AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science November 24, 2000, Vol.290


放置された青銅はどのようになったか(How Bronze Got Left Behind)

金属合金は多数の構造研究の対象となってきた。しかし、その形成動力学についての研究 はより困難であった。Schmidたち(p. 1561; およびBesenbacherと Noerskovによる展望記 事参照)は、青銅の形成を研究するのに、非常に低濃度のスズ(単層の数百分の一)を 、室温の原子的平面(111)の銅の上に置いた。低エネルギー電子顕微鏡や、原子の解像度 を持つ走査型トンネル顕微鏡の観察によって、彼らは異常な協調メカニズムを発見した 。スズ原子は銅表面上に大きな島(数百の原子からなる)を形成し、表面上で銅原子と交 換によて青銅微結晶が形成される。しかし、このスズの島は表面の青銅にトラップされて いるスズ原子によって反発力を受け、その結果、銅表面上をフレッシュな銅の方向に急速 に移動し、その軌跡に沿ってより小さな青銅の島の痕跡を残す。この動きは表面自由エネ ルギーによって駆動されているが、これは、液体表面に見られる「カンファーダンス 」(樟脳が水面上を動き回る運動)を思い起こさせるものである。(Ej,hE)

まとまって消える欠陥(Defects Diappearing in Groups)

ブロック共重合体の別々の化学種間に相互作用があると、それぞれの化学種は、その物 質がアニールされるにつれて、規則的に線状に並んでいくようになっていく。しかし 、トポロジカルな欠陥(回位 disclination や転位 dislocation )があると、リソグ ラフィーのプロセスにおいて、自己組織的な構造形成において、あるいはその双方にお いて、こうしたナノメートル・スケールのパターンを利用できる潜在的な可能性が制約 を受けてしまうことになる。Harrisonたちは、継時性の原子間力顕微鏡を用いて、アニ ーリングの経過につれての縞状パターンの進化の様子をモニターした(p. 1558)。欠陥 の消滅は、3つないし4つの回位を含むある支配的な機構によって進行していた。また 、こうした欠陥の密度が、この2次元パターンの動力学的進化において重要な役目を果 たしていた。(KF)

リン酸化酵素の足場(A Scaffold for Kinases)

β-アレスチン(arrestin) が、そう名付けられたのは、それが β2-アドレナリン作動 性受容体の脱感作において役割を果たすからである。しかしこのタンパク質には、受容 体のエンドサイトーシスと、受容体の情報伝達の増進とに役立つ、という別の役割もあ る。McDonaldたちは、このたび、この可変性タンパク質の、さらに新たな機能について 記述している(p. 1574; またPouyssegurによる展望記事参照のこと)。b-アレスチン2は 、分裂促進因子によって活性化したタンパク質リン酸化酵素ファミリのメンバ ーJNK3(c-Jun NH2-terminal kinase 3)に結合するし、また、JNK3を活性化するカスケ ードにおいて作用する上流のリン酸化酵素MKK4とASK1にも結合する。b-アレスチン2は 、リン酸化酵素を一緒にし、JNK3をサイトゾル内に保持するのを助ける足場として働い ているもののようである。(KF)

カーボンナノチューブ上のスピン(The Spin on Carbon Nanotubes)

金属性の単一壁カーボンナノチューブ(SWNT)は、一次元の電子輸送を研究する上でほと んど理想的な系である。最近の関心は、これらの系のスピンに関する物理に移ってきて おり、磁性を有する原子と伝導電子との間の局所的相互作用が研究されている。Odom たち(p.1549) は、走査型トンネル分光計を用いて、磁気クラスターがトンネル伝導率 のピークを生ずることを示している。クラスターからの距離および温度変化に対する減 衰は、ともに近藤効果による共鳴と矛盾していない。加えて、クラスターに利用できる ナノチューブが短くなると、この共鳴の離散的エネルギーレベルが現れる。これは 、「箱の中のスピン」シナリオと一致している。(Wt)

粒子に逆らって進む(Going Against the Grains)

地震学者は、異なる方向に向かう地震波の速度の違い(地震波の非等方性)を利用して、マ ントルの流れを推定する。微細なスケールにおいては、地震波の非等方性は、歪みによっ て誘導されたカンラン石と輝石の結晶選択配行が原因となる。Bystrickyたち (p.1564;MackwellとRubieによる展望記事参照)は、高温で高体積剪(せん)断ひずみ (bulk shear strains)下にある実験室での実験を実施し、カンラン石からなる集成岩の 微小変形を決定した。最も高いせん断ひずみの環境下では、カンラン石は、サブグレイン (粒子以下のサイズ)の回転境界に沿って再結晶化し、予想以上によりランダムなテキス チャを生成する。このことから、地震波が最も遅くなるのはせん断面に垂直な方向とは限 らず,したがって,カンラン石の微細構造からマントルの動きを知ることができるとは限 らない。(TO,Og,Fj,Tk)

ナノチュープダイオード上のドーピング(The Dope on Nanotube Diodes)

半導体性のカーボンナノチューブは、自然にはp型伝導体である--すなわち、それらは 電子よりは正孔を伝える。その表面に吸着された不純物は、チューブの電子伝導を改変 する可能性があり、通常は避けるべきものである。しかしながら、Zhou たち(p.1552) は、良い効果に吸着原子を用いる可能性を提言している。彼らは、ナノチューブの半分 をカリウム原子に暴露したチューブがダイオードとして振舞うことを示している。この カリウム原子は、チューブの暴露領域をn型にドーピングする。一方、他の半分はp型 のままである。このダイオード挙動は、カーボンナノチューブを基本的構築要素として 用いることにより、最新流行のナノエレクトロニクスへの道のきっかけとなる可能性が ある。(Wt)

バイオモーターの利用(Harnessing Biomotors)

F1-ATPアーゼ(ATP合成酵素)はエネルギーソースとしてアデノシン三リン酸を用いる と回転運動を行ない、そして以前の研究では酵素の中心サブユニットにアクチンフィラ メントを取り付けることによりこの動きを可視化した。Soongたち(p.1555)は、この 酵素を利用して無機材料のプロペラを駆動させた。適切に目印のついた酵素をナノメ ートルスケールのニッケル柱のアレーの先端に取り付け、次に直径150nm、長さが 750、乃至1400nmのニッケルのプロペラが生体分子モーターの先端に取り付けられた 。このような集合部品は簡単なものではないが(ごくわずかのモーターしか作動しない )、その一部分はATPを供給している間2時間以上にわたって周囲の溶液中で流動を起こ していることが観察された。(KU,Tn)

受容体がパーティラインに従う(Receptors Follow a Party Line)

普通、受容体のトリガーは、受容体にそのリガンドが結合する時だけにかけられる。しか し、ErbB1受容体の場合は、そんなに単純ではない。ErbB1は、二量体化と単量体の交差リ ン酸化と下流の経路のトリガーによって、上皮細胞成長因子(EGF)による刺激に反応する 。Verveerたち(p 1567)は、蛍光寿命イメージング顕微鏡と蛍光共鳴エネルギー移動を用 い、抗体がホスホチロシンに結合することをモニターしたことによって、MCF7細胞におけ るリン酸化したErbB1を可視化した。ビーズに固定化したEGFによる細胞の限局的刺激は 、細胞の全表面に受容体のリン酸化の急速な伝搬をもたらす結果になり、これがEGFに曝 されなかった受容体にも及んだ。(An)

折りたたみFAD(Foldings FADs)

小胞体(ER)は、細胞質から転位置された、新しく合成されたタンパク質に酸化的折りたた み環境を提供する。タンパク質内部及びタンパク質間のジスルフィド結合の形成は、ER内 で促進される重要な反応であり、それが正常に行われることが、正常に折りたたまれた分 泌性の膜タンパク質の生成に重要である。Tuたち(p 1571)は、無細胞システムにおける ER様の折りたたみがうまくいった再構成を記述し、折りたたみが成功するすための補助因 子は、予想されたユビキノンやヘムではなく、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)で あることを発見した。(An)

消去できる標識(A Delible Mark)

核の移植によるほ乳動物のクローニングでは、分化した状態から未分化の状態へとドナ ー細胞の発生機構上の再プログラミングが必要であると考えられている。しかしながら 、このプロセスは細胞レベルではいまだ実証されていない。雌の体細胞分化のあいだに 付与される発生機構上の標識の一事例はX染色体の不活性化である。Egganたち (p.1578;ClercとAvnerによる展望参照)は、螢光性のマーカーをコードしているX-連 結レポーター遺伝子を用いて、雌の線維芽細胞核由来のクローン化マウスの胚における X染色体の不活性化を研究した。体細胞で不活性化されたX染色体はクローン化胚の早期 卵割の間に再び活性化され、そして、その後胚系統の中で正常なるランダムな不活性化 を生じる。このように、活性と不活性のX染色体を区別する標識がクローン化プロセス のあいだで消滅したり、回復したりすることが出来る。クローン化胚はこのような発生 機構上の標識の正確な性質を研究するための有用な道具となるであろう。(KU)

洞察力のある成熟(Perceptive Maturation)

視覚的プロセスは、それにより画像をそれらの属性である構成要素(線、その配向、そ の色彩など)に分解するものであるが、これらの特徴を適切に分別しそして再結合する ことにより知覚された世界を構築するというチャレンジを賦課する。特に、Kanizsa図 形として知られる錯覚の四角形(四角形の角に置かれた4つの円の中の90度のくさび形 により形成されるもの)は、生後8ヶ月齢の幼児では知覚されるが、しかし生後6ヶ月齢 の幼児では知覚されず、そしてそれにより、4つの分離された物体を視覚的に結合する 能力があると評価される。Csibraたち(p. 1582)は、幼児の上記の2群において電気生 理学的応答を試験し、そして神経活動のγ波(40ヘルツ)に刺激誘導性の振幅が付随的 に出現することを見いだした。これらの知見により、この活動が知覚的結合の相関現象 を示すという概念が、支持される。(NF)

私のタンパク質はどれくらいグリーンだった?(How Green Was My Protein)

グリーン蛍光タンパク質(GFP)は広く使われている非侵襲的プローブであり、これによっ てタンパク質の局在をモニターしたり、発現をトレースすることができる。最近発見され た赤色蛍光タンパク質はGFPに相補的であり、蛍光共鳴エネルギー移動のような応用が可 能である。Terskikh たち(p. 1585; および、Chichurelによるニュース解説参照)は、赤 色蛍光性タンパク質 (E5)の変異体を作ったが、これは時間の経過と共に緑(グリーン )から赤に変化する。この色の変化はタンパク質の濃度とは独立であることから、E5は全 生物の遺伝子発現の活性化や下方制御をモニタリングする蛍光性の時計として利用できる 。(Ej,hE)

殺しのシグナル伝達(Killing Signaling)

エルシニア種( Yersinia species)は、黒死病の原因である ペスト菌(Y. pestis)を含 む、動物や植物の多様な病気の細菌性病原体である。Orthたち(p. 1594; Brownによる ニュース解説参照)はエルシニア病原性因子の1つであるYopJの活動状態を調査した 。このタンパク質はシステインプロテアーゼとの相同性を示し、SUMO-1として知られて いるユビキチン様分子によってタグ付けされている情報伝達タンパク質を 特異的に分 解するように作用するように見える。(Ej,hE,Tn)

休憩を取る効用(The Advantages of Taking Breaks)

活性の極めて高い抗レトロウイルス治療を受けているAIDS患者についての報告によると 、組織化された治療中断(STI)によって免疫応答が改善され、毒性低下をもたらし始め るらしく、耐性のある変異体よりも野生型が出現しやすくなる。これがもし証明されれ ば、これらの処置は患者にとって容易なものとなりコストもかからない。STIが好まし いという仮説についての無作為対照試験がLoriたち(p. 1591)によって行われた。彼ら は、交互テスト(3週間治療し、3週間休む)をサルの免疫不全ウイルスに冒されたア カゲザルに対して実施した。このプロトコールでは結果として、連続的治療した後で治 療を中止した動物と比べて、ウイルス特異的免疫応答と、ウイルス複製を制御すること が出来たという結果が得られた。(Ej,hE,Tn)

磁場のシチューをかき混ぜる(Mixing Up a Magnetic Stew)

金属の強磁性はよく知られている現象であるが、そのメカニズムの根底にある複雑な電 荷と磁気スピン間の相互作用についての理解は十分でない。スピンアップとスピンダウ ン状態の不均衡が主要な役割を持つと考えられているが、バルク材料の研究でも異なる スピン状態の寄与率を特定することは出来ていない。De Poortereたちは(p. 1546)、磁 場内に置かれた希薄二次元電子ガス(2 demensional electron gus: 2DEG)を用いた結果 を示している。電子は各々のエネルギー順位がスピンアップ、又はスピンダウンの電子 に占められている梯子状のエネルギー順位(ランダウ順位)に凝縮している。磁場を 2DEG面に対して傾けながら、2DEG抵抗性の応答性を測定することで、異なるスピン状態 の割合が観測できる。(Na)

適切に設計されたポンプ(A Well-Designed Pump)

呼吸により、チトクロム酸化酵素がO2を水に還元し、遊離するエネルギーを用い水素イ オンの転位置とアデノシン5' 三リン酸合成を引き起こす。共有結合で連結したイミダ ゾールで酸化されたチロシンが、酵素によるO2還元のプロトン供与体の候補であると提 案されている。Proshlyakovたちは(p. 1588)、O2還元とプロトンポンプ間の接合部の中 間物としてこのチロシンがラジカルとして存在することを示している。このように、酸 素が水に還元する際に、生成される酸化当量が酵素に伝達され、有毒な酸素種の形成を 回避する。次にこの酸化当量は酵素により処理されプロトンポンプが生じる。(Na)
[インデックス] [前の号] [次の号]


リコー
AbstractClub
ご意見ご質問は www-abs@src.ricoh.co.jp までお寄せ下さい。

お問合わせ
検  索


Copyright (C) 2000 RICOH Co.,Ltd. All rights reserved.