AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 10, 2000, Vol.287


酸性テストを生き残る(Surviving the Acid Test)

バクテリアとアーキア(始原菌; 古細菌)は、極限的環境中にますます見いだされている 。この環境の中でバクテリアや始原菌、しばしば、化学反応において重要な役割を 演じている。Edwards たち(p.1796; 表紙と Pennisi による解説記事を参照のこと) は、低pH(ほとんど0) で繁茂するある始原菌について記している。この始原菌は金 属を流動化し、酸性の鉱山の排水路を特徴づける酸性の地下水をもたらすという点 で重要と思われる。その生物は外部細胞壁を欠いており、露出した細胞膜を有して いる。これは、California の Iron Mountain の 酸を生成する場所で優勢であるが 、表面下の他の場所でも広範囲に広がっている可能性がある。(Wt)

太陽の反対側(The Other Sunny Side)

地球から太陽を直接観測できるのは、いつも近い方の側である。太陽が自転し、結 果として全ての面が観測可能になるが、反対側の遠隔イメージングが出来るように なれば太陽活動がより良く理解でき、太陽風により発生するであろう宇宙嵐の被害 を予測することが出来るようになる可能性がある。LindseyとBraunは(p. 1799、Irionのニュース解説も参照)、SOHO探査機を用い太陽の反対側の表面構造を イメージングした。日震ホログラフィを用い、太陽の反対側の、強い磁場により引 き起こされる音の反射波の異常を検出した。これにより、太陽物理学者は、太陽内 部を通過する音響波の異常をサンプリング観測することで、自転により視野から外 れた太陽黒点の進化を継続して観測することが出来るようになった。(Na,Nk)

火星内部をえぐりだす(The Inside Scoop on Mars)

火星探索機(Mars Global Surveyor)は、火星の地形や重力を約1年間記録しており 、今では記録されたデータから、地殻の厚みや主要な内部構造を十分正確に推測す ることができる。Zuberたち(p.1788;Keerによるニュース記事参照)は、火星の重力 と地形の高解像度モデルを導き出した。彼らは、北半球下における、おそらくプル ームと関係し、火星史初期に形成された高温熱流の領域を推測した。彼らは,また北 部低地に、水の北方への流出と低地での堆積とに関係するらしい巨大な埋没河床が 存在する証拠を見つけた。(TO,Nk,Tk)

月のクレータのできた割合(Lunar Cratering Rates)

月は、その表面が構造変化も侵食も無いので衝突により起きた痕跡は永久に保存さ れ、地球近傍を通りすぎる物体(主に小惑星やすい星)の大きさや分布を記録してき た。クレータの数を数えるための唯一の問題は、その衝突の年代を精度高く絞り込 めないことで、これらの衝突の時期は単に推測されているだけだった。Cullerたち は(p.1785、Ryderの展望記事も参照)、Apollo 11号が持ちかえった土壌サンプル中 の155ヶのガラス小球について、40Ar/39Ar年代測定し衝突 時期の絞込みを行っている。ガラス小球には異なる時期の衝突による溶解成分が含 まれ、従って、それらの時間的な分布が記録されている。彼らは衝突の数が35億年 前から5億年前までの期間にわたって減っており、過去4億年の間に増加しているこ とを発見した。(Na,Tk)

何が雨を降らなくするのか?(Who'll Stop the Rain?)

産業による大気汚染が雨水の質、特に酸性度に影響することははよく知られている が、降雨の量への影響については活発な議論が行なわれている。熱帯における焼畑 農業からの煙は、温暖雨(warm rain)を抑制しているということは示されてきたが ,Rosenfeld(p.1793;Toonによる展望記事参照)は、都市あるいは産業による温帯地 域の大気汚染もまた、降雪や降雨を抑制していることを明らかにした。著者は、人 工衛星による雲の温度と小滴サイズの計測を用い、水分が合わさって雨滴や氷にな ることが、様々な点源(point sources)から汚染された経路の中で,妨げられている ことを示した。これらの結果は、人間の活動が降水量のパターンに全世界的な規模 で影響を与えていることを示唆している。(TO)

空気に敏感なナノチューブ(Air-Sensitive Nanotubes)

単一壁のカーボンナノチューブの伝導性は、一次元の理想的な量子ワイヤの伝導性 に匹敵するものであるが、そのチューブの直径やキラリティに依存している 。Collinsたち(p. 1801)は、空気や酸素にさらされると、試料の履歴もまた、伝導 性のみならずこのナノチューブの熱起電力や局所状態密度に劇的な影響がありうる ことを示している。酸素にさらされると、一般的には半導体的なチューブが見かけ 上金属 に変換する。特に、それらが他のナノチューブと接触している場合は、それらの熱 起電力の符号を反転させる。このような感受性はセンシングへの応用の用途があり うるが、この結果はナノチューブの特性の基礎的な研究には、環境条件の注意深い 制御が必要であることを示唆している。(Wt,Ok)

生物多様化の予測(Biodiversity Forecast)

主として人類の活動の結果として、全地球上における生物の多様性は、前例のない 速度で変化している。気候変化と温室効果をもたらす気体の変化に見られるように 、生物多様性変化は、生態系の未来の役割と人類の幸福のために重要である。しか しこの変化の大きさを予測するような試みはかつてなかった。Sala ら(p. 1770)は 、2100年代にむかっての主な生態系(バイオーム)に対して、生物多様性変化の全 地球的なシナリオをレビューしている。環境と陸地の利用による変化と、これらの 全地球的な変化に対する地球上のそれぞれの生態系(バイオーム)における生物多 様性感度についての現時点での理解とにより、彼等のシナリオは構成されている 。(hk)

幹細胞をせき止める(Stemming the Stem Cells)

造血幹細胞は、通常静止状態にあるが、しかし活性化されると増殖しあらゆる造血 性系統の細胞に分化する。Chengたち(p.1804)はマウスを操作して、細胞周期 G1期 のチェックポイントを制御するサイクリン‐依存性キナーゼ阻害物質 p21cip1/waf1が欠乏するようにした。このようなマウスの造血幹細胞の増殖能力は 増え、そして幹細胞のプールは枯渇してしまいマウスは骨髄への毒性物質による損 傷に対してもはや抵抗できなくなった。このように、p21は幹細胞プールが成熟前に 消耗するのを防いでいる。(KU)

病原体を描き出す(Profiling a Pathogen)

全ゲノム配列決定を利用して感染性の病気に対抗する戦略について、2つの報告が 寄せられている(Massifによる展望記事も参照)。髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は敗血症や髄膜炎の原因であるとともに、サハラ以南のアフリカの流 行病や、世界中の死亡や能力障害の主因でもある。Tettelin たち(p.1809) は、B型 血清に属する髄膜炎菌系統の完全なゲノム配列について報告している。ゲノムの分 析によって、病気を引き起こす遺伝子がどれであるかや、細菌がどうやって宿主の 防御メカニズムを侵略するかが明らかになった。Pizza たち(p. 1816) は配列を分 析し、細菌の表面に存在しているか、あるいは、そこから運び出されて、ワクチン の候補となりうるようなタンパク質をコードする、オープンリーディングフレーム を予想した。全部で350のワクチン候補が大腸菌に発現され、表面発現性と細菌殺傷 免疫応答をマウスで誘発する能力を持つかどうかについて、これらのタンパク質を 検定した。これらの検定でテストされた5つの陽性タンパク質が配列保存性を示し 、これがナイセリア属の種々の血清型や種に対する免疫を誘発するのかも知れない 。(Ej,hE)

循環の外(Out of Circulation)

今、脊椎動物胚の初期において脈管系成長を制御する遺伝子の同定が非常に注目さ れている。Zhongたち(p 1820)は、大動脈の構築を特異的にかき乱して、後側躯幹と 尾部への血液循環をとめるゼブラフィッシュの変異であるgridlock(grl)を研究した 。変異体のgrl遺伝子は、Hairy関連タンパク質と相同な塩基性ヘリックス・ループ ・ヘリックスタンパク質の異常型をコードする。他のシステムにおいて、このタン パク質は、転写制御因子として機能し、細胞運命の決定に関与する。(An)

p53を押え(Keeping p53 in Check)

損傷したDNAをもつ細胞があるときに、DNAが修復されるまで細胞周期を止めるか、 あるいはアポトーシスに至らせるような一連のイベント中での新しい関連性が Hiraoたち(P 1824;Carrによる展望記事参照)によって記述されている。このDNAの損 傷によって誘導されるチェックポイントには、転写制御因子p53の活性化が必要であ る。タンパク質リン酸化酵素Chk2を欠乏したマウス細胞におけるチェックポイント 機能の分析によれば、DNAの損傷に応答して、p53の安定化にChk2が必要である。著 者たちはChk2が直接にp53をリン酸化できることも示した。このチェックポイント経 路がうまくいかないとガンを引き起こすこともある。(An)

猫の中に保存されて(Kept in the Cat)

ネコ白血病ウイルス(FeLV)はヒト免疫不全症ウイルス(HIV)やサルの対応するウイル ス(SIV)より「より単純な」レトロウイルスであると考えられている。しかしながら 、Andersonたち(p.1828)はT細胞に感染したFeLVの細胞変性変異体が、生産的感染を 開始するために古典的な細胞受容体(PIT-1)と第二の因子を必要とすることを示して いる。第二の因子はFeLVの外被糖タンパク質に類似した内因的発現タンパク質であ る。FeLIXと呼ばれるこのタンパク質は、宿主の一部となったウイルスの古い形の名 残を表現しているのかもしれない。(KU)

睡眠と味覚についてのハエある貢献(The Buzz on Sleep and Taste)

単純なショウジョウバエ、Drosophila melanogasterの遺伝学は明確に確立されてき たので、学習と記憶の分子的基礎を詳細に分析していくにあたって、大きな価値を もたらしてきた。このたび、ショウジョウバエは、さらに一つの脳のミステリ ー、睡眠の基礎について、味覚の分子的基礎についての洞察を提供してくれるのと 同様、扉を開いてくれることになったようだ。Shawたちは、ハエが運動していない 時間中に、哺乳類にみられる睡眠の生化学的なしるしの多くを実際に示しているこ とを明らかにしている(p. 1834)。哺乳類においてと同様、カフェインはハエの睡眠 時間を短くし、抗ヒスタミン剤はそれを長くする。チクトロム酸化酵素cサブユニッ ト1やBiPなどの遺伝子の発現は、ハエと哺乳類の双方で、睡眠中に抑制される。さ らに、モノアミン・システムの変化によってハエの睡眠周期は変化するが、これは 哺乳類でもまた生じうることである。Clyneたちは、ショウジョウバエのゲノム・デ ータベースを計算機アルゴリズムを用いてスクリーニングすることで、広範かつ多 様な味覚受容体と推定されるファミリを同定した(p. 1830)。このアルゴリズムは 、視覚や嗅覚における感覚性ニューロンが利用しているGタンパク質-結合受容体の 構造的特徴を有するタンパク質をコードする連鎖を同定するものである。味覚受容 体遺伝子は、哺乳類の2つの味覚受容体など知られている遺伝子のどれにも似ておら ず、受容体の発現はショウジョウバエの味覚器官に特異的なものであった。これら 多数の味覚受容体遺伝子の分離は、食味知覚における情報処理を定義していく助け となるであろう。(KF)

多グルタミンの繰り返しに打ち勝つ(Defeating Polyglutamine Repeats)

ハンチントン氏病などの数多くの神経変性症状は、多グルタミンアミノ酸からなる 異常に長い連鎖を有する欠陥のあるタンパク質が存在していることを特徴としてい る。この欠陥のあるタンパク質はニューロンに対して毒性を有する集合体を形成す る。Kazemi-EsfarjaniとBenzerは、ハンチントン氏病のハエ・モデルを設計した (p.1837)。レチナール・タンパク質中に多グルタミンの長い連鎖を有するハエは外 眼にひどい異常を示すのである。スクリーニングによって、多グルタミンの反復に よる神経毒性を抑制できる可能性のある2つの遺伝子が同定された。(KF)
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