AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 21, 2000, Vol.289


同軸ケーブル中を光が駆け下る(Running Light Down Coaxial Cables)

現在の光ファイバーは、通信において非常な成功を収めてはいるが、光がファイバーの内 壁からの内部全反射によってガイドされているため、ファイバー中に鋭いねじれがあると 役に立たない場合があるという点では限界があった。また、ファイバー中を光が通過する につれて偏光はシフトするため、偏光に関する情報を伝播することが必要な応用には使い にくいものである。Ibanescu たち(p.415; 表紙を参照のこと)は、光ガイド領域が二つの 無指向性(角度と偏光に独立な)の鏡の間にサンドイッチ状に挟まれている同軸光ファイバ ーの考えを発表している。この鏡は、誘電体の内部コアと円柱状の、誘電体だけからなる 多層膜とからできている。 彼らのシミュレーションによると、そのような導波路は電気 的接合において用いられる同軸ケーブルと同様な、単一モードの横波電磁波を持続させる であろう。(Wt)

指の情報伝達(Digital Signaling)

肢の発達の近位-遠位パタニング(Proximal-distal patterning)によって、肢の末端に指 が配置される。有効な差、例えば足の親指と小指の差、を何が決定するのかはいまだに不 明瞭である。最近、DahnとFallon(p.438、およびHagmannによるニュース解説参照)のヒナ についての研究で、各指の識別は、指の原基自体(digital primordiaitself)からではな く、指の発達の初期に指の間で一時的に連続体(continuum)を形成する中胚葉によって 、指定されることが示された。こうした位置的情報は、骨形成因子タンパク質によって運 ばれるかもしれない。(TO)

原子レベルより小さい特徴を解像する(Resolving Subatomic Features)

原子という名前にもかかわらず、通常、原子間力顕微鏡(atomic force microscopeAFM)を 用いて、原子レベルの解像力を得るには、多くの努力と注意が必要である。Giessibl た ち (p.422)は、さらに一歩先に進めた。彼らは、短距離力に特に敏感なある特別の検知方 法の一つを用いて、AFMにより珪素 (111)-(7 x 7) 表面の原子より小さいレベルの特徴を 解像した。この表面に個々に吸着した原子は、プローブの先端と、吸着原子間の軌道の重 なりによって説明が可能な、ある特徴を示す。その方法は、ダングリングボンドのような 特徴に対して詳細な洞察を与える可能性がある。(Wt)

一滴ずつ(Drop by Drop)

極氷は1990年代の異常な温暖化に対し、どのように影響してきたのだろうか。最近、2つ の異なる手法が用いられ、グリーンランドの氷床の重量バランス決定が試みられた (Dahl-Jensenの展望参照)。Thomasたちは(p. 426)、1993年から1997年までの、グリーン ランド全体の氷の放出率を、高密度に配置されたGPS衛星による氷の動きの観測により見 積もった。彼らはこれらのデータと積雪率と比較しどれくらいの速度で氷床が成長するの か、あるいは、減少するのかを決定した。Krabillたちは(p. 428)、航空機によるレーザ ー高度測定により同様の見積もりを行った。これら2つの独立した手法による見積もりで 、氷床は北部と中央部ではほぼバランスしているが、海岸沿い、特に南東部で顕著、にお いては急速に薄くなっていることが分かった。この氷床の縁における急速な厚さの減少は 、氷が解けることだけで説明するには急激過ぎ、恐らくは氷の流れ運動の変化が影響を与 えているようだ。この氷の年間減少量はおよそ50立方kmであり、最近の海面上昇率の7%に 相当する。(Na)

ペルム紀の突然の終焉(A Sudden End to the Permian)

最大の大量絶滅はペルム紀の後期、およそ2億5千万年前、に起き、海洋種の90%以上と多 くの陸性の植物と動物が絶滅した。この絶滅の期間と(これが1つの出来事として起きたの か、いくつかの段階を経て起きたのかも含めて)主な原因は依然として不確かである 。Jinたちは(p. 432)、南シナ海のMeishanという地区の詳細な化石の年代分析を行った 。このデータは複数の絶滅ステップではなく、一回の急激な絶滅(数十万年の期間以内)が あったことを支持している。海洋生物の絶滅は炭素同位元素13Cの急激な減少 時期と一致しているが、この絶滅の原因は謎のままである。(Na)

種をまく(Setting Seed)

複雑な信号ネットワークは、分化時に分岐する発生していく過程で、中の細胞群と、もっ と後の組織との間に生じる境界を定める。Ferrandizたち(p 436)は、シロイヌナズナの種 子のさやを研究し、弁細胞と縁細胞を区別する信号を同定した。FRUITFULLと SHATTERPROOFという遺伝子の負の相互作用によって、さやの特定領域(裂開 (dehiscence)領域)が割れて種を遊離するように、弁の縁に沿った細長い部分の細胞が特 徴を確実に獲得することができる。裂開はFRUITFULLに制御される木化と同様に、重要な 作物学上の形質である。(An)

小胞発芽をプログラムする(Programming Vesicle Budding)

細胞内膜輸送は、ドナー膜からの経時的な小胞発芽とその後の特異的な標的膜との小胞融 合を含む。Allanたち(p 444;BrittleとWatersによる展望記事参照)は、自分の標的膜がど れかを"分っている"小胞を生成する分子機構を研究した。p115というタンパク質が小胞体 から発芽している小胞に特異的に補充されることを発見した。p115の存在は、正い標的ゴ ルジ膜に着いたことを小胞が認識することを補助し、その後の融合を許容する。(An)

オスとメスが要求を満たすとき・・・・(When Males and Females Fit the Bill)

動物における性的二形性はありふれた現象である。このことは、しばしば雌雄淘汰により 説明されており、ごくまれに生態学的要因がオスとメスの間の形態学的差異に関係づけら れているだけである。Temelesたち(p. 441;Brownによるニュース解説参照)は、セント ルシア島のカリブ島に生存するハチドリ、purple‐throated caribhummingbirdのケース を報告している。オスはメスより大きいが、しかしより小さなくちばしを持っている。オ スは一つのHericonia種からの蜜を糧としており、一方メスの方はごく近い近縁種の花を 糧としている。個々の性のくちばしの形状は糧とするHericonia種の花の形状にマッチし ている。只一種のHericonia種が存在する生育環境においては、ハリドリの両性のくちば しの形と大きさにマッチするような二つの花の形態(花のニ形性)が生じる。両性の間の 食糧競争により、資源活用の面で性的差異が生じたと考えるのが最もありうる原因である 。(KU)

二重人格的RNA(Jekyll and Hyde RNA)

RNAの分子レパートリは、その従兄弟にあたるより複雑な分子、タンパク質の機能の多く を模倣することができるという能力によって強い印象を与えつづけている。Schultesと Bartelは、このたび、タンパク質を研究している人たちによっては達成できそうにない工 学的な偉業を達成した(p. 448; また、Joyceによる展望記事参照のこと)。すなわち、異 なった酵素機能を有する、2つのまったく無関係の構造に折りたたみ得る、単一のRNAから なる「酵素」である。この分子は、配列スペース(あるいはいわゆる「中性ネットワーク 」)中で2つの無関係なリボソームが重なっている点を同定したことを利用して作られた 。このことから、進化の観点からは、RNAの機能分化はそれ自身の複製に先行することが 可能だったということになりうるのである。(KF)

知能の検証についての新しい見方(Taking a New Look at Intelligence Testing)

知能とは、それを認めるのは容易だが、記述するのは難しいものの一つに分類されるもの であろう。知能の予測(説明的であることを目的として)が可能なテストを開発しようと いうさまざまな試みが行なわれてきたが、そうしたテストやその性能の解釈については 、議論の余地がある。Duncanたちは、機能的脳イメージングを用いて、いわゆる高-gおよ び低-gテストを実施している間のニューロン活性のパターンを明らかにした(p. 457)。彼 らは、それらのパターンが、認知的スキルの複数の焦点は協調的に起用されているとする Thomsonの見方とは反して、テストの認知的成功の根底には、局所化された一般的知能因 子があるとするSpearmanの仮説をよりよく支持する、と示唆している(なお 、Sternbergによる展望記事参照のこと)。(KF)

移動性RNAを殺し屋に(Mobile RNA Targeted to Kill)

グループIIイントロンとは、二本鎖DNAの特定の標的配列を認識し、それ自身をそこに挿 入できる触媒作用を有するRNAからなる移動性の遺伝的要素である。大腸菌においては 、低効率ではあるが、イントロンをDNAの新しいサイトに挿入できるよう修飾することが 可能である。Guoたちは、生体内でのうまい選択方法を用いて、標的サイトを決定する配 列を最適化することで、イントロンを高い効率で治療上有効な遺伝子に挿入しうるように することが可能であることを示している(p. 452; また、Straussによるニュース記事参照 のこと)。標的を変えられたこのイントロンはヒト細胞中でも機能するものである。この 原理の証明により、グループIIイントロンを、遺伝子工学の分子的手段の一部として開発 する道を拓くことになる。(KF)

生育環境が性質を変える(Nurture Change Nature)

ある系統のマウスに生まれつきの行動応答がどのように固定されるのだろうか?Cabibたち (p. 463)は短期間の餌の制限後、二系統のマウスの行動を解析した。DBA/2系統のマウ スは、精神興奮剤であるアンフェタミン誘導の歩行運動に対し更に感受性となり、彼等の 以前の条件行動である空間嫌悪性が条件付けの空間好感性におきかわった。もう一つの系 統である、C57BL/6マウスは‐‐行動スペクトル面で通常反対側にあるために選定された ‐‐行動面では何等の変化も示さなかった。単純な環境操作により、近親交配系の動物の その後の行動を劇的に変化させることが出来る。(KU)

スピン液体から整列が見えてくる(Order Emerges from a Spin Liquid)

遷移金属酸化物と、他の関連あるいくつかの電子系の最近の研究によれば、より多く荷電 されているキャリアがその系に加えられるとスピン密度変調が現れることが明らかになっ てきている。このタイプの組織化が観測されるのは、今日までの結果によれば、一般的に 親化合物が不純物を添加されていない、整列された反強磁性体材料に限られていた。Xu たち(p. 419)は、類似のスピンの組織化現象が、親化合物がスピン液体で、磁気的整列が 量子ゆらぎによって妨げられているような一次元の磁気系から観測されることを明らかに している。その結果不純物が添加されたホールの周りに反強磁性的に整列された領域の小 さいポケットが現れる。(hk)

フェロペリクレースの解離(Ferropericlase Dissociation)

フェロペリクレース(Mg,Fe)Oは、下層マントルにおける重要な構成物と考えられている 。Dubrovinskyたち(p.430)は、1000ケルヴィンの高温と83ギガパスカルの高圧の下で、ダ イアモンドアンビルセルでその場X線回折をし、フェロペリクレースの構造的な特性を計 測した。彼らは、フェロペリクレースはマグネシウムに富んだ酸化物と鉄に富んだ酸化物 とに分解することを観測した。フェロペリクレースが、より軽い酸化化合物と、より重い 酸化化合物に解離することは、下層マントルの動力学的な挙動に影響を与え、その液体状 のある外核との相互作用にも影響を与えているかもしれない。(TO)

蓄えの再充填(Refilling the Stores)

Gタンパク質(GTPすなわちグアノシン5'-三リン酸と結合するタンパク質)は、さまざま な非神経性細胞の小胞エンドサイトーシスおよびエクソサイトーシスに関与する 。Takahashiたちは、急速なシナプスによる神経伝達物質遊離に対するGタンパク質の寄与 を分析した(p. 460)。彼らは、Heldのcalyx(がく、胚)にある巨大な神経末端部に、い くつかの加水分解抵抗性GTP類似体を導入した。シナプス抑制からの回復率はこれら相当 物によって有意に影響を受けた。Gタンパク質は、大量のエクソサイトーシス後のシナプ ス小胞の再充填を助けるのである。(KF)
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