AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 19, 2000, Vol.288


深層から上昇する(Up from the Deep)

マントルの深層から得られるサンプルは、マントルの組成と形成過程の直接的な証 拠を提供する。殆どのサンプルは火山爆発で持ち上げられたり、150Kmまでの深さの 沈込み帯から回収されるダイアモンドと岩の断片からなる包有物として知られるも のである。最も深層から得られたサンプルは、恐らく下部マントル層(深度660km以 上)からのもので、ダイアモンドとダイアモンドが含まれているか変質した包有物で 代表される。Collersonたちは(p. 1215)、南西太平洋マレータ島の470km以上の深さ から包有物が地表まで持ち上げられた可能性を示す証拠について議論している。こ れらの包有物の鉱物集合は下部マントルと上部マントル間の遷移相を表していると 考えられているメジャーライト、および、ダイアモンドや他の相を含んでいる 。(Na,Og,Nk)

クローズアップにポーズをとるイオ(Io Poses for a Close-Up)

ガリレオ探査機は1999年の終わりから2000年の初めにかけてイオに対して3回接近し て観測ミッションを終了した。5つのレポートがこのミッションで行われた高解像度 観測とハッブル宇宙望遠鏡(HST: Hubble Space Telescope)によるいくつかの観測 、およびイオで今日も継続している火山活動についての新しい見識について記述し ている(表紙参照)。McEwenたちは(p. 1193)、画素あたりの解像度が5mから500mの 、溶岩湖や、溶岩の噴出で形成されたカーテン、火山活動というより重力で押しつ ぶされたと思われる奇妙な形をした山の画像などを示している。彼らは、活動的な 火山活動は、イオウを含む鮮やかな色の流れがいくつか見られているけれども、粘 性の高いイオウマグマというより液体性の珪酸塩マグマに関連している、と結論つ けている。Spencerたちの示した、望遠写真偏光測光計-放射計のデータ(p. 1198)と 、Lopes-Gautierたちの近赤外マッピングデータ(p. 1201)、はカルデラの底が相対 的に非常に低温であり、活動的な火山を囲む赤みをおびた堆積物は外来性のイオウ のチリ堆積物(S3やS4のようなより重合性の高い種類)であることを示唆 している。SpencerたちによるHSTの観測(p. 1208)、はPeleのプルーム中にガス状の S2が存在する証拠を提供している。SO2とS2の 割合の見積りから推測すると、珪酸塩マグマは地球と同様のフュガシティーにより 緩衝されている可能性があることを示している。最後にKiefferたちは(p. 1204)、20年間で75kmから95km移動したPrometheusプルームの移動モデルを作成して いる。彼らは、溶岩の流れはイオウを豊富に含む雪原の上を移動し、その種類のイ オウの気化を増長させたことを示唆している。(Na,Og,Tk,Nk)

ナノチューブのジッパーを締める(Zipping Up Nanotubes)

理論的な研究によると、二つの単壁ナノチューブは、合体してより直径の大きい一 つのナノチューブになることがあり得ることが示唆されている。しかし、このよう な過程に対する直接的実験証拠はこれまで欠落していた。Terrones たち (p.1226) は、高分解能透過型電子顕微鏡を用いて、その合体過程を捉えた。彼らは、また 、分子動力学およびモンテカルロシミュレーションにより合体過程を研究した。そ して、隣接チューブ中の空格子点により引き起こされたジッパー状のメカニズムが 、最終的にはより大径のナノチューブ形成に至る大規模な再組織化の原因であるこ とを示唆している。(Wt)

DNA構造計算におけるヘアピンカーブの扱い(A Hairpin Turn for DNA Computing)

DNA鎖の構造を計算で求めることが可能になってきたが、その理由は、多量の分子構 造の蓄積の中で特定のハイブリダイズの正否が、論理的演算によって表現可能とな ったからである。問題がもっと複雑になると(例えば、より広範囲の探索)、必要 となるDNA分子の数や、ハイブリダイズに必要な時間が急速に増加し、このような手 法の適用限界が出現するように見える。Sakamoto たち(p. 1223; Choによるニュ ース解説も参照)は、別の、より効率的な実装方法を示した。不正確な解は一本鎖 DNA分子配列の中で、「ヘアピン」を形成するとか、内部二本鎖領域を形成するよう に、配列がコード化される。明白な問題ではない探索課題に対しては、ヘアピン DNAをほどいたり、正常な鎖を増幅することによって正しい解が得られる。(Ej,hE)

乱流を滑らかにする(Smoothing Out Turbulence)

乱流は、例外なく、流体を通しての物体の動きを妨げる。典型的には、流状痕と渦 は、境界近傍で形成される。Du と Karniadakis (p.1230) は、モデルと実験システ ムを用いて、主流に対して横断する方向への進行波を形成することにより、このよ うな渦を抑止する方法を示している。実際、彼らは、渦抑制は、横断進行波を発生 させるための電磁振動板のアレイや、あるいは、表面を覆うその他の巧妙に作られ た皮膜よって達成されることを示している。(Wt,Nk)

性なしでの生きのびる(Surviving Without Sex)

有性生殖とそれによる遺伝子の交換は、長期にわたる進化がうまくいくためには必 須であると考えられているが、まったく遺伝子の交換を行なわずに持続している生 物が少数ながらあることは、長い間の疑問であった。淡水に棲息している半透明の 虫のような動物であるbdelloid rotifer(ワムシ)は、すべてがメスで、単為生殖 で繁殖し、オスは見つかったことがなかった。この生物が、検知できないレベルで 生殖活動にかかわっているのではないか、という疑いも今やもちだされることはな い。Mark WelchとMeselsonは、代表的なワムシの種から得たDNA配列を解析し、無性 種のそれぞれの個体間には対立形質の配列の分岐が非常に広範に存在することを見 出した(p. 1211; また、JudsonとNormarkによる展望記事参照のこと)。分岐のレベ ルは、bdelloidが何百万年も性に染まっていなかったという見方と整合している 。この結果によって、有性生殖の謎はさらに深まることとなった。(KF,Nk)

クラス意識するTBP(Class-Conscious TBPs)

激烈な研究の数年にもかかわらず、真核生物の細胞における遺伝子の正確な転写を 確実にするタンパク質機構に関する疑問はまだ多く残っている。この疑問のひとつ は、この機構のキー部分のひとつであるTBP(TATA結合タンパク質)が転写を活性化す るために、TAF(TBP関与因子)というタンパク質の補助をいつも必要とするかという ことである。2つの報告は、酵母細胞における染色質免疫沈降の研究から、遺伝子の 全てではなく、遺伝子のいくつかだけの転写にTAFが必要である証拠を発表している 。Kurasたち(p 1244)は、TBPが2つの別の転写的な活性型として存在しており、ひと つはTAFに関与し、もうひとつはTAFに関与しないが、この2つの型はプロモータ選択 的結合を表すことを示している。Liたち(p 1242)は、遺伝子プロモータの2つのクラ スを記述しているが、ひとつはTAFの非存在下でTBPを漸加し、もうひとつはTBPおよ びTAFを漸加する。この結果は、真核生物の遺伝子プロモータにおけるTBP構築につ いての従来の考え方に異議を唱えている。(An)

いつも一歩先に(Staying a Step Ahead)

嚢胞性線維症(CF)の患者は、肺に停滞する肥厚型の粘液を生成することによって 、緑膿菌という遍在性細菌の慢性コロニー形成に対して非常に感受性になる。以前 の試験管内研究では、状況変化に緑膿菌が非常に高い適応性を示すことを示した 。Oliverたち(p 1251;RaineyとMoxonによる展望記事参照)は、CF患者由来のこの細 菌から得た天然の単離物は、高頻度の「変異誘発」表現型を表すだけではなく、こ の変異誘発が高レベルの抗生物質耐性も表すことを示している。異常なことに、変 異誘発が野生型に戻れず、集団中に固定され、CF中で生き残るようであり、これは 、患者に投与した多くの抗生物質によって絶えず淘汰されたためであろう。自然発 生の状況で緑膿菌が自分の進化を促進できるというニュースは、臨床科学者と進化 生物学者に有意な挑戦を与える。(An)

シナプスの変化(Synaptic Modifications)

海馬においては、錐体神経が、何千ものシナプスを介して複数の興奮性刺激を受け 入れている。刺激の後に、シナプス後細胞における翻訳機構の蓄積が観察されてき たが、その機能はいまだによくわかっていない。Huberたちは、刺激に伴って生じる シナプスの強さの変化の形成のために、局在化したタンパク質合成が果たしている 役割を検証した(p. 1254)。彼らは、シナプス後細胞におけるタンパク質合成は数分 のうちにシナプス伝達を修正して、シナプス接触の長期抑圧を形成することを発見 した。この知見は、情報の貯蔵と記憶に関する細胞機構に関して大きな意味をもつ ものである。(KF)

スクレイピー戦略 (Scrapie Strategy)

スクレイピーは異常に折りたたまれた、感染形のプリオンタンパク質によって運ば れ、やがてそれまで正常なプリオンタンパク質分子を異常形に誘発してヒツジやマ ウス,他の動物に病を引き起こす。動物が感染すると、脾臓中で異常プリオンが複 製され、そしてその後無傷の免疫系を必要とするプロセスで中枢神経系へ移動する 。Montrasioたち(p.1257)は、樹状細胞がプリオンの複製や神経系侵入に必要なキ ーとなる細胞要素であることを示している。彼らは機能的な樹状細胞の形成を抑制 する可溶性のリンホトキシン-β受容体を注入することにより、脾臓中における抗原 提示細胞である濾胞樹状細胞を除去した。スクレイピーの臨床過程とvCJD(ヒトで見 出され、そしておそらくウシ海面状脳症に由来する新たなJacob-Creutzfeld病の変 異体)の間の類似性により、リンホトキシン‐β受容体系の阻害がヒト病の進展を遅 くするであろうことを示唆している。(KU)

複雑な波の伝達を観察する(Observing Complex Wave Propagation)

地震波が堆積盆地内で伝達する様子をモデル化することは困難であったが、それは 地震と地殻構造の幾何学的配置に依存するからである。Koketsu と Kikuchi (p.1237) は、日本の関東平野の周辺に配置された384個の計測器を使い、マグニチ ュード5.7の地震が発生した地震波による地面の強い動きを観測し、地震波の伝達を モデル化した。彼らは、平野内の低速進行波と周辺の山地で反射された高速進行波 との相互作用で生じた屈折波が形成されること、および、これが平野の周辺に対し て斜め方向に進行することを見つけた。以前は知られていなかったこの屈折波によ って、観測された地面の強い動きが説明されるとともに、将来、どの地域に最大強 度の地面の動きが生じるかの予測に役立つであろう。(Ej,Og)

すべてのCuprate (CuO2)にストライプになる訳ではない(Not All Cuprates Earn Their Stripes)

ドープされたペロヴスカイト(perovskite)中の高温超伝導のメカニズムを理解する ことに多大な努力が払われてきた。ストロンチウムをドープしたランタン銅塩 (cuprate)についての研究から、ストライプ構造、すなわち、スピンの整列相が、超 伝導開始近辺に存在することが分かった。多くの人が同意しているところでは 、cuprate(CuO2)レーヤーに伝導状態が押し込められており、すべての cuprate物質において超伝導が生じるためにはストライプ相がその要因になっている のではないか、と議論されてきた。Bourges たち(p. 1234)は、もう1つの高温超伝 導物質であるイットリウムバリウム酸化銅の高分解能の中性子散乱の研究から、こ の化合物においては、ストライプは超伝導開始の要件ではないこと示唆している 。この結果から、ストライプは高温超伝導の一般的特徴でもないし推進力にもなら ないことを示唆している。(Ej,hE)

体型プランに従って(All According to Body Plan)

近世に絶滅した動物(modern and extinct animals)と,すでに絶滅した動物の骨格 形状には際立って限定されたスタイルの範囲があ る。初期の後世動物(metazoans)によって利用されたデザインの可能な選択において 、デザインの範囲が理論的な形態空間(morphospace)の中で広がっていく進み具合は どの程度であったのか?Thomasたち(p.1239)は、カンブリアバージェス頁岩の動物 相の研究から、潜在的なデザインの数は、分類群の数に比例して急激に増加するこ と、そして種族内での多様性よりも急速に増加することを示した。彼らは、進化の 歴史の中では比較的短い期間(1500万年)で、可能なデザインの4/5が選択されたと推 定した。(TO,Og)

ブタのお話 (A Pig Tale)

ブタにおける優性RN‐変異により、骨格筋にグリコーゲンの蓄積をもたらす 。RN‐ブタは大きく成長するが、この動物の肉からは加工ハムが低収量しか得られ ず、それゆえこの特質は経済的には好ましいものではない。位置クローニング戦略 によって、Milanたち(p.1248)は、このRN‐変異がPRKAG3遺伝子で生じていることを 示している。この遺伝子は、アデノシン一リン酸を活性化するタンパク質キナーゼ (AMPK)の調節サブユニットの筋肉‐特異的アイソフォームをコード化している。こ れらの結果により、AMPKがエネルギー代謝で決定的な役割を果たしていることを示 している。AMPKの信号伝達経路の更なる解析によって、筋肉におけるグリコーゲン の貯蔵欠陥と関連した病である糖尿病タイプ\266の病原性に関しての洞察が得られ るであろう。(KU)

ヒトのαβT細胞受容体の多様性(Diversity of Human alpha beta T Cell Receptors)

Arstilaたちは、ヒトのT細胞受容体(TCR)のレパートリの多様性の下限として 、2.5かける10の7乗個の異なりTCRがあると推定した(10月29日号 p. 958の報告) 。彼らは、上限は「10の6乗個あるβ鎖がそれぞれペアにしうるα鎖の異なりの数 」によっていると主張し、各β鎖には、平均で、100個のα鎖がペアになりうると示 唆している。これはおよそ10の8乗個のαβの異なり組み合わせが上限になることを 意味しているとしつつ、Kes,mirたちは、同じβ鎖が反復して現れることがあり、そ のたびに異なる100個のα鎖による集合からの選択になるので、実際の上限はかなり 高くなる可能性があるとコメントしている。このことから、Kes,mirたちは、TCRの 多様性の上限は10の11乗、つまり「未処置のレパートリ中のほとんどすべてのT細胞 が独自のTCRをもつことができるような」数である、と計算している。Arstilaたち は、Kes,mirたちによる計算法はナイーブなT細胞の代謝回転に関する誤った仮定に 基づいている可能性があり、細胞周期の長さや抗原特異性T細胞先駆物質の頻度に関 するデータを用いたArstilaたちのモデルより適合性が低いと応じている。彼らは 、「Kes,mirたちが仮定している現象は原理的には可能だが多様性全体に対してはほ とんど影響しない」と結論付けている。これらコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/288/5469/1135a で読むことができる。(KF)
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