AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 10, 1999, Vol.286


火星の海岸(Martian Seashores)

これまでの調査では、初期の火星は現在よりも温暖で湿潤な気候を経験し、 液体の水が豊富であったであろうこと示していた。Headたち(p.2134)は Mars Global Surveyorの高度計のデータを分析し、火星表面の地形を詳 細で正確に調べて、大規模な海が北部低地に存在していたという証拠を示 した。分析により、その線より内側(海側)では地形が平坦になっている分 太古の6本の流出溝がその海岸線高度で消失している事、そして海岸線の 後退に伴って形成されたらしい幾つかの台地の存在とを示している。 この提案された海洋を満たしていたであろう水量の予測値は、火星に存在 し得た水の総量とも一致する。(TO,Tk,Nk)

エルニーニョと二酸化炭素(El Nino and CO2)

エルニーニョの発生期間中、太平洋の赤道付近をまたがり東に向かっ て舌状に広がっている表面水により、寒冷で二酸化炭素が豊富な海水 の湧昇が抑えられ、そしてその結果、海水から大気への二酸化炭素移 動量も減少する。反対に、ラニーニャの期間中は、太平洋の東部赤道 付近に平均以下にあるので、二酸化炭素の大気から海洋へ向かう流量 は大きい。Chavezたち(p.2126;カバー記事参照)は、海面センサー、 船舶、人工衛星からデータを集め、1997年から1998年におきたエル ニーニョについて、化学的かつ生物学的な像を詳細に作成した。彼ら はこれらのデータにより、帯状風と海洋循環の一次生産力と大気ー海 洋間二酸化炭素流量への影響を定量化することができた。(TO,Nk)

氷の下の生命(Life Below the Ice)

東部南極大陸の中央近くの氷河氷の下3743メートル位にあるヴォストーク 湖は、長期間隔離された微生物の生態系にとって憩の場所であったかもしれ ない(Vincentによる展望も参照)。このような可能性を調査するため、湖上 約120メートル以下の(環境汚染を避けるため)掘削アイスコアが採掘された。 Jouzelたち(p. 2138)は、3500メートル下の氷を分析し、そして酸素同位 体濃度測定に基づきこの氷が氷河氷というより、おそらく再氷結した湖水で あることをつきとめた。Priscuたち(p. 2141)、そしてKarlたち(p.2144)は 種々の深さの掘削アイスコアの切片を解析し、その氷の一部が再氷結した湖 水であることを確証している。様々な技術を駆使して、彼らはこの氷の中に 微生物存在の証拠を見出している。Priscuたちは,α-、及びβ-プロテオバ クテリアや放射菌類といった現存する仲間と関係する系統型を見出した。 Karlたちは孵化における呼吸率に基づき,バクテリアが生存できることを明ら かにした。このように、ヴォストーク湖は100万年以上大気から隔離され、 そして地球が雪玉のようになった(地球全表面が氷河で覆われた)時期、或い は木星の月オイロパに存在するといわれ驫C洋における生合成条件と同じに もかかわらず、低栄養で低質量の微生物集団を育んでいたのであろう。(KU)

カーボンナノチューブを用いて捕まえる (Getting to Grips with Carbon Nanotubes)

ナノメートルサイズの粒子を3次元的に操作、移動することが出来ることは、 ナノテクノロジーにとってキーとなる必須要件である。Kim と Lieber (p. 2148; Mirkinによる展望記事も参照のこと)は、ガラス棒のどちらかの 側面に付着させた二つのカーボンナノチューブにより組み立てられた操作デ バイスを発表している。それらのナノチューブは、ナノチューブ間に電圧を 印加することにより、ミニチュアのピンセットのようにチューブ間の間隙を 開いたり、閉じたりすることができる。そして、このデバイスを使って小粒 子のクラスター周囲を移動させるのに用いることができる。加えて、導電性 のナノチューブは、それが保持するクラスターの電気特性の精密な調査に用 いることができる。(Wt)

たる形のタンパク質Tubbyの物語(Tale of Tubby)

未知の機能の遺伝子を解析する方法の一つとして、構造に基づいた機能的ゲ ノム法がある。この方法は遺伝子によってコード化されるタンパク質、或い はその領域の一つの三次元構造を決定し、その後それを用いて機能研究の実 験を考案する。Boggonたち(p. 2119)は、肥満(”tubby”という名前の由 縁)や網膜色素変性症と関連づけられている遺伝子tub(樽)にこの方法を適用 した。そのカルボキシ末端領域の結晶構造には中心にヘリックスを含むたる 状のβ-鎖バレルがあり、その表面上にある溝に多分DNAが結合しているの であろう。更なる研究によって、二本鎖DNAへの結合、神経核への局在そし て転写活性化因子として作用する働きに対してある一つの傾向を示している。 このような種々の特性を総合すると、哺乳類の脳において遺伝子発現に関す る細胞型(cell-type)の特異的制御因子としてのたる状タンパク質の作用仮説 が導かれる。(KU)

転写複合体を構築(Assembling Transcription Complexes)

真核生物の転写におけるキー段階は、プロモータ領域における特異的な配列を 多サブユニット転写制御因子によって認識することであり、これによって、基 本転写因子とRNAポリメラーゼIIを含む前開始複合体の構築が形をなし始める。 報告の2つでは、TFIIDとTFTCという多サブユニット転写制御因子の構造が35 オングストローム解像度で記述されている。TFIIDは、TATA結合タンパク質 (TBP)とTBP関連の因子(TAF)で構成される。TFTCは、TBPを含まないが、 TATA配列を含むプロモータの転写を制御する。Andelたち(p 2153)は、 TFIIAとTFIIB転写制御因子とのTFIID複合体およびTFIID独自の構造を記述し ている。Brandたち(p 2151)は、TFIIDの複合体とTFTCの複合体の構造を比 較している。TFIIDおよびTFTCは、DNAを収容できるほど広い腔を備えたU字 形の構造を形成する。(An)

病原体に群がる抗体(Antibodies that Herd Pathogens)

無菌の環境で育ったマウスさえ、抗体をもつ。いわゆる自然抗体の生理的役割 が明かになっていない。Ochsenbeinたち(p 2156)は、自然抗体が多様な病原 体に対する特異性を含むことを報告している。この抗体を欠乏するマウスが感 染されると、様々な器官にまでウイルスと細菌が広く行き渡る。抗体を含む正 常なマウス血清をこのマウスに添加することによって、病原体の局在化に変化 が起き、病原体が脾臓とリンパ節に濃縮される。このように、自然抗体がウイ ルスが広く行き渡るのを防ぎ、免疫系の器官へ向かわせるが、そこにおいて免 疫応答が発動される。(An)

作用するのに適切な場所を見つけるには (Finding the Right Place to Work)

適切な特性をもったリンパ球が、必要な時に必要な場所にあるようにするため に、B細胞とT細胞はどのようにして動きを協調しているのだろう? 特異的な 相互作用が生じているのだが、Cysterは、ケモカイン通路がどのようにして 直接的な交通を助けているかをレビューしている(p. 2098)。ケモカインは誘 引物質として作用し、時間的にも物理的にも分散した状態で発現する。ケモカ インの受容体は、免疫応答を展開するのに最適な細胞によってのみ発現させら れる。免疫細胞の局所化という特異的なケースがRandolphたちによって提示 されているが(p. 2159)、彼らは、B細胞の宿主ともなる器官である脾臓の別々 の場所にはT細胞の異なったサブセットが存在する傾向があると報告している。 こうしたT細胞の局所化は、ケモカイン受容体CCR7に依存しているが、この CCR7はTH1細胞が発現するケモカインSLCの受容体である。TH2細胞がCCR7 を発現するよう強制されると、それらは脾臓のまちがった場所へ遊走するだけ でなく、B細胞への助けをもはや果たさなくなるのである。このようにCCR7は、 適切な免疫応答を保証するためのT細胞の適切な局所化にとって決定的な役割を 果たしているようである。(KF)

生命への最小限のアプローチ(A Minimalist Approach to Life)

生命体を作るには最低いくつの遺伝子が必要なのであろうか?Hutchinson たち (p.2165)は、470個の遺伝子しかもっておらず、その遺伝子配列が完全に解 析されているマイコプラズマ(Mycoplasma genitaliumu)とその近縁の M. pneumoniaeに、トランスポゾンを挿入して遺伝子を不活性することによって この疑問を研究した。彼らは、これらの内の255個から340個(その多くは機能 が知られていない)だけが実験室条件下で生育するのに必要であることを見出し た。試験管内で生命体を作り出すためにこの情報を用いることについての倫理的 な意味がポリシー・フォーラムでChoらによって議論されている。 (Kh)

角膜を創る(Creating Corneas)

解剖学的に完璧な人間の角膜の等価物が、Griffithたちによって、不死化された 細胞と人工のマトリクスを用いて、試験管内で作成された(p. 2169; またFerber によるニュース記事参照のこと)。この人工角膜は、浸透圧調整に対して反応した り、また界面活性物質に応答しての遺伝子発現を変化させたり、また化学物質に 応答しての透明度を変えるなど、自然の角膜と同様の反応をした。すぐにでも可 能な応用としては、薬剤の試験と研究があり、長期的な目標としては、埋め込み ないし移植用の角膜を創り出すことがある。(KF)

種にならない(Not Gone to Seed)

種子産生や木の実の結実が1年以上の間隔で同期化する現象は、多くの植物種に 見られるが、その原因や適応における意義は、多くの議論が必要な問題であった。 ボルネオの熱帯雨林における優性な樹木であるフタバガキを50種以上にわたり幅 広く長期的に研究することで、Curranたちは、これら樹木における種子産生はエ ル・ニーニョ南方振動(ENSO)の際にだけ生じること、また種子の捕食者の飽食が おそらくは木の実の結実にとっての選択要因となっているということを証明して いる(p. 2184; またHartshornとBynumによる展望記事参照のこと)。気がかりな ことに、著者たちはまた、隣接する保護されていない森林における広範すぎる伐 採が原因で、大きなボルネオの国立公園における実の補充が全面的にうまくいって いないことについても報告している。この知見は、アジアの熱帯雨林は、保護され ている地域においても維持されないかもしれない、ということを意味している。 (KF)

スローアースクエイク(Slow Earthquakes)

スローアースクエイクはめったに観測されず、殆ど理解されていない事象であり、 通常の地震に較べ破壊の伝播速度が非常に遅い。Crescentiniたちは(p.2132)、 中央イタリアのアペニオ山脈の地下に置かれたレーザー干渉計を用い、1997年の ウンブリア-マルケ地震に引き続き発生したものなど数回の群発性地震を観測し、 干渉計の2本の直行基準線変化を記録した。彼らはおよそ180件のスローアースク エイクを観測し、事象の強度(地震波モーメント)と破壊の持続時間を関連づける 新規なスケールに関する法則を導いた。これらの観測とそれらの関連性によって、 破壊のメカニズム、地殻の低速変形の物理をよりよく理解出来るだろう。(Na)

クラスアクション(Class Action)

プロテアソームは適当なペプチドを産生して、主要組織適合複合体 (MHC)クラス Iタンパク質上に提示する。タンパク質PA28はプロテアソームに結合しており、 そうすることで活性を増加する。Preckel たち(p. 2162)は、PA28 の2つのサ ブユニットの1つであるPA28b欠乏性マウスを作り、これらのマウスには両方の サブユニットとも見つからないこと、そして、MHCクラスIに結合するペプチドの 型が変化していることを見つけた。PA28が欠乏することは、「イミュノプロテア ソーム(immunoproteasome)」の合成に影響を及ぼすらしい。これらプロテアー ゼ複合体はインターフェロンγ調整サブユニットを含み、クラスIに結合するペプ チドを効率的に産生する。(Ej,hE)

ガンのマウスモデルを改良する(Improving Mouse Models of Cancer)

神経線維腫症I型(Neurofibromatosis type I (NF1))はNF1ガン抑制遺伝子中の 生殖系列の変異によって起きる、よく見られる遺伝性のガン症候群である。NF1 患者は神経線維(良性末梢神経外筒腫瘍)を発達させ、これが悪性に進行すること がある。NF1中にヘテロ接合性の変異を有するマウスは神経線維を発達させず、 従ってこの病気について推察することはほとんど不可能であった。Cichowski たち(p. 2172) と Vogelたち(p. 2176)は、ヒトのNF1をよりよく模倣する巧妙 なマウスモデルを開発した。これは、キメラを利用した戦略とNF1とp53を組み 合わせた変異に基づいたものである。これらのモデルはNF1の病原論と新療法の 研究に有用な道具となるであろう。(Ej,hE)

たちまち分かる遺伝子発現(Gene Expression on the Fly)

DNAマイクロアッセイは単細胞生物や組織培養分析における遺伝子発現をモニタ リングするために利用されてきた。Whiteたち(p. 2179)はこの手法を多細胞生 物であるショウジョウバエに応用し、大部分は、エクジソン・ホルモンの2つの パルスによってトリガーをかけられた変態を通じて劇的な変化を生じさせた。こ れは変態の期間中に、個々の遺伝子がそれぞれ特定の発生経路において経時的に その作用を発現する、差次的遺伝子発現(differential gene expression)にか かわるものと、変態とは無関係なものを利用したものである。このような、遺伝 子の上方および下方制御は、エクジソン被爆中に生じた代謝、筋形成、神経系発 生、および、アポトーシスのような多様なプロセスに関与していた。この分析に よって、既知の遺伝子のみならず今回新規に同定された遺伝子の発現がエクジソ ンに影響された発現パターンを示す多くの予想外の機能を示すことが明らかに なった。(EJ,hE)

始新世の大気中CO2 (Atmospheric CO2 in the Eocene)

PersonとPalmerは(6月11日のレポート、p. 1824)、ホウ素同位元素を用い新 生代の海洋pHを推測した。海洋pHは、大気中の炭素との平衡により影響を受ける が、海洋の炭酸塩化学現象に関連しており、海洋のpHは過去の大気中 CO2レベルに関連している、ということである。彼らの一つの結論 は、地球の気候が今日よりずっと高かった始新世の大気中CO2レベ ルは現代とほぼ同じか又は若干高かった、というものだった。 CaldieraとBerner、及びSundquistの2つの技術コメントの中で、海洋pHを用い て大気CO2レベルを推測する際に用いたいくつかの仮定に関し批評 し、更に推測された大気中CO2レベルが低すぎる可能性があると結 論づけている。PearsonとPalmerはこのコメントにこたえ、仮定は現在の定説 に基づいたものであると答え、同時にこの計算に内在する不確実さと新たな情報 の必要性を強調した。これらのコメントの全文は
www.sciencemag.org/cgi/content/full/286/5447/2043a で読むことが出来る。(Na,Nk)
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