AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science January 12, 2001, Vol.291


マイクロ流体の駆動(Microfluid Actuation)

何千というマイクロメートルサイズの流体チャンネルからなる複雑なマイクロ流体シス テム(例えば、lab-on-chipデバイスで化学物質を輸送したりする)においては、各々の チャンネルを流れる流体の移動を制御する方法が必要となる。Prinsたち(p.277)は電気 キャピラリ圧を用いて、このようなマイクロチャンネルのアレー中で液流を駆動する方 法を述べている。彼らの設計では電極を個々の流路の壁の中に包埋する。一つのチャン ネル電極にバイアスをかけると、液体を壁の方へ引きつけてキャピラリチャンネルの直 径を効率的に狭くし、液体の上昇進運動が生じる。(KU)

引っ張られた微細金線(Magic Wires Under Tension)

最近発見された、らせん状の多数の殻から成る金線は、微細材料のサイズや寸法に対する 影響を特に明瞭に実証している。金のチップ間に張られた規則的だが非晶質の微細金線は ある特定の「魔法の値」の半径で張力が極小となる、離散的多殻構造をとる。Tosatti た ちは(p. 288)、この金線を密度関数的に計算した結果、この微細金線の安定性はこの金線 の全自由エネルギーでなく、張られた張力により決定されることを示した。「魔法の構造 」を持つ構造は線張力極小に対応する。銀線についてはそのような極小値はない。(Na)

超伝導性DNA(Superconducting DNA)

DNAの長い紐ががもしかしたらナノスケールの電子部品の結線にに利用できるかも知れ ない。しかし、DNAの伝導状態については、よくわかっていない。Kasumovたち(p. 280)は、超伝導のレニウム/カーボンの電極を、遷移温度以下で1本のDNAで超伝導の接 点を架橋し、DNAに近接誘導超伝導効果を生じさせた。超伝導波動関数が、通常の導電 体に浸透するときに生じるこの近接効果の観察によって、分子が導電するだけでなく 、位相干渉長の長さをもっていることが推察できた。(Ej)

カーボンナノチューブ中の欠陥のスイッチを入れる(Turning On Defects in Carbon Nanotubes)

分子エレクトロニクスにおける応用的利用への主要な競争者の一人になるべく、カーボ ンナノチューブの電子的および構造的特性を明らかにすることに多くの努力が払われて いる。多くの実験的および理論的研究は、欠陥のないナノチューブに集中しているが 、欠陥は、そのような材料がデバイス構造中でどのように働くのかを決定する役割を演 ずる可能性がある。Bockrath たち (p.283) は、金属性単一壁カーボンナノチューブの 実験的結果を与えており、それは、欠陥はチューブの長さ方向に沿って非一様な電子的 特性を与え得ることを示している。特に、そのチューブがゲートコントロールされると き、欠陥はスイッチを入れられて、チューブの電子的特性は予想されていたものと異な る可能性がある。(Wt)

霊長類の遺伝子工学(Primate Genetic Engineering)

ヒト以外の霊長類を遺伝子工学によって扱えれば、ヒトの病気についての動物モデルの 開発が促進できることになる。Chanたちは、緑色蛍光タンパク質(GFP:green fluorescent protein)をコードする遺伝子を、ある種の擬似型レトロウイルス・ベクタ ーを注入することで、アカゲザル(rhesus macaques)の卵母細胞に転移させた(p. 309; また、Vogelによるニュース記事参照のこと)。細胞質内精子注入を行い、胚を代理母に 移した後で、一匹の生きて生まれたアカゲザルと死んで生まれた一組の双子が遺伝子組 換えされたものであったことが、ポリメラーゼ連鎖反応法分析によって、また肢の爪や 体毛、胎盤が蛍光性であったことによって、明らかになった。(KF)

1成分の分子金属(A One-Component Molecular Metal)

金属であるためには、伝導帯キャリアー(電子や空孔)源が必要であり、これらの波動 関数が互いにオーバーラップしている必要がある。多種の元素が1成分金属となるが (例えば、銀やナトリウム)分子金属では電荷移動プロセスによってキャリアーを形成 するためには、通常2成分が必要である。Tanakaたち(p. 285、および、Cassouxによる 展望記事参照)は、[Ni(tmdt)2] (tmdt, trimethylenetetrathiafulvalenedithiolate)の単結晶は、室温以下、0.6Kまでの温度 において金属の性質を持つことを示した。さらに、アブイニシオ計算によれば、π分子 軌道が導電帯を形成することが伺える。分子配置がコンパクトで、最高占有分子軌道と 最低非占有分子軌道が分子間重なりと、強固な結合の電子のバンド構造の計算から 、[Ni(tmdt)2]が平面状分子からなるにもかかわらず、3次元構造の合成金属であるこ とがわかった。(Ej)

氷期サイクルを計る(Forcing Glacial Cycles)

ミランコビッチの理論によると氷期のサイクルは北緯65度(氷期において北半球に広がる 大陸氷床の中心近く)における7月の日照(この季節に積雪が溶けて無くなるか、または残 って氷床形成を助長する)によりコントロールされる。最後の退氷期(終結1、およそ2万年 前)にはこの仮説が正しかった。しかし、いくつかの証拠によると、その前の退氷期(終結 2)はミランコビッチ理論で予測される12万7千年前より数千年前に起きている。この明白 な矛盾により、他の退氷の発生時期の正確な時期を決定することが重要になった 。Stirlingたちは(p. 290)、終結4後の海面が高い時期に形成された珊瑚の年代を測定し 、その時期がミランコビッチ理論に合うことを確認した。(Na)

混ざりあった祖先(Mixed Ancestry)

人類は、最初100万年以上前にアフリカからユーラシアへと移動し、そしてインドネシ ア地域と同じ位離れた陸地へたどりついたことを示す積み重なった証拠がある。それに もかかわらず、分子的証拠では現代人は別の異なる遥か後の移動から生じていることを 示唆している。例えばヨーロッパにおけるネアンデルタール人を含む先行集団に対し 、後から来た人類がとって代わった、或いは混血したかの程度によって人類の移動と進 化のモデルは大きく影響される。テストとして、Wolpoffたち(p.293;Pennisiによるニ ュース解説参照)はアフリカから遠く離れた移動地点、オーストラリアとヨーロッパで の二つの集団における共有の身体的特徴を調べた。彼らは、両方の集団での共有の特徴 は完全なる置換モデルを反証していると結論づけている。(KU,Nk)

耳石特性をトレース(Tracing Otolith Signatures)

天然の地球化学的標識--安定な放射性同位体と元素との相対濃度--が、動物の移動パタ ーンをモニターするために次第に使用されるようになっている。Thorroldたち(p. 297; Malakoffによるthe news storyを参照)は、アメリカ合衆国の東海岸にわたって 、若齢のウィークフィッシュ(Cynoscion regalis)および成熟したウィークフィッシ ュの耳石の化学的特性と調べることにより、河口産卵性の海産魚の出生地回帰に関する 推定を提供する。彼らは、出生地回帰の詳細と、遺伝的研究により示されたものではな い集団分化の詳細とを示し、それにより漁業管理に用いられているモデルに空間的要素 を組み込むことが必要であることを示している。(NF)

太陽に導かれ(Guided by the Sun)

数千万羽のシギ・チドリは、繁殖のために南半球から北極圏へとわたり、そして秋には戻 っていく。渡り鳥が、太陽、光偏向パターン、星、そして地磁気場に基づく様々なコンパ スをどのように使用しているのかの理解について進展があったが、しかしほとんどの研究 ではフィールドでの観察ではなくケージ内での実験を使用した。Alerstamたち(p. 300; WehnerによるPerspectiveを参照)は、カナダ北極圏の磁北極にほど近いところで、レ ーダーを使用して渡りの群を追跡して、この問題を研究している。研究によると、鳥は太 陽コンパスを使った経路をたどるらしい。この経路は、少なくとも高緯度地方では、距離 を最短にする大円航路とよく合う。(NF,Nk)

心臓の課題(Heart of the Matter)

拡張型心筋症は、心臓の心室が拡大する重症の心臓病であり、機能が危険にさらされる こともあり得る。いくつかの研究は、調節不全の免疫系がこの病状に関与していること を示唆した。PD-1という免疫調節の分子を分析した時、Nishimuraたち(p 319)は 、PD-1の遺伝的な欠失が拡張型心筋症の一種を引き起こしたことを観察した。この疾病 は、マウスが特定の遺伝的系統から育種され、それ以外に免疫学的に無傷である場合だ けに発生した。(An)

オーキシンを作成する方法(How to Make Auxin)

オーキシンは、必須の植物ホルモンであり、植物の成長と発生の制御に関与しているが 、植物におけるオーキシン生合成の機構がよく理解されていない。Zhaoたち(p 306)は 、YUCCAというシロイヌナズナ遺伝子がフラビン・モノオキシゲナーゼ様の酵素をコ ードすることを示している。この酵素は、トリプタミンのアミノ基の水酸化を触媒する 。この段階は、トリプトファン依存経路を経由するオーキシン生合成において、律速さ れるようである。(An)

視覚的カテゴリの神経表現(Neuronal Representation of Visual Categories)

カテゴリは、殆ど全ての高レベルな認知機能の基礎的な単位である。Freedmanたち (p.312; ThorpeとFabre-Thorpeによる展望記事参照)は、精巧なグラフィックシステム を用いて、ネコとイヌのプロトタイプ間のモーフ(morphs)である刺激を生成した。霊長 類の側面前頭葉前部皮質における多くのニューロンの活動は、物理的外見(physical appearance)よりもむしろ視覚的刺激のカテゴリーを反映していた。さらに加えて、カ テゴリーの表現は、学習中に刺激が新たなカテゴリに割り当てられたときに、変化する 。(TO)

明かにされた排出のシグナル(Export Signal Unveiled)

新しく合成された原形質膜たんぱく質は、小胞体(ER:endoplasmic reticulum)のレベル にある分泌性経路(secretory pathway)に入る。ERからの排出(export)は、正確に組み 立てられ折り畳まれたタンパク質に対する欠如(by default)と考えられてきた。Maたち (p.316)は、ERから排出されるカリウムチャネルの調節について調べ、ERからの排出を 刺激することで表面発現(surface expression)のレベルをコントロールする1対のソ ーティングモチーフ(sorting motifs)を含んだたんぱく質を見つけた。(TO)

破壊を避ける(Ducking Destruction)

無症状性のサイトメガロウイルス(CMV)への感染は生涯残るものであり、AIDSにおいて は命に関わるもので、また動脈性の病気とも関連している。研究室で管理されているヒ トのCMVの血統は、血管内皮細胞では成長しないが、研究室で管理されているマウスの CMVウイルスの血統の方は成長する。Bruneたちは、マウスのウイルスの変異体を作り出 す技法を開発し、それを用いて、この組織の特異性を制御している遺伝子(M45)を同定 した(p. 303)。彼らはまた、M45の変異体を含むウイルスに感染するとその細胞は急速 にアポトーシスによって死滅する、ということを発見した。つまり、M45は、どの細胞 に感染するかを決めているだけではなく、宿主が感染した細胞を殺しそれによって感染 の伝播を減少させることを、妨げているのである。(KF)

ESRの進歩(Advances in ESR)

電子スピン共鳴(ESR)分光学は、薄膜やタンパク質の構造とダイナミクスを調べること に用いることができる。Borbat たち(p.266) は、生体分子の窒素酸化物スピン標識に 基づく現在の ESR技術をレビューしている。高周波数の連続波 ESR は、タンパク質中 の内部ダイナミクスの測定を可能とする。これは、より低周波数の測定と組み合わせて 、タンパク質の複雑なダイナミクスを解明することができる。2次元フーリエ変換 ESR は、生体分子中の正確な距離測定を可能とし、薄膜のドメインの構造の研究に用いるこ とができる。(Wt)

リボソームのペプチド結合形成の仕組み(Mechanism of Ribosomal Peptide Bond Formation)

8月11日号の3本の論文は、巨大なリボソームのサブユニットの基本構造の特徴を明らか にし、その構造的知見をもとにリボソームのペプチド結合形成の仕組みを探究するもの であった。Bartaたちはコメントを寄せて、8月11日号の論文において示唆されているよ うに高度に保存されたヌクレオチドA2451だけが唯一の触媒作用部位であるのかどうか に対して疑問を呈し、それらの研究で採用されている酸塩基触媒作用の代替案として金 属イオン触媒作用が考えられるのではないか、と論じている。BergとLorschは、別のコ メントで、自分たちの想定しているペプチド結合形成についての別の仕組みであれば 、8月11日号の論文で提唱されている機構に暗黙的に含まれてしまう「3つの重大な困難 」を避けることができると主張している。それらに応えて、Nissenたちは、Bartaたち が引用している文献に関して批判的にレビューし、それは自分たちの提案を実質的に切 り崩すものではないと結論を下している。彼らはまた、BergとLorschによって言挙げさ れた3つの欠陥についての追加情報も提示している。これらコメントの全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/291/5502/203a で読むことができる。(KF)
[インデックス] [前の号] [次の号]


リコー
AbstractClub
ご意見ご質問は www-abs@src.ricoh.co.jp までお寄せ下さい。

お問合わせ
検  索


Copyright (C) 2001 RICOH Co.,Ltd. All rights reserved.