は、S期の間に組み立てられ、そして母中心小体は一つ前の細胞周 期からあるものである。Pielたち(p. 1550)は、母中心小体が細胞の中心からサイトキ ネシスの末端で娘細胞を連結する小さな細胞間架橋まで、劇的に移動することを観察した 。顕微鏡下でその中心体を除去した実験を含む彼らの観察によれば、娘細胞の最終的な分 離および細胞間架橋の提供には、架橋における微小管の脱集合化を刺激する母中心小体の 存在が必要であることが示される。Hinchcliffeたち(p. 1547)は、アフリカミドリザル の腎臓細胞から中心体を外科的に除去してカリオプラストを形成し、その後細胞周期を介 して増殖させた。細胞周期に入った細胞は、有糸分裂を通じて増殖するために、無傷の中 心体を必要とはしなかった。しかしながら、中心体が存在しないことにより、DNA合成の 次のラウンドを開始することができなかった。(NF)

ハエ、マウス、ヒト(Flys, Mice and Men)

Bリンパ球による自己反応性受容体の発現は、一般にクローン焼失によるBリンパ球自身の 死をもたらすが、Bリンパ球のうちのあるものは、自分のもっている受容体をより危険の 少ない受容体と交換することで死を免れるらしい。受容体編集というこのプロセスは、自 己反応性受容体チェーンの遺伝子組換え発現によって初めて明らかにされたものだが、こ れはある種の細胞に新しい受容体を人為的に強制発現させたものである。しかし、これら 研究は、B細胞レパートリに対してこのプロセスがどの程度貢献できるか、その程度を予 測することはできないものであった。マウスの抗体座位の1つをヒトの軽鎖k遺伝子でタギ ングすることで、Casellasたちは、正常な発生過程でどの細胞が受容体編集を被るかを追 跡した(p. 1541; また、KingとMonroeによる展望記事参照のこと)。この実験結果は、B細 胞による受容体特異性の改訂は従来言われていたよりも頻繁である可能性のあることを示 唆している。(KF)

苦味を残す(Leaving a Bitter Taste)

最近、苦味受容体の大きなファミリが特性づけられ、クローンされた。このファミリのメ ンバーの複数メッセンジャーRNAを個々の細胞で発現させることによって、一般的苦味と いうものが1つだけ存在すること、また、個々の呈味細胞が苦い化合物に広く応答するら しいことが分かった。しかし、CaicedoとRoper(p. 1557;Brownによるニュース記事参照) は、過半数の場合には、個々の呈味細胞が異なる苦い刺激を区別できることを示している 。この結果は、以前の心理物理的データおよび食味神経記録に合致するものであり、感覚 細胞のひとつの亜集団においても多くの不均一性があることを示す。(An)

注目すると同期する(Attention Leads to Synchronization)

私たちが周りを見渡すと、典型的な視覚的情景においては多数の刺激を感知する。ある特 別の対象物に注意を集中すると、他の刺激は無視され、それらの入力は抑制される 。Fries たち (p.1560; Stryker による展望記事を参照のこと) は、どのように選択的注 目が視覚処理の経路中で働くのかを研究した。彼らは、注目された刺激を符号化するニュ ーロン中で V4 領域中の高周波振動が強められることを見出した。彼らの結果は、注目す ることは同期するニューロン活性を変調するという仮説を支持するものである。(Wt)

銅塩超伝導材料の電子ホール対称性(Electron-Hole Symmetry in Cuprates)

今日最も研究されている高温の銅塩タイプの超伝導材料はホール注入型である。現在 、d波超伝導ギャップを形成する対形成機構の可能性を示す大量の実験的証拠が出始めて いる。一方、電子注入型の銅塩タイプではそれほど簡単ではない、ある研究ではs-波対称 性を示し、別の研究ではd波を示している。Satoたちは(p. 1517)、高品位のサンプルに対 する高分解能の角度分割した光電子放出スペクトルを研究し、d波対状態の直接的な証拠 を発見した。その研究結果から、両方のタイプの超伝導において、類似の対形成機構を持 つことが示唆される。(Na)

火星の酸化状態(Oxidation State of Mars)

火星表面の赤色の土壌は大量にある酸化鉄に豊む鉱物によるものであるが、火星マントル の酸化還元状態を決定することは難しい。Wadhwaは(p.1527)、火星から来た隕石内に存在 する輝石中に含まれる三価と二価のユーロピウムの分布を測定することで地殻とマントル の酸化還元状態を推測した。それによると、マントルは地殻より強く還元されていた。こ のことから、地殻は水質変成などのプロセスで酸化していることが示唆され、酸化した地 殻は二度とマントルに再循環することはないらしい。(Na,Tk)

遊離する(Letting Go)

分子シャペロン70ーキロダルトン熱ショックタンパク質(Hsp70)ファミリーの仲間は、ア デノシン三リン酸(ATP)の活性に依存した形で基質と結合したり遊離したりする。バクテ リアHsp70の相同体であるDnaKにおいて、タンパク質GrpEはヌクレオチド交換を高めるこ とによって基質遊離を促進する。Sondermannたち(p.1563)は in vitroの実験で、ATPー依 存性の基質遊離を促進するBag領域に結合したHsp70 ATP分解酵素ドメインを1.9オングス トロームで解明した。そのBag領域は構造的にはGrpEに無関係であるが、Hsp70とDnaKの結 合したATP分解酵素ドメインの構造は類似している。ヌクレオチド‐遊離機構は、真核生 物のBag領域の収束進化を通して保存されているようである。(KU)

倍数性と性の二形性(Polyploidy and Gender Dimorphism)

北アメリカの植物属Lyciumの研究で、MillerとVenable(論文、29 Sep. 2000,p.2335)は 、”自家不合和性を壊して近交退化(近親ん真交配を続けると生活力が低下する現象)に 導くこよにより”倍数性が性の二形性のきっかけを与えているということを提案した。 BrunetとListonは、MillerとVenableによる解析は、”その主張されている関連性を支持 しておらず”自家和合性を測定する彼らの方法に多分欠点があるのだろうと論じており 、そして性の二形性の進化における主張された結合の重要性を示すには"性の二形性は別 の経路を通してよりもこの経路を通してはるかに頻繁に生じるのだ"という実証が必要で あると主張している。MillerとVenableは自分たちの解析を支持する付加的な系統発生学 的研究を引用し、そして性の二形性のトリガーとして倍数性の考え方に対するいくつかの 付加的な統計学的検定を示唆している。このコメントの全文は
www.sciencemag.org/cgi/content/full/291/5508/1441a で見られる。(KU)

金属化合物による超伝導の高温記録(Material Sets Record for Metal Compounds )

青山学院大学の秋光純(Akimitsu Jun)は金属化合物による超伝導の記録を、従来の絶対温 度23度から39度に一気に上昇させた(p.1476, Service)。セラミックス系では、これより 更に96度も高い記録があるが、粒界を通過して電流を流すには金属の方が適しているし 、加工性も優れている。理論的には軽い元素であるホウ素を含む化合物は高い超伝導温度 を達成できると見みられていたが、どう言う訳か、最も簡単な化合物である MgB2が見逃されていた。秋光たちの結果はすでに日本、アメリカ、イギリス のチームで確認されている。現在理論的意味づけを争っている。BCS理論によれば、電子 の動きが格子振動と対を形成し、これが次の電子に作用して抵抗をなくす。この対は温度 上昇によって熱振動の影響を受け通常は20K近辺で消滅する。セラミック系物質では磁場 が対形成に関わっているらしい。University of California, San DiegoのHirschによる と、MgB2はBCS理論で説明出来そうだという。秋光たちの発見のあと、Iowa Stateのチームは、ホウ素11Bより軽い同位体10Bを使った MgB2によって、更に温度を1度高めたという。従来のセラミック系超伝導体 では高電流を流せなかったが、金属ではその制約が軽減される可能性が高く、応用研究は 劇的に進むかも知れない。(Ej)
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