AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 4, 2000, Vol.289


放射線に対する耐性(Tolerant to Radiation)

放射線廃棄物処分は、科学における手強い課題である。それは、放射線に対する物質反応 が大変予測することが難しいからではない。放射線物質を包み込む材料は、適切な放射性 核種に対して高い化学的安定性と溶解性を示すばかりでなく、自己放射から受ける構造的 分解に耐えなければならない。Sickafusら(p.748)は、ピロクロア(pyroclore)と蛍石の 構造を持つ複合酸化物材料についての反応をモデル化して、蛍石の構造は特に放射線損傷 に耐性があるはずであると結論づけている。放射線損傷に対する予備実験によって、この 予測が確認されている。(hk)

モジュール的結晶成長(Modular Crystal Grouth)

家はレンガを一つずつ積み上げたり、或いは前もって作られたモジュールユニットを組み たててつくられる。自然界における結晶成長は基本的には最初のプロセスに類似して、即 ち既存の結晶表面に原子を一個ずつ(或いは分子を一つずつ)付着して成長すると考えられ ている。Banfieldたち(p. 751;Alivisatosによる展望参照)は、配向したナノ結晶体の自 己組織化も(二、三の実験室系で見い出されたプロセスでありそして第二のプロセスによ り類似している)、又、自然界で生じていることを示している。著作たちは透過型電子顕 微鏡を用いて、細菌で作られたフェリハイドレィト(ferrihydrate)結晶の成長パターンを 調べ、配向したナノ結晶付着の事例を幾つか観測した。このような成長のメカニズムは材 料特性に影響する欠陥の形成と、そして相変化の事象に影響するであろう。(KU)

安定性をトレードする(Trading Instabilities)

炭素原子上に正電荷を持つ陽イオン(カチオン)のカルボカチオンは、中心の炭素原子が四 価でないので反応性が非常に高いことが多い。同じことは負に荷電された(有機陰イオン) のカルバニオンにも言える。Katoたちは(p. 754、Grutzmacherによる展望も参照)、ジア ミノカルボカチオン中の窒素をリンと置き換えるとカルバニオンが中心にある化合物がつ くられる。このカルボカチオンからカルバニオンへの変態はまれであり、これに伴って窒 素類似体が極度に不安定な化合物が合成される。(Na)

初期の大気遷移(Early Atmosheric Transition)

地球初期の大気の性質と酸化状態については幅広く議論されてきた。ある記録によると 20億年から24億年前までは還元傾向にあったことが示されている。Farquharたちは(p. 756)、先カンブリア時代の殆どにわたる一連の古代の岩のイオウ同位体を分析した。彼ら のデータによるとおよそ24億年以前は気相中の質量に独立のプロセスがイオウ同位体の分 留を制御しており、その後は質量依存のプロセスが主流となったことを示している。これ らの結果は遅い年代から地球大気の酸化が進んだことを支持し、微生物によるイオウプロ セスの開始とその重要性を推測するのに役立つ。(Na)

ほんの皮膚の深さまで(Only Skin Deep)

すべてのペロブスカイト型の超伝導材料が銅を含んでいるわけではない 。Sr2RuO4 は、その例外の一つである。この材料に超伝導性を与 えるスピン三重項対形成は、非磁性的なバルク基底状態の強磁性的なスピンの揺らぎから 生ずるという説が提案されている。Matzdorf たち (p.746) は、バルクソフトフォノンモ ードは表面に凍結されており、RuO6 構造要素に小さな回転を与えているという、構造的 および理論的証拠を与えている。この格子の歪みは、フェルミ表面における状態密度を増 加させ、表面の基底状態が強磁性的になるまでスピンの揺らぎを強めている。これらの結 果は、強磁性と超伝導性とはこの材料の中では、共存している可能性があることを示して いる。(Wt)

生産には鉄が要(An Iron Grip on Production)

海洋の植物プランクトンの成長は植物性栄養分の適切な供給に依存している。一次生産は 、北太平洋の亜熱帯では硝酸塩濃度の低さによって制約されており、また北大西洋の西部 では風による鉄分の供給はずっと少なく、その結果水からの脱窒がずっと大きく、リン酸 によって制限されている。Wuたち(p.759)は、サルガッソー海で非常に低いリン濃度を測 定し、これらの値は植物の成長の基本要素である鉄のすぐ間に合う供給能力と関係してい ることを示唆した。その鉄は、サハラからの風塵によって大量に供給されている。これら の結果は、鉄の供給次第で窒素あるいはリンのいずれが制限的栄養物質になるかの決定を 助けるという考えを支持している、そして鉄の供給がどのように、窒素固定、炭素摂取 、そして大気中のCO2濃度を調節しているかを示している。(TO)

ロドプシンの構造解明(Rhodopsin’s Structure Revealed)

多くの異なる信号伝達経路に関与するG‐タンパク質(ヘテロ三量体グアニン‐ヌクレオチ ド結合タンパク質)は、種々の刺激に応答する膜タンパク質の大型ファミリーであるGタン パク質‐結合受容体(GPCRs)により活性化される。ロドプシンは光に応答し、そして視覚 伝達経路を活性化するGPCRsである。Palczewskiたち(p.739;表紙とBourneとMengによる 展望参照)は、2.8オングストロームにまで解像力を増大した回析データからロドプシンの 構造を決定した。その構造は基底状態の発色団である11‐シス‐レチナールと7つの α‐へリックス膜貫通領域にある残基との相互作用を明らかに示している。発色団は不活 性な高次構造において膜貫通領域の保持に重要な役割を果たしている。その構造は、又 、11‐シス‐レチナールの全トランス‐レチナールへの異性化がどのようにして細胞表面 にあるGタンパク質に伝達されるような構造変化を引き起こすのかということに関しての 洞察を与えるものである。(KU)

増加した反応時間(Increased Response Times)

植物生態学者は、植生に対する気象変動の因果関係に注意を向けつつある。Grimeたち (p.762)は、英国の石灰岩地域の草原において、その成り立ちと種構成が異なる2箇所で気 象変動の効果について5年間の実証研究の結果を報告した。温度上昇や降雨量の異なる組 み合わせで構成される試験的状態は、初期の継続的な草原は、より低い土壌肥沃度を持つ 古いサイトより、生物量と種構成に関して気象変動から影響を受けやすいことを示してい る。人間活動によって、草原の後者のタイプは前者に徐々に置き換えつつある。そのこと は、景観全体は、初期の継続的な集落の増加に比例して、気象変動からより影響を受けや すくなることを示唆している。(TO)

時計の部品(Clock Components)

動物、菌類、そして、細菌の概日性のリズムを作っている分子時計の中心部品は入手した と思われるが、植物やラン藻類におけるキーの要素が何であるかは未だによく分かってな い。この未知の部品の中には、日照時間の長さが変化することに反応する部品も入ってい る。Schmitzたち(p. 765)は,環境からの手がかりに応じてクロックが応答することを助け るラン藻のSynechococcus elongatus中のバクテリオフィトクローム (bacteriophytochrome)を同定した。概日性入力キナーゼに対応するcikA遺伝子は、暗の 状態が続いた後、クロックをリセットするのに決定的役割をもっているように見える。植 物のArabidopisのリズム変異体による研究で、Strayer たち(p. 768)は、光入力が無くて も概日性周期を制御するTOC1遺伝子をクローン化した。この遺伝子自体が概日性の影響を 受けるフィードバックループによって制御されているので、植物が日照時間の変化に応答 するのを助ける役割を果たしている。予想されたTOC1タンパク質は、転写因子とか、2成 分シグナル伝達系とかに類似した興味ある特徴を持っている。(Ej,hE)

テロメアにおけるヘリカーゼ作用(Helicase Action at Telomeres)

染色体の端におけるDNA配列であるテロメアは、細胞の加齢と癌において基本的な役割を はたす。Zhouたち(p 771)は、酵母においてテロメアの長さの制御に関与すると以前に知 られていた5'から3'へのDNAヘリカーゼであるPif1pの作用様式を特性づけた。Pif1pは 、生体内でテロメアに関与し、これまで考えられていたように、組換えによって仲介され るテロメアの伸長を阻害するのではなく、テロメアを合成する酵素(テロメラーゼ)の抑制 によって作用する。著者の仮定は、高度に保存されている酵素であるPif1pは、二本鎖切 断のテロメラーゼ仲介修理の抑制によって遺伝の安定性を促進することである。(An)

染色分体の粘着のためのポリメラーゼ(A Polymerase for Chromatid Cohesion)

新しく複製した姉妹染色体という染色分体の粘着は、細胞周期のS期(複製期)で確立され る。この粘着は、これに続く後期で2つの推定的な娘細胞核に正確に分離されていくうえ で重要である。Wangたち(p 774;TakahashiとYanagidaによる展望記事参照)は、姉妹染色 分体の対を結合させる機構の必須の部分としてトポイソメラーゼ関係機能(Trf4)タンパク 質を同定した。さらに、Trf4は以前に未同定であったDNAポリメラーゼであることが分か ったので、姉妹染色分体の粘着とDNA複製との関連づけを与えるものである。(An)

入り込んで、働く(Moved In and At Work)

ある種の転写制御因子には、それ自身が合成された場所以外の別の細胞に移動して入り込 む特殊な能力がある。こうした動き回る因子は、彼らが採用した居場所に、目的となる標 的遺伝子を実際に見出しているのだろうか? Sessionsたちは、このたび、移動する転写 制御因子の機能を解析するために、モザイク植物を作り出した(p. 779)。花の発生の制御 に重要なある転写制御因子は、移動するだけでなく、他の細胞にある標的遺伝子に対して 直接働きかける。制御性の分子のそうした形での共有は、細胞群が協調して働き続けるた めの役に立っている可能性がある。(KF)

ミトコンドリアDNAの統合性の維持(Maintaining Mitochondrial DNA Integrity)

常染色体優性な進行性外部眼筋麻痺(adPEO)とは、メンデルの法則に従った遺伝をするが 、ミトコンドリアDNA(mtDNA)に欠失を複数もつことによっても特徴付けられる、成人にな って発症するミトコンドリアによる病気である。Kaukonenたちは、adPEOを有するファミ リのあるサブセットでは、細胞の呼吸とアポトーシスを調節する内部ミトコンドリア膜の チャネルであるアデニン・ヌクレオチド輸送体の心筋/骨格筋におけるアイソフォームを コードする核内遺伝子であるANT1に変異があることを示している(p. 782)。ANT1の酵母に おける相同体において類似の変異があると、酵母の呼吸はうまくいかなくなる。ANT1の変 異がmtDNA統合性の損失をもたらす機構は、まだ確立されていないが、この驚くべき結果 によって、核のゲノムとミトコンドリアのゲノムとの間の関係がより深く理解できるよう になる可能性がある。(KF)

細胞への侵入(Cellular Invasion)

ある種の病原性細菌は、細胞に侵入し、細胞内の空胞に居を構える。こうした細胞への侵 入は危険な戦略の代表である。というのは、宿主細胞には、リソソーム内に、侵入者に対 して攻撃を加え破壊する、破壊的酵素が一団となって存在しているからである。しかし 、そうした攻撃を回避するために、侵入を企てる細菌は、自分たちを飲み込む膜をうまく 選び改変することで、リソソームとの融合に抗する小胞を作るのである。Shinたちは、造 血細胞、この場合はマウスのマスト細胞に小窩(caveolae)が存在すること、またそれらが 大腸菌の侵入の助長において果たす役割について、証拠を示している(p. 785; また 、MulveyとHultgrenによる展望記事参照のこと)。(KF)
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