AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 21, 2000, Vol.287


巨大な(ぐらぐらする)コマ(The Big (Wobbly) Top)

真の極揺動は、マントル中の質量分布の大きな変化に関連した地球の回転軸の移動 に起因するものと考えられている。古磁極の移動軌跡は、多くの場合、その移動が プレートの運動に関係するものであり、軸の向きの変化には関係していないため 、見かけの極の揺動と呼ばれる。Sager と Koppers (p.455; Kerr による解説記事 も参照のこと)は、白亜紀後期における太平洋プレートに対して計算された極の軌跡 中に真の極揺動が発生した形跡があることを見出した。彼らは、およそ8400万年前 、地球の回転軸は 100万年に3度から10度移動したと示唆している。この大きくそし て速い移動は、大きなプレートの再構成および磁場の反転と時間的な相関がある 。そして、これはマントルの完全なひっくり返りによって引き起こされた可能性が ある。(Wt)

ポリエチレンを作るための丈夫な合成触媒(Robust Polyethylene Catalysts)

ポリオレフィンは、毎年製造されているあらゆる商業ポリマーの大部分を占めてい る。しかし、昔ながらのチグラー・ナッター重合触媒や、新たなカチオン性のメタ ロセン触媒の両方とも、酵素や窒素や硫黄といった「ヘテロ原子」(heteroatoms)が存 在したり、或いは初めの材料の中に痕跡量の不純物があると容易に不活性化する 。このような条件により、ポリマーの特性を変えるような官能基を持つモノマーの 導入は、大幅に限定されている。官能基に対して、より許容性が高い、中性ニッケ ル触媒は、通常あまり長いオリゴマーをつくらない。Younkinたち(p.460;表紙及び JacobsonとBreinbauerによる展望記事参照)は、このたび、ニッケル・サリチルア ルジミン(サリチルアルデヒドイミン)錯体が高分子量の線形ポリエチレンをつくる ことを示している。この触媒は補助触媒の必要もなく、空気や水に曝しても活性を 維持し、そしてエーテルやケトンやエステルの存在においても問題がない。(KU)

光をガイドして(Guiding the Light)

光回路網では、エレクトロニクスで配線が必要であるのと同じように、光を導 く方法が必要である。ゾル-ゲルプロセスを経て基板上に形成され、ソフト-リ ソグラフィー技術によってパターン形成されるシリカベースの光導波路は、増 幅誘導放射(ASE、ある種のミラーレスレーザー光放射)を示す。また、それに よって、光集積回路を具現化できる可能性がある。今まで、ASE に必要な強度 はかなり大きなものであった。Yang たち (p.465) は、染料であるローダミン 6Gをドープしたメゾポーラスなシリカを用いることにより、一桁ほどその強 度の閾値を下げうることを示している。ASE を示すこのようなパターン形成を 行なった導波路を組み合わせることにより、マイクロレーザーアレイや光集積 回路を一度のプロセスで製作する道筋が与えられる可能性がある。(Wt)

失神性の表現型(A Stunning Phenotype)

心筋不整は、心臓への血流が一時的に止まり、その後回復した時生じる心臓の 損傷によく見られる症状である。Murphyたち(p.488)は、筋フィラメントタン パク質トロポニンI(TnI)のタンパク分解性のフラグメントが発病を引き起こす 役割を担っていることを示している。このフラグメントを心臓に発現する遺伝 子組換えマウスは、衝撃を受けた心筋に特徴的な症候を示した。さらに加えて、 冠動脈バイパス手術を受けた患者からの心筋生検では、TnIタンパク分解性フ ラグメントが含まれていることが見出された。このような結果は、収縮性タン パク質の異常なプロセシングが心不全の原因であることを示している。(KU)

コンパクトなデータベース(A Compact Database)

情報格納における量子力学的アプローチを利用して、データベースから特定の 項目を取り出す速度を高めることが可能である。なぜなら、通常のデータビッ トと異なり、余分な情報を、0と1の状態を表す量子ビット(qubits)の間の相の 違いとして符号化することができるからである。例えば、Groverは最近、量子 レジスタ中の全てのアイテムへの単一操作により、1つのqubitの状態がフリッ プされている記録情報(entry)を取り出せることを理論的に示した。Ahnたち (p.463; Knightによる展望記事参照)は、セシウム原子のビーム中のN個のリュー ドベリ状態(Nは、6あるいは8)に情報を格納することを行なった。彼らは、単 一フリップ状態を作りだし、そして単一レーザーパルスによってそれらを読み 出せることを示している。(TO)

通常の磁気共鳴ではない(Not Your Usual Magnetic Resonance)

通常、磁気共鳴は磁界と電磁波パルスにより誘導される、しかし半導体では磁 気共鳴の検出は光学的にポンピングあるいは検出が行われてきた。Kikkawaと Awschalomは(p. 473)、ガリウム砒素半導体において、全て光学的に磁気共鳴 の生成と検出を行ったことを報告した。円偏光の光ビームにより、核スピンと 超微細相互作用を通して相互作用する電子スピンを生成した。光ポンピングは 最大1.4テスラまでの局所的な磁界を、250秒間生成する、これは電子的なプロ セスにとっては相当に長い時間だが、核スピン分極にとっては典型的なもので ある。この試料でガリウム-69に対応する共鳴性の減極が観測されたが、試料 中に存在するいかなる核モーメントとも対応しない波長においても、これは観 測された。このことは、観測された現象がより複雑である可能性がある。(Na)

ヒストンのアセチル化とV(D)J の組換え(Histone Acetylation and V(D)J Recombination)

胸腺細胞において、T細胞受容体(TCR)のV(D)J遺伝子セグメントの組換えは、発生的 に制御されている。では、何がこの発生的変化の信号を出しているのか? 組換え 酵素への組換えシグナル配列の接触性を変化させるのに、染色質構造が効いている らしい。しかし、この特別な場合に機能する特定の染色質の修飾は分かっていない 。McMurry とKrangel (p. 495; Schisselによる展望記事も参照)は遺伝子組換えの ヒトV(D)J組換えレポーター構築体と内在性マウスTCRα/δ遺伝子座を詳細に調べ 、ヒストンH3のアセチル化によって染色質が修飾されていることを示した。H3の超 アセチル化を示す領域が、組換え酵素への接触性を示している領域に対応している 。このように、ヒストンのアセチル化はV(D)J組換えに関連している。(Ej,hE)

ロタウイルスの感染を処置する(Treating Rotavirus Infections)

ロタウイルスによる下痢で毎年100万人近くの発展途上国の子供たちが死亡している が、その病原性のメカニズムはよくわかっていない。Lundgren たち(p. 491; およ び、Winkelgrenによるニュースストーリー参照) は、ロタウイルス感染の結果とし て、腸内神経系が腸の分泌応答の変化を生じさせ(上皮と液体輸送を横切る方向の 電位差)ていることの証拠を見つけた。彼らは神経系に特異的に作用することで知 られている薬剤を使ってテストし、感染後に局所麻酔薬のリドカインで処置すれば 、生きた乳児マウスの下痢を減少させることを見つけた。(Ej,hE)

多過ぎる補体のせいによる負担(Paying for Too Much Complement)

発生中の胚は、母が生来もっている特異的免疫系に左右される。補体系が細胞を溶 解し、乱入者の存在を貪食細胞に警告するように設計されているので、胚が生存す るためには、その補体系が厳密に制御されることが必要、ということになる。ヒト においては、補体系の制御が欠けると、慢性炎症性状態になることがある。Xuたち (p 498;Hagmannによる記事参照)は、マウスにおける主要な補体抑制剤 であるCrryタンパク質が欠失すると、自発性の補体の活性化とそれによる炎症性浸 潤によって、胚が生きのびて誕生に至ることが全くできなくなることを報告してい る。このように、補体の制御は、母性的環境における胚の破壊を防ぐために欠かせ ないものである。(An)

2重機能の酵素(Moonlighting Enzymes)

それぞれのtRNA分子をアミノアシル化するアミノアシル転移RNA(tRNA)合成酵素酵素 と特異的アミノ酸「電荷」活性との1対1対応が、正確なタンパク質合成に必須の要 素であると考えられてきた。しかし、2つの好熱性メタン生成の始原菌(古細菌)の完全なゲノ ム配列にからは、システイニルtRNA合成酵素の遺伝子を同定できていなかった 。Stathopoulosたち(p 479;Yarusによる展望記事参照)は、Methanbacterium thermoautotrophicumとM. jannaschiiにおいて、プロリンアミノアシルtRNA合成酵 素が、タンパク質合成の過程で、2つの機能をもつことを示している。この機能は 、それぞれのアミノ酸で、プロリンとシステインのtRNAを特異的に荷電できること である。(An)

胃酸と戦う(Fighting Stomach Acid)

胃炎や潰瘍と胃癌に関与するピロリ菌という細菌は、多数の病原体に対する防衛と して作用する胃の酸性度に順応しなければならない。胃酸の低pH環境においても生 存するために、ウレアーゼを用い、アンモニアを生成する。ウレアーゼの活性は Urelに依存しているが、Weeksたち(p 482)は、Urelが水素イオンでゲートされる尿 素チャネルであり、アンモニア生成のために、低pHの状況で細胞に尿素を入れるこ とを示している。(An)

暑さに打ち勝つ(また寒さにも)

多くの植物の多様性は、かなり寒い気候にも暖かい気候にも適応できる。アンチセ ンス技術により不飽和化酵素の発現を制限して、Murakamiたち(p. 476; Sharkeyに よる展望記事参照のこと)は、タバコ植物の耐高温度性は、トリエン (trienoic)脂肪酸含有量によって制限されるということを実際に示した。その影 響は、葉緑体膜の脂肪酸に対して、特にある。すでに耐寒性植物と相関があること が解っているトリエン脂肪酸は、膜の重要な特性を変化させるのかもしれない 。(hk)

野生生物の感染性疾病(Infectious Diseases in Wildlife)

野生生物の感染性疾病はヒトや家畜の健康にも悪影響を及ぼすし、種や生物の多様 性の保存にも影響を及ぼすことが考えられる。その1つは、野生生物種がヒトや家 畜の病原体の貯蔵庫となっている可能性のあること;2つ目は、野生生物に出現し つつある病気は地球規模の生物多様性保護に大きな驚異となっている可能性のある ことである。Daszakたち(p. 443)は、野生生物、家畜、ヒトそれぞれに出現しつつ ある感染性疾病、3グループ間の複雑な相互作用、および、3グループ全部に対す る健康面でのインパクトについてレビューした。(Ej,hE)

コンデンス対のダイナミクス(Condensed Pair Dynamics)

超伝導体におけるコンデンス対は変化の状態にあり、それらは常に分裂しそして再 形成している。しかし、超伝導体から集められたほとんどの分光学的情報は静的で あり、こうした相互作用のダイナミクスについてはほとんど示してくれない 。Kaindlたち(p・470)は、フェムト秒のパルス-プローブ技法を用いて、超伝導凝固 物(condensate)を減らし、超伝導状態に緩和していくときの励起状態のダイナミク スを観察した。彼らは、高遷移温度(Tc)超伝導体イットリウム-バリウム-酸化銅に おいて、Tc以下の温度でコンデンス対と関係する緩慢な緩和プロセスと、Tc以上の 温度で励起に関係する急速なプロセスとを見つけた。この結果は、電荷キャリアが スピン励起と強く結びついていることを示唆している。(TO)

こすられる(There’s the Rub)

機械的デバイスはより微小化している、その例としてハードディスクドライブの読 み書きヘッドや、微小電子機械デバイスにおける数多くの開発成果がある。面間の 距離が小さくなるにつれ、潤滑油の単層によって分離された面間の摩擦学的振舞い (摩擦と磨耗)は、面の組織分布や形態だけに依存せず、2つの面と潤滑油の化学的特 性にも依存するようになる。Eisertたちは(p. 468)、非線形光学技術(第2高調波生 成)を用い、面間の分子が与えられた負荷に対しどのように反応するかを現実の場で 観察し、分子がどのようにせん断力方向に整列するかを示した。(Na)

ヒストン・ユビキチン結合の決定的役割(A Critical Role for Histone Ubiquitination)

DNAは、真核生物の細胞中にヒストン・タンパク質によってパッケージされている 。このヒストン結合したDNA、すなわち染色質が遺伝子発現には必要で、それによっ て、調節性タンパク質がDNAの特異的部位にアクセスできるようにまず「再構成」さ れるようになるのである。ヒストンは、アセチル化、リン酸化、あるいはユビキチ ン結合などのプロセスによって変化する。ヒストン・ユビキチン結合は転写や複製 、脊椎動物における減数分裂などを調節していると報告されてきたが、酵母細胞で も起こるということは示されていなかった。Robzykたちはこのたび、酵母のヒスト ン変異体を調べ、ヒストンH2BがRad6/Ubc酵素によってユビキチン結合されることを 示した(p. 501)。H2Bの特定のリジン残基の変化、あるいはRad6機能の除去によって 、有糸分裂と減数分裂の欠損がある酵母細胞が生じるのである。このように 、Rad6によるヒストンH2Bユビキチン結合こそが、酵母における決定的な細胞の活性 にとって必要なのである。(KF)

宿主も無罪放免ではない(The Host Is Not in the Clear)

水疱性口内炎ウイルス(VSV)は、経済の面から重要な家畜の病であるが、この病気を 伝染させる昆虫がどのようにして感染するのかは、はっきりしていなかった。その ウイルスは感染した動物の血流の中には存在しない。すなわち、動物たちはウイル ス血症を示さないのである。Meadたちは、感染した黒色ハエと感染していない黒色 ハエの双方を、これまたVSVに感染している同じ宿主、シロアシマウスから摂食させ るようにした(p. 485)。このマウスはウイルス血症にはならなかったが、このマウ スから摂食していた非感染のハエは感染することとなった。このことから、宿主が ウイルス血症にならないだけでは、ウイルスの伝播の要因とならないとするには不 十分であることがわかる。(KF)

ブドウ球菌のagrシステムの活性と抑制(Activation and Inhibition of the Staphylococcus agr System)

Balabanたちは、RNAIII活性タンパク質(RAP)による免疫化がマウスにおける黄色ブ ドウ球菌感染を抑制し、またRAP由来の直線性のヘプタペプチドを用いた処置によっ ても同様に感染を抑制できる、ということを示唆する結果を報告している(4月17日 号の報告, p. 438)。RAP抗体もペプチドもおそらく、RNAIIIをコード化する座位で あるagr座位にある病原性遺伝子の活性を抑制するのだ。ところが、Balabanたちは 、agr-nullである黄色ブドウ球菌系統から精製したRAPが、野生型の黄色ブドウ球菌 から精製したものとほぼ同じように保護的であるということも発見した。この結果 は、RAPがagrには依存していないということを意味する。 Novickたちは、agr-nullである黄色ブドウ球菌系統からはagrを活性する上澄み液を 、何度も試みたにもかかわらず産生できなかったとコメントし、agr活性化あるいは 抑制は、RAPやそれ由来のペプチドにではなく、むしろ自己誘導的なペプチドに結び ついているのであろう、と結論づけている。これに応えて、Balabanたちは、この異 なった結果を、Novickたちが用いた異なった精製プロセス(これは、Balabanたちが 言うには、煮沸に対するRAPの感受性を考慮に入れていない可能性があるとのこと) のためであるとして、RAPはRNAIII合成を制御する別の信号伝達経路を用いていると いう彼らの見方を繰り返している。これらコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/287/5452/391a で読むことができる。(KF)
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