AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 28, 2000, Vol.287


免疫不全ウィルスの種を越えた伝達( Immunodeficiency Virus Transmission Across Species)

ヒト免疫不全ウィルス(HIV-1やHIV-2)はヒト以外の霊長類からクロスオーバーして ヒト集団に入ってきた。Hahnたち(p.607)は、AIDSの流行を起こしたウィルスの起源 が何であるか、を調べた。彼らは、26の異なる非ヒト霊長類がサル免疫不全ウィル スを持っていること、そして新たなウィルスがクロスオーバーするかも知れないこ とを警告するノートを発した。(TO)

海洋のコミュニケーション(Transoceanic Communications)

熱帯を起源とす全地球規模の影響を与える2つの主要な気象現象は、太平洋の海面 水温変化であるエルニーニョ(EN)と太平洋の海面の気圧変化である南方振動 (SO)いわゆるエルニーニョ現象(エルニーニョ・南方振動:ENSO)と、アジアと アフリカのモンスーンである。それらが関連(テレコネクション)しているかどう かは不確かであった。一つの問題は計測器による記録、特に海面温度の記録が少な いということであった。Coleたち(p. 617)は、現在、西インド洋から海面温度がわ かる長期の珊瑚礁の記録をしている。他の珊瑚礁の記録とエルニーニョ現象 (ENSO)の記録との比較からは、エルニーニョ現象(ENSO)によって強く影響され る太平洋の気候は、インド洋における気候に大きく影響しているということを示し ている。(hk)

エメラルドの起源(Emerald Trails)

歴史上もっとも価値の高い宝石のいくつかはエメラルドだった。しかし、多くの場 合、もっとも貴重なエメラルドの起源はあいまいであった。Giulianiたちは(p. 631、表紙とStokstadによるニュース解説も参照)、古代以来の世界中のエメラルド の起源を追跡するために、フランスの王冠の中央につけられた宝石を含む、世界で もっとも有名なエメラルドのいくつかについて酸素同位元素分析を行った。イオン マイクロプローブ分析の利用で宝石の品質に影響を与えずに分析することが可能と なる。世界中に埋蔵されているエメラルドは、場所によって酸素同位元素が大きく ばらついているため、特定の起源を同定することが可能となる。データによると 、驚いたことに、初期に売買されたエメラルドはパキスタン産であり、500年代初期 にコロンビアでエメラルドが発見されてからは、コロンビア産が急速に増加してい ることを示している。(Na,Tk)

ナノチューブのセンサー(Nanotube Sensors)

NO2 や NH3 のような気体分子のセンサーは、環境モニタリング、産業、医療、その 他多くの分野において用いられている。これまでの固体センサーでは、これらの分 子に対して顕著な感度を得るためにはかなり高温を必要とする。Kong たち (p.622)は、単層カーボンナノチューブが室温で働く小型化された化学センサーとし て用いることができることを示している。一つ一つ半導体特性を示すナノチューブ は、NO2やNH3 に対して露出したとき、3から4桁もの電気抵抗の変化を示す可能性 がある。化学的選択性もまた、電気的ゲート電圧を調整することで達成できる 。(Wt)

三次元状態でのガラス(Glasses In 3D)

過冷却状態の液体やガラス状態において、粒子の動きは制限を受け、そして粒子ク ラスターの協同的動きによって構造緩和(粒子ケージの再配列)が生じていると考え られている。この仮説に対する直接的証拠を分子液体に対して得ることは困難であ るが、しかしながらコロイド系における粒子の動きは共焦点顕微鏡分解能で見られ る範中にある。Weeksたち(p.627;Edigerによる展望参照)は、コロイドガラス中に おける粒子の動きの三次元画像を示している。彼らは最も早い粒子が協同的に動い ていること、そしてその動いている粒子クラスターの大きさはガラス転移温度に近 づくにつれ過冷却液体に成長するが、しかしそのサイズはガラス転移温度で急激に 落ちることを見い出した。(KU)

ナノチューブをラックに並べて(Putting Nanotubes on the Rack)

ナノチューブの強度に関するほとんどの研究は長さと直交する方向への屈曲させて 行われてきた。Yu たち(p. 637) は、多層カーボンナノチューブ(MWNT)を伸長方向 に破断するまで引っ張ったらどうなるかについて調べた。彼らは、走査型電子顕微 鏡内部に、2つの、反対方向の原子間力顕微鏡チップにMWNTを取り付けた。彼らは こうしてナノチューブが破砕される様子を記録しながら応力-引っ張り力曲線を測定 することが出来た。まず、最も外側の層が壊れ、鞘から刀が抜かれるように、同軸 のチューブが引き裂かれるが、両端の長さは元の長さよりは長くなっている。続い て、断片の透過型電子顕微鏡画像から、変形するプロセスが明らかになった 。(Ej,hE)

Epothiloneの発現(Epothilone Expression)

Epothiloneは微生物の作る化合物での、あるタイプの癌治療において効力を示す。 この化合物の特異的,かつ有用な誘導体を得る薬剤開発は、化合物の入手が困難な ために妨げられている;化学的合成では時間がかかりすぎで、かつ労力を要する 。天然の物質では生化学的処理や遺伝子操作処理をすることができない。Tangたち (p.640)はepothiloneの生合成を行う遺伝子クラスターのクローニング、及び分子的 取り扱いが容易なある適した宿主中でのその発現に関して記述している。(KU)

ちょうどこのあたりにあるはずだ(I Know It's Right Along Here...)

自分の書斎からなじみの本を探そうとするだけで、脳の中にはさまざまな神経の反 応が引き起こされる。Jiangたちは、本棚を順に見ていくにつれて、同じような視覚 的場面が繰り返すことで、見慣れたものとして扱われるようになるために、視覚処 理の初期段階の活性がしだいに少なくなっていく、ということを示している(p. 643)。しかし、作業記憶のために働く前頭葉皮質領域は活性の増強を示すのであり 、これは特定かつ正確な視覚的パターンのトップダウンの特異化の標識となってい る。こうしたことをまとめると、この変化によって無関係で邪魔な本を無視して 、目的の本を効率的に認識することが可能になるのである。(KF)

伝染の動力学--過去(Epidemic Dynamics--Past)

疫学的研究は、集団生物学に対して重要な洞察を与えてくれるが、それは、その研 究が大きな人口サイズを含む長期にわたる公衆衛生の記録を頼りにしているからで ある。単純な非線形モデルを用いて、Earnたちは、はしかの流行のパターンに見ら れる一連の著しい世界的な変化について説明しているが、そこでは規則的な同期す るサイクルと不規則な非同期のパターンとの間での移行が生じていたのである(p. 667; また、Mayによる展望記事参照のこと)。彼らは、出生およびワクチン接種の変 化を基礎として流行のパターンの変化を正確に再現した。この研究によって、動的 な移行の原因は、その動力学自身に内在する何らかの特性によるのではなく、外因 性のものであることがはっきりした。外因性の要因における緩慢な変化によって 、はしかの人口動態にきわめて急激な転移が生じうるのである。(KF)

伝染の動力学--将来(Epidemic Dynamics--Future)

心臓病やガンなど、治療が個々の患者にしか影響を及ぼさない病気と違って、感染 症の処置は集団全体に影響を及ぼすことがある。従来、抗レトロウイルス治療 (ART)の効果に関しては、次に示す3つの観点から、不確実さが存在していた。(i) 治療中(とくに単独療法の場合)の患者の中には、ウイルスを伝達する能力をもち 続ける患者も存在する、(ii) 耐性ウイルス株が生じるおそれがある、(iii) 危険性 の高い行動が増加する可能性がある。Blowerたちは、サンフランシスコのゲイ・コ ミュニティについて、今後10年間にわたるこれらの確率をモデル化した(p. 650)。彼らが見出したのは、ARTの使用を増加させると、薬剤耐性と高リスク行動の 存在にもかかわらず、死亡率と実質的な新規感染数が減少する、ということであっ た。(KF)

HIV組み込み過程をターゲットにする(Targeting HIV Integration)

ヒト免疫不全症ウイルス1型(HIV-1)DNAを宿主のゲノムに組み込むことは、抗レトロ ウイルス薬剤の設計の適切な標的を生み出すウイルス複製においてキーとなるステ ップである。しかし、効果的な抗ウイルス薬となる阻害薬を探すこころみは、うま くいっていなかった。Hazudaたちは、ある1,3-ジケト酸が、従来の阻害薬によって は影響を受けなかった、鎖伝達と呼ばれる組み込みプロセスのある段階でHIV-1イン テグラーゼ活性を抑制できるということを明らかにした(p. 646)。HIV-1インテグラ ーゼの活性部位が組み込み過程で異なったやりかたで認識されうるということが見 つかったことで、医学的に有益なインテグラーゼ阻害薬の同定が促進されるにちが いない。(KF)

プリオンの秘密を公開(Prying Open Prion Secrets)

酵母のプリオンタンパク質は、哺乳類のプリオンと関係しないが、類似している特 徴をもつ。その特徴は、細胞の表現型を変化する高次構造変化をうけ、この変化し た表現型が娘細胞に与えられることである。従って、哺乳類のプリオンと同様に 、酵母プリオンの高次構造が遺伝性情報を、核酸の中間体を使用せずに、コードす ると思われる。LiとLindquist(p. 661;Balterによる記事参照)は、プリオン様の性 質がプリオンから全く無関係のタンパク質へ移転させられることをりっぱに示して いる。研究者は、Sup35酵母プリオンタンパク質のアミノ末端のとM領域をラット糖 質コルチコイド受容体(ステロイドホルモンで制御される転写制御因子)に融合した 。内在性Sup35が変化した高次構造をもつようになった時、この高次構造変化が融合 タンパク質のSup35部分に与えられた。Sup35活性だけではなく、糖質コルチコイド 受容体の活性も変化させたことを、融合タンパク質が転写を活性化する能力が減少 したことによって示した。(An)

南氷洋でのCO2貯蔵(Southern Ocean CO2 Storage )

人為的に生成されるCO2の約半分は大気中に留まり、残りの半分は海洋や陸生の生物 圏に吸収される。南氷洋における人為的CO2の貯蔵量の最近なされた観測的予測によ ると、南氷洋における貯蔵は低く、そこへの流入も少ない。しかしモデリングによ る研究は、こうした流れは高いことを示している。CaldeiraとDuffy(p. 620)は、見 かけ上の取りこみの大きさと貯蔵量の低さの矛盾を解消する海洋-気候モデルを表し た。こうした結果から、大気から南方海洋がCO2を取りこむ量の減少は、もし気候変 化が表面水のCO2濃度を減少させるならば、起こりうることを示している。(TO)

一つに並んだ入出力(Singled In and Out)

狭いチャンネルであっても拡散する粒子は、通常、色々な方向へ飛んでいくが、あ る状況に於いては、このチャンネルは粒子とほとんど同じ径のことがある。このよ うなとき、粒子同士の動きの相関が高い「一列の拡散(single file diffusion = SFD)」が起き、Fickの拡散法則(核酸流速は濃度勾配に比例する)に従わなくなる 。分子拡散にSFDが起きているかどうか決めるのは難しいので、Wuたち(p. 625)は 、コロイド粒子が環状軌道を動いている状況について調べた。粒子は常磁性なので 、これらの相互作用力は印可した磁場によって変化する。著者たちは、粒子の移動 距離の分布はガウス関数に従うことを検証した。(Ej,hE)

量子相転移の詳細な描像(A Detailed View of Quantum Phase Transitions)

量子相転移は、磁気的に秩序のある物質や高温超伝導体、あるいは、金属-絶縁体遷 移中のように強い相関のある電子系において発生する可能性がある。徹底的な研究 にもかかわらず、遷移の本質的な面は、最終的には確立されてはいない。Lee たち (p.633) は、金属-絶縁体遷移領域にわたる組成をもつニオブをドープしたシリコン という単純な系に注目し、その伝導度の周波数-温度挙動を探っている。彼らは、量 子相転移の包括的な研究を与えており、転移を記述するのに必要な本質的なスケ ーリング則を評価している。その結果、この興味ある現象に対して、より深い洞察 を与えている。(Wt)

還元へのプラン(Reducing Plan)

太陽光は植物が光合成を行うためのエネルギーを与え、二酸化炭素が炭水化物へと 還元される。膜で包まれた光化学系の複合体で作られたその還元物は,フェレドキシ ンにより酵素に運ばれ、そして炭水化物の生合成経路に用いられるNADPH(ニコチン アミドアデニンジヌクレオチドリン酸の還元型)を産出する。このような還元物は光 の存在をシグナル化するためにも用いられる。ここにおいても,又フェレドキシンが キャリアであるがチオレドキシンがその中間化合物である。中間化合物は二硫化物 の還元により生合成酵素を活性化させる。Daiたち(p.655)は、フェレドキシンをチ オレドキシンへと還元物に変換する酵素の構造を決定した。両凹のフェレドキシン :チオレドキシン還元酵素がフェレドキシンの電子担持鉄と還元されるべきチオレ ドキシンの二硫化物の間の鉄一硫黄クラスターを介在している(KU)

起電力の起源(Electromotility Origins)

哺乳類の蝸牛の外側有毛細胞の膜は、起電力という細胞の長さの電位依存的変化に 関与する。この現象の基礎機構がまだよく理解されていない。Oghalaiたち(p 658)は、蛍光の光退色の回復動力学を用い、外側有毛細胞の膜の流動度を研究した 。いくつかの異なっている手順によって細胞を短くすると、膜流動度の有意な減少 を起こした。この結果は、外側有毛細胞の電気力学と蝸牛の機械的信号増幅の説明 にも役立つかもしれない。(An)

ERストレスに対応(Responding to ER Stress)

小胞体(ER)中の誤って折り畳まれたタンパク質の存在が細胞によって感知され、ス トレス応答を惹起する。酵母において、膜貫通のタンパク質IRE1pは、誤って折り畳 まれたタンパク質を感知し、遺伝子発現における適切な変化を導く信号を生成する 。哺乳類の細胞は、IRE1αとIRE1βという関連している膜貫通タンパク質をもつが 、これらも、誤って折り畳まれたタンパク質の受容体として作用するようである 。Uranoたち(p 664)は、IRE1は、細胞表面における腫瘍壊死因子α受容体と同様に 、cJun NH2末端リン酸化酵素(Jnk)を活性化する、つまりIRE1がTRAFタンパク質 (TNF受容体関連因子)に結合するようであることを報告している。このような TRAF2との相互作用は、Jnkの活性化を起こすタンパク質リン酸化酵素の活性化のカ スケードを惹起するようである。細胞は、細胞内外の信号を感覚し、伝達するため に、同様な情報伝達機構を 用いるようである。

星の磁場パターンに関する疑問(Questions About Magnetic Lineations on ars)

Connerneyたちは(p. 794、4月30日レポート)、マースグローバルサーベイヤからの データをインバースモデリングして、火星の直線的磁力パターンを解析し、地球に 拡張海洋底により作られるパターンとの相関を示した。Farrisonは、コメントの中 で、Connerneyたちのモデルの結果は、効果的な勾配が磁場反転メカニズムで想定さ れるような180°で分離されるグループに分類されないので、地球型の磁場反転が線 パターン構造の原因である、という考えを支持しない、と主張している。それに応 えConnerneyたちは、モデルの解像度が200Kmであることを考慮に入れて 、Harrisonの磁場方向の計算は不適当であり、Harrisonにより提案された統計的な テストでは、火星の数億年に及ぶ地殻構造の歴史に隠された複雑さを説明するには 十分でない、と反論している。これらのコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/287/5453/547a で読むことが出来る。(Na,Nk)

Sauropod Dinosaursの首の姿勢(Neck Posture of Sauropod Dinosaurs)

StevensとParrishは、diplodocid sauropod dinosaursが、高く頭をもたげるような 姿をしていたという従来の見方とは対照的に、地上のものを食べ、頭を低く垂らし ていたことを示唆するモデリングの結果を示した(Reports, 4月30日号, p. 798) 。Upchurchは、この結論にはおおむね同調しながらも、StevensとParrishが、食事 を摂る際の姿を保つにあたって前側の躯幹椎骨が果たす役割を不十分にしか検討し ていなかった可能性があるとし、「首の根元にひどい損傷がある」ことが知られて いる単一の検体による彼らのApatosaurusの分析の信頼性について疑問を投げかけて いる。StevensとParrishは、前側躯幹の柔軟性が、自分たちの研究のスコープを超 えてはいるが、おそらくdiplodocidの摂食行動に影響を与えることを認め、またモ デリング研究において、Apatosaurus検体の首の損傷による誤りの潜在的可能性をど のように取 り扱ったかについてさらなる詳細を提示している。こうしたコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/287/5453/547b 読むことができる。(KF)
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