AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 3, 2000, Vol.287


中国の古代の石器(Old Stone Tools in China)

アシュール文化の石器と呼ばれる大型の手斧や包丁などの様々な石器が更新世初期 (50万年前から100万年前)のアフリカとヨーロッパで発見されている。アシュール文 化の石器(又は類似の石器)が東方に広がっていたかどうかははっきりしていなかっ た。Yameiたちは(p. 1622、表紙とGibbonsのニュース解説も参照)、中国南部の Bose盆地で発掘されたアシュール文化の石器に類似の石器類について記述している 。これらの石器は 80万年前のもので、この時期に洋の東西に類似の技術が存在した ことを示している。(Na)

火星の南北の差(Mars, North and South)

マースグローバルサーベイヤに搭載されている熱放射分光計により収集された火星 表面のスペクトルを用い、Bandfieldたちは(p. 1626、Mittlefehldtによる展望も) 、比較的暗い地域の25個所の地殻組成を評価した。南半球の古い地殻の地域は、明 らかに玄武岩質であり、中央海嶺で一次溶解により形成された地球の玄武岩と似て いる。北半球の若い地域はより安山岩質で、安山岩質で、沈み込み帯における、玄 武岩とシリカの豊富な大陸地殻組成との、混融から形成される地球の火山岩と似て いる。玄武岩質の火星地殻はマントル組成をより良く推定するのに役立つが、一方 、安山岩質岩石からは、さらにテクトニックなプロセスが過去に生じたに違いない ことを示しており、その結果このような分化した火山性堆積物が生じたことを物語 っている。 (Na,Nk,Tk)

古代の酸素(Ancient Oxygen)

大気中の酸素の含有量〜21%は、物理的、化学的、地質的そして生物的なプロセスの 複雑な関連によって維持されている。Bernerたち(p.1630)は、過去6億年間で地球の テクトニクスや植物相、そして気候の劇的な変化に対する、大気の酸素濃度の変化 を調べた。彼らが行なった炭素や硫黄の同位体の過去の地質記録を再検討した結果 (その一部は彼らが実施した実験に基づいているが)、陸上の植物は、それが成長 した時の大気中の酸素量に依存して、異なった量の炭素を分別することが示された 。次ぎに、彼らは、現存する生物学的そして物理的な制約の範囲内にとどまるよう に、大気の各成分の濃度の履歴を作った。それによれば、過去6億年のほとんどの期 間、大気中の酸素レベルは、おおよそ今日のレベルと同じかあるいは低くさえあっ た。しかし3億年前の石炭紀の期間、多くの昆虫が巨大化し、地球の広範囲で密林が 生い茂った時には、大気の酸素濃度は35%近くあった。(TO)

ゆっくりとした燃焼を観察する(Watching a Slow Burn)

チトクロム p450 という酵素は、ステロイドと脂質の生合成と、そしてまた、外部 からの分子の解毒作用に関与している。それらは、酸素分子を二つに分裂させ、酸 素原子の一つを用いて基質分子の上にヒドロキシル基を形成することにより、飽和 炭化水素を酸化することができる。これは、通常は燃焼の条件を必要とするもので ある。Schlichting たち (p.1615) は、その反応のいくつかの中間体の構造に対す る証拠を得るために、X線結晶解析的アプローチを上手に適合させた。この中間体 で最も注目に値するのは、長いこと追い求められていたフェリル-酸素種である。結 晶化した酵 素-基質複合体の回折パターンを短波長X線を用いて得た後に、長波長のX線を用い て水分子を切断した。このステップは、本質的に重要な2次電子を放出する。この 2次電子は、拘束された2分子酸素を二つに分割して、提案されているフェリル (IV)-酸素種を生ずる。この中間体は、今度は水酸化段階で基質の炭素と水素の間の 結合に酸素原子を挿入する。(Wt)

アルコール酸化のよりきれいな道(Greener Route for Alcohol Oxidation)

アルコールは有機化学者にとって最も多面的に使える出発材料の一つある。その酸 化によってアルデヒド,ケトン及び酸が得られる。不幸なことに,このような化学反 応に用いられている無機酸化物は触媒的でものではなく(このために重金属廃棄物を つくりだす)、かつクロル化した溶媒中で反応するものが多い。Ten Brinkたち (p.1636;Serviceによるニュース解説参照)は水可溶性のパラジウム錯体を用いるこ とにより,100℃で種々のアルコール酸化に圧縮空気(30bar)を用いることが出来るこ とを報告している。その反応は極めて選択的であり、かつ高い収率で進行する。多 くの場合その速度は、主に水へのアルコール溶解度によって規定される。(KU)

編集したコピーを翻訳(Translating an Edited Copy)

トリパノソーマ類の動原核は、核外DNAを含む細胞小器官であり、ミトコンドリアと 関連している。動原核のいくつかのメッセンジャーRNA(mRNA)が編集され、この編集 によって遺伝子のオープンリーディングフレームを作り出すが、このリーディング フレームがなければkの遺伝子はナンセンスmRNAをコードするものである。しかし 、この編集したmRNAの翻訳実体、あるいはいずれの動原核mRNAの翻訳も、観察され たことがない。動原核にコードされたタンパク質アポチトクロム (apocytochrome)Bの配列決定によって、Horvathたち(p 1639)は、動原核ミトコンド リア編集mRNAの翻訳を実証している。編集したmRNAの翻訳は、トリパノソーマ類に おけるミトコンドリア遺伝子の制御の機構を代表するかもしれない。(An)

チャネルを作るウイルス(A Virus That Channels)

真核生物の細胞だけに現れると考えられたカリウムチャネルが細菌にも存在するこ とが最近発見された。Pluggeたち(p 1641)は、クロレラウイルスPBCV-1において K+チャネルをコードする遺伝子を記述している。Kcvと呼ばれているこのチャネルは 、今までに報告されている他のK+チャネルファミリのいずれにも属しないようであ る。しかし、完全な機能をもつチャネルであり、他の全てのK+チャネルのよく知ら れている特徴も表している。極端に小さなタンパク質であるため、K+チャネル機能 とイオンチャネル機能の一般の基礎原則の理解にも役に立つかもしれない。(An)

貯蔵を掘り出す(Minding the Store)

多くの細胞の機能は細胞内の遊離カルシウム([Ca2+]i)濃度 変化を利用して制御されている。しばしば、刺激によって細胞内に蓄えられた Ca2+が遊離され、これが原形質膜中のチャンネルを通って Ca2+を流入させることになる。しかし、いわゆる貯蔵作動型チャンネル (SOC)とは、どの原形質膜中のチャンネルが関与しているのか、また、これが細胞内 の貯蔵を空にするメカニズムとどのような関係があるのか、は依然として不明なま まである。Ma たち(p. 1647; Berridgeたちによる展望記事参照)は、新しく発見し たイノシトール三リン酸 (IP3)受容体の阻害薬を利用して、IP3受容体チャンネル (これが細胞内に貯蔵しているCa2+の放出を仲介する)は、原形質膜中 の貯蔵作動型チャンネル(SOC)の活性化とコンダクタンスの維持の両方に必要である ことを示した。IP3チャンネル阻害薬の効果は、Ca2+放出の変化が原因 ではない。この結果は、SOCとTRPチャンネルの違いを明確にしている。TRPチャンネ ルは、かつて、細胞内貯蔵が枯渇した後、Ca2+の流入を仲介する候補と 考えら れてきた。(Ej,hE)

細菌運動のモニタリング(Monitoring Bacterial Motors)

今日新たな手法によって、細胞の集団ではなく単一の細胞に関する生化学研究を行 うことが可能である。Cluzelたち(p.1652)は光学的分光法を用いて,走化性の信号伝 達分子CheYリン酸の濃度変化(時間に依存した蛍光量によってモニターする)に対応 した個々の細菌の鞭毛運動の出力を追跡した。細胞の応答はCheYリン酸濃度と共に 劇的に変化した。その理由は,この信号が運動それ自体の特性によって増幅されてい るからであると思われる。(KU)

サルモネラ生存戦略(Salmonella Survival Tactics)

マクロファージは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADPH)酸 化酵素によって生成された 活性酸素種によって、サルモネラのような浸入した微生 物を破壊することができる。Vazquez-Torresたち(p.1655)は、ネズミチフス菌 (Salmonella typhimurium)の病原体形(virulent forms)が、どのようにしてマクロ ファージの中で存在することができるのかを記述した。これらのネズミチフス菌の 病原体形は、周囲の宿主の液胞中に防御系を分泌している。どういうわけかその防 御系は、サルモネラの侵入部位に、NADPH酸化酵素を運ぶことを防ぎ、これによって 細胞分裂を続け、病気を引き起こす。(TO)

ダメージ調査(Seeking Damages)

生命組織の中にイオン化した放射線によって蓄積されるエネルギーは、ほとんど 1から20eV(エレクトロンボルト)のエネルギーを持つ二次電子の生成に使われる 。イオン化した放射線よりかなり低エネルギーの、ダメージを与えないと想定され ていた二次電子は、予想外に高レベルの一本鎖と二本鎖の破壊というDNAダメージを 誘発できることを、Boudaiffa ら(p.1658のMichaelと O'Neillによる展望記事を参 照のこと)は、示している。放射線分解に対する伝統的な考え方は、恐らく再評価 する必要があることを、これらの結果は、示している。(hk)

エボラウイルスを止める(Stopping Ebola Virus)

エボラウイルスはきわめて伝染性の高い、致死的な出血性疾患を引き起こし,最初の 報告以来数百人の人間を死に至らしめている。ウイルスへの免疫性を与える抗体の 効力に関して相矛盾するデータが存在していた。Wilsonたち(P.1664)は、エボラウ イルスの糖タンパク質上にある三つの直線的な、そして二つの不連続なエピトーク (抗体と結合する抗原決定基)に対応した保護性の単クローン抗体を同定した。もし マウスがウイルスに曝される24時間前に、更には暴露後2日迄(ウイルス複製が始ま る時)に処置されると、マウスはマウスー順応ウイルスの暴露に起因する影響から 免れた。試験された抗体の中には、病気の原因として知られいるあらゆるエボラウ イルスと結合できるものも幾つかあった。(KU)

ウイングレス(無翅)経路に沿って曲がりくねって(Winding Along the Wingless Pathway)

ウイングレス(無翅)情報伝達経路は、多様な生物の胚形成時における細胞の運命 を制御しているだけでなく、成虫組織の細胞増殖をも制御している。レビュー記事 において、PeiferとPolakis (p.1606) は、特に活発に研究されている2つの領域に ついて議論している: (i) ウイングレス情報伝達経路がONになるかOFFになるかを 決定する制御されたタンパク質分解の役割、および、 (ii) この経路の新しい細胞 骨格の標的、について。このウイングレス経路の詳細地図については、
http://www.stke.org 参照。(Ej,hE)

高圧相の長石(High-Pressure Feldspars)

長石は、アルカリの豊富なアルミナ質の珪酸塩であるが、地球の地殻には一般的な ものである。しかし、それらの高圧下での多形は、自然には観察されてはいない 。Gillet たち (p.1633) は、Sixiangkou 隕石の衝撃波で溶けた脈中のホランダイ ト(hollandite)構造を持つナトリウムに富む長石の高圧(約 23GPa)相を同定した 。彼らは、その多形結晶は、固相での転移、あるいは、高圧下での液相の急速な結 晶化により形成されたと推論している。隕石に対しては、彼らの結果は、その物質 の経験した温度や圧力の制約範囲を求めるのに役立つとともに、マスケリナイト (maskylenite)の微細なスケールの構造と変態メカニズムを説明するのにも役立つも のである。このマスケリナイトは、多くの隕石中に普通に見出される長石質のガラ スである。地球に関する研究にとっては、彼らの結果は、高圧相の同質多形におけ る Na と K の固溶度についての情報を与えてくれる。これらの多形は、Na, K, Alおよび他の微量元素をマントルに運び込む可能性がある。[Akaogi の展望記事を 参照のこと](Wt)

ドーパミン受容体のパートナーの一つ(A Partner for the Dopamine Receptor)

ドーパミン受容体は徹底的に研究されてきたが、それは、それが正常な脳の機能に おいて中心的な役割を果たすことや、数々の中枢神経系の病気に関与しているため である。Lezcanoたちは、D1ドーパミン受容体が、新たに同定され、Calcyonと名づ けられた膜貫通タンパク質と相互作用することを示している(p. 1660)。超微細構 造分析によって明らかにされたのは、Calcyonと特定のD1受容体亜集団との間の密接 な関係である。彼らはさらに、Calcyonが、ドーパミン受容体と結合する信号伝達機 構を媒介する潜在的なGタンパク質であることを示している。この知見は、脳の前頭 葉前部皮質におけるD1受容体の機能とその認知におけるD1受容体の関与に関して 、新しい光を投げかける可能性があり、また精神分裂病やその他の認知に関する病 気の治療についての新しい薬理学的アプローチをもたらす可能性がある。(KF)

チェックポイントの主要部分(An Essential Part of the Checkpoint)

Pin1タンパク質は、細胞分裂周期の制御において機能すると考えられているペプチ ジル-プロリル異性化酵素である。しかし、細胞増殖の制御においてそれが果たす役 割は正確に明らかにはなっていなかった。Winklerたちは、アフリカツメガエルの卵 抽出物におけるPin1の機能を検証した(p. 1644)。Pin1をすっかり取り去られた抽出 物は、コントロール群よりもずっと早く、有糸分裂に移行した。通常、非複製DNAが あると、G2からMへの細胞周期の進行は妨げられる。しかし、Pin1を欠く抽出物は 、DNA複製が抑制されている場合でも、有糸分裂へと進んでいった。このことから 、Pin1が作用する機構は不明瞭なままであるにせよ、Pin1はアメリカツメガエルに おけるDNA複製チェックポイントが適正に機能するには必要であるらしい。(KF)

C型肝炎ウイルス、E2外被タンパク質とαインターフェロン抵抗性(Hepatitis C Virus, the E2 Envelope Protein, and α-Interferon Resistance)

以前(7月2日号)の報告で、Taylorたちは、C型肝炎ウイルスの遺伝子型1の外被タン パク質E2が、インターフェロン-誘導性タンパク質リン酸化酵素、PKRの活性を、培 養された細胞中で抑制できることを証明した。彼らはこの結果を、PKR-eIF2αリン 酸化相同性領域(PePHD)(これはE2タンパク質上の12-アミノ酸配列からなる領域の一 つ)の遺伝子型1と、細胞性PKR自己リン酸化部位およびeIF2αリン酸化部位の遺伝子 型1との類似性に起因すると結びつけた。「この、E2とPKRの相互作用は、HCVがイン ターフェロンの抗ウイルス性効果を回避する機構の一つである可能性がある」と Taylorたちは結論付けている。Abidたちは、しかし、彼らが調べた15人の患者(うち 8人は遺伝子型1に感染していて残りの7人は遺伝子型3に感染している)から抽出した HCVが、特定の遺伝子型からの抽出物については、同一あるいはほぼ同一のPePHDパ ターンを有しているにもかかわらず、IFN抵抗性において遺伝子型による違いが見ら れたと注記している。Taylorたちは、E2-PKR相互作用だけでは「同じ遺伝子型内で の異なった抽出物がもつ感受性や抵抗性を説明できず」、HCVは「複数の枝分かれの あるアプローチ」を用いてIFN抵抗性を発達させており、E2-PKR相互作用はその要素 の一つに過ぎない、と応じている。これらコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/287/5458/1555a で読むことができる。(KF)
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