AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 17, 2000, Vol.290


双極性の相分離(Dipolar Phase Separation)

単純な流体では高密度の液体から低密度のガスに相分離する臨界温度は核力の芯による反 発力と等方性の短距離引力(ファンデルワールス引力)との競合を用いて容易にモデル化で きる。強磁性流体や電気流体力学的流体などの双極性の流体においては、引力は遠距離の 異方性の双極性の力により発生する。これらのより複雑な流体の正確なモデル化について は未だ完全には理解されていない。TlustyとSafranは(p.1328、Pincusによる展望も参照) 、双極性分子が鎖状になったり、枝分かれする傾向があるという性質を考慮に入れてこの 問題に再挑戦している。このようなアプローチで構成したモデルによる結果は、低密度相 は反発力を持つ連鎖で構成され、高密度相は、より引力性を持つ枝分かれを多く含む、と いう実験データを説明できる。(Na)

ナノチューブファイバーで結び目を作る(Nanotube Fibers Tie the Knot)

有機高分子の機械的強度を強めるために用いられる一つの方法は、それらが一本の繊維 に引き出される前に、その分子を伸展し、整列させることである。Vigolo たち (p.1331;Baughman による展望記事を参照のこと) は、単壁のカーボンナノチューブ (SWNT)を数μm から 100μm に渡る幅を有する巨視的に長いリボンに形成する前に、い かに流れに誘導された整列方法により、溶液中でそれらの方向を揃えることができるか を示している。原料のナノチュープのすすは、界面活性剤を用いた超音波処理による水 溶液中に分散され、その次に繊維を凝縮させる溶液中に注入される。その繊維の機械的 特性(特に曲げに対する耐性)は 15GPa を示す。この値は、個々の SWNT の値よりは 小さいが、方向を揃えないナノチュープシートに典型的に見られる 1 GPa かそれ以下 の機械的特性よりは大きい。古典的なカーボンナノチューブとは異なり、ナノチューブ の繊維はそれらが破断する前に塑性挙動を示す。そして、結び目を作ることさえ可能で ある。(Wt)

地震のパターン(Earthquake Patterns)

1992年、カリフォルニア州南部のモハビ(Mojave)砂漠で起こったマグニチュード7.3の ランダース(Landers)地震から2時間後に西方でマグニチュード6.5のビックベア(Big Bea)地震が続いて起こった。そして7年後には、マグニチュード7.1のヘクターマイン (Hector Mine)地震がその東方で発生した。これらの事象のタイミングや他のデータに よれば、ビックベア地震はランダース地震によって引き起こされたことを示しているが 、ヘクターマイン地震がランダース地震と関係しているかどうかははっきりと分かって いなかった。WyssとWiemer(p.1334)はランダース周囲地域における1981年から1999年ま での間の地震活動の変化を分析した。彼らは、ヘクターマイン地域においてランダース 地震後に続く7年間に発生した小規模な地震の回数がそれ以前に比べて一桁多いことを 示した。つまり、ランダース地震は近接場のストレス状況を変化させて、比較的長期に わたって低レベルであるが頻度の高い地震活動を起こした挙句,ヘクターマイン地震を 引き起こしたことになる。(TO,Nk,Fj)

高温プラズマと巨大星の爆発的星形成(Hot and Massive Starburst)

メシエ 82 (M82) は、スターバースト銀河の一つの原型と考えられており、われわれの 銀河への近さ(局所銀河団のすぐ外側に位置している)のため、星形成の理解を目的とし た観測において重要なターゲットとなっている。Griffiths たち (p.1325) は、 Chandra X線観測衛星に搭載されている高空間分解能のイメージング分光計を用いて 、この銀河の内部を探査した。彼らは、M82 の中心部に、恐らくは超新星に関連してい ると考えられる高温(約 4000万K)高圧のプラズマを見出した。彼らは、また、たぶん 大質量連星である 20個の点状のX線源を識別した。それらの多くはブラックホールを 内部に抱いている可能性がある。(Wt,Nk)

堆積物の旅(Sedimentary Journey)

地震学および測地学による観測結果はいずれも,核・マントルの境界(CMB)に地震波速度 が低く、かつ高電気伝導度の領域あるいは薄層が存在していることを指摘している 。Buffettたち(p. 1338; Kerrによるニュース記事参照)は、これら二つの観測事実を説明 するためにCMBにおける堆積モデルを提案している。彼らのモデルでは,ケイ酸塩堆積物 が,粒間に鉄に富む液体を含んで外核の表面にたまっている.このモデルによれば、堆積 物の圧密によって鉄流体や他の軽元素が核からマントルに抽出されるので,たとえばホッ トスポット・プルームに認められる親鉄元素の痕跡の存在も説明できることになる。また 軽元素の抽出によって,外核の対流が活発化するので,地球のダイナモの効率を高めるこ とにもなる。(hk,Nk,Fj)

逆転したCO2(Inverted CO2)

化石燃料からのCO2の発生と海洋及び陸生生物圏による吸収の割合は、現代の 炭素サイクルの理解と、排出されるCO2管理戦略の評価のために重要である。 Bousquetたちは(p.1342、Fungの展望も参照)、1980年から1998年の間の地域的な海洋と大 陸の炭素バランスの1年毎の変化を推測するために、20年間分の大気中CO2測 定の逆モデルを用いた。地球規模のスケールで、陸生の炭素流量はほぼ海洋のそれの2倍 であった。1980年代では熱帯地方の生態系が地球の炭素バランスの年内変化の殆どを生産 していた。一方、1990年代では北半球の中緯度から高緯度地方の生態系へと炭素バランス の重大なシフトが起きた。(Na)

モデリングのための食物(Food for Modeling)

実験条件下で単純な生態共同体を理解することで、自然下の生物のダイナミクスを理解 する基礎を与えてくれる。Fussmannたち(p.1358)は、栄養素(窒素)、藻類、クルマムシ 草食動物(rotifer herbivore)を含んだ系における実験室での実験と、栄養濃度と捕食 動物と餌動物の両方の個体群密度とを補間する非線形数学モデルとの間の対応関係を報 告した。このモデルは、これらの変数の相互作用に基づき、捕食動物が絶滅するか、あ るいは捕食動物と餌動物両方が絶滅するのか、あるいは、両方の種は平衡状態で共存す るのか、あるいは捕食動物−餌動物のサイクルは安定して共存するのかという、いくつ かの予測が行える。16回の試験中15回において、平均の夏季成長季節と同じ期間にわた り、そのモデルは実験結果を十分に正しく予測している。(TO)

生息地分断の評価(Evaluating Habitat Fragmentation)

動物の個体群動態において空間的同調性に関心が高まってきている。Earnたち(p.1360 )は絶滅に瀕した動物種の行動に関して、自然保護地区での連絡通路や他の方法によるそ の個体数への影響を理論的に予測する方法を報告している。ある与えられた分散パターン に対して、彼らのモデルでは種の数の豊富さとそれに対応した局所的、及び地球規模での 絶滅の確率に関して同調的変動の傾向を理論づけている。この結果は保存方策に関する提 案や有害生物防除に対する方法を評価するのに用いられよう。(KU)

軌道はすでに敷かれていた(Some Tracks Already Laid)

眼と脳の間の皮質結合の発生は、何らかの組織が視覚活動に反応して形成される過程 であると長い間考えられてきた。発生初期の時点の観察によって、CrowleyとKatz(p. 1321;表紙とWickelgrenによる記事参照)は、活性に依存して精密化される結果である と思われていた眼球の優位カラムが、実に視覚の活性とその関連のニューロンの相互 接続の発生の以前にも、実際、存在することを示している。従って、視覚の能力をさ らに精密化し、支持する重大な時期は、構造の形成を指示するのではなく、それ以前 に確立されている解剖学的構造に作用するようである。(An,Kj)

シナプスの成熟(Synaptic Ripening)

シナプスについてはこれまでに詳細に研究されてきたのに、シナプス形成の基礎機構に 関してはまだよく理解されていない。El-Husseiniたち(p 1364)は、培養した海馬のニ ューロンにおいて、PSD-95というシナプス骨格タンパク質の興奮性シナプスの成熟に及 ぼす影響を研究した。慢性のPSD-95過剰発現は、シナプスの前にも後にもシナプスの成 熟を促進させた。PSD-95は、グルタミン酸受容体のシナプス蓄積を増加させた。この効 果は、興奮性錐体ニューロンにも、抑制性介在ニューロンにも起こり、シナプスへの PSD-95の局在化を必要としたが、PSD-95のグアニル酸リン酸化酵素の領域の局在化は必 要としなかった。最終的に、PSD-95の過剰発現は、樹状突起棘の数とサイズを増加させ た。(An)

糖の上に切り込んで(Cutting Back on Sugars)

前生物的合成(非生物的合成)条件で合成される代替の遺伝系は、生命の起源研究とし て興味を引いている。Schoningたち(p. 1347; および、Orgelによる展望記事参照)は 、テトロース糖であるトレオース(threose)のヌクレオシドがリン酸ジエステル結合に よって"TNA"[(L)-α-threofuranosyl oligonucleotides]を形成するようなオリゴマ ーを合成した。テトローズは2つの同一な2-炭素断片から出来ているため、ペント ース(pentose)よりも合成が容易である。相補的TNA鎖はワトソン-クリック塩基対形成 によって安定な2重ラセンを形成し、TNAはRNAやDNAとも安定な2重ラセンを形成する 。(Ej,hE)

好ましい咬み傷(The Right Bite)

リーシュマニア症は、リーシュマニアと呼ばれる数種の細胞内原虫性寄生虫により引き起 こされる、世界の暖かい地域に広く見られる疾患であり、ある範囲の美観を損ね、そして 損傷性のヒト疾患を構成する。リーシュマニア種は、小さいがしかし不快なスナバエ( sand fly)が咬み傷により、ヒトや多数の野生動物およびコンパニオン動物に伝播する。 Kamhawiたち(p. 1351)は、非感染スナバエ(Phlebotomus papatasi)だけに咬まれたと きには、その後、感染スナバエに咬まれても、マウスでのリーシュマニアの主要な感染を 予防することができることを示した。スナバエ唾液中のこれまで知られていない成分によ り引き起こされる強力な遅延型過敏症反応(およびインターフェロンγ産生)がこの防御 反応の基礎となっている。(NF)

カルシウムと感染(Calcium and Infections)

ヒトのかかる真菌による呼吸性の病気のうちで、もっとも流行っているものの1つは 、ヒストプラズマ・カプスレータム(Histoplasma capsulatum)によって引き起こされる 。この病原体は、土壌中のカビのように潜伏しているが、哺乳類によってかき乱され肺 に吸い込まれると、温度をトリガーにして形質転換し、病原性の酵母になる。これはマ クロファージの細胞内寄生を介して肺から伝播しうるものである。Schurtz Sebghatiた ちは、これ以外の重要な真菌性の病原体に対しても広く応用可能な新規の方法を用いて 、病原性におけるカルシウム結合病原性因子の役割を明確にした(p. 1368)。カビ形態 にある場合とは異なり、酵母形態になると、マクロファージ内の低カルシウム条件の下 でも生き続けられるのである。(KF)

細胞障害性分子の2つの顔(Two Faces of Cytotoxic Molecules)

パーフォリンとインターフェロン-γ(INF-γ)とは、CD8+ T細胞が、ウイルスやある種 の細菌に応答して生み出す、2つの強力な産生物である。パーフォリンの方はまったく もって細胞障害性のものなのだが、INF-γには多様な抗菌性効果がある。こうしたエフ ェクター分子の、感染と戦うという機能以外のもう1つの機能が、このごろ明るみに出 てきている。Badovinacたちは、遺伝子欠乏性のマウスを細菌あるいはウイルスによっ て感染させ、応答するCD8+ T細胞の増殖と最終的な減退には、パーフォリンとINF-γそ れぞれの発現が必要だということを観察した(p. 1354)。さらに、IFN-γは、ウイルス や細菌によって提示される抗原性抗原決定基に応答するT細胞のクローンを修飾したの である。細胞障害性の免疫応答におけるパーフォリンとINF-γのこうした予期せぬ調節 性の役割は、将来のワクチン接種戦略において重要であるということになる可能性があ る。(KF)
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