AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 21, 2000, Vol.288


空気を洗浄する(Clearing the Air)

大気のラジカルなオキシダントである水酸基(OH)の量と分布は予測が困難であるが 、しかしOHにより酸化された人為的な汚染物質、メチルクロロフォルム (CH3CCl3)の濃度は容易に計測ができる。ところが CH3CCl3の放出は過去10年間で劇的に減少した結果 、CH3CCl3の分布から相対的なOHの量と分布を見積ることが できる。Montzkaたち(p.500)は、1997年から1999年まで、地球全域の10個所の遠隔 地でCH3CCl3の濃度を計測し、OHの緯度に対する相対的分布 を見積ると同時に、より正確なCH3CCl3の収支を明らかにし た。(TO)

進化の鼓動(The Heartbeat of Evolution)

最近の華々しい化石の発見は、幾つかの重要な恐竜の柔組織について、情報を与え てくれた。こうした発見は、恐竜の行動様式や生理機能について推論を進めること ができ、骨格の証拠による発見だけよりも、より進化の関係の完全な図式を与えて くれる。Fisherたち(p.503;Morrellによるニュース記事参照)は、コンピュータ処理 によるX線断層撮影法を用いて、鳥盤目の恐竜の心臓の化石を調べた。その心臓には 4つの小室があり、鳥類や哺乳類と類似した配置を持っていた。しかし それらは他 の多くの爬虫類とは明らかに違っていた。哺乳類や鳥類、今発見された恐竜の構造 を持つこの心臓は、恐竜が高い代謝率であったことにむすびつくかもしれない 。(TO)

ナノチューブ伝導性(Nanotube Conductivity)

単一壁カーボンナノチューブ(SWNT)が、金属的(M)か半導体的(S)かは、吸着種の存 在と同様に、試料が一般に両タイプの混合物を含んでいるかどうか、それらの直径 やキラリティに依存している。そして、。Fuhrer たち(p.494) は、M とM、Sと Sへ 、MとSの結合を形成する3つのタイプの接合のコンダクタンスを測定した。そして 、形成された他の接合の効果を除去できる3接点測定を行った。Mと M、Sと Sの接 合は、両方とも高いコンダクタンスを示す。彼らは、この理由としてナノチューブ 間の強い接合力が生じると考えている。M と Sの接合は、ショットキー障壁を形成 する。これを用いて、著者たちは、金属性ナノチューブ上の電位によって制御され る3端子整流器を構成した。Tang たち(p.492) は、SWNTの束を、炭素13の核磁気共 鳴を用いて研究した。そして、核スピン格子緩和時間は、金属性ナノチューブに対 しては非常に短いことを見いだした。金属性ナノチューブのフェルミレベルにおけ る状態密度は、ナノチューブの直径とともに減少するのであるが、これらのデータ は、この状態密度を決定するのに用いられる。(Wt,Na)

自己免疫性糖尿病の構造による手掛かり(Structural Clues in Autoimmune Diabetes)

自己免疫疾患であるインシュリン依存性 糖尿病(IDDM)への感受性は、特異的主要組 織適合複合体 クラス II 対立遺伝子における突然変異と関係している。Corper た ち(p. 505)は、自己抗原ペプチドに結合したマウスの 対立遺伝子 (I-Ag7)の構造 を確定した。ペプチドに結合する溝は、病気への感受性のキー因子となる突然変異 領域に広がっている。従って、I-Ag7は、他のクラスII分子より幾分複雑にからみあ っている。自己免疫の感受性は、新規なペプチドのサブセットに結合するI-Ag7の能 力とおそらく関係しているということを、著者らは示唆している。彼らの結果は 、IDDMがI-Ag7の不安定さとリンクしているという別の理論を支持していない。(hk)

大ヒマラヤの岩石(Greater Himalayan Rocks)

インドとユーラシア大陸がぶつかり合った時、インド大陸の岩石はユーラシア大陸 の岩石の下に沈みこみ、厚く非常に変形した岩石、すなわち一連の大ヒマラヤ層を 形成した。を形成した。それはインド変成堆積岩であり、一連の小ヒマラヤ層の上 にのし上げられている。DeCellesたちは(p. 497)、両方の岩石群から採取したジル コン粒子をウラン-鉛年代測定法で測定し、大ヒマラヤ層岩石群の方が古く、岩石は 衝突以前に上昇していたことが分かった。これらの結果は、インド大陸のかなりの 範囲がチベット高原の下に沈む断層であり、この重大な衝突の形成に関する従来の 理解を修正する必要があることを示している。(Na,Nk,Tk)

目に注目する(Eyes About)

1977年にギリシャのVerginaにある墓が発見されたとき、当初はアレキサンダー大王 の父親であるマケドニアのフィリップII世王のものと考えられていた。人骨の正し い鑑定は、墓の中で発見された多くの工芸品の年代や場所を同定するのに大きな助 けとなるはずである。Bartsiokasは(p. 511、Goenigのニュース解説も参照)、特に 人骨の眼窩を中心に再鑑定し、フィリップII世が死ぬ18年前に煩ったという顕著な 傷の証拠を見つけることが出来なかった。従って、この人骨はフィリップII世のも のではなく、アレキサンダー大王の異母兄弟のフィリップIII世王、つまり Arrhidaeusのものである可能性がより高い。(Na,Nk)

時をもたらす遺伝子(A Gene Whose Time Has Come)

1998年に、遺伝的に変化した概日周期を持つシリアンハムスターがtauと呼ばれる 半優性変異を持っていることが示され、概日リズムに関する遺伝的理解の解明に役 立った。更なる研究は、主にマウスに依存していたが、しかし新しいゲノム手法に より、ハムスターを用いてこの変異を詳細に研究することが可能である。Lowreyた ち(p.483:Youngによる展望参照)は、ハムスターのtau遺伝子がカゼインキナーゼ 1イプシロン(CK1ε)を発現することを見出した。彼らは一個のヌクレオチドの置換 がどのようにしてキナーゼ活性の変化を導くのかを示し、そしてその結果としてよ り短い概日周期に関して説明している。ショウジョウバエにおけるCK1εの相同体 ,ダブルータイムは計時に関する不可欠の部分であることが知られている。(KU)

ミューテーター細胞を捕らえる(Capturing a Mutator Cell)

正常な細胞が癌細胞に変換するには、超変異性表現型の獲得が含まれていると考え られており、そこでは細胞が高い頻度で変異を蓄積し始める。このような超変異性 が、悪性への変換前に正常な細胞中で生じているのかどうか不明であった 。Finetteたち(p.514)は、標準的化学療法用薬品で治療されていた急性のリンパ性 白血病患者からの非腫瘍性T細胞における変異の頻度を研究した。化学療法はこの ようなT細胞において変異速度の著しい増加を引き起こし、そして超変異性表現型を 持つ細胞が選択的に増え続けていることが明らかになった。それ自身悪性でなくて も、このような超変異性の細胞は癌を引き起こす変異に導くような初期事象を研究 するための重要な道具となるであろう。(KU)

リボソームのプロセシング(Ribosomal Processing)

真核生物において、リボソームRNA (rRNA)は、通常小さな核小体のRNA(snoRNA)に導 かれ、snoRNAは核小体中の標的rRNAと対を作る。Omerたち(p. 517)は、snoRNAの相 同体は、アーキア(始原菌; 古細菌)の両分岐種を代表する生物中に存在するが、細菌のよ うに核小体を欠如することを示した。アーキアの一種であるSulfolobus solfataricusはメチル化されたrRNAを含んでいることが知られているが、著者たち はこの配列情報をS. acidocaldariusからsno-様RNAをクローン化するために利用し た。ゲノムのデータベースを探索した結果、他のアーキア中でもsno-様RNAが存在す ることが示された。これらの結果から、この型のrRNAプロセシングは、アーキアと 真核細胞との枝分かれ以前に生じていたことを示唆している。(Ej,hE)

抗原プロセシングの選り分け(Sorting Out Antigen Processing)

樹状細胞は、クラスII主要組織適合複合体(MHC II)タンパク質を経由して、抗原を T細胞にプロセス・提示することに特化している。抗原は未成熟な樹状細胞に入り 、リソソームのMIIC小区画に移動するが、CIIVと呼ばれる、まだ機能が未確定の非 リソソーム小区画にもたまに見られる。Turley たち(p. 522)は、樹状細胞が成熟と リンパ節への移動を促すシグナルを受け取ったとき、ペプチド-MHC II複合体は MIICからCIIVへと移動することを報告している。T細胞上の同時刺激性受容体のリガ ンドである他のタンパク質は保持していくが、可溶性タンパク質やリソソームマ ーカーは後に残る。この高度に特異化した選択機能が、樹状細胞表面で抗原や、同 時刺激性分子のマイクロドメインをあらかじめ組み立てておくことを可能にしてい る。このプロセスが、T細胞活性化の初期段階である、抗原提示細胞とT細胞の間の 免疫学的なシナプス形成を促進しているのであろう。(Ej,hE)

もつれた舌(Tongue-Tied?)

語の音とその意味との間の対応は恣意的である。MacNeilageとDavisは、さまざまな 言語における、さまざまなグループを対象に、大量データの分析を行ない、音節内 の子音と母音の組み合わせが非一様分布をなしていることを見出した(p. 527;また 、Lockeによる展望記事参照のこと)。彼らは、これについて、生体力学上の制約に 基づく「フレーム-内容(frame-content)」による説明を与え、その分析を音節間の 組み合わせにも拡張している。ここで、唇-舌頂子音の使用が期待されるより高頻度 なのは、祖先言語のなごりを表すものとして仮定されているプロト単語のコーパス のためだとされている。(KF)

推論における一貫性の欠如(Inconsistency in Reasoning)

われわれは、自分のもっている合理的に形成されたとおぼしい世界観に対して、新 しい事実をどのようにして取り込んでいるのだろう。われわれは、前提が真であれ ば、それが肯定的なものか否定的なものかはともかく、その前提からメンタル・モ デルをつくることによって推論する、とJohnson-Lairdたちは示唆している (p.531)。偽の前提を使わない、この資源節約的なやり方は、錯覚に基づく一貫性と いう、予測できる実例を導くことになりかねないのだが、これは2つの行動実験によ って経験的に確認されている。(KF)

ALS-連結SOD1変異体の毒性(Toxicity of ALS-Linked SOD1 Mutants)

培養された運動性ニューロンの研究結果を詳らかにする中で、Estevezたちは、抗酸 化タンパク質の一つであるスーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)への亜鉛の取り込 みの失敗は、一酸化窒素などの「酸化機構によって運動性ニューロンが培地で死ぬ きっかけに十分なりうる」と結論付けている(12月24日号の報告p. 2498)。そうした 機構は、彼らによれば、散発性かつ家族性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)にも関与して いる可能性がある。Williamsonたちは、亜鉛が不足したSODと結果としてのニトロ化 を運動性ニューロンの病気に結びつけるEstevezたちの仮説は生体内試験では支持さ れなかったと論じ、Estevezたちによって出されている証拠は、「試験管内では説得 力があるが、運動性ニューロン死の生体内経路にはほとんど関係していない可能性 がある」とコメントしている。Beckmanたちは、Williamsonたちによって提起された ポイントのいくつかは「実際にわれわれが提案した機構を支持する可能性がある 」が、その他の点はさらなる研究が必要であると応じている。「Williamsonたちに よって提起された課題は...」とBeckmanたちは述べ、「ヒトの組織や遺伝子組換え マウス、 ニューロンの培養モデル、さらには試験管内での生化学などいろいろな手段を組み 合わせたアプローチの必要性を強調している」と結論を出している。これらコメン トの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/288/5465/399a で読むことができる。(KF)
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