AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 8, 2000, Vol.289


広大な海洋の冷却(The Big-Ocean Chill)

氷期および氷期と氷期の間における太平洋の海面温度(SST: sea surface temperatures)がどのくらい異なっていたのかを知ることは、太平洋の巨大さだけでなく 、太平洋の赤道地域が地球規模の熱帯性海洋地域のかなりの部分を占めているため、気候 の変化を理解するために特に重要である。Leaたちは(p. 1719、Nurnbergによる展望も参 照)、過去45万年間の有孔虫プランクトン性マグネシウム-カルシウムと酸素同位元素の記 録を提示し、氷期のSST(太平洋海面温度)は3℃から5℃低かったことを示した。太平洋の 海面温度は南極地区の冷たい空気と連動して冷却し、その後に大陸氷床の融解が始まる 。(Na)

薄い音の遮蔽層(Thin Acoustic Shields)

ある周波数帯域内の音を遮蔽するために音速での周期的な変調を利用することができる 。この方法は、フォトニック・バンド・ギャップ材料によって光を遮断することと類似し ている。しかしながら、空間変調は、音の波長と同じオーダの大きさでなければならない 。しかし、そうするためには、このための構造が実現不可能な大きさになってしまう。局 所的に共鳴構造単位を持つ合成物は、遮断したい音の波長より2桁も小さい格子によって 音を遮蔽することができることを、Liuたち(p. 1734)は示している。サイズと幾何学的構 造上の単位を変えることによって、この材料が音の遮蔽として働く周波数帯域を変えるこ とができる。このようにして、相対的に薄い層状材料を使って、特定の周波数範囲の音の 遮蔽することができる。(hk)

最期に根絶やしになる(Uprooted at the End)

ベルム紀の最期(ベルム紀から三畳紀への境界、約2億5千年前)に海洋脊椎動物種の絶滅が 記録されている。この大規模な絶滅の原因は知られていない。Wardたち(P.1740,Kerrによ るニュース記事参照)は、北アフリカのカルー高原における根生植物の生命が急激に死滅 したという新たな証拠を提示した。7層のセクション(stratigraphic section)の地形的 (morphology)変化を分析した結果、ベルム紀から三畳紀への境界で河川系が、曲がりくね った川(meandering river)から 網目状になった川(braided river)に変化したことが示さ れた。これらの河川の変化は、根生植物の消滅後に促進された侵食に関係して増加した堆 積によって起こった。同様の河川の変化は、世界中の他の境界サイトでも示唆されており 、巨大隕石衝突のような、大陸上の広範囲な規模の変化を引き起こす出来事があったこと を示している。(TO,Nk)

薄氷の上でスケート(Skating on Thinner Ice)

河川や湖の凍結や解凍の記録が数百年間にわたり記録されているケースがある。これらの 記録は最近の気候変動におけるもう一方の見方を与えている。Magnusonたち(P.1743)は 、北半球全域でのこれらの記録を収集した。湖や河川の凍結時期は一貫して遅くなってい て、過去150年間で無氷になる時期が早まっている。このパターンは、前世紀間における 全世界的な約1.2℃の気温上昇とつじつまが合う。(TO)

一次元中を運ばれる熱(Channeling Heat in One Dimension)

マイクロエレクトロメカニカルデバイスにおける潜在的な応用があるため、単壁のカーボ ンナノチューブの電子-フォノン結合と熱散逸は、次第に重要な問題となってきている 。Hone たち(p.1730; de Heer の展望記事も参照のこと)による比熱測定によると、チュ ーブ中の熱振動(フォノン)は、一次元に拘束されている。さらに、彼らは、ナノチューブ の束のチューブ間の結合はほとんどないことを見いだした。これは、ナノチューブの束は それほど強くない可能性があることを示している。(Wt)

地震による異常な被害(Anomalous Earthquake Damage)

1994年に起きたマグニチュード6.7のNorthridge地震は震源地からおよそ20Km離れた建 物や諸施設の被害がサンタモニカに異常に集中した。Davosたちは(p. 1746)、その地震 をシミュレートし、ロサンジェルス盆地の北西縁の断層が音響レンズとなり、地震のエ ネルギーをサンタモニカ地表に集中させた、と結論づけた。そのような地表下の複雑な 地震波伝播のモデルと、その後継続しているシミュレーションは、建築物の複雑に構成 される都市における地震による被害の評価に役立つことだろう。(Na,Nk)

歯とつめの中の紫(Purple in Tooth and Claw)

光合成は、様々な修飾や付加物を持つポルフィリン環にもとづく光吸収分子、葉緑素に依 存する。Xiongたち(p.1724)は、緑色硫黄細菌や緑色非硫黄細菌からのバクテリオクロロ フィルの生合成酵素をコードする遺伝子の配列決定を行った。彼らは、この後、光合成の 分子系統発生学を構築するために、このデータを別の光合成細菌系統からの類似のデータ ーと結びつけた(勿論、光合成生物の系統発生学を正確に複製する必要はない)。彼らは光 合成が最初に紅色細菌中に出現したこと、そして比較的遅く植物中にある現在の葉緑体の 祖先とみられるラン藻類中に出現したと結論づけている。展望において、Des Marais(表 紙参照)は、この発見を地球化学的背景の中で位置付けしている。(KU)

ステロイドへの応答の差異(Split Response to Steroids)

哺乳類において、ステロイド生殖性ホルモンのプロゲステロンに対する受容体は単一遺伝 子でコードされる。しかし、タンパク質は、転写と翻訳の開始点がどちらであるかによっ て、2つの形態---プロゲステロン受容体-A(PR-A)とPR-B---で存在する 。Mulac-Jericevicたち(p. 1751)は、マウスにおいてPR-Aの発現を選択的に阻止する変異 について報告している。単独で作用するときは、PR-Bは子宮において既知のプロゲステロ ン-応答性遺伝子のサブセットのみを制御していた。プロゲステロンは正常状態では子宮 上皮中の、エストロゲン誘導増殖と拮抗するが、PR-Bとの相互作用によって増殖が促進さ れる。PR-AとPR-Bの個々の生理学的機能を分離することが可能であるとすると、PRアイソ フォームの選択的調節剤を使って、より特異的な治療効果を得ることが可能になるであろ う。(Ej,hE,Tn)

帰っておいで(C’mon Back!)

オリゴデンドログリア前駆体細胞は、ニューロンを隔離する細胞を絶えず供給しうると言 う点で中枢神経系に対して有用であるが、もっとそれ以上のことができるらしい 。KondoとRaff (p. 1754;およびVogelによるニュース解説)は、一連の外部成長因子によ る処置によって、これら限られた能力を有する前駆体細胞が、発生カスケードを逆行させ ることができることを示した。その結果、多様で、分化されたニューロン細胞型を作ると いう本来の能力以上の力を発揮する幹細胞を形成する。(Ej,hE)

詰め込んだアレイのタンパク質をプローブ(Probing Proteins in Packed Arrays)

タンパク質機能 (例えば、タンパク質とタンパク質の結合) の測定法の多くは、固体支持 体上に正しく折りたたんだタンパク質を高密度に配列することによりうまくいくであろう 。MacBeathとSchreiber(p. 1760; Serviceによる記事参照)は、接触プリントのロボット を用い、ガラススライド上に固定化タンパク質の高密度アレイを作成した。アルデヒド誘 導体化ガラスとの共有結合付着は、シッフ塩基によって、いくつかのタンパク質の表面位 置で行われる。過剰の反応性は、ウシ血清アルブミン(BSA)で消され、さらに、BSAは、非 特異的結合を減少する(ペプチドと小さなタンパク質のアレイは、活性化BSA単層の上に作 成された)。タンパク質結合アッセイにおいて、1枚のスライド上に10800個のタンパク質 スポットが検出できた。彼らが示した他の応用には、タンパク質リン酸化アッセイや小さ な分子のタンパク質標的の研究も含まれている。(An)

正いタグの作成(Making the Right Tag)

断片のアレイ(配列)とのハイブリッド形成によるDNA検出は、遺伝子分析と医学におい て、幅広い応用がある。Tatonたち(p 1757)は、蛍光性タグでなく金粒子で標識されたプ ローブを用いれば、ガラスチップ上に固定化されたオリゴヌクレオチドとDNA断片とのハ イブリッドの融解プロフィールは、はるかに急な勾配を示し、それによって、感受性と選 択性が増加される、ということを見いだした。銀析出の段階を追加すれば、標準の flatbedスキャナで染色密度定量化ができるような応答が得られた。(An,Tn)

気候と病(Climate and Disease)

地球規模での温暖化により、より高緯度地方へもマラリラのような病原体媒介動物による (vector‐borne)病のさらなる脅威を不可避的にもたらすだろうという警告が発せられて いる。対照的に、寄生虫の生態学的知識と共にHadley  Centre  Global  Climate Modelからの温度と降雨の両方の予測を採用している、RogersとRandolph(p.1763;Dyeと Reiterによる展望参照)によって用いられた多変量解析手法により、2050年におけるマラ リア分布の増加は、実際には、たとえ極端な条件の変化があったとしてもそれほど大きく ないものであることが示唆されている。予測された増加は合衆国南部、中国の西部、ブラ ジルの南部であり、中央アジアやトルコではある程度の拡がりがある;ヨーロッパは殆ど 影響されずにとどまっている。既に、気候がコレラの発生において重要な役割を果たして いると考えられている。Pascualたち(p.1766)は、バングラデシュにおけるコレラの挙動 に関して複雑さの幾つかを解明し、気候が重要な役割を演じているが、それが全てのスト ーリーではないことを示している。著作たちは、ある18年間の病の記録を調べて、発生が その前の病のレベルと局所的温度に関係づけられることを見い出した。(KU)

拡張の危険性(The Dangers of Expansion)

成人筋ジストロフィーのもっとも一般的な形態である筋緊張性ジストロフィー(DM)は 、DMPKタンパク質キナーゼ遺伝子の3'非翻訳領域中におけるCTG反復の拡大に起因する 。拡張されたCUG反復を含んだDMPK転写物は、核内に保持されており、DMPKタンパク質の 機能的変質ではなく、これら異常な転写物の核内蓄積によって病気が起きると思われてい る。Mankodiたち(p. 1769;Tapscottによる展望記事参照)は、この仮説に対する強固な証 拠を示した:つまり、彼らは、CUG反復を、DMと無関係な遺伝子中に挿入し、この人工的 な遺伝子から派生する、拡張したCUGを含有する転写物を発現する遺伝子組換えマウスは 、DMの多数の表現型的特徴を生じたことを見つけた。これに対して、短いCUG反復の転写 物を発現する対照群マウスは正常であった。これらの結果から、長年探し求められていた DMの動物モデルが明らかになったと思われる。(Ej,hE,Tn)

生き長らえる木星のホット・スポット(Jovian Hot Spots Live On)

木星の大気の赤外領域の分布を可視画像で表現すると、波長が5μmのところで強い放射を 行なう持続的なホット・スポットのあるのが見られる。そうしたホット・スポット内は 、雲と水蒸気が極度に欠乏しており、赤道のすぐ上の北半球の狭い領域に限られて存在し ており、普通の大気が東向きに流れているのとは違って西向きに移って行くもので、結果 として高度により風速がかなり激しく変わる原因になっている。ShowmanとDowlingは、こ うしたホット・スポットの発生とダイナミクスを、比較的単純な流体モデルによってシミ ュレートし、ホット・スポットがある程度の期間持続しうることを示した(p. 1737)。彼 らのモデルは、こうした特別なホット・スポットのうちの1つの大気の特性を測定したガ リレオ探査機による観測結果を説明する助けになるかもしれない。(KF,Nk,Tk)

のるかそるか(Take It or Leave It)

友人の1人があなたに手早く300ドル手に入れる方法を教えてくれたとする--そのためには 、あなたは、彼が自分の取り分として700ドル受け取ることに合意するだけでよいのだ-- しかし、あなたがこれに合意しなければ、2人とも何も得られないのだが。心理学の実験 によれば、あなたはこの提案を不公平だという理由で拒否することになるらしい--たとえ 300ドル手に入れ損なうにしても。この「究極のゲーム」は、公平さを優先して理性を否 定するように見える。ゲーム理論では、あなたの友人はほんの50ドルあなたに与えるだけ でもうまくやれたはずなのだが。Nowakたちは、この究極のゲームについての進化的モデ ルを記述している(p. 1773)。それは、誰もが両方の役割を演じるようになっている何回 も繰り返して行なわれるゲームで、このことにより利益が得られるかどうかはあなたの評 判と結びつくことになるのである。あなたが相手には少ししか与えない(あるいは与えた ことがない)と知られていると、相手もあなたに少ししか提供してくれない。しかし、あ なたが低い金額では提案を受けないことを相手が知っていたら、あなたの取り分はほぼ対 等な500ドルに近いものになるまで良くなっていくのである。(KF)

HSVの潜時に関連した転写とニューロンのアポトーシス(HSV Latency-Associated Transcript and Neuronal Apoptosis)

単純ヘルペスウイルス-1型 (HSV-1)の潜伏関連転写(LAT)遺伝子を研究して、Perngたち (Reports, 25 February, p. 1500)は、LATを含んでいるウイルスはウサギニューロン中の アポトーシルをブロックし、その結果、LATはHSV-1に感染した後も感染したニューロンを 生存させる働きをすると結論した。彼らは市販の抗体を利用して切断されたポリ(ADP-リ ボース)ポリメラーゼ(p85 PARP)をテストしたが、この反応において、p85 PARPの存在が 確認されればアポトーシスが存在することになる。Thompson と Sawtellによるコメント によると、Perngたちが利用した抗体について彼らが実験したところによると、この抗体 は切断したウサギのPARPに対して反応性が見られなかったと報告している。さらに 、Thompson と Sawtellは、Perngたちに利用されたアポトーシスについての別の実験で実 際のDNA断片化の検出をテストしたところ、シグナルは細胞質から来ているように見え 、断片化したDNA由来するシグナルとしてはありそうもない場所からであり、むしろ核に 局在化しているのではないか、と議論している。Thompson と Sawtellは、このように 、Perngたちの研究は「HSV-1 LAT遺伝子がニューロン内でウイルスに誘起されたアポト ーシスをブロックしているとの証拠は得られてない」と結論づけている。Wechslerたちは 、自分たちのウエスタンブロット分析を示して、Perngたちの利用した抗体は、「明らか にウサギの切断PARP p85タンパク質を認識できる」ことを示した。彼らはまた、断片化し たDNAはアポトーシス性の細胞内だけでなく、細胞質内にも見られることを、多数の一連 の証拠を使って示唆した。この全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/289/5485/1651a を参照。(Ej,hE)
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