AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 15, 2000, Vol.289


農業の温室効果ガスに対する貸し借り(Farm Credits and Debits

農業は大気中のCO2を和らげる役目をする、しかし、農業のもたらす正味のグ リーンハウス効果はどれくらいのものであろうか。Robertsonたちは(p.1922)、温室効果 ガスの全体を経費として考える計算方法の必要性を指摘し、農業による炭素貯蔵量による 貸出し分とN2Oなど他の温室効果ガス増加量による支出とを比較しなければな らないことを示した。彼らは、10年間におよぶ研究で、異なる連作ステージにある自然の 植物群生、従来方法で栽培された作物、有機的に栽培された作物などいくつかのシステム における痕跡分析用ガスの比較を行った。彼らは、地球規模のN2O予算の中で 農業がかなりの規模で寄与していることを示し、又、従来の耕作方法と有機的な耕作方法 の農業ではメタンとN2O濃度の間でほとんど差がないことも発見している。最 も緩和作用が強力なのは、土壌の炭素貯蔵機能の高い、若い連作段階の植物群生と多年生 作物である。(Na,Hn)

ドットの中でもつれさせる(Entangled Up in Dots)

量子情報処理は、もつれた状態の形成が必要であり、そのような状態を半導体デバイスの 中に作り出すことに、これまで多くの努力がささげられてきた。Chen たち (p.1906) は 、ガリウム砒素の量子ドット中に、励起子のもつれが光学的に誘導され検知されたことを 報告している。著者たちは、ひとつの量子ドット中の離散的電子レベルを用いて、エネル ギー的にはっきりした励起種-- 励起された電子とホールとの対、すなわち、励起子--を 作り出した。そして、二つの励起子状態は絡み合いうることを示している。次の挑戦は 、量子論理演算に対する基礎となりうる結合した量子ドット間の類似のもつれた状態を作 り出すことである。(Wt)

チベットの千年(1000 Years in Tibet)

チベット高原の夏季の気候は、東アジアのモンスーンに支配される。チベット高原は、低 緯度にも関わらず、高度が高いため局所的な気候の記録が含まれた永久凍土があちこちに 散見される。Thompsonたち(P.1916)はチベットのダスオポ(Dasuopo)で発見された掘削コ アから得られた結果を提示している。そのコアは過去1000年間のモンスーンの記録を与え てくれる。氷中に閉じこめられた、塵、酸素同位体、それに氷中の陰イオンの量から、一 時的な干ばつの痕跡が示されている。それはモンスーンの減退、19-20世紀におけるチベ ット高原全域に渡る温暖化傾向、および過去100年間のこの地方で人間の活動が活発にな ったことが原因となって起こされた。1790年から1796年にわたる干ばつはこの1000年間に おける最も苛酷なものの1つと考えられる。(TO)

まずは菌類ありき(Fungi First)

現代植物は窒素の取り込みを容易にするある種の土壌菌類と共生しているが、これは古代 植物が陸地に最初に住みつくために必要としていたのかも知れない。これまでに記録され た化石記録によると、最古の菌類化石は最初の陸地植物出現の後で出現したことになって いた。Redeckerたち(p.1920; Blackwellによる展望記事参照)はこのたび、ウィスコン シン州の約4億6千万年前にあたる中紀オルドビス層の岩石から出たグロムス目( glomalean:接合菌類)の菌類化石について述べており、これは最初の脈管植物が出現す る以前である。この発見は、これらの菌類が早い時期に多様化していたことを示す分子レ ベルでの証拠とも一致する。(hk)

火星の土壌の秘密(Martian Soil Secrets)

米国の無人火星探査ヴァイキング着陸機Viking Landersによって行われた分析により、火 星の土壌は化学的に反応性があり、どんな有機分子でも急速に分解され、その結果地表で の蓄積が抑制されていることがわかった。Yenたち(P.1909)は、実験室において、太陽に よる紫外線放射をシミュレートして、火星に似た環境中に火星のに似た土壌による実験を 行った。電子常磁体共鳴分光分析(Electron paramagnetic resonance spectroscopy)から 、超酸化基(O2-)は、こうした条件のもとで形成されたことが示された。こうした反応基 は、有機分子を除去しうる十分な反応性と移動性があるであろう。(TO,Tk)

微調整する(Tuning In and Out)

過去百万年ほどの間、気候は驚くべき規則正しさで振れていた。極地方の氷と海底堆積 物の記録を調べると、どのように氷床が発達し、衰退していたか、大気中の CO2の増減、深海温度の変化が分かる。いつ、どうしてこのような気候変化 が起きたかを知るためには、この極地方の氷と海底堆積物の変化の正確な年代を信頼性 高く知ることが必要である。Shackletonは(p.1897、表紙とKerrによるニュース解説も 参照)、南極の氷から取り出した大気と海底性有孔中から得られた深海の酸素同位元素 分析の記録を用い、過去40万年間におけるこれらの現象を地球軌道の影響を正確に補正 した記録を得た。彼は、太陽照射量の変化と種々の大気特性の変化量とを比較し、過去 10万年間の氷の体積変化サイクルにおける、地球軌道の歳差運動による影響を分離した 。(Na)

適切にくるまれたプリオンの役割(The Role of Properly Folded Prions)

スクレイピーなどの病気におけるプリオン・タンパク質の病理学的形態のもつ役割は、い までは明確になってきているが、健康な動物における正常なプリオン・タンパク質の役割 はいまだに不明確である。Mouillet-Richardたちはこのたび、そのタンパク質が、 caveolinとチロシンキナーゼFynを介して、ニューロンの原形質膜(細胞膜)における情 報伝達において役割を果たしている可能性があるという証拠を提示している(p. 1925)。 (KF,Hn)

細菌による光のポンプ(Bacteria Pump Up)

地球上の大部分の生命体によるエネルギー収奪は、そのいちばんありふれた形態として 、光合成と呼ばれる過程による太陽光の吸収に始まる。しかしながら、光を捉えるにはそ れ以外の筋道もあり、そのうちの1つは、紛らわしくもバクテリオロドプシン、すなわち 光によって活性化するプロトンポンプと名付けられている。これは、始原菌(古細菌)には存在する ことが知られていたが、従来は真正細菌ではみつかっていなかった。Bejaたちは、海のプ ロテオバクテリアのライブラリから、ゲノムの断片を分離することに成功した(p. 1902; また、Pennisiによるニュース記事参照のこと)。この断片は、1つの「プロテオロドプシ ン」をコードしており、これがバクテリオロドプシンと似た機構でプロトンポンプとして 機能する、と著者たちは表明し、示している。この結果は、このタンパク質が、今まであ るとは思われていなかった海における光合成の型を支えていることを示唆している。(KF)

RNAに注目(Keeping an Eye on RNA)

細胞は、欠陥や不適当なRNAを検出しこれを処置する様々な方法を持っている。ナンセン ス領域が仲介している崩壊においては、メッセンジャーRNA分子中の欠陥を持ったオープ ンリーディングフレームが同定されて、RNAが破壊される。RNA干渉---進入してくるウイ ルスやDNAに対して昔から持っている防御メカニズムであろうが---においては、人為的に 細胞内に導入された二本鎖RNAは相同遺伝子の発現を抑制する。Domeierたち(p. 1928)は 、これら2つのRNAモニタリングシステムの間に関連があることを実証した。彼らは、ナ ンセンス領域が仲介している崩壊に関与している特定のSMGタンパク質が、線虫 (C.elegans)におけるRNAの干渉効果の維持のためには不可欠であるが、開始には必要では ないことを見つけた。著者たちは、これらSMGタンパク質がRNA干渉シグナルを増幅してい るのかも知れないと示唆している。(Ej,hE)

ミトコンドリアを修理する(Mending Mitochondria)

ヒトの多くの病気はミトコンドリアの欠陥と係わり合いがあり、ミトコンドリアは細胞核 とは独立した、固有の小さな環状ゲノムを持っている。Kolesnikovaたち(p. 1931)は、こ の病気の原因なっているミトコンドリアの欠損を修理できる可能性があることを示した 。先ず、酵母において、DNAにおける情報を解釈する機構の一部である修飾した転移 RNA(tRNA)分子が細胞の細胞質からミトコンドリアに送られて、そこでtRNAが欠損の遺伝 暗号を"読み"、修正できることを示している。次に彼らは、修飾したtRNAがヒトのミトコ ンドリアに挿入することができるので、いくつかのミトコンドリア関連疾病を治癒する方 法を提供するかもしれないことを示している。(An)

出来の良い阻害薬(An Abl(e) Inhibitor)

慢性骨髄性白血病(CML)は、主に成人に起こっているが、Ablという持続的に活性化された タンパク質リン酸化酵素を生成する染色体転座のイベントによって引き起こされる。Abl リン酸化酵素の小さな分子抑制剤であるSTI-571は、初期の臨床試験において、かなり見 込みの良い結果を示している。この抑制剤がどのようにAblに対する高度な特異性をもつ ことができるかを研究するために、Schindlerたち(p 1938;Marxによる記事参照)は、 STI-571の変異体とAblの複合体におけるAblの触媒作用領域の結晶構造を決定した。Ablの 触媒作用領域の中心部に深く浸透する薬の能力は、不活性と活性の状態を切り替えること によって、酵素活性を制御するタンパク質セグメントである"活性化ループ"が採用する弁 別的な不活性高次構造に依存するようである。その他のタンパク質リン酸化酵素の触媒作 用領域も、特徴的な不活性高次構造を採用するので、この結果は、医学的に関連する他の タンパク質リン酸化酵素に対する同様の抑制剤を設計できる望みを与える。(An,Hn)

呼吸と分娩時における問題点(Problems in Breathing and Delivery)

SKチャネルはカルシウムで活性化されるカリウムチャネルの1クラスであり、これは生物 体中に広く分布していて、多くの興奮性細胞中のいくつかの機能を制御する。これらのチ ャネルの分子サブタイプのいくつかが最近同定されたが、個々のサブタイプの生理学的役 割は今まで決定されてなかった。Bondたち(p. 1942)は、マウスのこれらサブタイプの 1つ(SK3)の機能を、誘導可能で可逆的な遺伝子ノックアウト手法による標的過剰発現を 利用して同定した。SK3の非存在によって巨視的な表現型が変わるわけではないが、SK3の 3倍過剰発現によって、低酸素状態に対する呼吸リズムの応答に変化が現れ(睡眠時無呼 吸や乳幼児突然死症候群と類似している)、乳児を分娩するときに問題となる。(Ej,hE)

巨大な非平衡(A Huge Holdup)

カリフォルニアのシエラネバダのバソリス(底盤)は根が無い;つまりこれら高山の高度 にバランスするだけの高密度リソスフィア(岩石圏)物質が、その直下に存在しない。 Leeたち(p. 1912)は、lこのシエラネバダバソリスから得られた中新世後期のいくつかの ゼノリス(捕獲岩)中のオスミウム同位体の特徴を測定し、これらゼノリスがアセノスフ ィア(岩流圏)(岩石圏下部のもっと粘性の低い層)の冷却断片を表していることを決定 した。これら若いゼノリスの化学的研究から、シエラの構成している原生代リソスフィア は、後期中新世以前に脱ラミネーション(delamination)によって、取り除かれたことを示 唆している。その後、アセノスフィアが脱ラミネーションされた部分を埋め、ゼノリスに 見られる特異なオスミウムの特徴を残した。(Ej,hE)

アラキドン酸を攻撃する(Attacking Arachidonic Acid)

プロスタグランジH合成酵素-1と合成酵素-2(PGHS-1 と -2)は、アラキドン酸(AA)をプロ スタグランジンH2に転換させる触媒をする。PGHS-1 および -2の両方ともアスピリンや非 ステロイド性抗炎症薬の標的である。Malkowskiたち(p. 1933)は、化学反応を起こしうる 高いコンフォメーションで結合したAAとPGHS-1のx-線構造を3.0オングストロームの解像 度で決定した。AAは伸びたL形の形状をしたコンフォメーションであり、チロシン-385に よって13proS 水素を除去し、C-11に酸素を添加し、C−11とC-9の間にエンドペルオキシ ドで架橋するのに適した立体化学を有している。しかし、C-8 とC-12の結合形成とC-15に おける酸素添加によるシクロオキシゲナーゼ反応が完結する前に、コンフォメーションの 変化が生じるに違いない。(Ej,hE)

永続する言語の側方化(Long-Lasting Language Lateralization)

ヒトの言語能力は脳の優勢半球に局在しており、多くの場合はこれが左半球である。この 驚くべき構造上・生理学上の脳の機能的非対称性の根拠は何であろうか?Galuskeたち (p. 1946)は解剖学的な神経経路追跡法を利用して、最も重要な言語処理領域の1つにつ いて微細な組織学的な結合構造の関係を調べた。彼らは等間隔に並ぶニューロンクラスタ ーを結ぶ長距離内因性接続領域が点在しているのを見つけた。これらのクラスターの間隔 は言語優勢半球では逆半球に対して20%大きかった。この言語特異性領域の非対称性が際 立っている。というのは、音情報一般を処理し、知覚している隣接領域ではこのような差 異は見られなかったからである。この結果から、言語処理領域においては、単位表面面積 当たり、もっと機能的に顕著な柱状領域が存在する可能性を示している。[Gazzanigaによ る展望記事参照.] 。(Ej,hE)

深海の時間的傾向Temporal Trends in Deep Ocean Redfield Ratios)

Pahlow and Riebesell (Reports, 4 February, p. 831)は地球の海洋栄養物データについ ての研究で、今まで一般的には時間的変動が無いと思われていた一定場所のRedfield比 (炭素:窒素:リン)について過去50年間の北半球における「時間的変動が存在する証拠 」を見つけた。Zhang たちはこれらの時間的信号の分解能について疑問を呈し、Pahlow とRiebesellによって利用された酸素とリン酸の濃度に関する系統的補正の大きさと、こ れら補正の不確実性は、経時信号の大きさと同程度であるか、あるいはこれを上回ると述 べている。彼らはまた、Pahlow とRiebesellによって使われた一定値除去補正をする代わ りに「勾配誤差」の修正を行うと、「以前報告された時間的信号変動を相殺する」と示唆 している。Zhangたちは「Redfield比は、、、確かに時間的変化を示すようであるが、 PahlowとRiebesellによって推測された変化は、恐らく正しくないであろう」と結論付け ている。これにPahlow とRiebesellは応えて、「個々の再配備したステーションそれぞれ に」系統的修正を加えたが、ほとんどすべての場合、個々の修正幅は「個々の信号より小 さかった」。リン酸の濃度に対する勾配誤差の修正の影響は、報告された時間的変動の5% を超えないであろうとの計算を示した。このコメントの全文は下記参照。(Ej,hE)
www.sciencemag.org/cgi/content/full/289/5486/1839a
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