AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 24, 1999, Vol.286


分割すればより簡単(Breaking Up Is Easier To Do)

低エネルギー電子の衝突で原子や分子をイオン化することができる。しかしな がら、水素原子のイオン化のような最も単純な場合でも、その問題を量子力学 的に完全に解くことは出来ないでいた。今日の現実的な解は、最終状態として 一つの電子と一つの水素イオンが高順位に励起された水素原子であると仮定さ れている。Rescignoたちは(p. 2474、表紙とWhelanによる展望も参照)、シュ レーディンガー方程式をスケール変換して、3つの荷電粒子に分割し、より高 精度の数値解が得られるようにした。このようなシュレーディンガー方程式を 数学的に変換して、より簡単にする手法は、より複雑な電子衝突システムにも 適用できるだろう。(Na,SO)

肥沃な泥、痩せた泥(Rich Mud, Poor Mud)

腐泥(sapropels)と呼ばれる有機物が豊富な堆積層は、地中海において不規則 な間隔で過去20万年の間に7回、形成されてきた。これらの層は、従来のモデ ルである今日存在する通気がよく栄養分が涸渇している環境において起こる条 件とは、劇的に異なる条件下で作られたに違いない。SachsとRepeta(p. 2485) は、こうした条件が何であったのかを推定するため、東地中海の腐泥の中の葉 緑体から得られた分子中の窒素同位体の割合を計測した。彼らの発見から、窒 素同位体比が堆積物中に保存されている割合についてのいくつかの基礎的な仮 説は正しくない可能性があることを示した。(TO)

拡大された銀河のガス(Magnified Galaxy Gas)

クエーサーは、非常に遠い銀河内に存在する超大質量のブラックホールによっ てエネルギーが供給されると信じられている擬似恒星状の電波源である。 Planesas たち(p.2493) は、クエーサー 0957+561 内のペアの銀河の周りのガ ス領域が、重力レンズによって拡大されることを利用して、その分子ガスの空 間的分布や運動状況を決定した。主となる銀河は巨大な分子雲を有している。 そして、その分子雲は随伴する銀河を観測することを実質的に困難なものとす る。遠方の銀河のまわりのガスの分布を決定することは、ハッブル定数の値を 精緻化する上で有用である。(Wt,Nk)

マントルの起源(Mantle Origins)

硝酸塩(nitrates)を生体で生じるプロセスは、地球地殻に重窒素同位体 15Nを富化させる。地球の上部マントルは軽窒素が豊富にあり、そ れは微惑星が集積して地球を形成したという微惑星体の証拠であると考えられ ている。DauphasとMarty(p.2488)は、ロシアのコラ半島にある岩石の窒素とア ルゴンの同位体の組成を計測した。その岩石は3億7千年前のプルームの残渣で あり、下部マントルの標本と見なされている。その岩石のの起源を示すものと して、窒素は、地殻のそれよりは軽い同位体を含み、しかし上部マントルより は重い同位体を含んでいる。稀ガス同位体データと併せて、これらの測定から、 上部マントルの窒素は最初からあったものではないことを示唆している。その かわり、地球の初期の還元大気は、硝酸塩(nitrates)が豊富に形成することを 妨げ、そしてこの軽窒素の地殻が堆積し上部マントル内で混合されたが、下部 マントルでは重窒素が豊富なままになった。(TO,Og,Tk)

分子でできた配管工部隊(Molecular Plumbers' Units)

Angiopoietin-1(Ang1)と血管内皮成長因子(VEGF)は、それぞれ血管の成長を刺 激する。Thurstonたちは、これら成長因子のうち1つあるいは双方を皮膚中に 過剰発現している遺伝子組換えマウスの表現型を比較した(p. 2511)。マウス が炎症を引き起こす薬剤に曝されたとき、血漿の漏出に対して、VEGFによって 作られる血管は弱く、Ang1によって作られた方は抵抗性があった。両方の因子 が過剰発現するマウスは、血管の数がいちばん多く、漏出に対する抵抗もあっ た。この結果は、Ang1が糖尿病性網膜症などの微小血管からの漏出を減少させ るのに有効な可能性があること、またAng1とVEGFの組み合わせが、肢虚血など 新しく血管を成長させることが効果のある別種の病気の際に最適な治療法であ る可能性があることを示唆している。(KF)

痛みを減らすには(Feeling Less Pain)

モルヒネは、激しい疼痛の処置のために臨床的に広く用いられている。Bohnた ちは、モルヒネのこの効果がタンパク質b-アレスチン2を欠くマウスでは強化 されるということを示している(p. 2495)。モルヒネは、ヘテロ3量体のグアニ ン・ヌクレオチド結合性タンパク質(G protein)-と結合した受容体であるmオ ピオイド受容体に結合することで、その効果を生み出す。しかし、この受容体 は脱感作機構をもっており、それを介してリン酸化され、それから情報伝達阻 害薬b-アレスチン2と相互作用するのである。関連するアレスチンには実は4種 あるが、b-アレスチン2を欠く動物だけが、モルヒネの疼痛解放効果を増加さ せ、長続きさせるのである。このように、b-アレスチン2はmオピオイド受容体 に対する特異性を示し、それが正常な生理反応するのに必要であるらしい。 (KF)

動原体には驚かされる(Centromere Surprises)

動原体とは染色体の構成要素であり、有糸分裂や減数分裂の間に染色体を娘細 胞に等しく分配する役目を果たしているものである。Copenhaverたちは、シロ イヌナズナのある変異体の特質を利用し、染色体IIとIVの配列情報を完全に明 らかにして、動原体機能の役割を果たしているDNA配列を定義した(p. 2468)。 この動原体は、中心にある反復性のコアを、非常に低い組換え比率を有する中 程度に反復的なDNAが取り囲むようにして構成されている。中程度に反復的な DNAは、正常な組換え比率と高い移動性要素比率をもつDNA鎖によって囲まれて いる。驚くべきことに、動原体は反復性のDNAのみならず、発現遺伝子の配列 をも含んでいる。従来「動原体性繰り返し」と考えられていた反復性要素のう ちあるものは、動原体を囲むDNAの中に、遺伝子的に定義された動原体の中に よりも豊富に存在しており、これはその反復が動原体中の機能を果たすために は十分ではありえないことを示唆している。(KF)

安定化の効果(Stabilizing Influence)

ヒトの腫瘍の多くは腫瘍サプレッサー・タンパク質p53の変異体を含んでいる ので、p53の機能を回復させる化合物の開発に向けて、非常に多くの研究の努 力が傾けられてきた。化学ライブラリのある種のスクリーニングによって、 Fosterたちは、DNA結合領域の活性構造の安定化によってp53の活性を回復する 小さな分子を同定した(p. 2507; またPennisiによるニュース記事参照のこと)。 この化合物は、培養された細胞中のp53標的遺伝子を活性化し、マウスにおけ る腫瘍の成長を抑制した。この結果、薬剤によってp53の機能を復旧する可能 性が確立されたのである。(KF)

欠陥のある、癌のチェックポイント(Faulty Checkpoints in Cancer)

hCHK2遺伝子は、損傷を受けたDNAを含む細胞が有糸分裂に入るのを妨げる経路 であるG2チェックポイントの活性化に必要とされる酵母リン酸化酵素のヒトに おける相同体をコードする。Bellたちは、典型的には腫瘍サプレッサーp53を コードする遺伝子の生殖系列の突然変異と関係する癌素因症候群の1種である Li-Fraumeni症候群を持つ家族のめったに現れないサブセットにおけるhCHK2遺 伝子の生殖系列変異を同定した(p. 2528; またHagmannによるニュース記事参 照のこと)。この、p53とよく知られた酵母のG2チェックポイントとの予期せぬ 関連は、腫瘍形成における細胞周期チェックポイントの重要性に光をあてるも のであり、より選択的な抗癌剤の開発につながるものであるかもしれない。 (KF)

性と加齢と死(Sex, Aging, and Death)

生殖活動は動物や植物の寿命を縮めることが知られている。Sgroと Partridge は(p.2521、ReznickとGhalamborによる展望も参照)、ショウジョウバエを使っ た実験的な研究で、この「生殖の代償」は死亡率が加齢が始まるまで遅延され ることであり、又この遅延は加齢の進行の基礎をなす、ことを示している。そ の結論は、有害な突然変異が蓄積される、という考えよりも、加齢は多面的遺 伝子に対し若い時には有益に働き、加齢に従い有害に働く、という考えを支持 するものである。(Na)

父親と共にある生命(Life with Father)

ミトコンドリアDNA(mtDNA)では母親の遺伝子が受け継がれるので、ヒト進化遺 伝学の主要なドグマの一つであり、そしてアジアやヨーロッパへのヒトの拡が りといった或る確実な出来事の年代推定をする際の決定的な要素であった。 Awadalたち(p.2524;Straussによるニュース解説参照)は、mtDNAが父性遺伝を もするという確実な証拠を与えている。ヒト、及びチンパジーからのmtDNAの 統計的解析に基づいた結果は、遺伝子組み換えの現象と一致している。ヒト進 化のパターンと速さに関する結論は、今や再考慮する必要がある。(KU)

注意散漫にさせること。(Driven to Distraction)

我々が意識しないで語(ワード)を見ているとき、脳はその語を処理するか? すなわち、注意していない時に提示される情報は、認識されていないか、ある いは、急速に忘れられているいるだけなのか? Reesたち(p. 2504)は、語あ るいは重ね合わされていた絵のどちらかに人の関心が集中しようとしている脳 の動きをイメージすることによって、この古い課題を解決する。その絵へのタ スクの困難さを記録(ラチェット)していくことによって、彼らは、言語と非 言語(子音の列)が全く同じ脳の働きをさせていることを彼らは発見した。意 識全てが異なったタスクに分散されているとき、語は認識されなかった。

亜鉛を保持する(Holding onto Zinc)

Lou Gehrig病とも呼ばれる筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、不治の神経変性疾患 である。殆どのケースでその原因は不明であるが、ALS患者の2%が、ス-パー オキシドフリーラジカルを捕捉する酵素であるCu、Znスーパーオキシドジスム ターゼ(SOD)に変異を持っている。Estevezたち(p.2498)は、Znに結合すること が出来ない(しかしCuには結合したまま)変異SODが培養した運動ニューロンに アポトーシスを引き起こすことを報告している。野生型のSODにそのZnを放出 するようにしむけると、やはり運動ニューロンの死をもたらす。野生型、及び 変異SODの両方にZnを豊富に与えると、両方のSODは発育成長因子の欠如による アポトーシスから運動ニューロンを守る。著者たちは、SODがZnを失うと一酸 化窒素をつくる酸化機構を経して運動ニューロンを死に至らしめると推定して いる。(KU)

磁気システムにおける量子的臨界点(Quantum Critical Points in Magnetic Systems)

強い相関のある電子の系における相転移を理解することは、凝縮物質の重要課 題である。研究上、状態図において、特に興味深い領域は量子的臨界点である。 ここでは、特徴的な量子力学的エネルギーと熱エネルギーが、系の進化に互換 的に寄与している。Sachdev たち (p.2479) は、単一の非磁性の不純物を、ほ とんど量子臨界状態にある二次元反強磁性体に導入したばあいの効果を研究し た。そして、その不純物が実験的に測定可能な量となるときの効果を観察した--- この場合では、磁気スピンの整列しやすさの尺度である磁化率を測定した。彼 らは、どのようにして、系の磁気特性が常磁性の(秩序のない)基底状態から、 量子的臨界点近くの反強磁性(逆向きの符号の)状態に発展するかを示している。 また、いかにネール状態が普遍的な実効的スピンによって特徴付けられるうる かを示している。(Wt)

溶媒によるスローダウン(Slowed Down by Solvents)

水溶性のイオンは、例えば水-有機相界面で反応が起きるような生体膜や相間 移動触媒のように有機相界面を移動しなければならない。実際的な水-有機相 界面を移動するイオンの動きに関する研究は、このような複雑な系を調べるこ とが難しく障害となっていた。Wuたち(p.2482)は、金属表面上につくられた固 体有機ガラスの上にヒドロニウムイオン(D3O+)を静か に推積することにより界面モデルを作った。水の量を変えるとイオンの回りに 水が共吸着する;温めるとイオンが有機相を通過して金属の方に移動し電圧変 化が観測される。裸のイオンに比べて水溶媒殻の存在により界面を移動するイ オンの移動度は低下する。このような移動度の変化が理論的に説明される。 (KU)

下を覗く(Looking Out Below)

南東太平洋にあるトンガ-ケルマデック島弧(Tonga-Kermadec island arc)は、 オーストラリアプレート下での太平洋海洋地殻の沈み込みによって形成された。 この沈み込みは、水分の放出により沈み込みプレートの上にある岩石の融点を 下げるか、あるいは減圧融解(decompression melting)によって融解物を生成 する。Bourdonたち(p.2491)は、玄武岩中のプロトアクチニウムとウラニウム の同位体濃度を計測し、島弧のうちのトンガの溶岩セグメントは流体放出によっ て形成されたこと、ところがケルマデックの溶岩セグメントは減圧融解によっ て形成されたことを決定した。これらの結果より、プレートの沈み込みのプロ セスをより理解できるようになり、そして融解プロセスに関する便利な化学ト レーサーを与えてくれる。(TO,Nk)

行動のためのチャネリング(Channeling For Behaviors)

遺伝子の突然変異と、これが生物の行動に及ぼす影響との因果関係は、証明が 困難なことが多い。線形動物の口を腸に繋げる咽頭の筋肉における作用電位を 制御する線虫(Caenorhabditis  elegans)exp-2遺伝子によってコードされ るカリウム チャネルをDavis (p.2501)らは、記述している。野生型と突然変 異体チャネルにおける分析は、チャネルの電気生理学的特性変化が動物の摂食 行動において見られる変化を決定しているということを証明している。(hk)

タンパク質分解と結びついて(Tied into Protein Degradation)

ユビキチン-依存性タンパク質の制御された分解をコントロールする鍵となる 情報伝達事象に関与するものは増え続ける一方である。Brondello たち (p.2514)は、p42とp44分裂促進因子活性化タンパク質(MAP)キナーゼを脱リン 酸化し不活性化するMAPキナーゼ脱リン酸酵素-1(MKP-1)は、プロテアソームに よって分解されることを報告している。脱リン酸酵素そのものはこれが不活性 化するp42MAPKとp44MAPK酵素の標的である。この MKP-1のリン酸化は酵素活性を制御しているようには見えず、ユビキチン依存 性分解を減少させているように見える。MAPキナーゼはまたMAP-1をコードする 遺伝子の転写を増加させており、その結果MKP-1の量を増加させる2つのシグ ナルを出している。このような制御はp42とp44MAPキナーゼの持続的活性化に 限界を与えているように見える。(Ej,hE)

光のモチーフ(I)(Light Motif (I))

フィトクローム(phytochromes)は、植物、藻類、あるいはラン藻類といった光 合成生物の成長と発生を制御する光受容体にトリガーを与える。しかし、この フィトクロームは光合成生物だけに限定されている訳ではない--Davis たち (p. 2517)はゲノムデータベースを検索し、Deinococcus radioduransと緑膿菌 aeruginosa)という細菌の中にフィトクローム受容体の相同体を見つけた。ちょ うど光合成系のようにDeinococcus 光受容体様タンパク質は、異なる連結基に よってではあるが、共有結合的に発色団と結合している。Deinococcusにおい ては光合成はなされないので、細菌でのフィトクロム様タンパク質は強力な可 視光による損傷から微生物を守るために役立つ、光で制御されるヒスチジンキ ナーゼを表しているのかも知れない。(Ej,hE)

ヒトは見て、行動する(Humans See, Humans Do)

学習の重要な能力はものまねである。サルの神経生理学的な研究で、自分で腕 を動かしている間も、そのような動きを視覚している間でも活性化する神経が 同定された。また、その活性化は動きを視覚しているときの方が強い。これら の神経はものまねにより獲得されることにおける神経学的な基礎を提供するも のである、と提案されていた。Iacoboniたちは(p. 2526)、ヒトの被験者が指 の動きを見て、その後同じ動きを繰り返す、という課題で、類似の特性を持つ 脳の部位を探す、機能的イメージングの研究を行っている。(Na)

光のモチーフ(II)(Light Motif (II))

概日性クロックによって生物は環境に同期して機能することができるが、この 関係は柔軟性のある関係でもある。昆虫では、光は光感受機構を有するクリプ トクローム(cryptochrome)タンパク質に直接働きかけ、クロックをリセットす ることができる。しかし、脊椎動物から単離されたクリプトクロームは昆虫の ようには反応しないように見えるが、Okumuraたち(p. 2531)ば、mCRY1 と mCRY2の両方のクリプトクロームを欠如するノックアウトマウスでは、光によ るクロックのリセットにこれらのタンパク質が必要ないことを確認した。以前 の研究によれば、クロックのリセットを行う光検出器として、ロドプシンを除 外していたため、脊椎動物の概日性を与える光検出器が何であるかは、将来の 研究に託されていた。 ( Hardin とGlossopによる展望記事参照)。(Ej,hE)

個体数の周期と寄生(Population Cycles and Parasitism)

Hudson たち(Reports, 18 Dec. 1998, p. 2256)は、実験によってアカライチョ ウ(red grouse)とその寄生虫の相互作用によってアカライチョウの個体数の周 期的激減が生じていることを示し、野生において病気が個体数の変動の原因と なる可能性を述べた。Lambinたちはこれに疑問を呈し、Hudsonたちが使った対 照実験では、1つの集団が寄生虫に侵されないようにしたことは、充分で、か つ、偏ってないであろうか、と疑問を呈し、そして、「変動パターンの変化は 曖昧である」と推測したことについて議論している。Hudsonたちはこれに応え て、彼らの手法は決して実験の解釈を混同させるものではなく、「変動の減少 は、アカライチョウの密度が比較的大きい時にのみ起きた」ことを明らかにし ている。コメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/286/5449/2425a を参照。(Ej,hE)
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