AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 18, 2000, Vol.289


極微細な霧吹き(A Really Fine Spray)

ノズルからの流体ジェットの形成され、これが小滴へと分裂する問題は、昔からの由緒あ る問題である(Lord Rayleigh は、最初の完全な扱いのひとつを展開した)。ナノメートル スケールの流体ジェットも、また、考えられてはいるが、ノズルオリフィスが分子直径の 数倍まで狭くなると、流体力学的な理論は破綻し始める。Moseler とLandman (p.1165; 表紙を参照のこと) は、直径で数ナノメートルの金のノズルを通過させた液体プロパンの 分子動力学シミュレーションを与えている。そして、ノズルの加熱と湿潤化がどのように してオリフィスの閉塞を防ぎうるのかを示している。彼らの結果を連続体としての流体力 学モデルと統合させることにより、彼らは、熱的に誘発されたゆらぎが、ナノスケールの ジェットの分裂と進化に重要な役割を果たすことを示している。(Wt,Ok)

高電圧でスイッチ切り替えし、低電圧で読み出す(Switch High, Read Low)

磁気的ビットは、書き込み動作時に必要とされる磁場より低い磁場で読み出される。実際 には、スピン方向が切り換えられることによって書き込み動作がなされる。このようにし て、あるビットが一度セットされ、数回読み出され、そして次にリセットされる 。Collierたち(p. 1172)は、同様なヒステリシス現象を示す固体電子スイッチを開発した 。そしてこのスイッチはプラス2ボルト振幅のパルスでオフされ、マイナス2ボルトパル スでオンされ、そして0.1から0.3ボルトでその状態が読み出される。[2]カテナン分子の ある環にあるテトラチオフルバレン(tetrathiofulvalene)グループは、より高い電圧パ ルスによって酸化するか還元する。そしてその高電圧パルスによって、その環は、他の環 内で回転させられる。この異性化は接合部のポテンシャルエネルギーを変化させる。(hk)

風化作用の変遷(A Change in the Weathering)

海洋中の安定なカルシウム同位体組成の履歴は、カルシウム収支が岩の風化作用とカルシ ウム炭酸塩沈殿物の量に対応して如何に変化したかを反映している。これら同じ2つのプ ロセスはもっとも重要な温室効果ガスである、大気中のCO2の濃度を地質学的 な時間スケールで制御している。De La RochaとDePaoloは(p. 1176)、過去8千万年間の海 洋カルシウムの同位体組成はかなり変動したことを調べ、これらの測定結果と、海洋pH変 動の見積もりを組み合わせることで大気中のCO2含有量が計算できることを報 告している。(Na,Nk,Tk)

より静かなヘイワード断層?(A Quieter Hayward Fault?)

カルフォルニア州バークレイを横切る北ヘイワード断層は、サンフランシスコ、ベイエリ アで、今後30年間にマグニチュウド7の地震が起きる可能性が非常に高いものとして認定 されている。Burgmannたちは(p. 1178、Simpsonの展望も参照)、GPSシステムと干渉合成 開口レーダー表面歪曲計測と極小地震データと断層に沿った地震性クリープの測定により 北ヘイワード断層で起き得るスリップの規模やその形態のモデルを作った。彼らは断層の 北部、およそ深度6kmで、地震を起さずに、約7mm-10mm/yearの緩やかなクリープが起きて いることを発見した。従って、地震の被害規模はかなり軽減して考えるべきだろう。(Na)

自己組織化による3D回路(Self‐Assembled 3D Circuits)

自己組織化は、通常分子スケールの対象物と関連づけられているが、形を認識したり選択 的に結合を形成するその原理は、マクロな対象物にも適用され、平坦な基体上にチップを 組み立てるために用いられる。Graciasたち(p.1170)は、どのようにして3次元における電 気回路がワイヤーや発光ダイオード、そしてソルダー(半田)ドットでパターン化されたミ リメートルスケールの多面体から造られるかを示している。ソルダーをちょうど融解する 程の熱い溶液中におくと、多面体はドットやワイヤーの配置で決められた通りにより大き な構造体に組み上がった。(KU)

古いクラトン中で最近起きた溶解跡( Young Melts in Old Cratons)

クラトンは最古の大陸地殻の破片を代表する物であるがこれは30億年以上も前に形成され た。Jacob たち (p. 1182) は南アフリカのクラトン(剛塊)の中のVenetiaキンバーライ トから採れた多結晶ダイアモンド中のガーネットの含有物の微量元素を分析し、同位体の 特徴を捉えることによって、クラトンが約5億3300万年前に再軟化作用を受けている証拠 を見つけた。彼らの分析によると、エクロジャイトと混合したカーボナタイト中にこれら のダイアモンドが生成されており、このことからクラトンは最近のテクトニズムによって 変形を受け、その結果、古い材料を利用してダイアモンドが新たに生成した思われること を明らかにした。(Ej)

殺しのために移動して細菌を殺す(Killing Bacteria Moving In For a Kill)

TR3タンパク質(nur77とかNGFI-Bとも呼ばれている)は核ホルモン受容体ファミリーの一 員であり、T細胞受容体誘発のアポトーシスに必要とされている。このような受容体は 、基本的にリガンド依存性の転写制御因子として作用すると考えられている。しかしなが ら、Liたち(p.1159;BrennerとKroemerによる展望参照)は、TR3の機能にはそのタンパ ク質のDNA結合領域を必要としないことを見い出だした。その代わり、TR3はミトコンドリ アへ移動し、チトクロームCの遊離を引き起こすことによりアポトーシスを促進する 。(KU)

細菌を殺す(Killing Bacteria)

好中球は、様々な細胞の武器を用いて侵入細菌を殺す。Belaaouajたち (p.1185)は、好中球エラスターゼ(NE;neutrophil elastase)として知ら れている酵素が特異的に細菌の外膜タンパク質の一つであるOmpA(Outer membrane protein A)を切断し、膜の統合性を損傷したり、細菌の細胞死を引 き起こすことを報告している。この発見は、潜在的な抗菌の標的として、 そしてNEがのう胞性線維症の治療に有用と考えられているため二つの面で価値 がある。(KU,Tn)

道を外れて(Swinging Out of the Way)

チオレドキシンレダクターゼ(TrxR)は、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)補酵 素と酵素ジスルフィドによって、NADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸 の還元型)からチオレドキシンへと還元する反応を行う。Lennonたち(p.1190)は、大腸 菌TrxRのフラビン還元型のコンホメーション構造を決定し、FADの還元と再酸化のサイク ルの間ではヌクレオチド結合領域が約70°回転している。同様な酵素であるグルタチオ ンレダクターゼは、小分子の基質で作用し、コンホメーションの転移は起こさない。コン ホメーション転移は大きなタンパク基質が活性部位にアクセスできるように進化してきた ものかも知れない。(hE,Tn)

ブタ皮由来のブタ(Pigs from Pigskin)

分化細胞からクローンブタが作れると、畜産や異物移植に用いる遺伝的に修飾された器官 の作製などの点で大きな意味を持つ。他の種の動物では体細胞からのクローン動物作製が 成功しているが、Onishiたち(p.1188;NormileとPennisiによるニュース記事参照)は 、皮膚の線維芽細胞核を脱核した卵母細胞にマイクロインジェクションし、電気パルスで 刺激して発生させ、多数の胚を代理母に移すことによってクローンブタを作り出した 。(hE)

血管のサイン(Vascular Signatures)

腫瘍は増殖するために血液を必要とするが、現在臨床試験されているいくつかの癌治療は 腫瘍脈管系をターゲットにしてこの血液供給を絶つように設計されている。St.Croixたち (p.1197;Marxによるニュース記事参照)は、腫瘍の血管と正常組織の血管では79もの 遺伝子の発現において質的に異なっていることを示した。腫瘍血管でのみ発現している遺 伝子の多くは機能がわかっておらず、既知の遺伝子のほとんどは細胞外マトリックスの形 成に関与している。腫瘍血管を特色づける遺伝子は様々なタイプの組織由来の腫瘍で発現 しており、重要なことに、傷の治癒のような別の生理病理学的状態で誘導される血管でも 発現していた。(hE)

切って乾かす(Cut and Dried Up)

炎症を起こすと、ケモカインに応答して白血球が標的領域に動員される。しかし、この応 答が一時的に休止することは、組織が治癒し、傷が修復するために大切なことである 。McQuibban たち(p. 1202) は、マトリックス・メタロプロテアーゼ(MMP)が、ケモカイ ン活性の下方制御に重要なエフェクターであると提唱した。ケモカインである単球走化性 因子タンパク質 (MCP)-3が、MMPゼラチナーゼAによって切断されると、これはケモカイン 受容体作用物質から拮抗物質に変化する。この変化によって、これと同じ受容体を利用す る様々な化学誘引物質に白血球が応答することを防いでいる。(Ej,hE)

広がっている信号(A Spreading Signal)

腺腫性ポリープ症大腸腫瘍サプレッサータンパク質(APC)をコードする遺伝子は、ほとん どの大腸癌において変異を受けており、この遺伝子を機能させる細胞情報伝達経路の決定 について関心が高まっている。Kawasaki たち(p. 1194) は、このAPCが、Asefと呼ばれる グアニンヌクレオチド交換因子に結合し、細胞の伝播性や、膜の波打ちや膜状仮足を刺激 することを示した。これらのことから、APC-Asef複合体の破壊が大腸上皮細胞の正常な遊 走を抑制するのかも知れないことを示している。(Ej,hE,Tn)

触れて欲しい微妙なことがら(A Touchy Subject)

ヒトが周囲を見る場合、手で触ることによって視覚(特に空間的知覚)が改善されること が知られているがそのメカニズムはどうなっているのであろうか?従来、急な触感は様式 間の結合関係(crossmodal links)を生じ、これが多様式のニューロン構造の改善に寄与す ることが分かっていたが、今回単様式(unimodal)の脳領域も影響をうけることが分かった 。磁気共鳴映像法を使って、Macalusoたち(p. 1206; および、deGelderによる展望記事参 照)は、同時性視覚-触覚刺激によって、脳の視覚野と呼ばれる領域が活性強化されること を示した。しかし、この強化は、標的と同じ側にあったときのみ有効である。この感覚強 化現象は、上位の多様式連合野領域から、単様式視覚野へのニューロンの逆投影入力によ って生じている。(Ej,hE)

動く物体の位置の知覚(The Position of Moving Objects)

Eagleman とSejnowski (Reports, 17 March, p. 2036)は閃光-遅延効果 (flash-lageffect)として知られている錯覚を研究し"postdictive"モデルを提案した 。これによると、閃光が視覚系の動き統合化をリセットし、「閃光の生じた時間に関する 知覚は、事象の関数であり、閃光の後約80ミリ秒後に生じる」。彼らによると、この結果 は、動き予測外挿(predictive motion extrapolation)と差分潜在性(潜在時間の差 :differential latency)という2つの既知モデルに反すると述べている。Krekelberg と Lappe は、「閃光遅延効果は、閃光後の動きによるものである」との意見に同意している が、閃光が動きの統合化をリセットすると推論する理由はないと反論している。「閃光後 のこのような動きは、閃光によって生成された知覚に影響を及ぼす、と言うことは、単に 視覚処理に時間がかかっていることを示しているに過ぎない」と結論付けている。これと は異なるコメントの中で、Whitney と Cavanaghは、Eagleman とSejnowski による差分潜 在性モデルへの反論は、閃光遅延効果ともう1つのFrohlich効果は同じメカニズムによっ て生じているとの仮定の上に成り立っ ていると述べている。Whitney と Cavanagh は、「これら2つの現象は、異なるメカニズ ムに基づく」ことを示唆するデータを示している。彼らの結論として、差分潜在性モデル は「閃光遅延データを説明する仮説として生き残る」であろうとしている。これに応じて Eagleman と Sejnowskiは、両方のコメントの観察事実は「私達がすでに提案した postdictiveの概念で説明できる」と、さらにデータを追加している。全文は以下を参照 :(Ej,hE);
www.sciencemag.org/cgi/content/full/289/5482/1107a
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