AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 25, 2000, Vol.289


熱い始まり(A Hot Beginning)

最も原始的な隕石の中にカルシウム-アルミニウムに豊む包有物 (CAI:Calcium-aluminum-rich inclusion)が見つかり、それらは初期の太陽系において形 成された最初の固体粒子の幾つかを示していると考えられている。Mackeeganたち (p.1334)はCAI中のホウ素同位体を計測し、10Be(これが崩壊して 10Bになったもので、原子核破砕反応のみから形成された)が初期太陽系に存 在していたことを立証した(カバー記事参照)。その存在から、CAIや初期太陽系で強力な 放射線による衝撃を受けた他の初期太陽系物質を形成するモデルと一致する。Guanたち (p.1330)もこのモデルに依存はなく、アルミニウム同位体(これは初期太陽系で26Mgの存 在を示す)や斜方輝石のエンスタタイト球粒隕石(enstatite chondrite)におけるCAIの地 球化学的な他の側面を調査した。CAIはこれらのホスト球粒隕石よりも酸化された条件下 で形成されており、その結果、CAIは太陽系で球粒隕石より以前に、別の場所で形成され たと思われる。(TO,Tk)

イベリアの氷(Iberian Ice)

北極の氷床から氷山が周期的に大量に流出するハインリッヒ事象は、過去の氷河周期の間 に何回も、大陸のデブリ(岩屑、debris)と共に海底に注がれた。北太平洋におけるこうし た影響は十分に記載されているが、アイスラフティング帯(ice-rafting belt)の主流から 外れた領域では明らかにはされていない。Bardたち(p.1321)は、亜熱帯北東大西洋から採 取した年代が明瞭な海洋堆積物掘削コアに、地球化学的なさまざまな代用物質を組み合わ せて、北極からの低塩分水の寒冷化と移流(advection)は、過去32000年の3回のハインリ ッヒ事象の期間において、中緯度地方に影響を与えたことを立証した。これらの結果は 、こうした事象の内部の複雑さに光明を与え、生物起源や無機化学的な堆積物の組成から 得られるデータを組み合わせることの有用性を例証している。(TO,Og)

運命的な融合(Fateful Fusion)

発癌性の融合タンパク質をつくる染色体の転座は、白血病や軟部組織の腫瘍に共通のも のであるが、すべての癌の90%を占める充実性腫瘍(癌腫)中にはほとんど観察されて いなかった。ヒト甲状腺濾胞状癌の研究において、Krollたち(p.1357)はPAX8転写制 御因子のDNA結合領域を核ホルモン受容体ス−パーファミリの一員であるペルオキシソ ーム増殖因子ー活性化受容体(PPAR)g1へ融合する共通の転座を同定した。融合タンパ ク質はドミナントーネガティブな方法でPPARg1による転写性トランス活性化を抑制した 。このような融合事象の発見は、甲状腺癌の診断と治療に新たな可能性をもたらすもの である。(KU,Tn)

エネルギーを一ヶ所に集める(Funneling Energy)

発光ダイオード(LED)への応用を見い出した共役系ポリマーにおける電荷分離励起状態 (励起子)の挙動は、その速い消光とポリマー鎖内,及びポリマー鎖間での励起子移動に よって複雑になっている。Yuたち(p.1327)は急速に励起子を消光するO2を 徹底的に取り除くことにより、固体状態における励起子の挙動に関するポリマー構造の影 響を調べることが出来ることを見い出した。彼らはポリマー鎖間の影響を避けるためにポ リスチレンのような光不活性ポリマー中に共役系ポリマーMEH‐PPVを溶解し、そうしてお いて単一分子のスペクトルを測定した。彼らは予想外の鋭い、赤色シフトした発光特徴を 見い出した。それは四面体の欠陥を通して形成されるある特殊なポリマー鎖構造である欠 陥シリンダーに帰因された。このような欠陥は効果的にポリマー鎖上の励起子をトラップ して局在化し、結果として多くのポリマー鎖ユニット上に、鎖が何本分も離れて形成され る励起子に対する「エネルギー漏斗」として作用する。(KU)

ピルビン酸を絞り採る(Squeezing Out Pyruvate)

生命の起源に関する一つのモデルは、必要な建造ブロックが熱水の放出口で一連の反応 ステップでつくられ、そこでは上昇した圧力と温度のもとで金属硫化物が炭素の固定化 と、より複雑な有機分子の形成を触媒するということである。Godyたち (p.1337;Walochchtershalochuserによる展望参照)は、海洋の熱水系における可能な 条件のいくつかをシミュレートする実験を行い、そしてこの熱水環境下でより複雑な有 機金属化合物の形成を示している。この化合物は重要なる生化学分子であるピルビン酸 の形成を触媒する。高い圧力により、通常ではピルビン酸を分解するような高温 (250℃)を補償しているらしい。(KU,Tn)

エウロパ(ユーロパ)の海洋は、いまだに漂っているという(Europa's Ocean Still Afloat)

ガリレイ宇宙船から得られた以前のデータに対する解釈では、.ユーロパが氷で覆われた 表面下に液体の層を持っていることを暗示していた。.ユーロパは木星を回る最も小さい ガリレイ衛星である。 Kivelsonら{ p. 1340; Stevensonによる展望を参照} は 、2000年1月3日中.ユーロパにガリレイ宇宙船が低空飛行して近づき収集した磁力計によ るデータを用いて、“.ユーロパが誘起する磁場変化は浅い導電層によって導かれる”と いうことを確認した。 地球の海洋水と同じような導電度を持つ表面下約7.5kmにある球 状シェル導電体のモデルが、それらの新しいデータと良く一致する。(hk,Og)

プリオンの転換機構(Prion Conversion Mechanism)

酵母におけるプリオン状態の発現と伝播に際してタンパク質高次構造が果たす役割が、こ のたびはっきり明らかになった。Serioたちは、酵母のプリオンタンパク質の一つ 、Sup35の立体配置が転換する機構を、試験管内で検証した(p. 1317)。この可溶性タンパ ク質は、小繊維(fibril)への組み立てに至る有核立体配置転換と名付けられたプロセスに おいて一連の高次構造状態を経るのである。(KF)

北極の隠れ家(Arctic Hideouts)

更新世の氷河作用を通して高緯度地方の植物相と動物相には何が起きていただろうか。隔 絶された、より住みやすい避難地域(refugia)でやりすごしたのだろうか、もしそうだと したら、その避難地域はどこにあったのだろうか。Abbottたちは(p. 1343)、北極地方の 植物である紫ユキノシタが最初に北極で発生し、その後広範囲に広がって行くルートと 、更新世氷河作用のあいだに占領していた避難地域を示す分子的な証拠を示している。こ れらの結果は、最終氷期極相期において北極高山植物の避難地域が存在していたことを強 力に支持している。(Na)

たいへんよくできて、オールAでした(Making All A's)

メッセンジャーRNA(mRNA)の特徴の一つは、アデニル塩基の繰り返しからなる尾部をも っていることである。ほとんどの核酸重合とは違って、この反応は鋳型を利用しない。 その代わり、外からくるアデノシン三リン酸が直接mRNAの3'末端に付加されるのであ る。J. Bardたちは、二つのアデニン・ヌクレオチドと複合した酵母から得られるポリ (A)ポリメラーゼの結晶構造を提示している(p. 1346)。この二つのアデニン・ヌクレオ チドのうちの一つは、最後に付加された塩基を表しており、もう一方がその次に付加さ れるべき塩基である。活性部位の機構の詳細に加え、彼らは、その他の核酸ポリメラ ーゼとの構造面での比較結果と、この酵素の連続移動性(processivity)に貢献する要因 とについて記述している。(KF,Tn)

引きつけるものがなくなったとき(When the Attraction Is Gone)

誘引性あるいは反発性の環境的手がかりは、適切な細胞表面受容体を介して信号を送るこ とで、広がっていく軸索に対してどこに向かうべきかを伝えている。軸索の収縮を生じさ せるためには、細胞表面受容体はまず反発性要因と連動し、次に接着性の力に打ち勝たな ければならないのだが、それでは、どうやっているのだろう。Hattoriたち(p. 1360)と 、GalkoおよびTessier-Lavigne(p. 1365)は、そうした相互作用がメタロプロテアーゼ酵 素によって壊され、その結果として軸索がその捕獲者から遊離するということを報告して いる。展望記事で、Pasqualeは、軸索の誘導の調整に際しての細胞表面メタロプロテア ーゼの関与がこの難しいパラドックスへの有望な回答の一つであることを論じている 。(KF)

極めて重要な薬の配達(Vital Drug Delivery)

サイトカインのインターロイキン-10(IL-10)は、炎症性腸疾患(IBD)の臨床試験によれば 有望な薬剤となりうることが示されている。サイトカインは全身投与されるため、多量の 投薬が必要となり、その結果、しばしば有害な副作用が生じることがある。Steidlerたち (p 1352; およびShanahanによる展望記事参照)は、投薬量を大幅に減少させることのでき るIL-10を局所投与するための新しい方法を開発したことを報告している。発酵食品を作 るために利用する細菌のラクトコッカス属lactisを遺伝子操作して、高レベルのIL-10を 分泌させた。胃内接種で生きた組換え細菌を送達することによって、1方のマウスモデル において、IBDの開始を阻止し、他方のマウスモデルにおいて、既存のIBDの症状を逆転さ せることに成功した。原理的には、この技術は、不安定であったり多量に産生することが 困難なタンパク質治療を行うために、効果的に局部投与することに利用可能である 。(Ej,hE)

海中で口笛を吹く(Whistling in the Sea)

イルカは、豊富なレパートリーの発声によりコミュニケションしあうことが知られてきた 。しかしながら、研究の多くは、人間に囚われた固体に基づくもであり、野生状態での伝 達についてはほとんど知られてはいない。Janik (p. 1355; Tyack による展望記事を参照 のこと) は、人間の観察者を排除した状態では、海中におけるバンドウイルカ個体間の発 声を計測できる技術を開発した。個体間は、よく学習し調子を合わせた口笛を用いて 500m に至る距離を相互に応答しあう。音声模倣の発達はコミュニケーションの進化の重 要なステップであり、人間の言語の発達に対しても意味のあることである。(Wt)

さあ、これで見える(Now You See It)

高分解能電子顕微鏡は、以前は、結晶表面あるいはアモルファスの支持体上で強い散乱を 生ずる単一種を可視化するのに用いられてきた。それゆえ、ヨウ素は可視化できるが、カ リウムはできない可能性がある。種々の焦点位置における可視化像のシリーズから位相像 を復元することにより、Meyer たち(p.1324)は、単一壁のカーボンナノチューブ中に拘束 された一次元結晶中のカリウムとヨウ素の個々の原子位置を決定した。格子の間隔は、バ ルクの結晶の間隔と異なっている。(Wt)

免疫学的シナプスのイメージング(Imaging Immunological Synapses)

免疫学的なシナプスが、抗原提示細胞とT細胞の間の接触帯に生じる。シナプスは独特の 組織化をしており、主要組織適合抗原系-ペプチドの複合体と相互作用しているT細胞受容 体から成っている。この複合体は多様な増強性コリセプターや、細胞骨格-依存的プロセ スでシナプス中に移動する情報伝達分子によって取り囲まれている。Krummelたち (P.1349)は、この初期の研究を、脂質の2重層へと更におし進め、その構造や、免疫性シ ナプスが形成される珍しい様子を、グリーン蛍光タンパク質キメラを含んだ全細胞をリア ルタイムで顕微鏡像ビデオに納めた。(Ej,hE)

植物の多様性と生産性(Plant Diversity and Productivity)

ヨーロッパ草原の植物の多様性と生産性に対する大規模な実験報告の中で(研究記事 、1999年11月、p. 1123)、Hectorたちは、全体的な、平均的地上性生物資源(と種の損失) が対数目盛りで線形に減少していることを発見した。Hustonたちはこの結論に対し、いく つかの疑問の一つとして、研究の行われた8ヶ所は多様性と生産性間に一貫した明らかな 関連性は見られず、行った実験は過剰生産を、適切にテストするものではない(すなわち 、複数の種の混在する地域で育った方が単一種の地域で育った複数の種よりも生産性が高 い)、それゆえ、いくつかの観測された現象は、窒素固定マメ科植物のTrifolium pratenseによる受精効果によるものである、と反論している。Hustonたちは、種の豊富さ それ自体は8ヶ所の植物生産性に対し統計学的にも生物学的にも有意な影響を与えていな い、と結論づけた。Hectorたちは、彼らの主な結果につき弁論し、複数種の混在地域の一 部では単一種地域においてテストされていない種が優勢だったが、このこと考慮していな いということで、彼らの全ての8ヶ所にわたる結論を変更するものではない、と応えてい る。Hectorたちによると、原則的に、種の豊富さの生産性に対する全ての影響は個々の種 の特徴と相互作用に帰するため、生産性に対するT.pratenseの影響が、他の種のものより 強いことにより、広範な結果を無効にするものではない、と主張している(Kaiserによる ニュース解説参照)。これらのコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/289/5483/1255a で見ることが出来る。(Na)
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