AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 1, 2000, Vol.290


月の大激変期(Lunar Cataclysm)

アポロやルナが持ち帰った月の試料中の衝撃による溶融物(impact melt)の年代測定の結 果、約39億年前(月の大激変期)に数多くの突事件が起こったことを示している。月で収集 された月のサンプル全ては表側(nearside) の赤道付近から集められたものであり、その ため裏側(farside)や極地方での衝突については、我々の少ない収集物の中にには記録が 残されていない可能性がある。Cohenたち(p.1754;Keerによるニュース記事参照)は、衝突 による月から来た隕石中の溶融物の40Ar-39Ar年代を測定した。月隕石は月に裏側から来 た可能性もあり、より全体的な月の標本を提供するはずである。彼らは、39億2千万年前 から24億3千万年前の間に6から10回の衝突事件があったことを発見した。そのことは月の 大激変期仮説(lunar cataclysm hypothesis)を裏付けている。(TO,Tk)

ナノスケールの可変抵抗器(Nanoscale Variable Resistor)

ナノエレクトロニクスにおけるカーボンナノチューブが大いに利用されるためには、良 い電気的接点を再現性良く実現する方法を必要とする。Paulsonたち(p. 1742)は、ナノ チューブが同一平面内で回転した場合、ナノチューブ−グラファイト間の接触抵抗は 60度の角度周期で一桁以上の変化を示すことを示している。ナノチューブの配向が、下 にあるグラファイト基板の配向に揃っているいるとき接触抵抗は最小になり、そしてこ れらの特定の方向の中間の角度であるとき接触抵抗は最大となる。(hk))

氷河期の氷河の高度(Glacial Altitudes)

最終氷期最盛期間では熱帯の海水温度は現在の温度よりも低かったということを示唆する 数多くの証拠の1つに、熱帯の氷河が現在の位置よりも900メートルも下方に伸びていたと いうことがある。あまりに大きな平衡線高度(equilibrium line altitude)の違いは、氷 河期の海水温がCLIMAPで決定された温度よりも低いことを示している。このCLIMAPとは 、1980年代に行われた地質時代の気候の研究のさきがけとなったものである 。HostetlerとClark(p.1747)は、大気のグローバルな気候モデルの出力結果に対して氷河 質量収支モデルを適用し、観測された氷河の分布を説明するためにどのような温度と降水 条件が必要であるかを計算した。その結果、熱帯の海面温度は、CLIMAPによってシミュレ ートされた温度よりも2度から3.5度も低いことを示し、そして氷河の高度に影響を与える 対流圏の熱的構造の微妙な変化の可能性もありうるということを強調している。(TO,Og)

切断、タグ付け、そして発送(Cut, Tagged, and Sent Off)

カスパーゼとして知られているプロテアーゼの一群の活性化は、究極的に細胞死、すなわ ち、アポトーシスに至る細胞のシグナル伝達メカニズムの重要な部分である。カスパーゼ の標的の1つはBIDタンパク質であり、このタンパク質は切断された後、サイトゾルから ミトコンドリア膜に転移する。そこで、他のタンパク質と相互作用してミトコンドリアの 機能に影響を及ぼし、チトクロムcを放出する。Zha たち(p. 1761)は、BID切断の結果 、どうしてミトコンドリアが標的になるのかの、驚くべきメカニズムを明らかにした 。BIDの切断によってNH2-末端のグリシン残基を晒すことになるため、脂質で修飾され(ミ リストイル化)、それによってミトコンドリア膜への結合を強化する。さらに、ミリスト イル化されない変異体はアポトーシスの活性が減少した。以前には、哺乳動物のタンパク 質のミリストイル化は、同時翻訳の修飾として見られるだけであった。ミリストイル化は 急速に制御され、情報伝達タンパク質の局在化を変更するスイッチとして機能しているの であろう。(Ej,hE,Tn)

亜鉛を集める(Collecting Zinc)

亜鉛、砒素、セレンは、地下水の重要な汚染物質でありうる。亜鉛は、特に、多くの主要 な鉱床中に無機質の閃亜鉛鉱(ZnS)として見出される。Labrenz たち(p.1744; 表紙と 、Vasconcelos と McKenzie による展望記事を参照のこと) は、バクテリアは多くの閃亜 鉛鉱の沈殿の原因である可能性があり、このプロセスは、天延水からのこれらの元素の除 去に活用できるかもしれないという証拠を与えている。著者たちは、廃坑の地下水中で成 長したバイオフィルムを研究した。そして、微視的な解析と、地球化学的なモデル化、蛍 光標識により、Desulfobacteriaceae バクテリアは、生物起源の閃亜鉛鉱を生成すること により、亜鉛を地下水中の濃度の106倍のレベルまで濃縮することを示してい る。砒素とセレンもまた、閃亜鉛鉱の中に閉じ込められている。(Wt)

中間赤外線で高速(Fast in the Midinfrared)

生物学や化学、そして環境モニタリングにおいて数多くの応用面の可能性を持っているに もかかわらず、普通赤外線(波長が3〜15マイクロメータ)、或いは、いわゆる分子の指 紋領域において、簡便な超高速の光源が欠如していた。Paiellaたち(p. 1739;Faistによ る展望参照)は、ピコ秒パルスを発生する普通赤外線固体レーザの製法と操作法を記述し ている。彼らの設計法は量子カスゲードレーザの速いインターサブバンド高速遷移に基づ いており、その遷移の大きな光屈折率の非線形を利用して自己モード同期の作用機構を与 えている。(KU)

日を改めて戦うために(To Fight Another Day)

天敵-餌食の関係は生態学では数多くあり、その中には肉食動物-捕食や宿主-寄生虫、そ して宿主-病原体の系を含んでいる。Keelingたち(p. 1758;Hastingsによる展望参照)は 、天敵-餌食の動力学に関する重要な三つの要素、即ち空間的不均一性、時間的遅れ(例 えば遅延密度依存性)そして行動性応答の同等性を提唱している。限定された個体の動き という観点において、行動が生態学的モデルの中で空間的構造を創ることが知られており 、著者たちは平均的個体数の動力学においてこの空間的構造の影響が遅延密度依存性とい う形で時間的遅れで記述されうることを示している。三つの基本的なモデリングアプロ ーチ間でのギャップをつなぐことで理論生態学のかなりの領域が、今や統合された方法で 考察することが出来る(KU)。

RNAの重大な編集(Crucial Editing for RNA)

タンパク質に翻訳される前に、特定のRNA転写物は、ADAR(RNAに作用するアデノシンデア ミナーゼ)という酵素によって編集される。特異的標的部位において、アデノシンをイノ シンで交換することによって、この編集酵素は、転写物において新しい終止コドンとスプ ライシング部位を生成し、タンパク質機能に影響する。ADAR1というこのファミリのひと つ欠失するマウスを生成する試みにおいて、Wangたち(p 1765;Keeganたちによる展望記事 参照)は、この酵素が造血系の初期発生に重大であることを明かにした。ひとつの対立遺 伝子が破壊された(ADAR1+/-)胚性幹(ES)細胞は、赤血球形成における重度の欠損をもたら し、初期の胚死を引き起こした。(An)

脳にいる時は、ニューロンに従え(When in the Brain, Do as the Neurons Do)

幹細胞の驚くべき柔軟性についての新たな例は、2つの報告の課題である(Vogelによる記 事参照)。Brazeltonたち(p 1775)とMezeyたち(p 1779)は、異なる方法を用い、骨髄由来 の細胞は、緑色蛍光タンパク質の発現あるいは遺伝標識形質によって標識すると、機能的 骨髄細胞を欠乏したマウスに移植した後、脳に移動できることを示している。この置換さ れた細胞は、特定の表現型およびマーカー発現を示し、このことはこの細胞がニューロン の形質を獲得したことを示している。(An,Tn)

腕への呼びかけ(A Call to Arms)

情報は、脳により様々な感覚モダリティーに分解され、そしてその後個別の属性をわかり やすくそして適切な比率で再結合しなければならない。Grazianoたち(p. 1782;Helmuthによるニュース解説参照)は、マカクの脳において、単純な課題、すなわち 腕の位置を正確に確認すること、をどのように実行するのかについて研究した。視覚的な シグナル(腕を見ること)および体性感覚的なシグナル(腕がどこにあるのかを知覚する こと)とを、頭頂葉の領域5のニューロンにおいて、1:4の比率にて結合する。さらに 、これらの同一のニューロンは、腕の大きさにした一片の紙に対しては反応しなかったの に対して、はく製師が作成したニセの腕に対しては真性の反応をしたことにより示される ように、位置情報と同一性属性とを統合するようである。(NF)

コレステロール輸送のABC(The ABCs of Cholesterol Trafficking)

シトステロール症(sitosterolemia)は、食餌性ステロール類の過剰な腸管吸収およびこれ らのステロール類の肝臓から胆管へのクリアランスの低下により特徴づけられる、常染色 体性劣性のまれな遺伝的疾患である。この疾患を有する個体は、高いレベルの血漿コレス テロール値を有し、そして冠状動脈のアテローム性動脈硬化症を早い年齢で発症する 。Bergeたち(p. 1771;AllayeeたちによるPerspectiveを参照)は、シトステロール症が 、隣接しそして反対の配向を有する染色体2p21上の2つの遺伝子、ABCG5およびABCG8中の 変異により引き起こされることを示す。これらの遺伝子はそれぞれ、ATP結合カセット (ABC)トランスポーターと相同性を有するタンパク質をコードする。この膜タンパク質フ ァミリーのその他のメンバーが、コレステロール輸送に影響することが以前から示唆され ていた。これらの結果により、治療に関与することができる潜在的な標的を同定し、そし てこれらの遺伝子中の微妙な配列変化が、高コレステロール性食餌に対する反応性が個体 により様々であることがあるという可能性を高める。通常は、コレステロールの濃度およ び分布を、細胞内部で注意深くコントロールする。別のレビュー記事において、Simonsお よびIlkonen(p. 1721)は、コレステロールの細胞生物学での最近の知見を検討し、そして コレステロールがどのように別個の細胞膜の基本的特性に影響を与えているのかを検討す る。(NF,Tn)

反芻し、予期し(Ruminating and Anticipating)

前頭葉前部の皮質は、ヒトやその他の霊長類が示す長期間にわたっての一貫した計画性あ る行動において重要な役割を果たしているものと考えられている。しかし、この前頭葉前 部皮質に関する神経生理学的実験のほとんどすべては、対象とする課題をまさに遂行中の 瞬間における神経細胞の活性を分析していたのである。Hasegawaたちは、前頭葉前部皮質 における個々の神経細胞の活動と行動との関係を長期間にわたって調べた(p. 1786)。細 胞のあるグループのニューロン活性は、つい直前、30秒ほどまで前に起きたイベントか 、あるいは直後に起きるとプラニングされているイベントの追跡に関係付けられることが 示された。(KF)

スポットライトの下の自己貪食(Autophagy Under the Spotlight)

自己貪食は古くなった小器官を破壊するプロセスである。KlionskyとEmr (p. 1717)は 、このプロセスに関与している分子的メカニズムに関する最近の進展についてレビューし 、更に研究が進む、成熟した分野について特集した。(Ej,hE)

コンドルールの早期形成(Early Chondrule Formation)

コンドルールは始原的隕石の中に含まれる結晶とガラスの丸い集合体であり、カルシウム とアルミニウムに富む包有物(CAI: calcium-aluminum-rich inclusions)が出来てから数 百万年後に形成された、と考えられていた。Galyたちは(p. 1751)、アエンデ(Allende)隕 石中のコンドルールのマグネシウム同位体の存在量を測定し、コンドルールの一部は CAIから100万年以内に形成された、と決定した。著者はこれらのコンドルールの急速な形 成を高圧ガス下で溶融液滴の蒸発メカニズムを用いてモデル化している。このようなモデ ルは初期のガスに富む太陽系星雲における衝撃波プロセスと矛盾しない。(Na,Og,Tk)

飛行による確認(Flight Confirmation)

極地方の成層圏雲(PSCs: polar stratospheric clouds)は春にオゾン層を破壊するので悪 名が高い。長期間、その雲は固形硝酸三水和物であると信じられていたが、PSC組成を直 接決定する証拠の入手は困難だった。Voigtたちは(p. 1756)、2000年1月に気球で南極上 空を飛行し粒子の密度、サイズと組成を同時に測定した。その測定結果はPSCが硝酸三水 和物で構成されていることを確認している。(Na)

マクロファージをチェックし続ける(Keeping Macrophages in Check)

今年発表された、クラスター分化抗原の200番目の名(CD200)は、それまでOX2として知ら れていた、組織特異性のマクロファージ機能を制御する役割を果たすと考えられている分 子に対して与えられた。CD200はある範囲の組織において発現するが、その受容体は骨髄 球性系列細胞に限定されている、というのが、その補強証拠の1つである。マウスにおけ るCD200の機能遺伝子を削除することで、Hoekたちは、免疫機能にこの分子が与えている 影響を探究した(p. 1768)。自己免疫疾患の2つのモデルと、神経損傷の1つのモデルにお いて、CD200欠乏性のマウスは、そうでないマウスに比べ、よりひどい、あるいはより急 速な炎症を被った。つまり、マクロファージは、炎症と組織外傷に対する応答の最中に 、CD200から重要な調節性の信号を受け取っているのである。(KF)

子宮頚癌のスクリーニング(Screening for Cervical Cancer)

CainとHowettは、子宮頚癌のスクリーニングの方法を評価して、ヒト・パピローマ・ウイ ルス(HPV)検査法は、伝統的な細胞学的方法(Pap smears)より平均してコストが高いこと 、またその方法はより多くの偽陽性を示すので、不要な心配や過剰な処置を引き起こしか ねないということについて言及した(6月9日号のポリシー・フォーラム p. 1753)。WrightとGoldieは、CainとHowettによる言明には「まぎらわしくなりかねない 」ものがいくつもあることを見出している。WrightとGoldieは、いくつかの臨床研究にお いて、HPV検査法は、細胞学的方法より「いささか低い」特異性を示すとはいえ、より高 い感受性を示していた、と指摘した。彼らは、対費用効果というのは、検査法間の絶対的 な価格差によってではなく、それらを利用した「スクリーニング・プログラムの対費用効 果」によって決まるものだと、示唆している。また、「ハイリスク型のHPVに対して陽性 を示した女性たちは『偽陽性』ではなかった。彼らは子宮頚癌の98%以上と結びついた DNA腫瘍ウイルスに感染していた。」とも述べている。CainとHowettは、「HPV検査法は 、組織学的異常性(つまりPap smear)が存在しない場合には陽性になりやすい」という ことを示唆する別の研究を引用して、応じている。彼らはまた、病気の人口統計も対費用 効果も、先進国と開発途上国との間では異なっているにもかかわらず、コメントに見られ る異議の多くは、「米国の集団中のグループを研究した結果から出てきたものである」と 指摘している。彼らは、「スクリーニングのオプションの最適な組み合わせはいまだに明 らかになっていない」と結論付け、「HPV検査法の適切な役割は、いまなお明らかに流動 的なものである」と述べている。これらコメントの全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/290/5497/1651a で読むことができる 。(KF,Tn)
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