AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 2, 2000, Vol.288


励起状態の結合(Coupling Excitations)

集光性は光合成においてキーとなるステップであり、無数の発色団が結合して光を 集め,そして反応中心にエネルギーを集める。Lidzeyたち(p.1620)は類似の系を研 究しており、そこでは空間的に離れた異なる有機色素分子の層が光学的なマイクロ キャビティー内に含まれている。色素の電気的励起(励起子)がマイクロキャビティ ーのフォトンモードと結合して、全部で三つの状態の混成した新たなモードを作る 。室温でエネルギー的に60meV離れているにもかかわらず、励起子間で結合してい ることが知られる。エネルギー移動に関するこのようなモデル系は、オプトエレク トロニクスデバイスにも応用されるであろう。(KU)

光駆動の液体(Light-Driven Liquids)

液体がある表面を濡らすか水滴を形成するかは部分的には表面の自由エネルギーに 依存している。市村たちは(p. 1624)、フォトクロミック性のアゾベンゼンユニット を含む化合物により表面を加工した。光誘導によりシス形-トランス形に異性化した これらのアゾベンゼン基が水滴と表面の接触角度を変える。著者は calixresocinarene 誘導体にphotochromic adobenzene 単層膜を張った表面に数ミ リ径の液滴をのせ、光パルスを非対称に照射して、表面に自由エネルギーの勾配を 作り、その液滴を動かすことに成功した。運動の方向とスピードは照射光の方向と 勾配の強さでコントロールできる。この光による表面加工したガラス面上での液体 の運動の制御はミクロな化学反応系に応用できるであろう。(Na,Nk)

銀河の形態学(Galaxy Metamorphosis)

遠方の銀河クラスターの最近の観測によると、古いクラスターは、水素原子をすで に失い、最近の星形成の証拠が見られないレンズ型銀河 (S0銀河)によって占めら れている。Quilis たち (p.1617) は、高分解能で三次元のモデルから得られた結果 を与えている。このモデルでは、S0 銀河は、高温のイオン化したクラスター内ガス 中を渦状銀河通り抜けるときに形成されうることを示している。彼らのシミュレ ーションは、衝撃波の効果や銀河ハローの粘性による剥離を含むものであるが、そ れによると、S0 銀河は天の川のような渦状銀河から1億年以内に形成される。これ らはクラスター中の銀河の形態変化を説明できる可能性がある。(Wt,Nk)

バクテリアはどうやって免疫細胞に侵入するか(How a Bacterium Invades an Immune Cell)

マダニ媒介性の細菌性感染であるhuman granulocytic ehrlichiosis (HGE)は、公衆 衛生上重要性が増してきている病気である。これはまた、ライム病をも伝染し 、HGEと併発することがある。このこととは別に、これは、好中球(neutrophil)と呼 ばれる免疫系の食細胞に侵入し生存する唯一の細菌性病原菌である。Herron たち (p.1653)は、この問題の多い病気に対する薬剤やワクチン開発に結びつきそうな分 子レベルの相互作用を発見した。この細菌はP-セレクチン(P-selectin)と呼ばれて いる細胞接着分子の模倣物を作ることができ、このP-セレクチンは細菌が宿主細胞 に接着し、侵入することを許す。著者たちは、非宿主細胞にP-セレクチン受容体を 産生させるように遺伝子操作することにより、この細菌を非宿主細胞に侵入させる ことにも成功した。(Ej,hE)

Shergotty隕石中のポスト・スティショバイト(Post-Stishovite in the Shergotty Meteorite)

火星から来ていると考えられているShergotty隕石の解析は、遠い地球へ運ばれてく るまでに繰り返えされる衝突によるダイナミックな形状変形の様々な痕跡をあらわ にしていた。 我々の惑星の相互作用と進化についての理解をより正確にし、その 複雑な起源を解明するため、この物質の鉱物学的組織の研究は重要である。El Goresy たち(p. 1632)は、単斜晶系構造を持つスティショバイトより密度の大きい 、シリカ(二酸化珪素)の別の相(ポスト・スティショバイト相)を研究し、この相 が存在し、それはさらに別のポスト・スティ ショバイトとシリカガラスと絡み合わさっていることを示した。ポスト・スティシ ョバイト相は48ギガパスカル(GPa)以上の圧力で、ステショバイトから形成され、こ の新ポストスティショバイト相は、70から85ギガパスカル(Gpa)の間で安定である 。このような高圧は、約30ギガパスカルのピーク衝撃圧力を示唆している Shergotty隕石に関する他の観察とは矛盾している。40ギガパスカルというような低 いピーク圧力による準安定性反応によって、複数のポスト・スティショバイト相が 形成されるのかもしれない。このように、Shergotty隕石は、それほど高くない中間 的圧力範囲の衝撃を受けたのかもしれない。(hk,Og,Nk,Tk)

鉄の振動(Iron Vibrations)

地球の核は大半が六方最密充填構造をもつ鉄(hcp鉄: hexagonal close-packed iron)により構成されている、と考えられている。コアの地震特性を説明するために 、実験研究者たちと理論家たちは高圧と高温下におけるhcp鉄の弾性特性の推定を試 みていたが、未だ矛盾が残っている。Merkelたちは(p. 1626)、バックグラウンド発 光と散乱によってラマンスペクトルが不明瞭になることを回避するために、非常に 純度の高いダイアモンドアンビルを用い、150ギガパスカルまでの高圧下で、hcp鉄 のラマン活性モードを測定した。彼らの測定結果によると、核の条件下では剪断 (横)波の異方性はおよそ35%ほどになるはずであり、地球物理学者たちに、核を通過 する地震波の変化を反映した、構造的な変化と化学的な変化を区別する有用なパラ メータを提供する。(Na,Nk,Tk)

花の資格(Flowers Empowered)

栄養生長から開花への移行についてより理解を深めるために、Samachたちは、日照 時間が長くなるのに応じてArabidopisの開花を促進する遺伝子CONSTANS(CO)によっ て直接的に調節されている遺伝子を調べた(p. 1613; また、DevlinとKayによる展望 記事参照のこと)。条件を変えられる過剰発現システムを用いることで、直接COによ って調節されている4つの遺伝子が同定できた。これら4つのうち、FTとSOC1は 、COとFLCの活性のバランスによって直接調節されている。このFLCは、春化応答の 一部に関係するものである。それ以外の2つの遺伝子は、茎と花の発生のパターンに 影響を与えてるものである。こうして、調節性経路のネットワークの一つが、花の 構造の発生を促進するだけでなく、日長や寒さへの応答性、植物の年齢などの情報 を統合して、開花開始をいつにするか、発生についての究極の決定を行なっている ことが明らかにされたのである。(KF)

幹細胞の秘密(Stem Cell Secrets)

明白な表現型の欠如にもかかわらず、幹細胞は多くの別のタイプの細胞を発生させ ることが出来る。二つのレポートの主題は、幹細胞がなりうる細胞のタイプ、及び 幹細胞がどの様に形質変換していくのかという幾つかの遺伝的洞察に関してである 。最近の解析によると、幹細胞は元の幹細胞を入手した組織とは遥かに程遠いタイ プの細胞を発生させることを示している。 Clarkeたち(p.1660;表紙、及び Vogelによるニュース解説参照)は、幹細胞多重潜在性の限界に関して報告している 。単離されたオトナの幹細胞を胚性幹細胞との共培養か,或いは初期胚内培養によっ て、より多くの胚性環境を経験する機会を与えると、幹細胞は予期した以上の発生 の多様性を示す。神経幹細胞が、以前から知られている幾つかの結果と同様に筋肉 や肝臓の細胞を発生させた。このように、オトナの幹細胞は、今まで考えられた以 上により大きな可能性と、より大きな共通性を持っている。Phillipsたち (p.1635)は、造血幹細胞の分子的表現型に関する徹底的な説明を与えている。おお ざっぱに見て、同定された転写物の半分が既知のタンパク質に関係しており、そし て細胞情報伝達、RNA合成及び細胞代謝の部類が代表的なものである。そのデータベ ースは更なる研究のための多数の興味ある発現のプロファイルを与えている。その ようなデータの詳細がインタラクティブWebsiteに示されている。(KU)

RNAのレパートリに追加(Adding to RNA's Repertoire)

生物学におけるRNAの役割はまだ拡大しているが、RNAが翻訳において果たしている と元来認識されていた役割には多数の酵素の機能を含んでいる。Pelusoたち(p 1640)は、シグナル識別粒子(SRP)の4.5SRNA成分は、グアノシントリホスファターゼ FfhとFtsYの会合と解離の両方を促進することを示している。FfhはSRPのタンパク質 成分であり、FtsYはSRPの受容体のタンパク質成分である。RNAの一部がSRPによって 認識されているシグナル配列と直接に相互作用すると思われているため、以上の結 果は、相互作用のひとつの結果がSRPとその受容体の結合の制御である可能性が高ま っている。この制御は、タンパク質とタンパク質との相互作用がアロステリックな 制御を仲介することと同様である。(An)

複製は一発で(Replication: A One-Shot Deal)

すべての生物体にとって、ゲノム複製の失敗が深刻な損傷を引き起こす可能性があ るため、ゲノム複製の制御が最も重要である。最も基本的な要求は、細胞分裂周期 毎にゲノムの新しいコピーがひとつだけできるのを保証することであろう。Labibた ち(p1643)は、酵母(S. cerevisiae)におけるいわゆるミニ染色体維持(MCM)の6のタ ンパク質は、染色体の無限複製を防ぐ中心役割をはたすことを示している。MCMタン パク質は、複製の開始に加え、新しい遺伝子青写真の連続合成にとって絶対に決定 的であることが明確となった。このように、複製時にMCMタンパク質をDNAに再び負 荷することを防止することによって、細胞は、ゲノム複製をひとつしか完了させな いことを保証する。(An)

コレステロールはどのようにして放線菌の侵入を助けるか(How Cholesterol Aids Mycobacterial Invasion)

結核菌などを含む放線菌類は、細胞に侵入し、その後宿主細胞中の特別に改変され た液胞中で増殖しなければならない。GatfieldとPietersは、病原体の侵入機構を調 べ、放線菌の侵入とコロニー形成が成功するためには、宿主マクロファージの細胞 膜にコレステロールが必要となるという驚くべき事実を発見した(p. 1647)。膜のコ レステロールは侵入した放線菌の周囲に蓄積し、侵入した生物を宿主細胞による細 胞内消化から保護する液胞を形成するのに重要な役割を果たしているらしい。(KF)

鉄分を保持できる(You Can Keep Your Iron)

鉄分は細菌や病原体のほとんど全てにとって必須の栄養分である。Poseyと Gherardini(p.1651)はライム病を引き起こすスピロヘータ、Borrelia burgdorferi、が要求する鉄分について調べ、その生物は、鉄を含有するいかなるタ ンパク質をも欠如していることを発見した。このような生物では、鉄分の代りに 、その細菌の金属酵素システムはマンガンを使うようになる。こうして、このヒト 病原体は、寄生主の自然防御システム、即ち寄生主の環境における遊離鉄の著しい 欠如、の1つを迂回することができる。(TO)

認知領域の境界を見つける(Demarcating Cognition)

感覚的モダリティや運動的モダリティと比較すると、認知は、ヒトの脳のより前の 部分(anterior portions)を使う。これらの領域は、はっきりとした機能的任務を果 たしている感覚性皮質や運動性皮質に比べて、あまりよく定義されていない。なぜ なら、認知タスクは複合した能力を含んでおり、またそれはこうした能力を別々に 分けたタスクとすることが困難だからである。Roweたち(p.1656)は、ワーキングメ モリ内にアイテムを維持することと、応答時にこれらのアイテムの中から選択する ことを分離したタスクを設計した。彼らは、背外側前頭葉前部の皮質の46の領域を 選択段階と関連付けることが出来、そして8の領域を維持機能と関連付けることが出 来た。(TO)

タンパク質の柔軟性を数量化する(Quantifying Protein Softness)

タンパク質は、弱い相互作用(水素結合や塩橋、ファンデルワールス力など)の集 合が、酵素の触媒作用や立体配置変化を可能にするほどの柔軟性を保つ一方で 、X線結晶学から明らかになった正確な3次元構造を作りあげるのに役立っているこ との驚くべき例である。Zaccaiは、2つのタンパク質、ミオグロビンとバクテリロド プシンの弾性ひずみエネルギーを、中性子散乱を用いてさまざまな条件下で測定す る方法の最新の進展についてレビューしている(p. 1604)。中性子散乱は、結晶性の 試料が不要であるという利点があり、タンパク質の特定の領域にスポットライトを 当てる特異的重水素化と組み合わせて用いることができる。(KF)
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