AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 9, 2000, Vol.288


連結棒(Connecting Rods)

高分子複合材料における相の挙動は,特にナノの相分離系においては潜在的に非常に 多様であり、実験で得られた目的物質を同定するにはシミュレーションが利用され る。Pengたち(p.1802)は、お互い混じりあわない二成分ポリマーブレンド中に浸漬 されたナノスケールの剛直棒の挙動を研究している。そのブレンドにおいては少量 成分が棒をぬらす役目を果たしている。棒の存在により、通常は孤立している少数 成分のドメインが相互に連結したパーコレーションネットワークの中に組み込まれ る。このような効果は、ナノ棒の結合を必要とする(例えばカーボンナノチューブの ように)有機‐無機複合材料を設計する上で役立つであろう。(KU,Ok)

書くのは一度,コピーは多数(Write Once,Copy Many Times)

ナノパターニングと製作における走査プローブ方式には、大きな制約があるように 見える---つまり、1回の処理で1つのサンプルしか出来ない、即ち順次作成するこ としかできず、フォトリソグラフィ法が可能としているパラレル処理が出来ない 。HongとMirkin(p.1808)は、「浸式ペンによるナノリソグラフィ」に関してパラレ ル処理の可能性を示している。その方法により,彼らは原子間力顕微鏡のチップを用 いて金の表面に種々の有機分子の超微細のラインやドットを描いている。マスタ ーに従う7個のペンを用いて、一度に同一パターンを描くことが出来るが、これは 最大8個まで増やすことが出来る。彼らは,又別の化合物からなるラインで形成され たパターン内に幾つかの分子を入れており、このことは,パターンをより容易に書き こむことが出来ることを示している。(KU)

空の状態を探る(Probing Empty States)

高温超伝導体や巨大磁気抵抗効果材料の探査に用いられる多くの測定方法は、それ らは占有状態のみの特性の測定であるという点で限定的なものである。これらの技 術はこれらの材料について膨大な量の情報を与えてくれたにもかかわらず、非占有 状態の伝導帯の構造と電子特性については、ほとんど知られていないままである 。Hasan たち (p.1811) は、共鳴非弾性X線散乱を用いて、ある Mott 絶縁体の伝 導帯についての運動量分解された描像手法を開発し、その特性値を得た 。Ca2CuO2Cl2 に対するこれらの結果は、その ギャップに関する Hubbard モデルを支持するものである。(Wt)

南極の氷艦隊(Antarctic Ice Armadas)

北大西洋の海洋沈降物内に氷山で運ばれた岩屑が含まれていることから氷山の塊が 最終氷期間中、北半球の氷床から劇的に放出されたことを示している。Kanfoushた ちは(p. 1815)、南極の氷床が不安定になるような類似な期間があった事の証拠を提 供している。南半球の3ヶ所の深海の掘削コアサンプルによる彼らの結論は、南極で も千年程度の長さのスケールで(これは北半球と同期をしている訳ではないが)氷山 を生産していたことを明らかにした。冷い期間に起こる、これらの事象は北半球の 温かい期間に起こりやすいという相関があり、北半球と南半球の温暖化と冷却化と の間の逆位相を持つことを示唆している。(Na,Nk)

2次元反強磁性の描画(Imaging Two-Dimensional Antiferromagnetism)

極めて薄い反強磁性薄膜の挙動は、2次元極限の磁性の理解のみならず、交換バイ アス効果を利用した巨大磁気抵抗デバイスにおける応用にとっても興味深いもので ある。Heinze たち (p.1805; Scholl による展望記事を参照のこと) は、走査型ト ンネル顕微鏡にスピン極性を与えたコーティングを施す改造を行って、トンネル電 流がイメージング用チップおよび探査原子の磁化の相対的な方向に依存するように した。彼らは、この技術を用いて、単結晶タングステン表面に反強磁性的に結合し たマンガン原子の単層の磁化マップを作成した。(Wt)

太陽系の古い岩塩(Old Salts of the Solar System)

原始的隕石の中から岩塩とカリ岩塩の粒子が発見されたことは、40億年以上前に 、水分を含んだ塩水が乾燥して、蒸発残留物を形成したことを示唆している 。Whitbyたちは(p. 1819、Ottによる展望も参照)、Zag Hコンドライト隕石の岩塩結 晶とマトリックス物質のキセノン、ヨードおよびアルゴン同位体濃度を高精度の質 量分析計を用いて測定した。キセノンはヨード-129が崩壊して出来たもので、太陽 風や惑星間大気汚染などに関連する成分の無い、同位体的に純粋なキセノン-129だ った。このように、Zag隕石から発見された岩塩は、おそらく太陽系が形成された最 初の200万年間で形成され、非常に短期間で、且つ非常に早い時期に水分がなくなり 蒸発残留物が形成されたことを示している。(Na,Tk)

痛みを処理する(Processing Pain)

痛みの信号が入ってきたとき、これが意識される前に、神経系に存在する多数の機 能が痛みを処理する。過去数年間、この痛みの処理に関して、有害受容器 (nociceptor)と呼ばれる特殊な神経線維の刺激から、脳中枢での感情的な痛みが起 きる最上レベルの信号解釈までの、すべてのレベルに渡って、その根本的機構が理 解されるようになってきた。Woolf とSalter (p. 1765)は、痛みの刺激が末梢から 脊髄に移動するにつれて、痛みの感作が及ぼす細胞および分子的な観点から、その メカニズムをレビューした。Price (p. 1769)は、中枢神経系における痛み情報がど のように統合されていくかについて述べ、そして、痛み経験が、情動的、感覚的 、および、認識次元にまでどのようにその情報が翻訳されていくかについての仕組 みを示している。(Ej,hE)

分子レベルの補給線(Molecular Supply Lines)

ニューロンは長い一連のプロセスが特徴的であるが、これは情報処理プロセサーと しての機能を反映している。まず、情報は樹状突起と呼ばれている1セットのプロ セスに入力し、通常、軸索と呼ばれている1本の長い処理へと出ていく。ニューロ ンの複雑な形状は情報処理には好都合であるが、細胞にとっては、この形状を保持 し、細胞内でうまく処理しなければならないやっかいな問題を抱えている。つまり 、細胞は、微小管に沿って長い道のりをその末端まで必要とされるタンパク質を供 給するためのモーターを利用する必要がある。Setouたち(p. 1796、および表紙参 照)は、今回、樹状突起に特異的なモーターであるKIF17を見つけた。このKIF17は 、鍵となるシナプス後受容体で、あるNメチルDアスパラギン酸受容体のNR2Bサブユ ニットを含む小胞表面でタンパク質複合体と結合する働きをしている。著者たちは 、小胞膜内でCASK,MALS,およびNR2B を有する複合体中に存在するmLin-10のPDZ領域 にKIF17が結合することを見つけた。このタンパク質複合体が形成されていくことに よってNR2B受容体をシナプスのシナプス後側に運んでいくが、この場所は可塑性が 付与される場所でもあ る。(Ej,hE)

HIV-1が広まり始めた時(When HIV-1 Arose)

恐竜や古代遺跡の発見は大衆の想像力を捉えるものであるが、核酸の分析によって も、ある生命体が最初に現れた時期を明らかにすることが可能なのである。進化生 物学者の多くは、分子時計(配列の変化は時間の関数として蓄積していく)という 考え方に頼ってきたが、その根底にある仮説については、進化の速度が一定である かどうかなど、いくつかの疑問がある。Korberたちは、そうした課題に取り組み 、いくつかの異なった進化モデルを用いて、ヒト集団におけるヒト免疫不全症ウイ ルス-1型(HIV-1)流行の起源について従来より良い推定を行なった(p. 1789; また 、Hillisによる展望記事参照のこと)。誤差と信頼性限界に関する彼らによる分析は 、広い範囲の研究にとって有益であるが、とくに、最近、エイズの流行は経口ポリ オ・ワクチンの汚染されたロットから1950年代に起きたという考え方が出てきてい るので、時宜にかなったものになっている。彼らの推定によれば、エイズの流行は 1930年代に起源を有し、上記の仮説が正しそうにないことを示している。(KF)

何をしたかがわかっている(Knowing What You've Done)

認知と前頭葉前部皮質との関係は、心理学と神経科学とが出会う場の一つである 。認知神経科学における選択についてのアプローチは、作業記憶の要素を分離でき るようにした行動性課題を開発し、その課題の遂行時における脳の活性領域を画像 化することである。Stroop課題として知られる古典的なテストの改変バージョンを 用いて、MacDonaldたちはこのたび、背外側前頭葉前部皮質(ブロードマンの第9領 域)と前側帯状領域(ブロードマンの第24と第32領域)の二重解離について記述し ている(p.1835)。これら領域のうち前者は物事とその反応の記憶の基盤となってお り、後の領域は矛盾を監視し、遂行時の成績を評価しているのである。(KF)

効率の問題(A Matter of Efficiency)

情報伝達タンパク質のWntファミリは、脊椎動物および無脊椎動物におけるさまざま な胚性誘導的事態においてキーとなる役割を果たしている。そうした多様性は 、Wntの細胞表面受容体であるFrizzled (Fz)タンパク質の違いによって媒介されて いるらしい。Boutrosたちは、2種類のショウジョウバエFzタンパク質を調べ、その 双方とも同じ情報伝達経路を活性化するが、それらの効率は異なっているというこ とを発見した(p. 1825)。受容体の細胞質領域によって、その違いの大部分を説明す ることができる。受容体-リガンド親和性における違いを考慮すると、この領域はあ る種の情報伝達結果の決定において重要である可能性がある。(KF)

環境保全コスト(Conservation Costs)

熱帯林を保護することは、いつ割に合うのであろうか?マダガスカルのマソアラ国 立公園の詳細な経済性のケース・スタディにおいて、熱帯林を保護し、持続使用で きるようにする取り組みは、地域および地球規模において、意味ある経済的恩恵を 提供できることを、Kremen たち( Bonnieたちによる“展望”p. 1828頁を参照)は示 している。前者の例としては、持続的な地域社会が管理する森林業と自然環境型の 観光事業があげられ、そして地球規模では、もし森林が保全されないならば温室効 果ガスとして放出されるべき炭素が蓄積されるという面がある。しかしながら、国 レベルでは、これらの恩恵より、大規模の木材伐採搬出業の利益が優先され、そし て一般的に政策決定がなされるのは、このレベルになる。京都暫定協定は、それに もかかわらず、国レベルでの環境保全コストに対してその国に報いることによって すべてのレベルでの恩恵を確かなものにするであろう。(hk,Nk)

環状ヌクレオチドを制御(Keeping Cyclic Nucleotides in Check)

環状ヌクレオチドは、二次メッセンジャーであり、視覚や細胞増殖や分化のような 多数の生理学的過程に必要である。その濃度を厳しく制御することが必要であり 、このキー役がホスホジエステラーゼ(PDE)という治療的に重要な酵素のファミリで ある。PDEは、環状ヌクレオチドの加水分解を触媒する。Xuたち(p 1822)は、4B2Bと いうPDEの触媒作用領域の構造を1.77オングストロームに決定した。活性部位として 同定した深いポケットは、PDEファミリに共通して保存される残基を含むが、ポケッ トの底面にある2つの金属イオンが触媒作用に役割をはたすようである。活性部位に 環状アデノシン3',5'一リン酸基質をモデリングすることによって、PDEファミリに おける触媒作用機構とヌクレオチド特異性についての洞察を得た。この構造は、う っ血性心不全や喘息や炎症のような疾病の臨床的標的であるPDEに対する薬を設計す る枠組を提供する。(An)

部分的なノックアウトで勝つ(Winning with a Partial Knockout)

遺伝子ノックアウトの実験によって、代謝調節型グルタミン酸受容体サブユニット mGluR1が、発生中の小脳における余分の登上線維シナプスの除去から長期抑圧の誘 導にいたるまでの多くの現象において重要な役割をはたしていることが示された 。しかし、このノックアウト研究の一般性のため、観察した欠損は、小脳のプルキ ンエ細胞中でmGluR1受容体がなくなったために起こったのか、あるいは他の脳のニ ューロン中でmGluR1受容体がなくなったために起こったのか不明であった 。Ichiseたち(p 1832)は、プルキンエ細胞においてmGluR1が特異的に奪還された (rescued)マウスは、報告したノックアウト動物における欠損を現さないことを報告 している。誘導性条件的遺伝子奪還という技術は、他の組織型における遺伝子ノッ クアウトについての同様の質問の解決も可能にするであろう。(An)
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